新幹線vs旅客機! 移動時間・快適さはどちらが上か? 出張族必見の検証記

新幹線vs旅客機! 移動時間・快適さはどちらが上か? 出張族必見の検証記

2017.08.18

“出張”を命ぜられるビジネスパーソンは多いことだろう。筆者もしばしば出張におもむくが、まれに移動手段をどうするか、悩むことがある。東京に勤めている筆者の場合、出張先が名古屋や大阪ならば、迷わず新幹線を選ぶ。

旅客機を使って名古屋や大阪に出向く方もいらっしゃるだろうが、この距離ならば多くの方が新幹線を選ぶのではないだろうか。

一方、北海道や九州、四国といった海を越える地域におもむく場合は、まず間違いなく旅客機をセレクトする。新幹線の路線から距離のある、島根県や鳥取県の都市を目指す際も旅客機が第一候補だ。

だが、新幹線か旅客機か、微妙に悩む行き先もある。たとえば青森。新幹線ならば約3時間30分の乗車時間、旅客機ならば1時間と少しの空の旅となる。移動時間だけを考えれば旅客機が圧倒的に有利だが、なぜ、どちらにするのか躊躇するのか……。

目的地の距離によっては、どちらを利用するか悩む新幹線と旅客機

旅費のちがいというのもあるが、どうせ会社持ちの経費なので二の次。問題は、羽田空港までの移動時間、そして青森空港から市内への移動時間を考えると、一概に旅客機が有利とは思えないことだ。

先輩社員の出張に便乗

そんな折、この微妙な距離の都市におもむくのに、新幹線か旅客機か、どちらが有利なのか検証できる機会を得た。会社のS先輩が、ある都市に新幹線で出張するのだという。筆者は早速、“新幹線vs旅客機”の検証企画について上司に掛け合い、渋い顔をされながらも許可を得た。筆者は旅客機担当。先輩の出張にまさに“便乗”するというワケだ。

その目的地は広島駅だ。

まず、東京~広島への距離をチェックしてみる。東京駅から広島駅までは、直線距離で約680km。新幹線の場合、約3時間50分の移動時間となる。先ほど例に挙げた青森までの直線距離は約570kmなので、それよりも少し遠く、新幹線での移動時間も約20分長い。

一方、羽田空港から広島空港までの飛行時間は約1時間20分。広島駅まで4時間近くもかかる新幹線に比べれば、圧倒的に旅客機が有利に感じる。「これは勝負あったかな?」と、検証前からほくそ笑んだ。

さて、早速S先輩に企画趣旨を説明したところ、快諾をいただき、お互いのスマホのメッセージ機能によって、「現在、どの辺にいるのか」という連絡を当日にやり取りすることになった。そして何時の新幹線に乗るのかたずねてみたところ、8時30分東京駅発の「のぞみ17号」だという。7時50分頃には自宅最寄り駅を発つという話だ。

ならば筆者も、7時50分頃に自宅最寄り駅を出発して搭乗できる航空便を選ばなくてはならない。候補は2便。9時35分羽田発の「ANA675」か、9時50分羽田発の「JAL257」だ。ただ、自宅最寄り駅から羽田空港国内線ターミナル駅までは1時間以上かかる。チェックインや保安検査の時間を考えると、ANA675では少々危険だ。ここはJAL257に搭乗することに決めた。

ちなみに、検証日の数日前に「お互い、会社から同時スタートしてみては?」とS先輩に提案したことがある。だが、S先輩は「長距離の出張前に一度会社に寄るのはマレでしょ。直行のほうがリアリティは高い」とのこと。「確かに……ちがいない」と納得し、自宅最寄り駅を同時間にスタートするという方式となった。

さて、当日は台風5号の影響に若干心配があったが、すでに北東に過ぎ去り電車に遅れもなく、羽田空港に9時過ぎに到着。保安検査を済ませ、搭乗ゲートロビーに9時20分頃、到着した。9時35分発のANA675では、超ギリギリだったわけだ。

スタートでかなり差がつく

8時30分の発車を示す掲示板

ここで、スマホを確認すると、8時30分過ぎに「発車したよ」というメッセージが残っていた。わかってはいたことだが、「ウワ、もう50分前に出発しているのか!」と冷や汗をかいた。そこで「今どこ?」とメッセージを送ってみたところ、「静岡かな? それとも浜松?」とあいまいな返信がきた。

これは、あとから聞いたことだが、S先輩は車内で文庫小説を読んでいたのだそうだ。新幹線に乗車中、現在地を知るスベはおもに以下の3つだろう。「通過する駅の表示板を読み取る」「車両にある掲示板の“○○駅を通過しました”の表示をチェック」「地図アプリを起動して現在地を調べる」だ。1番目は窓側席かつ、人間離れした動体視力がなければまず無理。2番目3番目は、常に掲示板やスマホをチェックしなくてはならず、こちらから企画への協力をお願いしているS先輩に強いるのは心苦しい。現在地があいまいな答えになっても仕方がないというものだ。

ただ、こちらは羽田空港からまだ1歩も進んでいないのに、S先輩の返信から東京~名古屋間の半分ぐらい、いや、それ以上進んでいるのかもしれないというのがわかった。

そして9時35~40分頃、搭乗が始まった。搭乗が終了しても10分ほどタキシングに移らなかったが、これは離陸後に機長のアナウンスで“システムチェックをしていたため”とわかった。この10分がどう影響するのか、S先輩の現在地を知りたかったが、すでに機内なのでスマホの電源は落としている。

広島空港に到着。ここから広島駅を目指す

そしてフライトすること約1時間20分。11時22分頃、広島空港の到着ロビーの床を踏んだ。予定では「11時10分広島空港着」とのことだったので、10分以上ロスしていることになる。そして、真っ先にS先輩の現在地が気になった。早速スマホを起動すると「10:48京都」「11:03新大阪。1分たりとも遅れない日本の新幹線スゴイ!」「11:18新神戸」と、3通のメッセージがS先輩から送られていた。

つまりだ。筆者が広島空港の到着ロビーに足を踏み入れた約5分前、S先輩は新神戸を過ぎたことになる。「さすが飛行機! 一気に大逆転!!」とは思ったが、ここからが正念場だ。というのも、広島空港は広島市街から東に直線距離で約40kmも離れている。ここからリムジンバスで広島駅に向かわなくてはならない。ちなみに、“タクシー利用はナシ”というのが、今回の取り決めだ。

ここで、痛恨のポカ。空港のトイレに寄ってリムジンバス乗り場に向かうと、11時30分発広島駅行きバスが発車したところだった。まっすぐバス停に向かっていればタイミング的に間に合ったはずだ。ただ、ついていたのは、次のバスが11時40分発だったこと。空港リムジンバスは、1本逃すと30分以上待ちというのは珍しくない。それが、10分待ちで済んだのだから、ラッキーだったといえよう。

さて、リムジンバスが出発してからしばらくして、S先輩に「今どこ?」とたずねると、「あと4分で岡山駅」とのこと。新幹線は定刻どおりなら広島駅に12時26分に到着する。一方、11時40分発広島駅行きリムジンバスは、時刻表によれば12時25分に到着予定となっている。これは、かなりきわどい。新幹線のダイヤが乱れることは滅多にないので、おそらく定刻どおりだろう。一方、バスは「渋滞」というマイナス要素がつきまとう。「渋滞しているかどうかがカギだな」とビクつきながら、窓の外を眺めると、山陽自動車道はすこぶる快調に流れていた。

分単位のデットヒートに! 勝負の行方は?

ただ、高速を降り、広島市内に入ると様相が変わった。渋滞とまではいかないが、何度か信号待ちにつかまる。焦りをおぼえ始めたころ、S先輩から「あと5分で到着」とのメッセージが届いた。土地勘がないので、バスが広島駅にどのくらい近づいているのかわからないというジレンマも生じる。スマホの地図アプリで確認すると、広島駅のわりと近くまで来ているみたいだ。

だが、無情にもS先輩から「着いたよ~」のメッセージが……12時27分だったので、ほぼ定刻に着いたのだろう。そして、その5分後「広島駅新幹線口に到着しました」という、バス運転手のアナウンスが流れてきた。わずか5分……旅客機のフライトが遅れなければ、広島空港でトイレに寄らなければ、わずかの時間だが新幹線に勝てた計算になる。そしてS先輩は本来の目的である業務に向かった。一方、筆者は1泊し、広島市内や宮島見学を満喫してきた。

左から原爆ドーム、広島城、宮島の大鳥居

東京に戻り、S先輩と今回の検証について意見を交換した。まず“安定感”について。これについては圧倒的に新幹線に分がある。S先輩によると、ほぼ定刻どおりに駅に停車し、予定どおりに広島駅に到着したそうだ。一方、旅客機は、今回のようにフライトが遅れることがままある。市街に向かうバスが渋滞に巻き込まれることも考えられ、予定時間に正確に着けるかどうか読めないところがある。

続いて“乗車・乗機時間”。これはもう、飛行機の圧勝だろう。広島駅まで4時間近く乗車する新幹線に比べ、約1時間20分で済む。羽田行き京浜急行やリムジンバスの乗車時間もあるが、目的地近くの空港に短時間でアクセスできるのは心理的にラクだ。

喫煙者にやさしい「のぞみ号」

そのほかはどうだろう。まず“食事”について。両名とも朝食を抜いてきたため、移動中に食事を済ませた。S先輩は車内でサンドイッチ、筆者はチェックイン後にロビーでパンを食べた。豊富な駅弁が入手できることを考えれば、新幹線に軍配が上がりそうだ。

そして“喫煙”について。両名とも喫煙者なので、これははずせないポイントである。東海道新幹線は喫煙者にやさしく、東京駅ホームに喫煙所、のぞみ号には車内に喫煙ルームがある。一方、羽田空港は搭乗ゲートロビーに広めの喫煙室があり、ここでタバコを吸える。もちろん機内は禁煙だが、乗機時間が短いので十分にガマン可能。目的地の空港にも喫煙所が用意されている。もっとも地方の場合、喫煙所はターミナルの外ということも多いが……。車内に喫煙ルームがない東北新幹線などと比べた場合、旅客機のほうが喫煙者へのストレスは少ないか。

左はS先輩が食したカツサンド。右は喫煙ルーム。車窓を眺めながら一服

2人の意見が大いに合致したのは「楽しかった」ということ。まさか、異なる公共交通でここまでの“デッドヒート”になるとは思わなかった。今回の検証でやりとりされたメッセージのラストは「楽しかった!」「盛り上がりましたね」というものだった。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。