不正アクセスのその後、ソフトバンク・テクノロジー 辻氏が語った体験談

不正アクセスのその後、ソフトバンク・テクノロジー 辻氏が語った体験談

2017.08.29

ソフトバンク・テクノロジー プリンシパル セキュリティ リサーチャー 辻 伸弘氏(写真は2016年撮影)

ソフトバンク・テクノロジー(SBT)が7月24日に公表した「不正アクセスによる情報流出の可能性に関するお知らせとお詫び(第一報)」。ソフトバンクグループのICT中核会社であり、セキュリティソリューションを基幹事業の一つに据える企業のセキュリティインシデントであるだけに、注目を集めた。

今回、同社のプリンシパル セキュリティ リサーチャーとして著名な辻 伸弘氏に、事の経緯と自社で起こったインシデントにおける新たな発見、改めて伝えたいことについて話を聞いた。

SBTに何が起こったのか

簡単に事件をおさらいする。ことの発端は7月17日、同社のセキュリティ監視チームがマルウェアの実行と通信のブロックを検知したところから始まった。マルウェアは「仮想通貨採掘プログラム」、いわゆる"マイニング"を行うものだ。結果的に、標的型攻撃やばら撒き型攻撃に類するマルウェアではなく、攻撃者が取引先情報にアクセスした痕跡は第三者機関の調査で確認されなかった。

辻氏によると、今回のケースで問題となったポイントは4つある。

  • アカウント管理の不備(アカウントの整理、不要なアカウントの削除など)

  • 不適切な設定のパスワード(推定されやすいパスワードの利用)

  • 検証サーバーが外部公開されていた(アクセス制御の不備)

  • 検証サーバーにおいて多数の実データファイルを管理していた

これらの要素が複合的に絡み合ったことで「お客さまの情報を危険に晒してしまった。大変申し訳ありませんでした」(SBT 広報部)。ただし辻氏が「周囲から『個人情報の漏えいが(第三者機関からも)認められなかった事故で、公開するほどの事象なのか?』」と言われたように、マルウェアプログラムの性質上、そして実際のフォレンジック調査の結果からも、会社として公表する根拠に欠ける。

「過去の事件・事故の事例からすれば、このレベルは『調査の結果として漏れていなければ公表しなくていい』と言えるかもしれません。ですが、会社として、携わった多くの人間が公表するという意思を共有していましたし、社長の阿多も『すべてを明らかにする』という意思を持っていました」(辻氏)

その情報公開の範囲は、

  • 不正アクセスの概要

  • 漏えいの可能性のある担当者情報の内容、件数

  • 対処の時系列

  • 今後の対応

  • マルウェアのファイル名、ハッシュ値、通信先URL

と広範、細部に渡る。

「マイニングソフトですから、業種・業態を問わず幅広い企業に影響をおよぼす可能性がある。ハッシュ値で使用されたファイルの特定が可能ですし、そういったものを管理するソフトが入っていない企業であっても、通信先のサーバーアドレスがわかればUTMやプロキシサーバーでブロックできる。通信先の情報はマイニングプールと明確にわかるもので、通常の業務では"ありえない"もの。事前のフィルタリングや、ログからの痕跡を見つけ、早期に対処するための有効な手法だと思います」(辻氏)

これまでの活動が糧に

辻氏をご存じない方に説明すると、セキュリティ リサーチャーとして前職時代からさまざまなインシデントに携わり、1人CSIRTといった各種セキュリティイベントの独自調査活動も行ってきた。またマイナビニュースでも情報セキュリティ事故対応アワードの実行委員長を務めており、インシデント分析・評価だけではなく「どのようにインシデントを情報公開すべきか」といった観点でも活動してきた。

「アワードで『この対応が良かった』『こっちの方が多角的に分析できている』といった評価を、ほかの審査員と繰り返しこなしてきたことが、今回の対応に活かせたと感じています。単純に事件・事故をまとめていただけでなく、それらの例から見出すべき教訓は何か、それを元に今回の情報公開へと活かしました。これは、今までに情報を公開してくださった数多くの組織の方々のおかげです」(辻氏)

誤解を招く前に断るが、あくまで今回のインタビューは「SBTがインシデントを起こした」という事実を元にした内容だ。

しかし、辻氏の言葉や筆者の感想を含め、非常にポジティブな言葉が並ぶ。それは、「情報が漏えいしてしまった可能性がゼロではない」という事実は変えられず、「何が起きたのか」という事態の把握と、「起きてしまったことを元に、どう対処すべきか」という対策の検討が、SBTにとって重要だという考えがあるからだ。

インタビューで、「(情報公開した理由は)第一にお客さまのため」と辻氏は語ったが、責任を負うべきはあくまで顧客に対するもの。顧客に対する責任を果たして、その上で「次に同じ事態に陥らぬように何をすべきか」を建設的に議論する。そのための土壌作りとして、こうした情報公開の事例を増やすことの契機になるのではないかと感じた取材だった。

現場が萎縮しないようにする"一言"

話をインタビューに戻そう。

7月17日の14時前にマルウェアを検知してから、20日に不正アクセスを受けた形跡を確認するまでの間、19日に辻氏は対応メンバーとして現場に入った。「マルウェアメールが届いたといったことは日常茶飯事。当初は呼ばれることはありませんでしたが、いよいよ雲行きが怪しくなってきた19日から参加しました」(辻氏)。

辻氏の役割は現場のオブザーバー。代表取締役社長 CEO 阿多 親市をトップとする経営層と、当事者である現場のサーバー担当部門、対外広報部門、顧客に対する説明を行う営業部門、そして調査を依頼した第三者機関といったそれぞれの立場を俯瞰する形で、時にはそれぞれの話を咀嚼する潤滑油的な役割を果たしていたという。

「始めにも話しましたが、『なるべく多くの情報を公開しよう』というのが最初のディスカッション。その場で一つ象徴的なことがあったんです。顧客の現場に立ち会う時にもよく話すんですが、『今回の事件が起きた根本的な原因を作ってしまった人と、その上司は誰ですか?』と尋ねました。それはもちろん、"吊し上げ"のためではなく『大丈夫ですよ』という声かけ。インシデントは組織の問題であり、個人の問題ではなく、その方々が今回の当事者となったのもたまたまと言えます。」(辻氏)

実は第一報公開前、流出した可能性のあるデータはリリースよりもいくばくか少なかったという。この声かけがどう作用したのかわからないが、担当者がほかのデータもサーバー内に保存されていたことを報告し、リリース公開後に悪い情報が次々と出てくる事態は避けられた。

「人間の心情として、隠したがるのは普通のこと。役員会議に上司とともに出席するとなれば大変なことですから。でも大切なのは『これからどうするか』。前に向かって進むためには"吊し上げ"ではなく、一体となって原因を究明することが重要だと考えています」(辻氏)

経営陣が果たすべき役割

現場は一体となった。では経営陣はどうか? 辻氏は今回の対応が外部から評価される結果となった理由の一つに「社長(阿多氏)のリーダーシップ」を挙げる。

「今回の事態を把握した時、阿多は海外出張の予定が入っていたんです。トップ不在という環境は避けたかったので『出張をやめてもらう』ということがすんなり決まったんですが、実は海外企業とのサインを必要とする出張でした。主要事業の強化という命題があるにも関わらず、その意思決定が非常に早かった。当事者意識を持ち、最善を尽くすことだけにフォーカスしていたなと思います」(辻氏)

SBTに限らず、詳細なインシデント対応の事例共有は近年徐々に増えつつある。もちろん、現場チームが細部の把握と情報を上に伝えることは大切だが「トップの立ち居振る舞いが現場のチームを円滑に回す非常に大きな要因だと思う」(辻氏)。経営陣の中には、特に非IT企業においてはセキュリティに明るいとはいえない人物も居るだろう。だが、「不得意な部分は現場の意見に耳を傾けつつ、上の人間の発言を必要とする場面でしっかりとした意思決定をしてくれる人物、経営陣が大切だと思う」(辻氏)

現場の一体感と経営陣の統率力。その双方が揃っていれば万事解決と言いたいところだが、辻氏は唯一の課題として、この両者の間にあるささやかな"溝"を挙げた。

「インシデント対応のタイムスケジュールが早いか遅いか、当事者になってみるとわからないのが正直なところ。外部から『早いね』と評価いただきましたが、強いて言えば各部門と経営層のコミュニケーションがもっと円滑にできていればという場面はありました」(辻氏)

今回のようなインシデントでは、一部門ですべての対応を完結できるわけではない。顧客に対する責任、外部への公開、そして経営へのインパクト、第三者評価。それぞれ担当部門がある以上、普段は相対することのない人たちとのコミュニケーションが必要となる。

「どう動けば良いのかわからず、何かやろうとしてもそれを他部門に対して口出ししても良いのかわからない。管理者は誰なのか、経営陣を始めとする人間が意思疎通の差配をもう少しできていれば、アグレッシブにもっと動けていたかもしれないですね」(辻氏)

しかしこれもまた、誰が悪いという話ではなく、組織として経験不足であったことに起因するかもしれないと辻氏。

「標的型攻撃の模擬テストや、普段からインシデントレスポンスに対する考え方を会議などでお互いに認識する必要があります。組織に浸透させるということは難しくて、『緊急なのか』『重要なのか』といったプライオリティ、それらをあうんの呼吸で伝えることは、やはり普段からのコミュニケーションが大切だと思います。ただ、こういう会社だからかもしれませんが、インシデントが起こって『対処すべき事柄がどんどん増えていくことが嫌だ』という空気を出す人がいなかったことは、幸いでした」(辻氏)

「僕がいたから、ではない」情報公開の流れ

SBTに辻氏がいるという事実は変わらない。しかし、「ほかの企業に辻さんはいませんよね?」という質問を投げかけた。

「『情報を出す』という意思決定をしたのは社長の阿多です。確かに僕が言わなかったら出なかった細かい情報はあるかもしれません。ですが、個人の誰かに依存するのではなく、組織として適切に情報を公開できるか。それが大切なんです」(辻氏)

今回の情報公開は、「自分たちが起こしてしまったことは、こういう公開の仕方がある」というケースにならなければならないと思ったと辻氏は振り返る。この事例が"テンプレート"としてさまざまな企業に活用されることはあるかもしれないが「この形でなければならないという押し付けになってほしくない」(辻氏)

辻氏が繰り返し説明したことは、経営陣と現場が一体となった対応だ。それに関連した印象的なエピソードが一つある。

経営陣を含めた最初の会議後、辻氏は阿多氏と喫煙室で一緒になったそうだ。普段はフランクに話しかけてくる阿多氏が、土日出勤して対応しようとしていた辻氏に対して「よろしくお願いします」と一礼したそうだ。現場と経営陣が一方通行にならず、共に解決へと歩みを進める。そういった機運をトップが自ら作る姿勢は学ぶところがあるだろう。

SBTの例で言えばCEOの阿多氏だが、一般企業においてはCIO(CISO)などがトップとして対処するケースが多いはずだ。一体感はもちろんのこと、迅速な意思決定と、拙速な対応にならないために現場の情報をしっかり吸い上げる体制の構築、そして何より「事後の対処」にフォーカスしていくことが大切であるはずだ。

この短文で言うは易く行うは難しといったところだろうが、100点満点ではないにせよ、それに近いことをSBTは行った。同社は8月中に最終報として、再発防止策の完了をアナウンスする予定だ。情報漏えいに対して感情的になるのも当然だが、冷静な分析・対処が次の漏えい抑止に繋がることも、忘れてはいけない。

一社独占の食洗機市場、殴り込みをかけたAQUAの思惑

モノのデザイン 第50回

一社独占の食洗機市場、殴り込みをかけたAQUAの思惑

2019.01.16

一社独占状態だった日本の食洗機市場にハイアールが参戦

AQUAブランドの食洗機を日本向けに徹底カスタマイズ

中国生まれの日本向け製品に込められた狙いとは

AQUA(アクア)から10月に発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の食洗機市場(卓上タイプ)は、かつて複数のメーカーが参入していたものの相次いで撤退。最近までは国内メーカー1社による単独市場だったところに、中国のハイアールグループの1社である同社が参入し、初めてリリースした製品だ。

AQUAから発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の卓上タイプの食洗機にはなかった、独自の仕様とデザインも注目を集めている

幅485×高さ475×奥行390mmとコンパクトなサイズ感ながら、日本電気工業会自主基準に基づく食器の標準収容量は24点で、2人~3人世帯に適している。日本市場における卓上タイプの食洗機には、これよりもやや小型で少ない容量か、大型・大容量の選択肢はあるが、このサイズ・容量はこれまで存在していなかった。まさに、既存ラインアップの隙間を埋めるような商品となっている。

小人数世帯のキッチンでも設置しやすいサイズと容量を実現していることに加えて、見た目もかなり個性的だ。そこで今回は、アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏に、同製品の意匠としてのデザインのこだわりや、デザインにつながる機構・設計上の工夫や苦労話を伺った。

アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏

日本ユーザーに“安心感”を与えるための製品仕様

本製品の外観上のデザインの特徴として、前面の扉部分にガラストップが採用された、ラウンド状のフォルムが挙げられる。これまで卓上型の食洗機で一般的だった四角い箱型ではなく、横から見ると正面の扉がDの字のように湾曲しており、一枚板のガラス扉越しに内部の様子も確認できる。

こうしたデザインと形状が採用されたキーワードは“安心感”だという。

「食器洗い機が日本で普及があまり進んでいない理由のひとつとして、本当に汚れが落ちるのかという不安があります。そこで、洗浄中の中の様子が見えることで、安心感と納得感を得てもらえるのではないかと考え、中が見えることにこだわりました」

ラウンド形状と1枚板のガラストップが採用されたデザイン。洗浄中の様子を確認できることにより、ユーザーに安心感と信頼性を与える効果も狙った

本製品、実は既に中国で販売されている商品を日本向けにカスタマイズしたもので、外観は殆どそのまま。中国では複数のカラーバリエーションが展開されているが、日本向けにはホワイト1色に絞った。また、機種についても、中国では複数のラインアップが展開されている。そんな中、日本市場向けの第1弾製品にこの機種が選ばれた理由について、松本氏は次のように話した。

「日本市場では、これまで卓上型の食器洗い機というと四角い箱のようなイメージでした。今回市場に参入するにあたっては、似たイメージの製品よりも、まったく違った外観のもののほうがお客様の目に留まりやすいだろうと、差別化の意味でこの製品を選びました。カラーに関しては、“清潔感”のイメージが大切だと思い、白を選択しました」

「ADW-GM1」の元になった中国の製品。日本のR&D部門が、中のカゴや洗う行程のシステム設定といった国内向けカスタマイズを担当した。中国向けの製品は、ホワイトの他に写真のゴールドやブラック、ピンクといったカラバリも展開されている

AQUAでは、2018年11月に縦型洗濯機も発売している。そちらもフタが透明で中が見えることを意識したデザインだが、「当初はシリーズとして同時に発表するということも考えていました」と松本氏。

「洗濯中の様子が見えるというのが、AQUAの洗濯カテゴリの製品コンセプトにあります。共通したデザイン意匠を持たせることで、AQUA製品で揃えた場合、家庭内のインテリアに統一性が持てるようにしています。弊社では、商品自体が主張するのではなく、生活の中に溶け込むデザインを意識しています」と、その意図を明かす。

11月に発売された縦型洗濯機「AQW-GTW100G」。AQUAに共通した"中が見える"というデザイン意匠を持つ製品だ。シリーズのように揃えることで、家庭内の家電のインテリア性に統一感を持たせることも可能にした

他社製品との差別化という面では、内側をステンレス仕様にしているのも特筆すべき点だ。水流を噴射する部分であるノズルなど一部を除いて、内側のほとんどがステンレスだ。中国市場向けの製品と同じ仕様だが、「中が見えるからこそ、清潔感が大切になります。その点、傷が付きにくく、汚れにくいステンレスは最適です。ステンレスを採用したのは、中が見える安心感、清潔感という一貫した製品コンセプトに連動した理由からです」と説明する。

日本市場の隙間を狙うために試行錯誤

日本向けにカスタマイズが行われた部分の中でも、中国向け製品との違いが最も際立つのは、食器をセットする“かご”の形状だ。前述のとおり、本製品の標準収容量は24点。松本氏によると、コンパクトサイズであっても18点以上を目標値として掲げていたという。そこには、市場になかったラインナップを投入したいという狙いがあった。茶碗や深鉢といった和食器ならではの形状の器も収まる設計であり、かつ効率よくレイアウトするにはどうしたらいいか、試行錯誤を繰り返した。

「箸用のカゴの前後に配置されているカゴは、当初同じ高さにありました。ところが、モニターテストの結果、食器の出し入れがしづらいということでしたので、後ろのカゴの高さを少し上げてあります」と松本氏。さらに、中国用はワイングラス用のフックになっている上方の空間にも、カトラリーなどをセットできる日本独自仕様の棚状のカゴを設置。デッドスペースを解消し、収容量の増加につなげた。

現在の日本の市場にはないラインナップの穴を埋めるべく、コンパクトな本体サイズながら、食器の標準収容量24点を実現。日本の食器の独特な形状に合わせて、デッドスペースを減らし、効率的なレイアウトが何度も試行錯誤された
水を噴射するノズルを上・中・下段に計4つ備え、セットした食器に効果的に水が当たるようにノズルの向きも工夫されている
よく見ると、各エリアでカゴの段差を設けるなどして、効率の良い食器の配置と洗浄性を高めるための配慮がされている

流れ落ちた野菜くずなどを溜めておくための“残さいフィルター”と呼ばれる底面の部品には、ボックス式が採用されている。ボックス式は、残さいが外からは見えず、食器にニオイが移りにくいという長所がある。中国の仕様と同じだが、日本向けにはボックスを開け閉めする際の目印となるように絵文字を施したとのこと。同様に、カゴの一部にもマークを付け、セットする食器の種類が視覚的にわかるようバージョンアップした。

ボックス式の残さいフィルターは、開閉の際にわかりやすいように目印のイラストが設けられている。日本独自の仕様だ
同様に、カゴの部分にも何をセットするエリアなのかがわかりやすいよう、マークが付けられている

中華料理にも負けない洗浄力で勝負

日本市場に向けた容量アップにも成功した本製品だが、食器の詰め込み過ぎは、洗浄力に影響を与えることもある。率直にこの疑念をぶつけてみたところ、松本氏は自信を持って次のように答えた。

「中華料理は油を多く使うので、中国では日本以上に高い洗浄力が求められます。そのため、本製品には下段に2つ、中段、上段にも1つずつ水を噴射する高圧ノズルを設けており、強力かつ隅々にまで水を行き渡らせることができます。日本向けにカスタマイズしつつも、中国企業であるハイアールの持つリソースもしっかり活かした食洗機に仕上げています。日本でも発売前に20人ほどの方にモニターとして試用してもらいましたが、洗浄力に関しては大いに評価していただきました」

操作・表示部にも密かに日本向けにカスタマイズされた部分がある。稼働中、中国用は残り時間が表示されるのに対し、日本用は全行程のうち現在どの段階にあるのかが棒状の印でグラフィカルに示されるように変更されている。「日本人のほうが、きめ細かなことを知りたいという要望が強い」ため、現状をひと目で把握できる表示方法にした、というのが理由だ。

シンプルながらわかりやすい表示・操作部。運転中、中国向けの製品では残り時間が数字で表示されるのに対して、日本向けでは進行過程を棒状の印でグラフィカルに指し示す仕様に変更されている

その他、中国向け機種では背面に"軟水器"と呼ばれる硬水を軟水に変える部品、庫内には軟水にするための薬剤の投入口が設けられているという。もともと水道水が軟水である日本にこの機構は不要なため、取り外した結果、コストと庫内スペース両面の削減につながった。

また、給水バルブやモーター周りのモジュールなども、日本向けには耐久性と耐熱性が強化された部品が採用されている。「世界でも有数の安全基準を持つ日本で"Sマーク"を取得するためには必須の事項。日本側からの要求があまりに高く厳しいので、現地の技術者が怒り出したほどです(笑)。とはいえ、クリアしなければ日本では販売できないと説明したところ、納得してしっかり対応してくれました」と松本氏。

ところで本製品の外形寸法は、日本の標準的なシステムキッチンの作業台にピッタリと収まる。しかし、サイズは中国仕様と1ミリも変えずに済んだという。

「もともと脚が絞られた設計なので、フットプリント自体は日本の一般的なキッチンの作業スペースにも収まりました。反面、高さや扉の重さといった点に関しては、やや弱点であると承知しています。ですがラウンド形状は中を見やすくするためのもので、ガラス扉の重厚感も上質さのためには外せない要素です。社内ではデザインをマイナーチェンジする案もありましたが、独自性があったほうがいいだろうと、オリジナルのデザイン性が損なわれないように中身だけをカスタマイズしました」

「日本仕様はカウンターキッチンやアイランドキッチンに置かれる場合も想定して、背面側の処理も極力美しく仕上げてあります。高さは出てしまいますが、ガラス扉を採用しているので圧迫感を抑えたデザインにはなっていると思います」

日本では、カウンター式やアイランド型のキッチンスタイルも多いため、背面や側面もデザイン性を損ねないように極力美しく仕上げたとのこと

AQUA初の日本向け卓上型食洗機として投入された本製品。既にいくつものメーカーが撤退してきた食洗機市場にあえて参入する第1弾製品だからこそ、「デザイン面でも選ばれるものになる必要がある」と語った松本氏。しかし、既に完成されたプロダクトの寸法や外観を変えることなくそれを実行するのは、一から作り上げる以上に制約があり、難しい部分も多い。

また、国内向けにカスタマイズされているとはいえ、元は中国市場向けに作られた製品を、日本の消費者がどのように受け入れるかという点でも注目に値する。ふたつの意味でチャレンジングなこの製品は、今後の食洗器市場の行方を占う意味でも、試金石になるかもしれない気になる製品だ。

かつて憧れたクルマは今? 安東弘樹、トヨタの新型「スープラ」に乗る!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第12回

かつて憧れたクルマは今? 安東弘樹、トヨタの新型「スープラ」に乗る!

2019.01.16

安東弘樹さんがトヨタ「スープラ」試作車に試乗!

本当は単独で作りたかった? 安東さんが開発者に聞く

乗った感想は「嬉しいような寂しいような」

「やっぱり、憧れのクルマでしたね」。日本で「セリカXX(ダブルエックス)」と名乗っていたトヨタ自動車の初代「スープラ」について尋ねると、安東弘樹さんはこう語った。かつて憧れたクルマは今年、5世代目の新型モデルとして復活を果たす。新型「スープラ」のプロトタイプに試乗し、開発責任者と話した安東さんは何を思ったのか。試乗会に同行したので、その模様を報告する。

※文と写真はNewsInsight編集部の藤田が担当しました

2018年12月6日、安東さんはトヨタが袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催した新型「スープラ」プロトタイプの試乗会に参加した

40年前の小学生を熱狂させた初代「スープラ」

トヨタのスープラは、1978年に「セリカ」の上級車種として誕生した。日本では「セリカXX(ダブルエックス)」、北米では「スープラ」と名乗っていたが、3世代目からは車名をスープラに統一する。今回の新型で5世代目となるスープラの歴史について、弊紙ではモータージャーナリストの森口将之さんに解説して頂いた。

新型「スープラ」

トヨタはBMWとの共同開発で新型スープラを作った。プラットフォームはBMWの「Z4」および「3シリーズ」との共用で、エンジンもBMW製だ。新型スープラでは過去のモデルに共通していた直列6気筒エンジン(直6)とフロントエンジン・リアドライブ(FR)方式を継承。トヨタの開発陣は、「スポーツカーとして究極のハンドリング性能を達成するため、『ホイールベース』(前輪と後輪の間の幅)、『トレッド』(左右タイヤの間の幅)、『重心高』の3つの要素を重要視して開発初期のパッケージ検討を進めた」と説明する。

セリカXX(初代スープラ)の誕生当時、安東さんは11歳だった。思い出を聞いてみると、「見かけると、みんな『わー、ダブルエックスだ!』みたいな感じになってました。考えてみると、当時の小学生はほとんどが知ってたわけですから、すごいですよね。うちの長男(小学生)なんて、学年でクルマ好きの友達が1人しかいないって言ってますよ。あと、ダブルエックスはワーニングが音声だったので、『しゃべるクルマ』って呼んだりもしてました」とのこと。大学生の頃は「バブリーな友達」が3代目スープラを所有していたという。

3代目「スープラ」

では、これまでにスープラを買おうと思ったことはあったのだろうか。

「それは、なかったですね。どちらかというと、私は『ザ・スポーツカー』みたいなクルマより、『アルピナ』(カブリオというオープンカーに乗り継いだとのこと)に乗っていたこともあるくらいなんで、“アンダーステートメント”というと格好よすぎるんですけど、控えめというか、そういうものを選ぶ傾向にあります」

開発責任者の多田さんに聞く作り手の思い

試乗前、安東さんは新型スープラの開発責任者を務める多田哲哉さんとのグループインタビューに臨んだ。その際のやり取りは以下の通りだ。

安東さん(以下、安):取材でイギリスに行ったとき、「ハチマルスープラ」(型式がA80だったので4代目スープラをこう呼ぶ場合がある)が走っていて、それをみんなが見てたんですよ。すごく誇らしい気持ちになりました。「ワイルドスピード」という映画でも、スープラがフィーチャーされてましたよね。私は51歳なんですけど、この年代の人たちって、初代から見てきていますし、スープラにすごく思い入れがあります。それで、あえて失礼な言い方をするんですけど、「このクルマをトヨタだけで作りたかった」というお気持ちはなかったんですか? 

多田さん(以下、多):もちろんありました。「スポーツカーを他社と共同で作ることに、どんな意味があるのか」とか、「看板商品なのに、自社のエンジンが載っていないのはおかしい」みたいな話もたくさん頂いているんですけど、ただ、時代は大きく変わっているんです。

特に、最近のトヨタを見てもらえば分かると思うんですけど、業種を超えて、いろんなところとコラボレーションして、ものを作っているじゃないですか。それは他の会社も同じで、旬の会社は皆、それぞれの分野の最も面白い技術を持っているところと組んで、お客さんの期待を超えるようなプロダクトを作っています。そうじゃないと、この時代、もう残っていけないと思うんです。

新型「スープラ」開発責任者の多田さん

:正直、私たちの立場からすると、協業なんかやめて欲しい。内部で作った方が、はるかに簡単ですから。意思疎通もできますし。正直、「86」を作った後は、2度と協業はいやだと思ったくらいなんですが()、今回は、86の時とは比べものにならないくらい大変でした。会社としてのやり方も両社で違います。そういうことが何となく分かってきて、意味不明なこともたくさん起こりまして。

※編集部注:トヨタとスバルが協業して作ったのがスポーツカーの「86」と「BRZ」だ

:お察しします!

:ただ、最近はものすごく仲良くなりました。私たちも、BMWのやり方から学んだことがすごくたくさんあります。「あ、だからこうなってるのか!」「だからあの時、あんなことを言ってたのか!」みたいな感じです。それが協業の意味だと思います。

:スープラにMT(マニュアルトランスミッション)を導入する可能性は?

:もちろん! 先週もミュンヘンに行って、MTのテストをしてきたところです。今回はAT(オートマチックトランスミッション)で乗ってもらってますけど、MTがいやだとか、作らないとか言っているわけではないんです。

ただ、新世代のスポーツAT()というのは、手前味噌ですが、かなり出来がいいんです。MTとか、いわゆる「ツインクラッチ」みたいなものと比べても、正直、負けているところはほとんどありませんし、逆にアドバンテージがたくさんある。

※編集部注:ハンドルにシフトパドルが付いていて、手元でシフトチェンジしながら走れるATのこと

:ミッションメーカーとも話をしていますけど、もう、ツインクラッチとかMTの開発に、彼らはあまり力を入れてないんですね。「ネガ」がありすぎるので、やっている意味がなんです。来年、再来年になると、その差はさらに開くと思います。

:ATの方がタイムも早いとは思うんですけど、私は「シフトチェンジ」という行為そのものが好きで……

新型「スープラ」へのMT導入に希望をにじませた“シフトフィールフェチ”の安東さん

:もちろん分かりますよ! ガチャガチャやる感じがいいんですよね。

:もしスープラが欲しいと思ったとしても、MTがない時点で、選択肢からドロップしてしまうんですよね。そこはもったいないなーと思うんですけど。

:シフト操作が楽しいということは、シフトフィールをすごく求めるんですか? いかに気持ちよく、スパスパいけるかという。

:いやもう、本当、それだけというか。

:それがまず、トルクの大きいエンジンのミッションには、ものすごくハードルが高いんですよね。皆さんが期待しているようなシフトフィールを実現するには、ものすごく開発要素があるんですよ。それをそもそも、ミッションメーカーにやる気がない。

もちろん、お金をかければ、例えば「ポルシェ」のハイエンドにはMTが設定されていますけど、ああいう風に、中身をどんどんカーボン化して軽くするとか、そういう道もあるとは思うんですけど、そんな高価なミッションを設定して、スープラのユーザーは本当に買うのかなと思うんです。

もっと言えば、今後はスープラと86の両方を作っていくので、両方ともお求めいただきたいんですけど、86というのは、まさにそういう人のためにあるクルマです。86ではいろいろな操作を楽しんで、クルマと触れ合ってもらいたいんです。でも正直、スープラのトルクとスピードを考えると、よっぽど運転の上手な方ならいいんですけど、普通のお客さんが、こんなこと(例えば細かいシフト操作など)を楽しむ暇は、たぶん、ないと思うんです。

今回のATに乗っていただいて、それでもMTが欲しいということであれば、アップデートもありますし、お届けできればいいかなと。まずATに乗ってみていただいて、本当にご要望があれば、という感じですね。

:パワーユニットは直列6気筒の1本だけに絞るんですか?

:「スープラは直6」というのは揺るぎないんですけど、販売上の事情もあるので、もうちょっとお求めやすいクルマといいますか、ワイドバリエーションで構えたいと思ってます。

BMWとの共同開発について多田さんは、「部品として変えられるところは、ほとんど別で作っています。それを共通化して一緒に作ったとして、そんなことで値段が下がっても、ぜんぜん嬉しくないというのが両社の考えです。使えるものは使いましたが、お互いに作りたいものをちゃんと企画して、デザインもしたので、内外装の部品も、数えてみると90数%は別々で作っています」と説明していた

いよいよ試乗、安東さんの反応は…

この後、いよいよ試乗に向かった安東さん。雨の袖ヶ浦フォレストレースウェイで新型スープラに乗った感想を聞くと、「しっとり感というか、重厚感がすごいですね。ウェット路面でもクルマとの一体感を感じられて、楽しかったです」と話し始めた。

「ただ、嬉しいのか寂しいのか分からない、っていうのが正直なところですね。これって共同開発じゃないですか。このクルマをBMWの『Z4』より(おそらく)安く、トヨタのチャンネルで買えるのは嬉しいんですけど、ただ、スープラはトヨタのアイコンになるクルマだと思うので、乗った時に「あ、BMWだ!」と感じてしまうクルマになっているとしたら、どうなんだろう? という気持ちです。これが純粋なトヨタ製だったら、『お、すげー!』ってなるんですけど」

共同開発である点は気になるものの、トヨタがスープラを16年ぶりに復活させる決断を下し、実際に商品化したこと自体については好感を抱いたという安東さんは、新型スープラのオーナー像にも思いを馳せる。

「価格はいくらなんだろう……。いくら安くなるといったって、たぶん、500万円は切らないだろうし。そうすると、若い人が乗るというのは難しいですよね。昔、スープラに憧れたけど買えなかった、セリカXX世代の人かなぁ。ある意味、Z4と競合すると思うんですけど、(Z4はオープンカー、スープラはクーペなので)屋根が開くか開かないかで差は際立つと思います。そこをお客さんがどう判断するかですね。スープラのデザインが好きな人は、絶対いると思いますけど」

新型「スープラ」を試乗する安東さん

「今日はフルブレーキングしないくらいの速度域でしか走ってないですけど、いいクルマでしたし、楽しいクルマでした。雨の袖ヶ浦も勉強になりました! ただ、やっぱりユーザー像がはっきり見えないのは気になりますね」。そんな言葉を残し、安東さんは帰路についたのだった。