マツダが技術開発の長期ビジョン発表、エンジン中心に適材適所で勝負

マツダが技術開発の長期ビジョン発表、エンジン中心に適材適所で勝負

2017.08.09

マツダは技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」を発表した。クルマの電動化と知能化が業界のトレンドとなっている中、マツダが打ち出すのは内燃機関(エンジン)を中心に電動化技術を組み合わせ、国、地域、顧客に合わせた商品を展開する「適材適所」の戦略。新たな武器となるのは、マツダが世界で初めて実用化する“新種”のエンジン「SKYACTIV-X」だ。

8月8日の技術開発長期ビジョン説明会に登壇したマツダの小飼雅道社長

“走る歓び”を軸に解決を図る3つの課題

マツダは2002年にブランドメッセージ「Zoom-Zoom」(英語で「ブーブー」を意味する子供言葉で、走る歓びを追求するマツダの企業姿勢を表現する)を導入し、2007年には技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言」を発表。実用域における燃費・環境性能や運動性能にこだわった「SKYACTIV技術」によるクルマづくりとデザインテーマ「魂動」により、特徴的なクルマを作るメーカーとして独自の立ち位置を確立した。

SKYACTIV技術と魂動デザインを採用した新世代商品の発売とともに、マツダは構造改革に着手。マツダの販売台数は2012年度の123.5万台が2016年度には155.9万台まで増加した。技術開発長期ビジョン説明会に登壇したマツダの小飼社長は、これまでの流れを振り返り「構造改革第1ステージは成功した」と手応えを口にした。

2012年初頭の「CX-5」を皮切りに、相次いで世に出たマツダの新世代商品群

このような状況のマツダが、激動の自動車業界で継続的に成長していくために策定したのが、8月8日に発表となった新たな技術開発の長期ビジョンだ。小飼社長は同社が目指す方向性として、「クルマの持つ魅力である“走る歓び”」により、「地球」「社会」「人」のそれぞれの課題解決に向けたチャレンジを進めていくと語る。では、マツダが解決しようとする課題とはいかなるもので、そのために同社はどんな技術を開発しようとするのだろうか。まずは「地球」の課題について見ていきたい。

CO2削減をクルマのライフサイクルで考えるマツダ

「地球」の課題とは、地球温暖化や大気汚染といった環境問題を指す。中でもCO2削減は、自動車業界にとって重要なテーマだ。

一部の自動車メーカーは電気自動車(EV)シフトを明確に打ち出しており、欧州では政府主導で内燃機関を搭載するクルマの新車販売を禁ずる動きが相次いでいるが、マツダは「実質的なCO2削減に取り組む必要がある」(小飼社長)とし、今後も長期にわたりクルマの主な駆動装置であり続けるであろう内燃機関の効率化に磨きをかけていく方針だ。

マツダが説明会で示した第三者機関による調査結果。2035年時点でも、地球上を走行するクルマの84.4%が何らかの形で内燃機関を積んでいるとの予測だ

実質的なCO2削減に向け、マツダが大切にするのが「Well-to-Wheel」(燃料採掘から車両走行まで)の視点。これは、クルマが走行時に排出するCO2だけでなく、クルマの燃料が作られる過程で発生するCO2も含め、全体でいかに削減していくかが重要という考え方だ。EVは確かにCO2を排出しないが、その燃料(電力)の作られ方(発電方法)によっては、結果的にCO2の大幅な削減につなげられないのでは、というのがWell-to-Wheelで問われる論点となる。

well-to-wheelの考え方

マツダはWell-to-Wheelで見た場合のCO2削減を具体的な目標として打ち出す。2050年で企業平均CO2を2010年比90%削減するため、2030年には同50%の削減を目指すという。この目標の実現に向けては、「各地域における自動車のパワーソースの適性、エネルギー事情や電力の発電構成を踏まえ、適材適所の対応が可能なマルチソリューションが必要」(小飼社長)というのがマツダの考え。では、同社が提供するマルチソリューションとは、具体的にどんなものなのだろうか。

エンジン中心に地域・顧客に合わせた商品展開

マツダは内燃機関に磨きをかける方針を打ち出すが、EVを含むクルマの電動化に取り組まないかといえばそうではない。それらをうまく組み合わせて、適材適所で提供していく考えなのだ。例えば、電力が全て再生可能エネルギーなどでまかなわれている地域にはEVを投入する。そうでない地域では、燃費を高めたエンジンを積むクルマや、エンジンと電動化技術を組み合わせたマイルドハイブリッドのクルマを販売する。

マツダの技術投入スケジュール。次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」、マイルドハイブリッド(MILD HEV)、電気自動車(EV)は2019年、プラグインハイブリッド車(PHV)は2021年以降に投入する計画だ

このように、さまざまな駆動装置を持つクルマをミックスして販売していく方針のマツダだが、最も重視しているのは、今後も世界の大多数のクルマを動かし続けるであろう内燃機関の性能向上だ。同社の研究・開発を統括する藤原清志専務は長期ビジョン説明会において、「内燃機関の徹底的な理想追及が基本であり、今後も重要と考える」と明言。この方向性を形にしたのが、マツダが2019年に商品化する次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」だ。

ガソリンとディーゼルの利点を組み合わせた新エンジン

マツダはSKYACTIV技術で作ったガソリンエンジン(SKYACTIV-G)とディーゼルエンジン(SKYACTIV-D)の性能向上に継続的に取り組みつつ、両エンジンの良いところを組み合わせた新しいエンジン「SKYACTIV-X」を商品化する。「X」にはガソリンとディーゼルのクロスオーバーという意味を込める。このエンジンでマツダは、ガソリンと空気の混合気をピストンの圧縮によって自己着火させる燃焼技術「圧縮着火」を世界で初めて実用化する。

藤原専務によると、SKYACTIV-Xの特徴は「優れた環境性能と出力・動力性能を妥協なく両立」させた点にあるという。試作車では排気量1.5リッターのディーゼルエンジンを搭載した「デミオ」と同等のCO2排出量でありながら、2.0リッターのガソリンエンジンを積んだ「ロードスター」並みの加速感を実現できているそう。藤原専務は仕上がりに手応えを感じているという。

マツダの研究・開発を統括する藤原専務

多様なクルマを顧客に合わせて用意

長期にわたりクルマの主要な駆動装置であり続ける内燃機関の効率化に注力しつつ、地域や顧客によっては電動化技術を組み合わせていく。電動化もマイルドハイブリッドからピュアEVまでを取りそろえ、EVにはマツダの代名詞「ロータリーエンジン」を活用したレンジエクステンダー(発電用のエンジン)搭載バージョンも用意する。これが、適材適所を目指すマツダ流のマルチソリューションだ。

環境問題への対応として、急速な電動化を掲げる自動車メーカーが世界的に増えている印象だが、マツダの提示する解決策は現実的な感じのするものだった。実際問題として、これからクルマが爆発的に増えるのは新興国だと考えられるが、そういった国で、電気や水素といった新たな燃料をクルマに供給するインフラが、一朝一夕に整うとも思えない。それであれば、まずは実際に道路を走るクルマの燃費を磨くべきというのがマツダの考えなのだろう。

では次に、マツダが解決を目指す「社会」の課題とはどのようなものだろうか。

社会の問題には安全技術で対応、独特な自動運転技術も投入

マツダが「社会」の課題というのは、交通事故原因の多様化や、過疎地で顕在化する公共交通機関の弱体化、いわゆる「交通弱者」の問題などだ。

事故のないクルマ社会を実現するため、マツダではクルマを作るに際し、ドライビングポジション、ペダルレイアウト、視界視認性、アクティブ・ドライビング・ディスプレイなどの基本安全技術を進化させ、全車標準装備化を進める。安全の観点では、マツダ流の自動運転技術である「Mazda Co-Pilot Concept」を2025年に標準化する方針も示した。

マツダは基本安全技術の全車標準装備化を進める(画像はCX-5)

マツダの自動運転は、基本的に人間がクルマを運転し、緊急時にシステムが運転を「オーバーライド」(小飼社長)するのが特徴。ドライバーがミスをしたり、急に体調を崩したりした時に、クルマのシステムが運転を代行するイメージだ。こういった自動運転の在り方にも、「走る歓び」を重要視するマツダの企業姿勢が見てとれる。以前、弊紙で行った藤原専務のインタビューでは、自動運転の実用化で交通弱者に移動手段を提供する構想も示された。

「人」の課題には走りの作り込みで対応

最後に、マツダが解決を目指す「人」の課題とは、いかなるものだろうか。小飼社長は「社会で生活する人々は、機械化や自動化により経済的な豊かさの恩恵を受けているが、一方で、日々体を動かさないことや、人や社会との直接的な関わりが希薄になることで、ストレスが増加していると考える」とし、この課題を解決するため、「より多くの顧客にクルマを運転する『走る歓び』を感じてもらう」ことを目指すとした。

この課題を解決するため、マツダは強みとする「人馬一体」感を今後も研ぎ澄ませていく考えだという。人馬一体やクルマを「意のままに操る」ことは、マツダがかねてから追求してきたテーマ。この領域でも新エンジンが力を発揮するかもしれないし、マイルドハイブリッドのような電動化技術がもたらす加速感が、マツダ車の魅力を高める新たな味となる可能性もあるだろう。

内燃機関に注力は現実路線か

マツダが「地球」「社会」「人」の3つのテーマで設定した課題を解決すべく策定した新たな技術開発の長期ビジョン。説明会に出席した印象では、マツダは「地球」の部分に多くの時間を割いていたようだった。クルマの電動化が加速する業界にありながら、内燃機関のブラッシュアップに注力する姿勢を打ち出すことについて、より深い理解を求めたいというのがマツダの思いなのだろう。

フランスと英国で、2040年までに内燃機関を積む新車の販売を禁止するという政府の方針が示されたこともあり、世界的にクルマの電動化が進んでいく見通しが強まっているようだが、実際のところ、EV全盛時代がいつ訪れるかは誰にも分からない。マツダの長期ビジョンは2030年を見越したものであり、次の長期ビジョンが策定される頃には、クルマの電動化が実際にどのようなスピード感で進むのかについて、今よりも明確に答えが出ているだろう。

説明会で示された予測の通り、2035年時点で地球上を走行する84%のクルマが何らかの形で内燃機関を積んでいるとすれば、その内燃機関を磨き上げるというマツダの戦略は、自動車メーカーが現時点で打ち出すことができるビジョンとして、1つの現実的な路線を示したものといえそうだ。

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。