国内最大の工場訪問でおぼろげにみえてきた“ワインの科学”

国内最大の工場訪問でおぼろげにみえてきた“ワインの科学”

2017.08.07

若者のビール離れが叫ばれて久しい。ただ、酒類全体の消費量が減っているわけではなく、“ビールの一人負け”といった格好だ。清酒も苦戦気味だが、海外輸出に活路を見いだしている。そんななか、好調に伸びているのがワインだ。

1998年頃に第6次ワインブームが到来し、国内でのワイン消費量がそれまでの過去最高となった。赤ワインに多く含まれる「ポリフェノール」が健康によいという情報が、マスコミなどで多く採りあげられたからだ。ところがその後、景気減速によりワイン消費量は落ち込んでしまう。

この状況に一石を投じたのが輸入ワインの躍進だ。その起爆剤となったのが、2007年に日本とチリのあいだで締結されたEPA(経済連携協定)。これにより関税が下げられ、チリ産ワインが多く輸入されるようになった。当然、販売価格も安価になり、スーパーやコンビニといった店頭に広々とワインコーナーが設けられ、ワインが消費者の手に届きやすくなった。それまで、“ワインはリカーショップやデパートで購入するもの”というイメージから、“会社帰りに、あるいは日々の食材を入手するついでに買うもの”に変わってきた。

根づいてきた「デイリーワイン」

メルシャンのデイリーワイン

そして2012年、ワイン消費量はそれまで最高だった1998年を突破。その後も2013年、2014年、2015年と4年連続で過去最高を更新している。なかでもチリワインは10年前の約6.3倍の輸入量となり、日本のワイン消費量増加の原動力になっている。ここ数年は、毎日ワインを楽しむ「デイリーワイン」という言葉をよく聞くようになったが、安価なチリ産ワインが牽引したのは間違いない。

このデイリーワインの浸透には、“日本製造ワイン”も大きく寄与している。“日本製造”とはいっても、デイリーワインの領域では海外から輸入した原料をブレンドしたり、ボトリングしたりするものが多い。その日本製造デイリーワインの一大拠点、キリン傘下のメルシャン藤沢工場におじゃましてきた。

メルシャン藤沢工場

同工場を訪れてみて、いくつか驚きがあった。

まず、神奈川県・藤沢市という立地。ワインというと山梨県や長野県といった、山に囲まれた地域で生産されるものというイメージが強かった。だが、藤沢といえば“海”。江ノ島や鵠沼(くげぬま)海岸といった人気スポットを市内にかかえる、まさに“湘南”だ。正直、ワインのイメージとは直結しない。

さらに驚いたのが、神奈川県がワインの生産ナンバーワンということ。てっきり、山梨県だと思っていたが、その山梨は2位ということだ。しかも、メルシャン藤沢工場による生産量が、神奈川産の90%以上を占めるのだという。つまり日本最大のワイン製造工場といえる。

なぜ、この地にワイン工場があるのか。説明を聞いて合点がいった。同工場では海外から輸入した原料を使ってワインを製造するのがメイン。藤沢は横浜や東京といった貿易港に近く、京浜地区に輸入された原料を輸送するのに、都合がよいというわけだ。ちなみにこの地に工場の前身が設立されたのは大正9年(1920年)。今年で97年目を迎え、五輪イヤーの2020年には100年となる。

工場内に“外国”!?

さて、工場内で最初に目に入ってきたのは、何本も並んだ大きなタンク。実はこのタンク、“外国”扱いになっているという。正確には保税地域となっており、海外から輸入したワイン・原料の通関を保留しながら貯蔵できる。ワインを製造する際にキリンがその量を計り、税関に申告するということだ。

続いて物流センターやボトリングのラインを拝見した。物流センターには最大45万パックを保管できるキャパシティがあり、ボトリングでは12ラインが稼働できる。さすが日本最大のワイン工場という印象だ。

左から貯蔵タンク、物流センター、ボトリングライン

ただ、もっともユニークに感じたのが、「恒温保存サンプル庫」。ここには工場で製造した全ロットのサンプルが保管され、品質管理に活用している。と、ここまではどんなメーカーでも行っていることで珍しくはないが、部屋の片隅に水槽が置かれ、メダカが涼しげに泳いでいたのが目に入った。

「ペットかな?」と思ったがそうではなく、仮にクレームが入った場合、製品の毒性を調べるための“毒味役”になるという。「意外にもアナログ!」と感じたが、今年からは横浜市・生麦に集約されているキリングループの研究機関にその機能を移管。現在泳いでいるメダカはすでに“お役御免”になっており、彼らの次の世代は入らないという。

生麦に研究機関があると先述したが、ここには「酒類技術研究所」や「飲料技術研究所」、「健康技術研究所」など、キリングループ6つの研究所が集約している。そのうちのひとつが「ワイン技術研究所」だ。

この研究所では、当然、名前のとおりワインに関する研究・開発が行われている。

たとえば赤ワインに含まれるポリフェノール。ポリフェノールはおもに「アントシアニン」「タンニン」などがあるが、前者は渋味・苦味が穏やかで、後者は渋味・苦味が強い。健康によいとされるポリフェノールだが、ブドウから2倍抽出すると、アントシアニンもタンニンも2倍になる。つまり苦味も増えることになる。

そこで、熱抽出技術を応用し、アントシアニンのみ抽出する技術を開発。この技術で作られた原料をもとにしたワインを商品化している。

また、「レスベラトール」というポリフェノールを研究。これが動脈硬化予防や抗メタボ効果、脳機能活性化などの効果が高いことを調べあげた。

白ワインの特性を感じたテイスティング

白ワインのテイスティング。その後、赤ワインのテイスティングもあった

研究の成果を体感できるテイスティングも体験させていただいた。

目の前には3種類の白ワイン。そしてカズノコが用意されていた。いわれるとおり、白ワインのひとつを試飲、「おいしい」と感じた。続いてカズノコを食べる。嫌いな食材ではないので、やはりおいしい。だが、カズノコが口に残っているあいだに再び先ほどの白ワインを口にすると、生臭い味が広がった。これは、同じテイスティングをしたほかの記者も同じだったようで、「ん!?」といった小さな声があちこちで上がった。

キリン R&D本部 ワイン技術研究所 神原浩子氏によると、ワインに含まれる“鉄”と魚介料理に含まれる“脂質”が合わさると、生臭みが生じるそうだ。鉄が多ければ多いほどその生臭みは強くなるらしく、それをメルシャンが世界で初めて発見した。この研究成果は、国内ワイン業界のみならず、海外からも注目されている。

続いて、用意してあったサワークリームでカズノコを包んで食し白ワインを飲むと、生臭みが緩和された。キャビア料理にサワークリームが添えてあることが多いのはこのためだそうだ。ただ、多くの魚介料理には、キャビアに対するサワークリームのようなコンビはなく、そこでメルシャンは生臭さを感じにくい商品を開発した。

さて、筆者は専門家でもなんでもないので詳しい手順はわからないが、ワイン造りといえばヴィンヤード(農園)でブドウを育てそれを収穫、発酵させたブドウをタルに入れて醸成させる。その年に収穫したブドウのデキや職人の腕によって、味が大きく異なってくるものと思っている。つまり、こんな表現をしてよいのかどうかわからないが、ワイン造りは、“すこぶる牧歌的”というイメージだ。

だが今回、メルシャン藤沢工場を訪れ、いろいろなハナシをうかがってみると、意外や意外、“ワインは科学”なのだなと感じた。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。