東京商工リサーチ「倒産月報」に見る 企業を取り巻く環境の変化(前編)

東京商工リサーチ「倒産月報」に見る 企業を取り巻く環境の変化(前編)

2016.05.23

東京商工リサーチ「倒産月報」に見る 企業を取り巻く環境の変化(前編)

調査会社の東京商工リサーチは2016年4月、全国の支社店がまとめた地区ごとの倒産集計を取りまとめて分析した「2015年度(15年4月-16年3月) 全国企業倒産状況」 を発表した。その内容を見ると、直近の企業を取り巻く環境の変化をうかがうことができる。同社、情報本部情報部課長の増田和史氏に解説してもらった。

―― 貴社では先ごろ、2015年度(15年4月から16年3月)、1年間の倒産集計が取りまとめられました。概況はどのようになっていますか。
 15年度(15年4月から16年3月)の全国企業倒産(負債総額1000万円以上)は、8684件で、負債総額は2兆358億4300万円でした。倒産件数は、前年度比で9.0%減(859件減)で、年度としては7年連続で前年を下回っています。また、1990年度(7157件)以来、25年ぶりに9000件を割り込みました。バブル景気の最後のころぐらいの低水準です。

 ただ、倒産件数は少ないものの、正直なところ、景気の回復感はあまりありません。15年度は全体的には円安基調が続き、輸出中心の大企業の一部は恩恵を受けました。原油価格が下がって運送業などにも好影響となっています。しかし、内需型が多い中小企業にとって、円安はコストアップに繋がるリスク要因にもなります。景気回復はなかなか中小企業まで浸透していないのが課題です。

 倒産件数が減った要因は、景気の自律的な浮上というよりは、金融機関が中小企業のリスケ(借入条件の変更)に柔軟に応じるといった、金融支援効果によるものが大きいと思われます。

 具体的に言えば、7年前はちょうどリーマン・ショックの影響で倒産件数が非常に多かった年です。そこで09年12月、「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(中小企業金融円滑化法)」が施行されました。いわば、借入金の返済負担を軽減させることによって、政策的に倒産を封じ込めようとする取り組みです。同法は13年3月末に期限を迎えましたが、監督官庁の方針は従来と変わらなかったため、金融機関の貸出先に対する姿勢も変化せず中小企業にとって返済のプレッシャーはそれほど大きくなりませんでした。

 実は、この中小企業金融円滑化法を利用している企業は全国に30万社から40万社あると言われています。これらはいわば倒産の予備軍です。先ほど、15年度の倒産件数が9000件割れしたと紹介しましたが、倒産件数はこれまでのピークで2万件程度です。その数の20倍以上の企業が、銀行に約定どおり払えないというわけです。表現はあまりよくありませんが、これらの企業がなんとか生きながらえた、延命してきたことで企業倒産は歴史的な低水準にとどまった1年だったと見ることができます。

―― 15年度の倒産集計において、負債額、業種(産業)、地域などで特徴があるのでしょうか。
 1社で数千億円もの負債を抱えて倒産するような企業が出ると、負債総額もかなり上下します。15年度は、前年度1件もなかった負債1000億円を超える大型倒産が2件発生している影響が大きくなっています。

 ただし、負債額で言えば、負債1億円未満が全体の7割(構成比71.3%)を占めており、中小・零細企業の倒産が圧倒的な割合となっています。

 倒産動向を産業別に見ると、10産業のうち9産業と、ほぼ全業種で件数が減少しています。唯一、金融・保険業だけが倒産件数が増えていますが、金融・保険といっても、銀行や証券会社ではありません。年金資金運用会社や投資ファンドなどで、投資会社が不適切な会計操作を行ったり、放漫な経営をしたりして倒産するケースが増えています。

 ちなみに当社では、かねてから建設業に注目をしています。建設業の倒産件数は全体の3割くらいを占めます。全国倒産件数と建設業倒産の件数は、ほぼリンクしています。日本の基幹産業であり、母数も多いという特徴もあります。つまり、建設業の動向が、日本の景気を計るバロメーターになるわけです。

 そのため政府としても、景気が悪くなると公共工事を出して仕事を増やすというような傾向があります。実際にここ数年はアベノミクスの財政出動もあり、建設業では仕事が増え、倒産件数も減っています。ただ、今後はどうかと考えると、建設業の中でも土木関連は厳しく、倒産件数が増える傾向にあると思われます。

 倒産動向を地域別に見ると、全国9地区すべてで倒産数が前年度を下回っています。ただ、ここで気になるのが関東の倒産件数です。全国でも最多なのはもちろんですが、15年度の下半期は件数が増えています。これは象徴的で、先行指標になると考えられます。

 関東の倒産を産業別に見ると、特に都内では卸売業や小売業など消費に直結する企業の件数が増えています。今後は消費増税のほか熊本地震などの影響も懸念されるところです。卸・小売関連企業の倒産が増える可能性はあります。

 具体的には、アパレル、雑誌・書籍などが厳しいでしょう。アパレルに関しては中小だけでなく大手も苦戦しています。特に昨年は暖冬だったので、冬物商戦で収益が取れないという状況でした。冬物の仕入れの支払時期が2月から4月に来ることから、いま資金繰りがきついというアパレル業者が多いと思います。雑誌、書籍では昨年度、大手の取次会社が2社倒産しました。この影響を受けて、取引関係にあった書店が20店ほど倒産したり廃業したりしています。(次週:後編へ続く)

話:東京商工リサーチ 情報本部 情報部 課長 増田和史 氏

編集:MAOnlne編集部

増田和史(ますだ・かずふみ)紹介

東京商工リサーチ 情報本部 情報部 課長 増田和史 氏

東京商工リサーチ:http://www.tsr-net.co.jp/

世界最大2億件を超える国内・海外の企業情報を提供し、与信管理を支援する東京商工 リサーチ(TSR)。長年の蓄積した企業情報データベースを活用し与信管理、 マーケティング、調達先管理、海外企業情報に同社の情報を活用する企業は多い。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。