マツダが技術開発の長期ビジョン発表、エンジン中心に適材適所で勝負

マツダが技術開発の長期ビジョン発表、エンジン中心に適材適所で勝負

2017.08.09

マツダは技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」を発表した。クルマの電動化と知能化が業界のトレンドとなっている中、マツダが打ち出すのは内燃機関(エンジン)を中心に電動化技術を組み合わせ、国、地域、顧客に合わせた商品を展開する「適材適所」の戦略。新たな武器となるのは、マツダが世界で初めて実用化する“新種”のエンジン「SKYACTIV-X」だ。

8月8日の技術開発長期ビジョン説明会に登壇したマツダの小飼雅道社長

“走る歓び”を軸に解決を図る3つの課題

マツダは2002年にブランドメッセージ「Zoom-Zoom」(英語で「ブーブー」を意味する子供言葉で、走る歓びを追求するマツダの企業姿勢を表現する)を導入し、2007年には技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言」を発表。実用域における燃費・環境性能や運動性能にこだわった「SKYACTIV技術」によるクルマづくりとデザインテーマ「魂動」により、特徴的なクルマを作るメーカーとして独自の立ち位置を確立した。

SKYACTIV技術と魂動デザインを採用した新世代商品の発売とともに、マツダは構造改革に着手。マツダの販売台数は2012年度の123.5万台が2016年度には155.9万台まで増加した。技術開発長期ビジョン説明会に登壇したマツダの小飼社長は、これまでの流れを振り返り「構造改革第1ステージは成功した」と手応えを口にした。

2012年初頭の「CX-5」を皮切りに、相次いで世に出たマツダの新世代商品群

このような状況のマツダが、激動の自動車業界で継続的に成長していくために策定したのが、8月8日に発表となった新たな技術開発の長期ビジョンだ。小飼社長は同社が目指す方向性として、「クルマの持つ魅力である“走る歓び”」により、「地球」「社会」「人」のそれぞれの課題解決に向けたチャレンジを進めていくと語る。では、マツダが解決しようとする課題とはいかなるもので、そのために同社はどんな技術を開発しようとするのだろうか。まずは「地球」の課題について見ていきたい。

CO2削減をクルマのライフサイクルで考えるマツダ

「地球」の課題とは、地球温暖化や大気汚染といった環境問題を指す。中でもCO2削減は、自動車業界にとって重要なテーマだ。

一部の自動車メーカーは電気自動車(EV)シフトを明確に打ち出しており、欧州では政府主導で内燃機関を搭載するクルマの新車販売を禁ずる動きが相次いでいるが、マツダは「実質的なCO2削減に取り組む必要がある」(小飼社長)とし、今後も長期にわたりクルマの主な駆動装置であり続けるであろう内燃機関の効率化に磨きをかけていく方針だ。

マツダが説明会で示した第三者機関による調査結果。2035年時点でも、地球上を走行するクルマの84.4%が何らかの形で内燃機関を積んでいるとの予測だ

実質的なCO2削減に向け、マツダが大切にするのが「Well-to-Wheel」(燃料採掘から車両走行まで)の視点。これは、クルマが走行時に排出するCO2だけでなく、クルマの燃料が作られる過程で発生するCO2も含め、全体でいかに削減していくかが重要という考え方だ。EVは確かにCO2を排出しないが、その燃料(電力)の作られ方(発電方法)によっては、結果的にCO2の大幅な削減につなげられないのでは、というのがWell-to-Wheelで問われる論点となる。

well-to-wheelの考え方

マツダはWell-to-Wheelで見た場合のCO2削減を具体的な目標として打ち出す。2050年で企業平均CO2を2010年比90%削減するため、2030年には同50%の削減を目指すという。この目標の実現に向けては、「各地域における自動車のパワーソースの適性、エネルギー事情や電力の発電構成を踏まえ、適材適所の対応が可能なマルチソリューションが必要」(小飼社長)というのがマツダの考え。では、同社が提供するマルチソリューションとは、具体的にどんなものなのだろうか。

エンジン中心に地域・顧客に合わせた商品展開

マツダは内燃機関に磨きをかける方針を打ち出すが、EVを含むクルマの電動化に取り組まないかといえばそうではない。それらをうまく組み合わせて、適材適所で提供していく考えなのだ。例えば、電力が全て再生可能エネルギーなどでまかなわれている地域にはEVを投入する。そうでない地域では、燃費を高めたエンジンを積むクルマや、エンジンと電動化技術を組み合わせたマイルドハイブリッドのクルマを販売する。

マツダの技術投入スケジュール。次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」、マイルドハイブリッド(MILD HEV)、電気自動車(EV)は2019年、プラグインハイブリッド車(PHV)は2021年以降に投入する計画だ

このように、さまざまな駆動装置を持つクルマをミックスして販売していく方針のマツダだが、最も重視しているのは、今後も世界の大多数のクルマを動かし続けるであろう内燃機関の性能向上だ。同社の研究・開発を統括する藤原清志専務は長期ビジョン説明会において、「内燃機関の徹底的な理想追及が基本であり、今後も重要と考える」と明言。この方向性を形にしたのが、マツダが2019年に商品化する次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」だ。

ガソリンとディーゼルの利点を組み合わせた新エンジン

マツダはSKYACTIV技術で作ったガソリンエンジン(SKYACTIV-G)とディーゼルエンジン(SKYACTIV-D)の性能向上に継続的に取り組みつつ、両エンジンの良いところを組み合わせた新しいエンジン「SKYACTIV-X」を商品化する。「X」にはガソリンとディーゼルのクロスオーバーという意味を込める。このエンジンでマツダは、ガソリンと空気の混合気をピストンの圧縮によって自己着火させる燃焼技術「圧縮着火」を世界で初めて実用化する。

藤原専務によると、SKYACTIV-Xの特徴は「優れた環境性能と出力・動力性能を妥協なく両立」させた点にあるという。試作車では排気量1.5リッターのディーゼルエンジンを搭載した「デミオ」と同等のCO2排出量でありながら、2.0リッターのガソリンエンジンを積んだ「ロードスター」並みの加速感を実現できているそう。藤原専務は仕上がりに手応えを感じているという。

マツダの研究・開発を統括する藤原専務

多様なクルマを顧客に合わせて用意

長期にわたりクルマの主要な駆動装置であり続ける内燃機関の効率化に注力しつつ、地域や顧客によっては電動化技術を組み合わせていく。電動化もマイルドハイブリッドからピュアEVまでを取りそろえ、EVにはマツダの代名詞「ロータリーエンジン」を活用したレンジエクステンダー(発電用のエンジン)搭載バージョンも用意する。これが、適材適所を目指すマツダ流のマルチソリューションだ。

環境問題への対応として、急速な電動化を掲げる自動車メーカーが世界的に増えている印象だが、マツダの提示する解決策は現実的な感じのするものだった。実際問題として、これからクルマが爆発的に増えるのは新興国だと考えられるが、そういった国で、電気や水素といった新たな燃料をクルマに供給するインフラが、一朝一夕に整うとも思えない。それであれば、まずは実際に道路を走るクルマの燃費を磨くべきというのがマツダの考えなのだろう。

では次に、マツダが解決を目指す「社会」の課題とはどのようなものだろうか。

社会の問題には安全技術で対応、独特な自動運転技術も投入

マツダが「社会」の課題というのは、交通事故原因の多様化や、過疎地で顕在化する公共交通機関の弱体化、いわゆる「交通弱者」の問題などだ。

事故のないクルマ社会を実現するため、マツダではクルマを作るに際し、ドライビングポジション、ペダルレイアウト、視界視認性、アクティブ・ドライビング・ディスプレイなどの基本安全技術を進化させ、全車標準装備化を進める。安全の観点では、マツダ流の自動運転技術である「Mazda Co-Pilot Concept」を2025年に標準化する方針も示した。

マツダは基本安全技術の全車標準装備化を進める(画像はCX-5)

マツダの自動運転は、基本的に人間がクルマを運転し、緊急時にシステムが運転を「オーバーライド」(小飼社長)するのが特徴。ドライバーがミスをしたり、急に体調を崩したりした時に、クルマのシステムが運転を代行するイメージだ。こういった自動運転の在り方にも、「走る歓び」を重要視するマツダの企業姿勢が見てとれる。以前、弊紙で行った藤原専務のインタビューでは、自動運転の実用化で交通弱者に移動手段を提供する構想も示された。

「人」の課題には走りの作り込みで対応

最後に、マツダが解決を目指す「人」の課題とは、いかなるものだろうか。小飼社長は「社会で生活する人々は、機械化や自動化により経済的な豊かさの恩恵を受けているが、一方で、日々体を動かさないことや、人や社会との直接的な関わりが希薄になることで、ストレスが増加していると考える」とし、この課題を解決するため、「より多くの顧客にクルマを運転する『走る歓び』を感じてもらう」ことを目指すとした。

この課題を解決するため、マツダは強みとする「人馬一体」感を今後も研ぎ澄ませていく考えだという。人馬一体やクルマを「意のままに操る」ことは、マツダがかねてから追求してきたテーマ。この領域でも新エンジンが力を発揮するかもしれないし、マイルドハイブリッドのような電動化技術がもたらす加速感が、マツダ車の魅力を高める新たな味となる可能性もあるだろう。

内燃機関に注力は現実路線か

マツダが「地球」「社会」「人」の3つのテーマで設定した課題を解決すべく策定した新たな技術開発の長期ビジョン。説明会に出席した印象では、マツダは「地球」の部分に多くの時間を割いていたようだった。クルマの電動化が加速する業界にありながら、内燃機関のブラッシュアップに注力する姿勢を打ち出すことについて、より深い理解を求めたいというのがマツダの思いなのだろう。

フランスと英国で、2040年までに内燃機関を積む新車の販売を禁止するという政府の方針が示されたこともあり、世界的にクルマの電動化が進んでいく見通しが強まっているようだが、実際のところ、EV全盛時代がいつ訪れるかは誰にも分からない。マツダの長期ビジョンは2030年を見越したものであり、次の長期ビジョンが策定される頃には、クルマの電動化が実際にどのようなスピード感で進むのかについて、今よりも明確に答えが出ているだろう。

説明会で示された予測の通り、2035年時点で地球上を走行する84%のクルマが何らかの形で内燃機関を積んでいるとすれば、その内燃機関を磨き上げるというマツダの戦略は、自動車メーカーが現時点で打ち出すことができるビジョンとして、1つの現実的な路線を示したものといえそうだ。

日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

モノのデザイン 第53回

日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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「情報」と「経験」はお金にならない?

文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」 第5回

「情報」と「経験」はお金にならない?

2019.04.25

私は文房具関連のイベントに出演させていただくことがあるのだが、いつも不思議に思うことがある。それは、ほとんどのイベントが入場無料であることだ。

文房具の世界において、イベントは主にトークイベント、実演販売、ワークショップの3種類に分かれているのが定番だが、いずれにしても入場(参加)無料であることが多いのである。

どのイベントでも、来てくれた方が新たな情報や経験を得て帰っていくことは間違いない。それなのに無料ということは、情報や経験はあくまで販促にしか使えない、つまりお金にならないものだと、文房具界が考えているということだろうか?

リアルの逆襲

おそらくどの業界でもあることだと思うが、昨今はモノを売ろうとするとインターネット販売vsリアル店舗、という構図が存在する。文房具界も同じだ。

インターネットでは店頭よりも安く文房具を買えることが多いし、外出の手間もかからない。また、売る側にとっては万引きの心配が要らない(文房具店の万引き被害は深刻なのだ)。そういう事情から、文房具店は数を減らしていている。ネットに押されているわけだ。

しかし、店舗だけが持つ価値も、もちろんある。実際に商品を手に取ることができるし、ウィンドウショッピングで思わぬ出会いもあるかもしれない。どちらもお客様にとっては大きなメリットだし、その価値が認められているからこそ文房具店が消えていないのだろう。

そして、リアル店舗だけの強みをさらに打ち出そうと文房具店(やメーカー、代理店など)が近年力を入れているのが、冒頭で述べたイベントだ。

イベントなど「場」への回帰は、文房具業界に限らない近年の流行りともいえるし、そういったイベントから私に声がかかるのは非常に光栄なのだが、さて、どうして「入場無料」なのだろうか。

情報と経験は価値になる

入場無料の背景には、イベントでの直接的な利益ではなく、間接的な利益を狙っているということがある。たとえばイベントに足を運んでくださるお客様が店で買い物をしてくれることや、イベントをきっかけに店のリピーターになることだ。

そのため、「(入場料を取ることで)お客様が来ないと困るから」というイベント主催者側の不安が先に立ち、無料となる。まったく同感だ。私も集客の恐怖はよく知っている。その根底には、具体的なモノを手に入れられないならお金はもらえない、という発想がある(その証拠に、少ないながら行われる有料のイベントは、お土産つきの場合が多い)。

だが、よく考えるとこの発想は変だ。コンサートや映画、著名人の講演は有料なのが普通だが、そこでは情報や経験に値段をつけている。映画が有料だと言って文句を言う人はいないだろう。

なぜ文房具界には情報や経験を売るという発想がないのだろうか?

「情報」を売ったことがない文房具界

思うに、文房具界はモノを売って生きてきた業界だから、情報を売ってきたコンテンツ業界並にとは言わないにしても、情報に価値があることに気づけていないのではないだろうか。

しかし、ネットvsリアルという普遍的な構図の中では、情報や経験の価値こそが鍵を握る。単にモノを売るだけならネットには敵わないからだ。

文房具は実に楽しい。だが、その楽しさの何割かは文房具そのものではなく、その周囲にある、新しい使い方や楽しみ方といった情報・経験なのだ。文房具の楽しさは、文房具というモノを超えていく。だから、店舗やイベントにはお金を払うような価値があるのだと、改めて考えてみるべきだと思うのだ。

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