背水の陣のジャパン ディスプレイ、生き残りの鍵は「車載」と「有機EL」

背水の陣のジャパン ディスプレイ、生き残りの鍵は「車載」と「有機EL」

2017.08.16

ジャパン ディスプレイ 代表取締役会長 兼 CEO 東入來信博氏

「ジャパン ディスプレイ(JDI)にとって、これが最後のチャンス。日本のディスプレイ会社6社が集まってできたのがこの会社。日本の底力を見せるチャンスでもある」――。

8月9日に行われたJDIの経営方針説明会。6月21日付けで同社 代表取締役会長 兼 CEOに就任した東入來信博氏が発表した大規模な構造改革は、がけっぷちにある日本のディスプレイ産業の生き残りを賭けた挑戦となりそうだ。

4期連続赤字が濃厚、「第二の創業」で構造改革

官民ファンドの産業革新機構を筆頭株主に、日立製作所と東芝、ソニーの液晶事業を統合して2012年4月に誕生したJDI。さらに生い立ちを遡ってみれば、セイコーエプソンや三洋電機、パナソニック、キヤノンといった日本企業の液晶ディスプレイ事業を統合してきた経緯がある。

2012年度と2013年度は最終黒字化していたものの、2014年に東証一部上場を果たしてから3期連続で最終赤字を計上している。2017年度も赤字は免れないとみられており、フリーキャッシュフローも赤字のまま、一度も黒字化していない。

東入來氏は「過去の大規模投資による固定費が膨張し、フリーキャッシュフローの赤字に至った。反省すべき状況にある」と分析しながら、「負のスパイラルに陥っていた」と話す。

ピーク需要にあわせて大規模な戦略投資を行ったものの、ボラタリティ(価格の変動性)が大きな分野への投資であったことから、市場環境の変化でリターンが生めなかった。そのため、フリーキャッシュフローの累積赤字が拡大し、減損処理、構造改革の繰り返しに陥っていた。

需要に合わせた経営リソースの取捨選択ができていなかった結果と言えるが、東入來氏も「目先のP/L(損益計算書)を考えると、『(構造改革を)やる』という判断ができなかったためだ。規模が拡大すれば変動費の削減で解決すると考えていたのかもしれない」と指摘する。

だが、今回は固定費の削減に初めて取り組む。目先の利益を気にせずに、「安定した収益体質を作ることが最も大事なこと。2017年度中にやり切る」(東入來氏)とし、「これがラストチャンス。利益をしっかりと確保できる会社を目指して、第二の創業に挑む」と決意を口にする。

スマホ依存体質の脱却で収益安定化

JDIの構造改革は、大きく3つの柱がある。ひとつは、スマートフォン集中体制からの脱却だ。

2016年度実績でスマホ向けの売り上げ構成比は81%。これを2019年度に70%、2021年度には55%まで引き下げる。一方で事業拡大を狙うのが「車載」と「産業機器」「新規事業」で構成するノンモバイルビジネス。これらに経営リソースをシフトし、特に車載ディスプレイを収益構造の軸として位置づける。なお、新規事業が何にあたるのか、詳細こそ明かさなかったものの、2019年度に100~200億円規模の売上を目指すという。

"スマホ依存"こそ脱却する意思を示すJDIだが、スマホ向け事業を縮小するわけではない。

「JDIは、高精細で低消費電力、狭額縁などで世界をリードするLTPS技術を持っている。また、来年から再来年にかけては18:9のFULL ACTIVE液晶パネルが立ち上がる。さらに、蒸着方式の有機ELパネルも高付加価値化を進め、2019年度より量産、収益に貢献することになる」(東入來氏)

三本柱の2つ目は、「筋肉質な企業体質」への転換。

具体的には石川県・能美工場における生産を今年12月に停止。パナソニックとソニーの有機EL事業を統合した連結子会社「JOLED」による印刷方式の有機ELの生産にライン転換する意向だ。同時に、有機ELパネルの試作ラインを石川の第4.5世代の生産設備から、茂原の第6世代の生産設備へと移行する。

また、海外製造子会社の統廃合やEMSの活用、減損会計の適用といった固定費削減を進める。10月からは社内カンパニー制の導入によって顧客カテゴリー別に体制転換し、同時に海外で3500人、日本で240人の人員削減を行う。これらの施策によって、2017年度の特損として約1700億円を計上し、年間固定費で約500億円の削減を目指す。

東入來氏は、「2016年度には8300億円だった損益分岐点売上高を、2019年度に6500億円まで引き下げ、営業利益で400億円以上、営業利益率5%、フリーキャッシュフローで300億円以上の達成を見込む」と語る。逆算すれば、2019年度の売上高は8000億円の規模になる(2016年度は8844億円)。

また、みずほ銀行と三井住友銀行、三井住友信託銀行の3行より、1070億円の融資を受けて運転資金を確保したほか、今後はグローバルパートナーとの出資を含む提携により、財務体質、経営体質を強化する。「グローバルパートナーとの提携は、実行は先になったとしても、2017年度中には目処をつけたいと考えている」(東入來氏)。

有機ELシフトも、韓国が先行

OLEDのリーディングカンパニーを目指すものの、韓国勢が数年前より先行している市場で先行きは不透明だ

三本柱の3つ目は、前述の「有機EL」だ。

東入來氏は「有機ELなくして、スマホビジネスの将来なしと判断している。有機ELに集中することに迷いはない」と断言する。構造改革によって設備投資額こそ半減させるものの、研究開発費は拡大する考えで、2016年度実績の147億円を大幅に上回る250億円を2017年度に費やし、有機ELへのシフトを進める。

一般的にあまり知られていないが、有機ELには「蒸着方式」「印刷方式」という2つの製造方法があり、JDIはどちらも研究開発を進めている。

蒸着方式はスマホ向けに開発しているもので、2019年度より量産を目指す。一方の印刷方式はJOLEDによるもので、PCやタブレットといった中型サイズで量産化を目指している。有機ELの高コントラストといった特徴を生かして医療分野などの新領域へ提案を進めており、これが2019年度に利益貢献が見込める下地となっているようだ。「JOLEDを持つことが、JDIにとっての強み。蒸着方式と印刷方式の双方をカバーしたOLEDのリーディングカンパニーを目指す」(東入來氏)。

液晶パネルはLGやサムスンなどの韓国勢、BOEや天馬といった中国勢が力を持ち、有機ELパネルではLGがテレビ、サムスンがスマホでそれぞれの市場を独占、先行している。日本のディスプレイ事業の生き残りを賭けた最後の戦いは、構造改革の迅速な遂行なくして始まらない。

残された時間がないことは、東入來氏がもっとも理解している。だからこそ、6月の就任からわずかの期間で構造改革を取りまとめ、その成果を2017年度中に出すという即効性を重視した。破壊と創造を両立させて進める構造改革の成果は、銀行や出資を受ける予定の"グローバルパートナー"にとって、必須条件とも言える。「ひとつの遅れも許されない」という危機感がJDIの赤字体質を変えるのか、注視したいところだ。

今さら聞けないビジネスIT用語集 第8回

"ポスト・アプリケーション"へ存在感増す--「HTML5」

2017.08.16

改めて述べるまでもなくHTML(HyperText Markup Language)はWebページを構成する形式言語である。1989年の考案以降、機能や表現性を高めるため、長年バージョンを重ねてきた。HTMLの策定はWeb技術の標準化団体であるW3C(World Wide Web Consortium)が管理し、現在は2014年10月に勧告したHTML5(2016年11月にはHTML 5.1を勧告)が広く使われている。

HTMLのバージョンを重ねてきた理由は多数あれど、その1つにはWebアプリケーションのリッチ化が大きい。社内業務などで利用するアプリケーションは以前ならば、Windowsなど特定のOS上で動作するのが通例だったが、昨今はWebブラウザー経由で利用するWebアプリケーション、もしくはSaaS(Software as a Service)が標準化しつつある。

1999年頃にはサーバーサイド技術としてJava Servlet(サーブレット)という概念が表舞台に立ち、2005年にはクライアント側のUIを拡張して、リッチなWebアプリケーションを実現するAjax(Asynchronous JavaScript+XML: エイジャックス)が登場した。このようにWeb技術が進化する過程の上でHTML5に至ったのである。

HTML5はデバイスアクセスや3D、パフォーマンスの向上など多くの可能性を持ち、アプリケーションが必要とする機能性も備えた。特にソフトウェアの部品同士が機能を提供するAPI(Application Programming Interface)を供えたことは大きい。HTMLやXML(Extensible Markup Language)を読み込むDOM(Document Object Model)の対応強化など、野心的かつ現在のITを支える技術を積極的に取り込んだ。

このHTML5が生まれた背景は、AppleやMozilla、Operaによって設立したWeb技術のコミュニティ「WHATWG(Web Hypertext Application Technology Working Group)」の存在が大きい。1997年にW3Cが勧告したHTML 4.0は一定の完成度を見せたが、Web技術の進化を積極的に取り込んでいなかった。そのことに不満を覚えたWHATWGがコア部分を設計し、2007年にはW3Cも協力する姿勢に方向転換。このように紆余曲折を経た上でHTML5の完成(勧告)に至ったのである。

WHATWGは今現在も「HTML Living Standard」としてHTMLの最新仕様を議論しており、今後登場するであろうHTMLの新バージョンは、HTML5同様HTML Living StandardをベースにW3Cが勧告することになるだろう。

現状を見渡すと、Web検索1つ取ってもPCではなくスマートフォンを使う利用者の方が圧倒的だ。楽天やYahoo! JAPANはHTML5をプラットホームとしたゲームサービスを開始し、"ポスト・アプリケーション"の地位を確立しつつあるHTML5の存在感は日増しに高まっている。誰しもがスマートフォンやタブレットを利用する時代を迎えた以上、特定OS上で実行するアプリケーションよりも、汎用性が高いWebアプリケーションが重要視されるのは誰の目にも明らかだ。

Yahoo! JAPANの「ゲームプラス」。HTML5とクラウドを利用している

阿久津良和(Cactus)

LGの斬新家電を蔦屋家電がマンションに売ったワケ

LGの斬新家電を蔦屋家電がマンションに売ったワケ

2017.08.16

LG製ホームクリーニング機「LG styler(スタイラー)」

プロパティエージェントは8月9日、ホームクリーニング機「LG styler(スタイラー)」の蔦屋家電限定モデルを集合住宅の標準装備機器として設置すると発表した。

LGが開発したスタイラーは、スーツなどを掛けておくだけで、シワや臭い、汚れを取り除く「世界初のライフスタイルクローゼット」(LG調べ)を謳う製品だ。2011年より米国やLGのお膝元の韓国で発売されており、今年から日本国内でも販売を開始した。

日本での販売のきっかけは蔦屋家電が海外の家電見本市でLG側に働きかけたこと。1月に東京・二子玉川にある蔦屋家電で取り扱いを開始し、「これまでに3桁に乗る、想定を超える販売数を記録している」(カルチュア・コンビニエンス・クラブ CCCデザインカンパニー 家電企画事業部 部長 武井 総司氏)という状況。こうした人気も後押しする形で、5月より他の家電量販店などでも取り扱いがスタートした。

蔦屋家電は、単なる家電製品を取り扱う量販店ではなく、スタイラーのような特徴ある製品を見出してラインナップすることで、他の家電量販店と一線を画す。そして、B2Bの商材としてもうまく機能したのがスタイラーだ。

ターゲット層の絞り込みがスタイラー導入のきっかけに

(左から)カルチュア・コンビニエンス・クラブ CCCデザインカンパニー 家電企画事業部 部長 武井 総司氏、プロパティエージェントのイメージキャラクターに就任した真矢 ミキさん、プロパティエージェント 代表取締役社長 中西 聖氏

プロパティエージェントはマンションデベロッパーだが、代表取締役社長を務める中西 聖氏によると「マンションは立地や広さなど、ある程度横並びで考えられる」環境にあるという。

今回、スタイラーを標準装備する集合住宅は銀座の東、新富町にあり、「単身者女性といった層をターゲットに据えている。一般的に、そうしたターゲットを絞ると、それにあった付加価値を提供する必要がある」と、今回のスタイラー設置に至った理由を話す。

同社の見立てはこうだ。都心近郊、いわゆる「住職近接」の環境を求める女性は、比較的新しい物を好むアッパー層であり、スタイラーのような機器に関心がある。また、そうした層はビジネスウーマンとして可処分時間を増やすために、手間暇をできるだけ無くす傾向がある。

つまり、自身の手でクリーニングすることなく、クリーニング屋へ行かずともある程度簡単に身だしなみを整えたいビジネスウーマンに対し、追加コスト要らずの最新機器を設置することで関心を引く。それが、導入の狙いだと中西氏は話す。

一方で、蔦屋家電は「蔦屋家電限定モデル」を、当初からB2B商材として検討していた。例えば、スタイラーのデザインをマンションのインテリアに馴染むようにフラットなものと要望しており、そのデザイン性はホテルや美容室といった幅広い業種にアプローチできる可能性がある。B2Bでロットを稼ぐことができれば、単価20万円台という少々お高い家電であっても無駄な在庫を抱える必要はなくなり、いわゆるハイグレード層へのアプローチも容易になる。

プロパティエージェントによれば単身世帯、二人世帯の数は、東京で今後10年、23万世帯も増加する見込みだという。"お一人様"が数年前に流行したが、このようなちょっとしたハイグレードを求める単身世帯に向けた商材が求められる時代になるかもしれない。