女性客が4割! 幅広いユーザーを獲得したバンダイナムコ「VR ZONE」の強み

女性客が4割! 幅広いユーザーを獲得したバンダイナムコ「VR ZONE」の強み

2017.08.23

新宿・歌舞伎町といえば訪日外国人も多く訪れる繁華街。飲みの街として有名だが、新宿ミラノ座の跡地にエンターテインメント施設「VR ZONE SHINJUKU」が7月にオープンした。名称の通り、「VR(仮想現実)」のゲームが楽しめる施設で、ほかにもカフェやクライミング設備も用意されている。

VRに関心を寄せるユーザー層は20代の男性だけ……と思いきや、女性比率がおよそ4割近くまで達しており、40代、50代まで幅広く利用者が増えているという。同施設の運営に携わるバンダイナムコ エンターテインメント AM事業部 VR部 ゼネラルマネージャーの柳下 邦久氏と、同事業部 AMプロデュース1部 プロデュース4課 マネージャーの田宮 幸春氏に話を聞いた。

バンダイナムコ エンターテインメント AM事業部 VR部 ゼネラルマネージャー 柳下 邦久氏と、同事業部 AMプロデュース1部 プロデュース4課 マネージャー 田宮 幸春氏

"ゲーセン"のレベルを超える体験を

「ゲーム体験」はかつて、ゲームセンターにあったアーケードゲーム機がすべてだった。それが家庭用ゲーム機の普及、娯楽の多様化など時代の移り変わりによって、ゲームセンターの存在意義も変わりつつある。

バンダイナムコ エンターテインメントでVR企画「VR ZONE Project i Can」を牽引する"タミヤ室長"こと田宮氏は、「今までは大掛かりな仕掛けで、大きな筐体(アーケード機)を使って『外遊びのエンタメ』を提供していたが、家では遊べない遊びを生み出していくためには"リアリティ"の価値提供を変えていく必要がありました」と話す。

リアリティの密度の高さに加え、もうひとつ必要なのが「友達と一緒に遊べる楽しさ」。その双方を高いレベルで達成できる仕掛けがVRだと田宮氏は話す。

VR ZONE SHINJUKU

「VRは、リアリティの追求とみんなで楽しむ"娯楽"という2つの目標を高いパフォーマンスで達成できるありがたい存在として捉えています。より本物の体験を、映像だけで実現できる。ある意味で、ゲーム、遊びのレベルを超える『本気でゲームの世界にのめり込む』ことが可能なものなんです」(田宮氏)

もちろん、PlayStation VRをはじめ、家庭にもVRが入り込む下地はできつつある。ただしゲームの操作はタッチパネルやコントローラーでどこか味気ない。ゲームセンターに類するVR ZONEならではの体験を、スキーロデオであればスキー板とストック、マリオカートであればハンドルとアクセルといった具合で、提供している。これがリアリティの達成に大きく寄与するわけだ。

「コントローラーよりも、実際のモノを操作する方が、臨場感や没入感の差分になり、アーケードならではの価値を大きく飛躍させられます。昨年、お台場でパイロットを始めた時にお客さんの反応を見ていて、その差を実感できたことが最大の成果だったと考えています」(柳下氏)

バンダイナムコ エンターテインメントはゲームセンターが事業の一つの軸。しかし「ゲームセンターという名前に縛られている部分がある」と田宮氏は現状の課題を語る。

「ゲームセンターと聞いて皆さんが思うのは、ボーリングなどと一緒に遊べる場所で、ワンコインで好きなゲームを簡単に遊べるというもの。人間のカテゴライズの認識力ってとてつもないもので、"ワンコイン体験"しかゲームセンターに求めなくなってしまうんですよね」(田宮氏)

ゲームセンターをワンコインの呪縛から解く。そのために、田宮氏と柳下氏が始めたのが「ゲームセンターの逆張り」だった。色んな効果音が鳴る、ガヤガヤしたゲームセンターではなく静かな場所を。気軽にふらっと立ち寄る場所ではなく予約制。ワンコインではなく1000円かかるゲーム。その代わり、ゲーム機が置かれているだけの無機質な空間ではなく、スタッフが誘導からHMDの装着まで、サポートするホスピタリティを重視した環境づくり。それがVR ZONEで目指したものだという。

「実はVR ZONEって、ゲームという単語を使っていません。スタッフに『ゲーム』『プレイ』といった使ってはいけない単語を指定して、"ゲーセン"と見えないように作り込んだんです。そのお陰で、オープン時に『新しいテーマパーク』というメディアの表現を目にすることが出来たと思っています」(田宮氏)

スキーロデオでは、乗る際にスタッフがさまざまなサポートを行う。機器が置いてあるだけのゲームセンターとは異なる体験価値を提供する

お台場で感じたキャラクターの"強さ"

VR ZONE SHINJUKUの前身、お台場で2016年4月~10月に開催していた「VR ZONE Project i Can in お台場ダイバーシティ」。ここで得たものは、VRコンテンツの方向性だった。

「お台場の様子を見て、新宿では『IP』、いわゆるキャラクターコラボのコンテンツを増やしました。そしてVRというHMDを着ける環境から、一人用コンテンツがメインだったんですが、多人数で楽しめるものを増やしました。キャラクターについては、最初はゼロでスタートしたんですが、会社に『VRはパワーがある』と言うために、敢えて外したんです(笑)。でも実際、いわゆる"ガジェッター"だけでなく、カップルやグループでいらっしゃるお客さんを多く目にして可能性が広がったなと手応えを感じました」(田宮氏)

その後、ガンダムやボトムズといったキャラクターコンテンツを投入。すると、20代前半の利用者が突出していた年齢分布の山が、30代、40代も来場するようになり「山が平滑化しました。誰もが関心を寄せる、IPの強みを改めて実感しましたね」(田宮氏)。お台場も新宿も"お一人様"に向いている場所とはいえない。だからこそ、カップルやグループといったみんなが理解あるキャラクター、そしてみんなで楽しめるコンテンツを提供することで、さらにVRへの理解を深めてもらえるようにした。

幅広い年代層の取り込みに貢献したボトムズとガンダム

「『さあ、取り乱せ。』というキャッチフレーズがあるんですが、お台場などの経験から研ぎ澄ましたラインナップになっているという自負があります(笑)。例えば、車のドライブや電車の運転なんかはVRと親和性が高いように思えます。しかし、それでは一人で楽しめるだけでみんなで楽しめず、お台場での稼働率があまり良くなかった。VRじゃなくてはダメ、みんなでワイワイできる遊びを提供しなければと感じました」(田宮氏)

「VRは直感的に操作できることが一番大切なポイントです。一般的なアーケードゲームは、習熟度が求められるコアなファンに受け入れられるコンテンツ作りが一つの鍵でした。ですが、VR ZONEでは友だちと遊ぶ体験にフォーカス、それが根底にあります。マリオカートなんかは、想像以上に皆さんが絶叫していますし(笑)、エヴァでは3人1チームの構成なのに、カップルで来られて1つシートが空いてしまうこともありますが(笑)、そういった体験を皆さんがSNSで拡散してくれているのはとても嬉しいですね」(柳下氏)

ドラゴンボールやマリオカートなど、国民的人気を誇るコンテンツは、集客力に大きな影響を与える

田宮氏と柳下氏に、実際にVRを商業化したことで見えた魅力と課題について尋ねた。意外なことに、これまで3Dゲームを作ってきたゲーム開発者が落とし穴にハマっているという。

「これまでゲームや映画を作ってきた開発者、監督が『お作法が通じない』と嘆くんです」(田宮氏)

理由は「主観」と「客観」の違い。従来からのエンターテインメントでは、ストーリーテリングがあくまで第三者のものが多く、大昔の口伝から本、映像、そしてゲームと、客観的な位置から主人公に感情移入させることで人々を楽しませてきた。しかしVRでは、その視点が主観になる。もちろん、映画などで1人称のストーリーテリングを時々見かけるが、あくまで視点は(ほとんどが)客観。ストーリーの大半を主観で過ごす必要があるVRでは、コンテンツ作りの方向性がまるで違うというのが田宮氏らの見解だ。

例えば、ホラーゲームではこれまで、モンスターなどに襲われると体力ゲージが減り、死んでしまうという演出があった。しかし、VRでは主観で「襲われた」という"怖さ"はあるものの、襲われて痛みを感じるわけではなく、死ぬわけでもない。「状況を理解していても、身体が素直に反応して"嘘なんだ"と思うと途端につまらなくなる」(田宮氏)。そこで、凶器が目の前を通過するが当たらない、驚かされるけど身体的に影響がないといったストーリーに変更することで、この課題を乗り越えようとしたそうだ。「ほかにも、映像作りでフレーミングが使えない(場面を切り替えられない)などの制約があります。まだまだ試行錯誤ですね」(同)。

「この客観から主観へのシフトは、もちろんエンターテインメント以外、例えば教育や観光、そして軍事など、習熟度の向上や異次元の体験といったポイントで大きな効果を発揮します。石油コンビナートで万が一の災害が発生した時、マニュアルに沿って対処できるか、それはVRであらかじめサポートできることがあるはずです。まだ何か具体的に動いているわけではありませんが、そうしたコンテンツ作りに私たちの強みを活かせる部分はあるのではと考えています」(柳下氏)

シンボルは"実験の場"

「数ある想定シナリオの中でも割と順調に推移している」(柳下氏)というVR ZONE SHINJUKUだが、まだまだVR自体の認知度は低いという認識があると柳下氏。わかっていない人に「VR ZONEとは」と語っても仕方ない。だからこそ、まずは体験してもらう、「何か楽しそう」という印象を抱いてもらいたいという。

「女性を中心によくInstagramに写真を載せていただくのですが、VRは写真栄えしない(苦笑)。飲食店や砂浜といったわかりやすい写真スポットを用意しておいて良かったです(笑)」(柳下氏)

飲食店や、巨大風船爆発ルームなど、"写真栄え"するVR以外の施設も用意した

新宿の店舗はおよそ2年間の運用を目処に、ミラノ座跡地からの退去が予定されている。ただ、「VR ZONE Portal」という名称で9月に神戸、そしてロンドンと、小規模店を展開する。

「新宿は期間限定ですが、ここのようなシンボリックな施設は今後も必要だと感じています。シンボルがあるからこそ、特別な体験ができる場所という認知が広がり、浸透していく。こうした場で新しいチャレンジを続けて、Portalへと広げていく。それは、"ゲーセン"という従来の枠組みを超えた新しいジャンルの場を探して広げていく実験の場として、大切にしたい価値なんです」(柳下氏)

一社独占の食洗機市場、殴り込みをかけたAQUAの思惑

モノのデザイン 第50回

一社独占の食洗機市場、殴り込みをかけたAQUAの思惑

2019.01.16

一社独占状態だった日本の食洗機市場にハイアールが参戦

AQUAブランドの食洗機を日本向けに徹底カスタマイズ

中国生まれの日本向け製品に込められた狙いとは

AQUA(アクア)から10月に発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の食洗機市場(卓上タイプ)は、かつて複数のメーカーが参入していたものの相次いで撤退。最近までは国内メーカー1社による単独市場だったところに、中国のハイアールグループの1社である同社が参入し、初めてリリースした製品だ。

AQUAから発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の卓上タイプの食洗機にはなかった、独自の仕様とデザインも注目を集めている

幅485×高さ475×奥行390mmとコンパクトなサイズ感ながら、日本電気工業会自主基準に基づく食器の標準収容量は24点で、2人~3人世帯に適している。日本市場における卓上タイプの食洗機には、これよりもやや小型で少ない容量か、大型・大容量の選択肢はあるが、このサイズ・容量はこれまで存在していなかった。まさに、既存ラインアップの隙間を埋めるような商品となっている。

小人数世帯のキッチンでも設置しやすいサイズと容量を実現していることに加えて、見た目もかなり個性的だ。そこで今回は、アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏に、同製品の意匠としてのデザインのこだわりや、デザインにつながる機構・設計上の工夫や苦労話を伺った。

アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏

日本ユーザーに“安心感”を与えるための製品仕様

本製品の外観上のデザインの特徴として、前面の扉部分にガラストップが採用された、ラウンド状のフォルムが挙げられる。これまで卓上型の食洗機で一般的だった四角い箱型ではなく、横から見ると正面の扉がDの字のように湾曲しており、一枚板のガラス扉越しに内部の様子も確認できる。

こうしたデザインと形状が採用されたキーワードは“安心感”だという。

「食器洗い機が日本で普及があまり進んでいない理由のひとつとして、本当に汚れが落ちるのかという不安があります。そこで、洗浄中の中の様子が見えることで、安心感と納得感を得てもらえるのではないかと考え、中が見えることにこだわりました」

ラウンド形状と1枚板のガラストップが採用されたデザイン。洗浄中の様子を確認できることにより、ユーザーに安心感と信頼性を与える効果も狙った

本製品、実は既に中国で販売されている商品を日本向けにカスタマイズしたもので、外観は殆どそのまま。中国では複数のカラーバリエーションが展開されているが、日本向けにはホワイト1色に絞った。また、機種についても、中国では複数のラインアップが展開されている。そんな中、日本市場向けの第1弾製品にこの機種が選ばれた理由について、松本氏は次のように話した。

「日本市場では、これまで卓上型の食器洗い機というと四角い箱のようなイメージでした。今回市場に参入するにあたっては、似たイメージの製品よりも、まったく違った外観のもののほうがお客様の目に留まりやすいだろうと、差別化の意味でこの製品を選びました。カラーに関しては、“清潔感”のイメージが大切だと思い、白を選択しました」

「ADW-GM1」の元になった中国の製品。日本のR&D部門が、中のカゴや洗う行程のシステム設定といった国内向けカスタマイズを担当した。中国向けの製品は、ホワイトの他に写真のゴールドやブラック、ピンクといったカラバリも展開されている

AQUAでは、2018年11月に縦型洗濯機も発売している。そちらもフタが透明で中が見えることを意識したデザインだが、「当初はシリーズとして同時に発表するということも考えていました」と松本氏。

「洗濯中の様子が見えるというのが、AQUAの洗濯カテゴリの製品コンセプトにあります。共通したデザイン意匠を持たせることで、AQUA製品で揃えた場合、家庭内のインテリアに統一性が持てるようにしています。弊社では、商品自体が主張するのではなく、生活の中に溶け込むデザインを意識しています」と、その意図を明かす。

11月に発売された縦型洗濯機「AQW-GTW100G」。AQUAに共通した"中が見える"というデザイン意匠を持つ製品だ。シリーズのように揃えることで、家庭内の家電のインテリア性に統一感を持たせることも可能にした

他社製品との差別化という面では、内側をステンレス仕様にしているのも特筆すべき点だ。水流を噴射する部分であるノズルなど一部を除いて、内側のほとんどがステンレスだ。中国市場向けの製品と同じ仕様だが、「中が見えるからこそ、清潔感が大切になります。その点、傷が付きにくく、汚れにくいステンレスは最適です。ステンレスを採用したのは、中が見える安心感、清潔感という一貫した製品コンセプトに連動した理由からです」と説明する。

日本市場の隙間を狙うために試行錯誤

日本向けにカスタマイズが行われた部分の中でも、中国向け製品との違いが最も際立つのは、食器をセットする“かご”の形状だ。前述のとおり、本製品の標準収容量は24点。松本氏によると、コンパクトサイズであっても18点以上を目標値として掲げていたという。そこには、市場になかったラインナップを投入したいという狙いがあった。茶碗や深鉢といった和食器ならではの形状の器も収まる設計であり、かつ効率よくレイアウトするにはどうしたらいいか、試行錯誤を繰り返した。

「箸用のカゴの前後に配置されているカゴは、当初同じ高さにありました。ところが、モニターテストの結果、食器の出し入れがしづらいということでしたので、後ろのカゴの高さを少し上げてあります」と松本氏。さらに、中国用はワイングラス用のフックになっている上方の空間にも、カトラリーなどをセットできる日本独自仕様の棚状のカゴを設置。デッドスペースを解消し、収容量の増加につなげた。

現在の日本の市場にはないラインナップの穴を埋めるべく、コンパクトな本体サイズながら、食器の標準収容量24点を実現。日本の食器の独特な形状に合わせて、デッドスペースを減らし、効率的なレイアウトが何度も試行錯誤された
水を噴射するノズルを上・中・下段に計4つ備え、セットした食器に効果的に水が当たるようにノズルの向きも工夫されている
よく見ると、各エリアでカゴの段差を設けるなどして、効率の良い食器の配置と洗浄性を高めるための配慮がされている

流れ落ちた野菜くずなどを溜めておくための“残さいフィルター”と呼ばれる底面の部品には、ボックス式が採用されている。ボックス式は、残さいが外からは見えず、食器にニオイが移りにくいという長所がある。中国の仕様と同じだが、日本向けにはボックスを開け閉めする際の目印となるように絵文字を施したとのこと。同様に、カゴの一部にもマークを付け、セットする食器の種類が視覚的にわかるようバージョンアップした。

ボックス式の残さいフィルターは、開閉の際にわかりやすいように目印のイラストが設けられている。日本独自の仕様だ
同様に、カゴの部分にも何をセットするエリアなのかがわかりやすいよう、マークが付けられている

中華料理にも負けない洗浄力で勝負

日本市場に向けた容量アップにも成功した本製品だが、食器の詰め込み過ぎは、洗浄力に影響を与えることもある。率直にこの疑念をぶつけてみたところ、松本氏は自信を持って次のように答えた。

「中華料理は油を多く使うので、中国では日本以上に高い洗浄力が求められます。そのため、本製品には下段に2つ、中段、上段にも1つずつ水を噴射する高圧ノズルを設けており、強力かつ隅々にまで水を行き渡らせることができます。日本向けにカスタマイズしつつも、中国企業であるハイアールの持つリソースもしっかり活かした食洗機に仕上げています。日本でも発売前に20人ほどの方にモニターとして試用してもらいましたが、洗浄力に関しては大いに評価していただきました」

操作・表示部にも密かに日本向けにカスタマイズされた部分がある。稼働中、中国用は残り時間が表示されるのに対し、日本用は全行程のうち現在どの段階にあるのかが棒状の印でグラフィカルに示されるように変更されている。「日本人のほうが、きめ細かなことを知りたいという要望が強い」ため、現状をひと目で把握できる表示方法にした、というのが理由だ。

シンプルながらわかりやすい表示・操作部。運転中、中国向けの製品では残り時間が数字で表示されるのに対して、日本向けでは進行過程を棒状の印でグラフィカルに指し示す仕様に変更されている

その他、中国向け機種では背面に"軟水器"と呼ばれる硬水を軟水に変える部品、庫内には軟水にするための薬剤の投入口が設けられているという。もともと水道水が軟水である日本にこの機構は不要なため、取り外した結果、コストと庫内スペース両面の削減につながった。

また、給水バルブやモーター周りのモジュールなども、日本向けには耐久性と耐熱性が強化された部品が採用されている。「世界でも有数の安全基準を持つ日本で"Sマーク"を取得するためには必須の事項。日本側からの要求があまりに高く厳しいので、現地の技術者が怒り出したほどです(笑)。とはいえ、クリアしなければ日本では販売できないと説明したところ、納得してしっかり対応してくれました」と松本氏。

ところで本製品の外形寸法は、日本の標準的なシステムキッチンの作業台にピッタリと収まる。しかし、サイズは中国仕様と1ミリも変えずに済んだという。

「もともと脚が絞られた設計なので、フットプリント自体は日本の一般的なキッチンの作業スペースにも収まりました。反面、高さや扉の重さといった点に関しては、やや弱点であると承知しています。ですがラウンド形状は中を見やすくするためのもので、ガラス扉の重厚感も上質さのためには外せない要素です。社内ではデザインをマイナーチェンジする案もありましたが、独自性があったほうがいいだろうと、オリジナルのデザイン性が損なわれないように中身だけをカスタマイズしました」

「日本仕様はカウンターキッチンやアイランドキッチンに置かれる場合も想定して、背面側の処理も極力美しく仕上げてあります。高さは出てしまいますが、ガラス扉を採用しているので圧迫感を抑えたデザインにはなっていると思います」

日本では、カウンター式やアイランド型のキッチンスタイルも多いため、背面や側面もデザイン性を損ねないように極力美しく仕上げたとのこと

AQUA初の日本向け卓上型食洗機として投入された本製品。既にいくつものメーカーが撤退してきた食洗機市場にあえて参入する第1弾製品だからこそ、「デザイン面でも選ばれるものになる必要がある」と語った松本氏。しかし、既に完成されたプロダクトの寸法や外観を変えることなくそれを実行するのは、一から作り上げる以上に制約があり、難しい部分も多い。

また、国内向けにカスタマイズされているとはいえ、元は中国市場向けに作られた製品を、日本の消費者がどのように受け入れるかという点でも注目に値する。ふたつの意味でチャレンジングなこの製品は、今後の食洗器市場の行方を占う意味でも、試金石になるかもしれない気になる製品だ。

かつて憧れたクルマは今? 安東弘樹、トヨタの新型「スープラ」に乗る!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第12回

かつて憧れたクルマは今? 安東弘樹、トヨタの新型「スープラ」に乗る!

2019.01.16

安東弘樹さんがトヨタ「スープラ」試作車に試乗!

本当は単独で作りたかった? 安東さんが開発者に聞く

乗った感想は「嬉しいような寂しいような」

「やっぱり、憧れのクルマでしたね」。日本で「セリカXX(ダブルエックス)」と名乗っていたトヨタ自動車の初代「スープラ」について尋ねると、安東弘樹さんはこう語った。かつて憧れたクルマは今年、5世代目の新型モデルとして復活を果たす。新型「スープラ」のプロトタイプに試乗し、開発責任者と話した安東さんは何を思ったのか。試乗会に同行したので、その模様を報告する。

※文と写真はNewsInsight編集部の藤田が担当しました

2018年12月6日、安東さんはトヨタが袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催した新型「スープラ」プロトタイプの試乗会に参加した

40年前の小学生を熱狂させた初代「スープラ」

トヨタのスープラは、1978年に「セリカ」の上級車種として誕生した。日本では「セリカXX(ダブルエックス)」、北米では「スープラ」と名乗っていたが、3世代目からは車名をスープラに統一する。今回の新型で5世代目となるスープラの歴史について、弊紙ではモータージャーナリストの森口将之さんに解説して頂いた。

新型「スープラ」

トヨタはBMWとの共同開発で新型スープラを作った。プラットフォームはBMWの「Z4」および「3シリーズ」との共用で、エンジンもBMW製だ。新型スープラでは過去のモデルに共通していた直列6気筒エンジン(直6)とフロントエンジン・リアドライブ(FR)方式を継承。トヨタの開発陣は、「スポーツカーとして究極のハンドリング性能を達成するため、『ホイールベース』(前輪と後輪の間の幅)、『トレッド』(左右タイヤの間の幅)、『重心高』の3つの要素を重要視して開発初期のパッケージ検討を進めた」と説明する。

セリカXX(初代スープラ)の誕生当時、安東さんは11歳だった。思い出を聞いてみると、「見かけると、みんな『わー、ダブルエックスだ!』みたいな感じになってました。考えてみると、当時の小学生はほとんどが知ってたわけですから、すごいですよね。うちの長男(小学生)なんて、学年でクルマ好きの友達が1人しかいないって言ってますよ。あと、ダブルエックスはワーニングが音声だったので、『しゃべるクルマ』って呼んだりもしてました」とのこと。大学生の頃は「バブリーな友達」が3代目スープラを所有していたという。

3代目「スープラ」

では、これまでにスープラを買おうと思ったことはあったのだろうか。

「それは、なかったですね。どちらかというと、私は『ザ・スポーツカー』みたいなクルマより、『アルピナ』(カブリオというオープンカーに乗り継いだとのこと)に乗っていたこともあるくらいなんで、“アンダーステートメント”というと格好よすぎるんですけど、控えめというか、そういうものを選ぶ傾向にあります」

開発責任者の多田さんに聞く作り手の思い

試乗前、安東さんは新型スープラの開発責任者を務める多田哲哉さんとのグループインタビューに臨んだ。その際のやり取りは以下の通りだ。

安東さん(以下、安):取材でイギリスに行ったとき、「ハチマルスープラ」(型式がA80だったので4代目スープラをこう呼ぶ場合がある)が走っていて、それをみんなが見てたんですよ。すごく誇らしい気持ちになりました。「ワイルドスピード」という映画でも、スープラがフィーチャーされてましたよね。私は51歳なんですけど、この年代の人たちって、初代から見てきていますし、スープラにすごく思い入れがあります。それで、あえて失礼な言い方をするんですけど、「このクルマをトヨタだけで作りたかった」というお気持ちはなかったんですか? 

多田さん(以下、多):もちろんありました。「スポーツカーを他社と共同で作ることに、どんな意味があるのか」とか、「看板商品なのに、自社のエンジンが載っていないのはおかしい」みたいな話もたくさん頂いているんですけど、ただ、時代は大きく変わっているんです。

特に、最近のトヨタを見てもらえば分かると思うんですけど、業種を超えて、いろんなところとコラボレーションして、ものを作っているじゃないですか。それは他の会社も同じで、旬の会社は皆、それぞれの分野の最も面白い技術を持っているところと組んで、お客さんの期待を超えるようなプロダクトを作っています。そうじゃないと、この時代、もう残っていけないと思うんです。

新型「スープラ」開発責任者の多田さん

:正直、私たちの立場からすると、協業なんかやめて欲しい。内部で作った方が、はるかに簡単ですから。意思疎通もできますし。正直、「86」を作った後は、2度と協業はいやだと思ったくらいなんですが()、今回は、86の時とは比べものにならないくらい大変でした。会社としてのやり方も両社で違います。そういうことが何となく分かってきて、意味不明なこともたくさん起こりまして。

※編集部注:トヨタとスバルが協業して作ったのがスポーツカーの「86」と「BRZ」だ

:お察しします!

:ただ、最近はものすごく仲良くなりました。私たちも、BMWのやり方から学んだことがすごくたくさんあります。「あ、だからこうなってるのか!」「だからあの時、あんなことを言ってたのか!」みたいな感じです。それが協業の意味だと思います。

:スープラにMT(マニュアルトランスミッション)を導入する可能性は?

:もちろん! 先週もミュンヘンに行って、MTのテストをしてきたところです。今回はAT(オートマチックトランスミッション)で乗ってもらってますけど、MTがいやだとか、作らないとか言っているわけではないんです。

ただ、新世代のスポーツAT()というのは、手前味噌ですが、かなり出来がいいんです。MTとか、いわゆる「ツインクラッチ」みたいなものと比べても、正直、負けているところはほとんどありませんし、逆にアドバンテージがたくさんある。

※編集部注:ハンドルにシフトパドルが付いていて、手元でシフトチェンジしながら走れるATのこと

:ミッションメーカーとも話をしていますけど、もう、ツインクラッチとかMTの開発に、彼らはあまり力を入れてないんですね。「ネガ」がありすぎるので、やっている意味がなんです。来年、再来年になると、その差はさらに開くと思います。

:ATの方がタイムも早いとは思うんですけど、私は「シフトチェンジ」という行為そのものが好きで……

新型「スープラ」へのMT導入に希望をにじませた“シフトフィールフェチ”の安東さん

:もちろん分かりますよ! ガチャガチャやる感じがいいんですよね。

:もしスープラが欲しいと思ったとしても、MTがない時点で、選択肢からドロップしてしまうんですよね。そこはもったいないなーと思うんですけど。

:シフト操作が楽しいということは、シフトフィールをすごく求めるんですか? いかに気持ちよく、スパスパいけるかという。

:いやもう、本当、それだけというか。

:それがまず、トルクの大きいエンジンのミッションには、ものすごくハードルが高いんですよね。皆さんが期待しているようなシフトフィールを実現するには、ものすごく開発要素があるんですよ。それをそもそも、ミッションメーカーにやる気がない。

もちろん、お金をかければ、例えば「ポルシェ」のハイエンドにはMTが設定されていますけど、ああいう風に、中身をどんどんカーボン化して軽くするとか、そういう道もあるとは思うんですけど、そんな高価なミッションを設定して、スープラのユーザーは本当に買うのかなと思うんです。

もっと言えば、今後はスープラと86の両方を作っていくので、両方ともお求めいただきたいんですけど、86というのは、まさにそういう人のためにあるクルマです。86ではいろいろな操作を楽しんで、クルマと触れ合ってもらいたいんです。でも正直、スープラのトルクとスピードを考えると、よっぽど運転の上手な方ならいいんですけど、普通のお客さんが、こんなこと(例えば細かいシフト操作など)を楽しむ暇は、たぶん、ないと思うんです。

今回のATに乗っていただいて、それでもMTが欲しいということであれば、アップデートもありますし、お届けできればいいかなと。まずATに乗ってみていただいて、本当にご要望があれば、という感じですね。

:パワーユニットは直列6気筒の1本だけに絞るんですか?

:「スープラは直6」というのは揺るぎないんですけど、販売上の事情もあるので、もうちょっとお求めやすいクルマといいますか、ワイドバリエーションで構えたいと思ってます。

BMWとの共同開発について多田さんは、「部品として変えられるところは、ほとんど別で作っています。それを共通化して一緒に作ったとして、そんなことで値段が下がっても、ぜんぜん嬉しくないというのが両社の考えです。使えるものは使いましたが、お互いに作りたいものをちゃんと企画して、デザインもしたので、内外装の部品も、数えてみると90数%は別々で作っています」と説明していた

いよいよ試乗、安東さんの反応は…

この後、いよいよ試乗に向かった安東さん。雨の袖ヶ浦フォレストレースウェイで新型スープラに乗った感想を聞くと、「しっとり感というか、重厚感がすごいですね。ウェット路面でもクルマとの一体感を感じられて、楽しかったです」と話し始めた。

「ただ、嬉しいのか寂しいのか分からない、っていうのが正直なところですね。これって共同開発じゃないですか。このクルマをBMWの『Z4』より(おそらく)安く、トヨタのチャンネルで買えるのは嬉しいんですけど、ただ、スープラはトヨタのアイコンになるクルマだと思うので、乗った時に「あ、BMWだ!」と感じてしまうクルマになっているとしたら、どうなんだろう? という気持ちです。これが純粋なトヨタ製だったら、『お、すげー!』ってなるんですけど」

共同開発である点は気になるものの、トヨタがスープラを16年ぶりに復活させる決断を下し、実際に商品化したこと自体については好感を抱いたという安東さんは、新型スープラのオーナー像にも思いを馳せる。

「価格はいくらなんだろう……。いくら安くなるといったって、たぶん、500万円は切らないだろうし。そうすると、若い人が乗るというのは難しいですよね。昔、スープラに憧れたけど買えなかった、セリカXX世代の人かなぁ。ある意味、Z4と競合すると思うんですけど、(Z4はオープンカー、スープラはクーペなので)屋根が開くか開かないかで差は際立つと思います。そこをお客さんがどう判断するかですね。スープラのデザインが好きな人は、絶対いると思いますけど」

新型「スープラ」を試乗する安東さん

「今日はフルブレーキングしないくらいの速度域でしか走ってないですけど、いいクルマでしたし、楽しいクルマでした。雨の袖ヶ浦も勉強になりました! ただ、やっぱりユーザー像がはっきり見えないのは気になりますね」。そんな言葉を残し、安東さんは帰路についたのだった。