パナソニックの好調な1Q決算、その裏に隠れた課題

パナソニックの好調な1Q決算、その裏に隠れた課題

2017.08.03

パナソニックの津賀一宏社長は、2017年度を「パナソニックが実質ベースで増収増益に転じる年」と位置づける。その2017年度の「最初の通信簿」となる第1四半期連結業績が発表された。

デジカメはハイエンドにシフト

これによると、売上高は前年同期比5.1%増の1兆8652億円、営業利益は16.9%増の839億円、税引前利益は9.9%増の819億円、当期純利益は67.1%増の487億円だった。パナソニック 取締役執行役員CFOの梅田 博和氏は、「第1四半期から増収増益を達成し、順調なスタートを切ることができた」(以下、発言同氏)と総括する。

二次電池などの車載関連事業が大きく成長しており、「営業利益はアビオニクスの減販損や、原材料価格の高騰の影響を受けたが、車載・産業分野への『転地』が進むインダストリアル事業の収益向上により、全体では増益となった」と続けた。為替や新規連結を除く実質ベースでも3四半期連続の増収となり、「実質的に増収の基調が続いている」と胸を張った。その点では、まさに「順調なスタート」という自己評価は間違いないだろう。

実際、アプライアンス、エコソリューションズ、オートモーティブ&インダストリアルシステムの3つのカンパニーは増収増益。特にアプライアンスは、家電が高付加価値商品へシフトしているのに加え、2016年度は国内家電市場で過去最高となる27.5%のシェアを獲得している。

パナソニック 取締役執行役員CFO 梅田 博和氏
売上高、純利益ともに好調だった1Q業績

「2017年度第1四半期もトップシェアであり、シェアは高まっているだろう」と発言し、過去最高シェアを更新している可能性を示した。収益改善が重要な課題だったAV家電も「テジカメは、ハイエンドモデルへとシフトしており、LUMIX GH5が品切れを起こすほどの売れ行き。4Kテレビも販売強化により増収基調にある」とした。

そして、「想定以上に原材料価格が高騰し、その影響を最も受けているのがアプライアンス」としながらも、その影響を吸収して増益を達成。これは、オートモーティブ&インダストリアルシステムやエコソリューションズも同様だ。梅田氏は「合理化や固定費管理を通じて、その影響を最小限に抑えた」と語り、経営体質が強化されていることを強調してみせた。

競争軸の異なる"新たな敵"

ただ、懸念材料がいくつかあるのも確かだ。ひとつは、航空機向けエンターテインメントシステムなどのアビオニクス事業の減収。同事業の売上高は前年同期比で17%減となる619億円。開示されている事業部情報のなかで、最も落ち込みが大きい。

梅田氏は、「航空機の需要減少による機体メーカーの生産抑制の影響を受けた」と減収の理由を語る。アビオニクス事業は「2016年度第1四半期までは絶好調だった」と語るように、パナソニックの成長戦略の中核のなかの中核だった。しかし、この1年で状況が一転してしまったのだ。

その背景には、機体の生産抑制だけでなく、梅田氏が指摘するもうひとつの理由がある。それは、「二極化」という動きだ。

B2Bなどでコネクティッドソリューションズ全体は好調も、アビオニクスが足を引っ張る形に

「機内にタブレットやスマホ、PCなどを持ち込んで利用するケースが増え、エコノミークラスの座席にモニターを設置しない飛行機会社が増加している。一方で二極化の傾向として、ファーストクラスやビジネスクラスは、大型モニターを必ず設置する動きが依然として見られている。機内エンターテインメントシステムの需要が無くなるわけではないが、需要が伸びるとは思っていない」

機内エンターテインメントシステムの競合は同業他社ではなく、タブレットやスマホ。つまり、競争軸が異なる「敵」と戦うということになる。

パナソニックは、機内エンターテインメントシステムに関するグローバルのサービスおよびメンテナンス拠点を通じての収益確保とともに、機内無線LANサービスのシステムを提供する通信事業において、収益を確保する方向へとシフトする考え。2015年には米中堅衛星通信会社のICTグローバルを傘下に収めており、通信事業でもビジネスを加速している。

梅田氏は、「アビオニクスは第2四半期以降、減収減益幅が縮小すると見ている」とするものの、この言葉はマイナス成長がしばらく止まらないと解釈した方が良いだろう。機内における乗客の楽しみ方が変化するなかで、アビオニクス事業が次の成長の柱を見いだせるかが、今後の鍵になるのは間違いない。

eコマースが新たな敵へ

同じように、競争軸の変化の影響を受けているのが、ハスマンだ。

ハスマンは、北米を中心に冷蔵ショーケースなどを製造・販売するメーカーで、2016年にパナソニックが買収した。パナソニックが高成長事業に位置づける「食品流通」の中核企業の1社に位置づけられる。ハスマン単独の業績こそ公開していないが、ハスマンを含む食品流通事業の第1四半期売上高は前年同期比8%減の668億円であり、アビオニクスに続いて前年割れが大きい事業だ。

アプライアンスについてもセグメント全体は好調だが……

梅田氏は、「北米における顧客の新規出店ペースが鈍化し、ショーケースなどの需要が低迷しているのが原因」と説明するが、この背景にあるのはeコマースの成長だ。「ハスマンのビジネスの中心は新規オープンする小売店舗。ただ、eコマース事業者が新鮮な食材を取り扱うケースが増えており、小売店の新規開設が落ちている。これが需要減少の背景にある」という。これも冷凍ショーケースの競合他社との戦いではなく、競争軸が異なる企業との戦いが始まっている市場のひとつだ。

米国市場をターゲットにしてきたハスマンはスーパーなどに納入する大型冷蔵ショーケースが中心。ただし今後は、パナソニックが得意とするコンビニエンスストアなどの小規模店舗向けの品揃えを強化することで、米国市場での事業成長を見込むという。

想定外の敵が成長を促すか

しかし、これらの戦略だけでは「競争軸が異なる企業との戦いを視野に入れた一手」とは言い難い。

パナソニックは、電機業界のトップアナリストである片山 栄一氏や、日本マイクロソフト会長だった樋口 泰行氏、SAPジャパンバイスプレジデントの馬場 渉氏といった「外の血」を積極的に導入しはじめた。それによって社内の意識を変え、スピード感を持った経営に取り組みはじめている。

2018年に創業100周年を迎え、社員数で約26万人を抱えるパナソニックが社内意識を一瞬にして変えることは難しい。成長領域に位置づけた事業で、競争軸の変化に対する有効な手を打てないままでは、今後の成長戦略に不安が残る。アビオニクスおよびハスマンに共通しているのは、北米に本社機能が残っている点。つまり、「門真文化」と言われる日本のパナソニックの外にある組織である。

ただし発想を変えてみれば、大胆な「転地」ができる事業体とも言える。想定していなかった外敵から攻め込まれつつある領域だからこそ、大きく物事の在り方を転換することで攻めの一手を打つ。アビオニクスとハスマンは、そうした手を打つべき環境に置かれているともいえる。

もし、ここで、競争軸が異なる企業に対抗する一手が打てるのならば、我々は、パナソニックの新たな姿を見ることになるのかもしれない。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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