ソニー 1Q決算から見えた、営業利益5000億円への希望

ソニー 1Q決算から見えた、営業利益5000億円への希望

2017.08.05

ソニーは8月1日、2017年度第1四半期(2017年4月1日~6月30日)の連結業績を発表した。

業績復活・安定の傾向が続くソニー。今四半期も、売上高が前年同期比15.2%増の1兆8581億円、営業利益は同180.5%増の1576億円、純利益は同282.1%増の809億円と、大幅な増収増益となった。2017年通期での売上高予測は8兆3000億円と4月時点での予測(8兆円)から上方修正されたものの、営業利益は5000億円と据え置かれた。とはいえ5000億円はソニー始まって以来の水準であり、過去もっとも好調であった2007年を超える。

ソニー本社で開かれた業績説明会
2017年度第1四半期の連結業績。前年同期比で営業利益・純利益ともに大きく伸びた
2017年度連結業績見通し。4月の時点から売上高を上方修正しているものの、営業利益は依然5000億円と予想

年間利益5000億にむけて足腰を改善

ソニー 代表執行役副社長 兼 CFO(最高財務責任者) 吉田 憲一郎氏

ソニー 代表執行役副社長 兼 CFO(最高財務責任者)の吉田 憲一郎氏は「第一四半期の収益としては10年ぶりの最高益。一時的な要因をのぞくと過去2番目の数字」とするものの、「まだ(今年度期は)4カ月しか経っていないため、緊張感をもって臨んでいく」と、慎重な態度を崩さない。

今期に関しては、昨年起きた熊本地震によるカメラ・イメージセンサー事業への影響や、スマホ向けカメラモジュール製造子会社の中国企業への売却など、昨年同期に対して大きな額の変動要因がある。単純に前年同期比と比較すると1014億円の利益増になるが、変動要因を除くと114億円増になる。

それでもプラスであることに変わりはないが、過去にあったスマートフォン関連での大幅な需要変化や、天変地異による影響、為替リスク増大などの可能性を考えると、目標である「年間営業利益5000億円」が確実である、と胸を張れる段階ではない。吉田CFOはそうした面でかなり率直かつ保守的な物言いをする人間であり、そうしたことが、「まだまだ」とするコメントにあらわれている。逆にいえば、この数字から、熊本地震がソニーに与えていた影響の大きさが読み取れる。

昨年度・今年度の間で業績に大きな影響を与える変動要因を抜いた数字。やはり熊本地震の影響が大きい

現在のソニーを支えている、と言われるのは、ゲーム・映画・音楽というエンタテインメント事業、イメージセンサーを軸にした半導体事業、そして金融だ。

しかし、テレビやオーディオ(ホームエンタテインメント&サウンド、HE&S)にカメラ(イメージング・プロダクツ&ソリューション、IP&S)といった事業も健全化しており、かなり安定してきている。過去に「お荷物」とも言われた家電事業の健全化が一段落したことが、ソニーの業績安定に大きく貢献しているのがわかる。

業績をセグメント毎に。前年同期比で利益がマイナスになっているセグメントもあるが、売上は総じて好調であり、全体の業績を押し上げている

ゲームは下半期に注目、エンタメに迫る「構造変化」の影響

ゲーム分野の業績。基本的には好調なのだが、前年上期に自社制作ソフトの大ヒット(「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」、全世界で約870万本が売れた)があり、その分が減った結果、減収要因となった

セグメントごとに、まず収益貢献が大きいゲームからチェックしよう。ゲームはPlayStation 4の世界的な好調を受けて、基本的には右肩上がり。通期の売上予測を1兆9800億円・利益を1800億円に上方修正している。

他ジャンルと異なり、1セグメントのみ、前年同期比で263億円と大きな減収になっているが、これはゲームビジネス全体が減速した……というわけではなく、昨年上期にソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)制作ソフトの「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」が、800万本を超える大ヒットになった影響だ。

今年上期には自社ソフトでそこまでの大ヒットはなく(200万本クラスまで)、その分の減収となっている。大型タイトルが下期に準備されていること、元々ゲームは年末商戦の影響が大きいことなどを考えると、全体判断は下期の状況を見る必要がある。日本国内ではようやくエンジンがかかってきた段階で、任天堂の「Nintendo Switch」との競合が気になるところではあるが、世界的に見れば、PS4はいまだ一人勝ちの状況であり、短期的には大きな変動要因はない、とみていい。

音楽事業。「Fate/Grand Order」のヒットが音楽事業の主な増収要因に

なお、ゲームという意味では、特に国内でのスマートフォン向けゲームの収益が大きく出てきている点も指摘しておきたい。音楽事業においては、「Fate/Grand Order」の大ヒットにより、18.8%の大幅増収となっている。ゲームであるのに音楽分野に計上されているのは、同ゲームを運営するアニプレックスがアニメ制作会社であり、音楽事業を手がけるソニー・ミュージックエンタテインメントの子会社であるためだ。

ゲーム本丸のSIEは、日本国内でスマホ向けゲームを運営する子会社「フォワードワークス」を設立。今年度上半期から本格的な事業展開を行っているが、その収益が反映されてくるのは下期から、ということになる。

また、音楽・映画に関しては、世界的な市場変化が収益構造にも大きく影響してきていることを指摘しておきたい。

音楽事業の中でも、ソニーミュージックの業績をフォーマット別に見ると、すでにSpotifyやApple Musicといったストリーミングミュージックからの売上が、ダウンロードやディスク販売を抜きトップに立っている。増益要因もストリーミングミュージックの隆盛だ。ダウンロードが急速に減少しており、この情況への対策が収益に大きく影響する情況だ。

映画については、「収益は主にテレビ番組制作によるもの」(吉田氏)とのコメントがあった。テレビ番組といっても、その中心は、NetflixやAmazon Prime Videoといった有料ストリーミング配信向けのオリジナルドラマ制作。アメリカでは「ドラマの黄金期が来ている」と言われており、巨額をかけた完成度の高いドラマが多く出ている。それが映画以上に長期的な収入をもたらしており、ソニーの映画制作部門でもひとつの柱となっているのだ。

こうした海外での変化が日本にどう影響してくるかも、注視しておきたい部分である。

高付加価値体質への変化で収益を安定

モバイルコミュニケーション。構造改革が落ち着き大幅な赤字はなくなったものの、利益率はいまだ低い

スマートフォンを軸にしたモバイルコミュニケーションの分野は、相変わらず利益率の低さが目立つ。過去には大きな赤字を生み出していたが、販売数量や地域の見直しを進めた結果、大きな変動は起こさなくなってきた。

逆の言い方をすれば、大量に販売する「トップグループからの離脱」が鮮明になり、日本・欧州などの特定地域で高付加価値モデルを売る形が定着した、と言える。売り上げ予測に大きな変動もないことから、この分野は当面「出血せずに次の変化をうかがう」状況なのだろう。

カメラ(IP&S)事業については、一見増減が多く見えるものの、これはすでに説明した通り、熊本地震の影響を脱したことによる変動要因が多い。それを勘案しても、高付加価値モデルへの集約による利益体質の変化が上手くいき、プラスで事業を展開している、とみていい。

「高付加価値化による安定」という点はテレビ・オーディオ(HE&S)事業も同様であり、こちらも堅調な収益を出している。テレビについては、「2Kの販売台数が減少したものの、4Kの台数が増加しており、高付加価値製品との製品ミックスは改善している。また、4K比率についても、マーケット平均よりもソニーの4K比率は高くなっている」(吉田CFO)とのことで、現状の4Kモデルシフトが、ソニーに対してはまだプラスに働いている、と判断できる。

カメラ(IP&S)事業。熊本地震の影響を脱して、堅調な状態で推移している
テレビ・オーディオ(HE&S)事業。4K製品の数量増加で全体的にはプラスの影響

半導体事業は増減が目立つが、理由はスマートフォンだ。

スマートフォン向けの高付加価値イメージセンサーがソニーの核であるが、その需要の増減で事業内容が大きく変わる。ハイエンドスマホでは、高付加価値なセンサーを多数搭載する「複眼化」が進んでおり、その分だけソニーのセンサーの需要も増している。ライバルも多く、需要予測を見誤ると大きな損失も出かねないのだが、少なくとも現在は、ソニーにとって追い風が吹いている。

ただし、ソニーもそうした事業環境を理解しているため、構造改革と製造費用の削減に重きを置く。実際、通期予測では販売数量は保守的に「減少する」と見積もっており、慎重な事業計画である一方、製造費用の削減効果で増益を目指している。ここでも、変化に対応できる体質作りが重視されているのだ。

半導体事業。事業売却に伴う増益が目立つが、なにより「スマホ用センサーの強い需要」が支えている
日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

モノのデザイン 第53回

日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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「情報」と「経験」はお金にならない?

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「情報」と「経験」はお金にならない?

2019.04.25

私は文房具関連のイベントに出演させていただくことがあるのだが、いつも不思議に思うことがある。それは、ほとんどのイベントが入場無料であることだ。

文房具の世界において、イベントは主にトークイベント、実演販売、ワークショップの3種類に分かれているのが定番だが、いずれにしても入場(参加)無料であることが多いのである。

どのイベントでも、来てくれた方が新たな情報や経験を得て帰っていくことは間違いない。それなのに無料ということは、情報や経験はあくまで販促にしか使えない、つまりお金にならないものだと、文房具界が考えているということだろうか?

リアルの逆襲

おそらくどの業界でもあることだと思うが、昨今はモノを売ろうとするとインターネット販売vsリアル店舗、という構図が存在する。文房具界も同じだ。

インターネットでは店頭よりも安く文房具を買えることが多いし、外出の手間もかからない。また、売る側にとっては万引きの心配が要らない(文房具店の万引き被害は深刻なのだ)。そういう事情から、文房具店は数を減らしていている。ネットに押されているわけだ。

しかし、店舗だけが持つ価値も、もちろんある。実際に商品を手に取ることができるし、ウィンドウショッピングで思わぬ出会いもあるかもしれない。どちらもお客様にとっては大きなメリットだし、その価値が認められているからこそ文房具店が消えていないのだろう。

そして、リアル店舗だけの強みをさらに打ち出そうと文房具店(やメーカー、代理店など)が近年力を入れているのが、冒頭で述べたイベントだ。

イベントなど「場」への回帰は、文房具業界に限らない近年の流行りともいえるし、そういったイベントから私に声がかかるのは非常に光栄なのだが、さて、どうして「入場無料」なのだろうか。

情報と経験は価値になる

入場無料の背景には、イベントでの直接的な利益ではなく、間接的な利益を狙っているということがある。たとえばイベントに足を運んでくださるお客様が店で買い物をしてくれることや、イベントをきっかけに店のリピーターになることだ。

そのため、「(入場料を取ることで)お客様が来ないと困るから」というイベント主催者側の不安が先に立ち、無料となる。まったく同感だ。私も集客の恐怖はよく知っている。その根底には、具体的なモノを手に入れられないならお金はもらえない、という発想がある(その証拠に、少ないながら行われる有料のイベントは、お土産つきの場合が多い)。

だが、よく考えるとこの発想は変だ。コンサートや映画、著名人の講演は有料なのが普通だが、そこでは情報や経験に値段をつけている。映画が有料だと言って文句を言う人はいないだろう。

なぜ文房具界には情報や経験を売るという発想がないのだろうか?

「情報」を売ったことがない文房具界

思うに、文房具界はモノを売って生きてきた業界だから、情報を売ってきたコンテンツ業界並にとは言わないにしても、情報に価値があることに気づけていないのではないだろうか。

しかし、ネットvsリアルという普遍的な構図の中では、情報や経験の価値こそが鍵を握る。単にモノを売るだけならネットには敵わないからだ。

文房具は実に楽しい。だが、その楽しさの何割かは文房具そのものではなく、その周囲にある、新しい使い方や楽しみ方といった情報・経験なのだ。文房具の楽しさは、文房具というモノを超えていく。だから、店舗やイベントにはお金を払うような価値があるのだと、改めて考えてみるべきだと思うのだ。

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