楽天モバイル、安さをウリにしない新料金プランの意図

楽天モバイル、安さをウリにしない新料金プランの意図

2017.08.25

楽天は同社のMVNO事業「楽天モバイル」で、新料金プラン「スーパーホーダイ」を発表した。大手キャリアやそのサブブランドが低価格でMVNOの市場を侵食しつつある中、どのような意図で設定されたプランなのだろうか。

最低速度が従来の約5倍に

今回発表された「スーパーホーダイ」は、音声SIMと国内通話が5分までであればかけ放題になるオプションがセットになった料金プランだ。従来のプランと違うところは、データ通信容量を使い切っても最低通信速度が1Mbps(ベストエフォート式)と比較的高速な点。楽天モバイルの場合、従来のプランでは最低通信速度は200kbpsに設定されていたので、約5倍の高速化となる(ただし昼と夕方の混雑時は300kbpsに制限される)。

1Mbpsは、LTEの理論値が数百Mbpsに達し、実行速度でも調子がよければ数十Mbps台も珍しくない昨今において、決して早いと言える速度ではないが、地図アプリでスクロールさせても描画遅れは気にならないレベルであり、音楽ストリーミングサービスや動画配信などでも、ある程度実用的な速度で利用できる。容量を使い切っても、ある程度割り切って使える速度で、残り容量を気にすることなく使えるわけだ。

実際に1Mbpsに落とした状態で試してみたが、ウェブサイトなどは反応が遅くてストレスを感じることもあったが、地図アプリなどはナビ用途で使っていても差し支えないレベルだった。なお、アップロード方向はかなり遅い

料金はデータ通信容量が2GBの「S」で2980円、6GBの「M」が3980円、14GBの「L」が5980円。楽天会員であれば一年目に限り月額1000円の割引が受けられる。楽天会員は基本的に誰にでもなれるため、実質一年目はS=1980円/M=2980円/L=4980円ということになる。

初年度1980円という業界のトレンドは踏襲してきた。楽天のダイヤモンド会員はさらに500円の割引が得られるため、初年度は1480円~となる。楽天スーパーポイントのヘビーユーザーであるほど安くなるというわけだ

2GBで1980円というのは、auのピタットプラン、あるいはワイモバイルやUQモバイルといったキャリアのサブブランドと同額であり、かなり意識した設定であることが伺える。ただしキャリア&サブブランド組がデータ容量1GB、あるいは2年間は2GBだが3年目以降は1GBに落ちることを考えると、2GBのまま3年目以降も継続するスーパーホーダイのほうがお得ということになる。また、キャリアと違ってプランの自動更新がない。このため3年目以降は自由なタイミングで解約しても問題ないことになる。この点もキャリアより優位なポイントだと言えるだろう。

なお、スーパーホーダイ自体に端末の割賦販売や割引制度はないが、スーパーホーダイ契約時に最低利用期間を二年または三年で設定すると、二年の場合は1万円、三年の場合は2万円、楽天モバイルで端末を購入時に割引が受けられる「長期優待ボーナス」が設定された。端末は持っているのでSIMだけ購入するという場合は、楽天スーパーポイントで同等額が付加される。ただしこの場合、途中解約時に解約金が発生することになる。

楽天はもともと端末の割引販売をよく行ってきたが、今後は長期優待ボーナスに移行する見込み。高級機が安く買えるようになるのは嬉しいという声も多いだろう

目指すは「わかりやすさ」を主眼にした第三極

楽天モバイルは今回の発表により、データ容量や音声通話の有無などを自分で組み合わせる基本コースに加え、端末とセットになった「コミコミプラン」と、新規の「スーパーホーダイ」という3つの商品ラインが揃うことになった(ただし「コミコミプラン」は「スーパーホーダイ」と入れ替わるかたちで8/31に新規受付を終了する)。

それぞれのプランで容量が微妙に異なったりするため、単純に横並びで比較するのは難しいのだが、たとえば基本コースの3.1GBプランに5分かけ放題を付けると月額2450円になり、2980円の「スーパーホーダイS」は500円以上高い。金額的には「コミコミプランS」も同程度だが、本体価格を支払い終わった3年目以降で比較すると、やはりスーパーホーダイのほうが700円近く高いのだ。キャリアを含めて安さを売りにするプランが多いなか、あえて高いサービスを打ち出してきたというのは興味深い。

最近はMVNOの認知度が高まり、以前のようなITリテラシーの高いユーザーだけでなく、一般ユーザーの間にも「格安スマホ」としてMVNOが普及しつつある。こうしたITリテラシーの低いユーザーにとっては、あとどれだけ使えるかという計算や、なぜ遅くなるのか、という理由はどうでもよく、ある程度安ければ、実用上問題ない速度で自由に使えることのほうが大事だろう。

その点、「スーパーホーダイ」は、データ容量の残量を気にしない、いわゆる「ギガを使い切る」ストレスを気にしないで済む安心感、わかりやすさが大きな武器になる。スーパーホーダイの値上がりぶんは前述した「わかりやすさ」と最低速度の向上ぶんによる付加価値として受け入れられるという計算なのだろう。今後は「スーパーホーダイ」を中心に販売を推進するとのことなので、2年後以降は、ARPUの向上にも役立つことになる。

楽天の平井康文副社長執行役員によれば、楽天モバイルはすでに十分安価なプランを提供しており、これ以上の料金競争をするつもりはないという。また、発表会では「格安スマホ」という言葉を一度も使っておらず、キャリアとも、他のMVNOが提供する格安スマホとも異なる第三極、新しい立ち位置を模索しているのだという。「スーパーホーダイ」が提案する「わかりやすさ」と「安心感」こそが、楽天モバイルが目指す第三極としての立ち位置ということになるのだろう。

「スーパーホーダイ」がスタートする9月は、例年であれば日本で圧倒的なシェアを誇るiPhoneの新製品が発表される時期であり、同時にキャリアの縛りが解除されるユーザーも多く誕生する。MVNO各社にとってはまさに多くのユーザーをゲットするチャンスでもある。「わかりやすさと安心感」を武器にした「スーパーホーダイ」がどれだけのユーザーを獲得できるのか、第三極としての楽天モバイルの立ち位置が狙いどおりに確立されるのか、興味深く見守りたい。

大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

カレー沢薫の時流漂流 第43回

大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

2019.05.20

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第43回は、大津の痛ましい事故で炎上した「マスコミ」問題について

滋賀県・大津市で散歩中の園児の列に軽乗用車が突っ込み、園児二名死亡、多くの負傷者を出す、という事故が起った。

池袋のプリウス事故の衝撃が冷めやらぬまま、また痛ましい事故が起ってしまった。池袋の事故では「高齢者の自動車運転問題」「上級国民疑惑」が大きく注目されたが、今回の事故では全く別のものが炎上した。

マスコミ問題である。

マスコミが保育園を追求したのは視聴者のため?

事件が起こった当日夕方、被害者の園児が通っていた「レイモンド淡海保育園」が記者会見を行ったのだが、そこで質問をした記者の血が青とか紫とかほとんど寒色系じゃないかと、大きく批判された。

記者会見が、どのような内容だったかというと「危険な場所という認識はあったのか?」「保育士が道路側にいたのか?」という、何としてでも保育園側に批があったようにしたくてたまらない質問、「園児たちの様子は普段と変わらなかったのか?」という意図のわからない質問、 「散歩したのは園に庭がないからか?」という「園に庭さえあればこんなことには…」という「ニ兆円さえあれば」に匹敵する、壮大なたられば論などが挙げられ、質問を受けた園長は号泣、それを記者がバッシャバッシャ撮影するという地獄絵図だったそうだ。

記者会見を見た多くの人が「何を食ったらそんな質問ができるんだ」と思っただろうが、この記者会見は、たまたまその場にプラスチックを食って育った選りすぐりのサイコパッシャーが大集結してしまったという、悪い意味でのアベンジャーズだったワケではないと思う。

記者が何故あのような質問をしたかというと、決して趣味ではなく、おそらく「視聴者の見たい画」「聞きたい言葉」を引き出そうとした結果なのではないか。もちろん「あんなもの見たくなかった」という人が大半だと思う。

しかし、池袋プリウス事故で加害者が即逮捕されないことが大きく批判されたことからも、現在の我々視聴者に「悪が一刻も早く、俺たちの目に見える形で処されるところが見たい」という「ニーズ」が少なからずあることが分かっているのだ。

つまり「お客様に一秒でも早く悪が吊るされる様をお届けします!」というニーズに応えようとする企業努力が、「悪くもない保育園をとりあえず悪にして即斬る」という、完全に間違った「悪・即・斬」になってしまったのではないだろうか。

「マスゴミ」問題は視聴者の問題?

しかし、「被害者側への無配慮な取材はいらん」というのも、今回の件だけではなく、視聴者側が何度も言い続けている「ニーズ」である。

何故それが無視されてこのような会見が行われるかというと、被害者の声まではいらなくても、やはり我々が平素「センセーショナル」な物を求めてしまっているからではないだろうか。よって記者たちは「とにかく刺激的なものを撮ってこい」と言われ続け、感覚がマヒし、本来配慮が必要なはずの取材にすら「センセーショナルさ第一」で臨んでしまい、まるで不倫記者会見のようなノリの質問が飛ぶことになってしまったのではないだろうか。

やはり報道というのは「視聴者が何を見たがっているか」が反映されるものだ、需要がなければ供給はなくなる。このような記者会見が行われなくするためには、何度でも我々が「こういうのはいらんのや、見んし、お前らの雑誌買わんわ」と言い続けるしかないだろう。

ところで、「質問をした記者を特定して処してやろう」という動きも当然のように起こったらしい。やはり我々の「悪を処したい」「処されるのを見たい」という気持ちは根深い物があるのだ。

ちなみに、今回の事故では当初、車を運転していた52歳と62歳の2人が逮捕された。「また高齢者か」という声も上がったが、この年齢で高齢者と呼べるかは微妙なところだ。結局「車を運転する以上誰でも事故を起こす可能性がある」ということである。

車を運転しない人は「歩道を歩いていて車が突っ込んでくるなんてどうしようもない」という被害者観点から絶望したと思うが、車を運転する人は加害者観点でも恐怖したと思う。

もちろん安全運転に越したことはないが、人間には「限界」と「不測の事態」があることでおなじみである。持病もないのに運転中に突然何らかの発作が起こる可能性だってあるのだ。「どうしようもないこと」で被害者になることもあるが、加害者になることもあるのである。

つまり、車がないと生活できない土地で、私が週一ぐらいしか外出せず、引きこもり続けているのは、近隣住民の命を守る草の根活動でもあるのだ。しかし、それは無職だからできる事業なので、多くの人が、少なからずリスクを負って車を運転しなければいけない。

そのリスクを減らすには、運転者が気をつけることはもちろんだが、何せ限界がある。つまり、人間がこれ以上、進化することなく、むしろ高齢化で退化する一方だとしたら、無機物の方を整備していくしかない。

事故が起りにくい道路作り、そして車だ。

現に、車の事故防止機能はどんどん進化しており、自動運転化の開発も進んでいるという。自動運転が本当に安全なのか不安もあるが、少なくとも老が運転するよりは確実に安全になるだろう。

しかし、今のところそういった事故防止機能がついた車を買うか否かは、任意である。そして、そのような機能がついた車は高くなる。よって私の車は金銭的問題で、タイヤとハンドルがついているぐらいであり、運転手がミスったら、そのミス通り事故を起こしてくれる、素直な仕様である。

現在でも事故防止機能のある車を購入した場合、補助がもらえることもあるようだが、導入が任意な以上、つけない人はつけないだろう。これからの車には、タイヤ、ハンドル、事故防止機能を、もう屋根ぐらい忘れても良いから義務付けるべきではないだろうか。

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2019.05.20

トヨタが5世代目となる新型「スープラ」を発売

直列6気筒のFRで伝統を踏襲、最上級グレードに予約集中

BMWとの共同開発について気になる点を友山副社長に聞く

トヨタ自動車は新型「スープラ」(GR Supra)を発売した。先代スープラの生産終了から17年ぶりの復活だ。価格は3リッターの直列6気筒(直6)ターボエンジンを搭載する「RZ」が690万円、2リッターの直列4気筒ターボエンジンを積む「SZ-R」が590万円、同「SZ」が490万円。直6+FR(フロントエンジン・リアドライブ)という歴代モデルの伝統を踏襲した5世代目は、トヨタとBMWの共同開発で誕生した。

新型「スープラ」。ボディサイズは「RZ」で全長4,380mm、全幅1,865mm、全高1,290mm。こだわったのは「短いホイールベース(前輪と後輪の間の幅、2,470mm)」「幅広いトレッド(左右のタイヤの幅、RZでフロント1,595mm、リヤ1,590mm)」「低い重心高」の3つの基本要素だという

儲からなければ儲かるまで“カイゼン”

新型スープラはBMW「Z4」のプラットフォームとエンジンを使っている。企画とデザインはトヨタが、設計はBMWが担当した。

トヨタでは月間220台の販売台数を想定していたが、2019年3月に予約注文の受付を開始すると、新型スープラには予想を超える数のオーダーが殺到した。事前受注は約1,400台に達したという。予約注文のうち、約7割が最上級グレードのRZに集中したことも予想外だったようで、トヨタは一時的に、同グレードの予約受付をストップしていた。

増産やグレード変更などの生産調整により、現在、RZの受注は再開している。とはいえ、今からRZを注文しても、納車は2020年1月ごろになるそうだ。

「マットストームグレーメタリック」をまとった新型「スープラ」(画像)は限定車。2019年度分の24台については、6月14日までWeb限定で商談の申し込みを受け付ける。商談順は抽選となるそうだ

「モビリティカンパニー」になると宣言したトヨタが、スポーツカーのスープラを復活させる理由については、最近、テレビやラジオのコマーシャルでもしばしば耳にする「馬がクルマに置き換わっても、競走馬は残った」という言葉の通りだ。つまり、電動化や自動化でクルマの在り方が変わっていっても、単なる移動手段ではなく、所有したり乗ったりすることで、喜びを感じられる存在として残るクルマもあるので、そういった製品を作り続けたいというのがトヨタの思いである。

新型「スープラ」はトヨタとBMWが2013年に包括提携を結んでから初の商品となる。生産はマグナ・シュタイヤーに外部委託し、オーストリアのグラーツ工場で行う

とはいえ、スポーツカーは年間何万台も売れるクルマではないし、採算が取れないおそれもある。その点については、新型スープラ発表会に登壇したトヨタの友山茂樹副社長も「スポーツカーは儲からない、売れないという冷ややかな見方があることは事実」と認めるところだ。しかし同氏は、「儲からなければ儲かるようになるまで、売れなければ買ってもらえるようになるまで、歯を食いしばってでもカイゼンを続ける」ことがトヨタ本来の姿であるとし、「クルマは五感で感じるものだというDNAを次の世代に継承しなければならない」との考えを示した。

新型「スープラ」は歴代モデルと違って2シーターだ

「BMW製では?」の声に友山副社長の回答は

気になるのは、スープラがBMWとの共同開発であり、エンジンとプラットフォームというクルマの中心部分がBMW製であるという点だ。「トヨタの思いは分かるけど、結局、BMWのクルマなのでは……」という見方があるのは、おそらく間違いないだろう。

こちらがBMW「Z4」。大きな違いはスープラがクーペでZ4がオープンカーであるところだ。「Z4」の価格を見ると、3L直6エンジンを積む「M40i」が835万円、2L直4エンジンを積むエントリーモデル「sDrive20i」が566万円となっている

そのあたりについて、友山副社長が語ったところをまとめると、まず、「スポーツカーは数(販売台数)が限られる割に、開発には莫大なコストがかかるので、単独で作るのは難しい」とのこと。今回のスープラは企画とデザインがトヨタ、設計がBMWと説明しているが、クルマの開発は「そんなに簡単なものではないし、(明確に役割を)区切れるものでも」なく、企画の段階で、トヨタとしてどんなクルマを作りたいか、どんな味を出したいかといった点については徹底的に詰めたという。それに、これは多少、冗談めかした発言ではあったものの、「BMWが作ったクルマだから」という理由でスープラを購入する顧客もいるそうだ。

トヨタの友山副社長。自身は先代「スープラ」を改造して乗っていて、トヨタの役員駐車場で警備員に止められたこともあるという

スープラを「BMW製」だと見る人たちに対して友山副社長は、「どこ製ということではなく、これは『スープラ』なんです。両社のいいところを組み合わせた最高の合作、それがスープラです。乗ると分かりますが、Z4とは全然違います」とのメッセージを伝えたいそうだ。

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