働き方改革に大切な

働き方改革に大切な"腹落ち感" - 元MS役員 越川氏が語る成功メソッド

2017.08.30

「働き方改革」を成功させる秘訣は何か。日本マイクロソフトに11年間在籍し、Office 365担当の業務執行役員としてさまざまな企業の働き方改革をサポートしてきた越川 慎司氏は「最近は働き方改革を目的化しがちだが、そうであってはならない。目的と手段を間違えてはならない」と話す。

越川氏は従来型ソフトウェアのOffice製品から、クラウドベースのOffice 365へと移行する過渡期に、「企業がなぜクラウドサービスを導入するのか」を考え、その大きな理由となる働き方改革の推進に寄与してきた。その経験から、「成長して儲ける」「社員が幸せになる」という"当たり前"を達成しつつ、「手段としての"働き方"をどう変えるかにフォーカスした時、成果が出てくる」(越川氏)という。

クロスリバー 代表取締役社長 CEO アグリゲーター 越川 慎司氏

人事部のみの主導では失敗する働き方改革

越川氏自身、親の介護や体調不良による入院など、ワークライフバランスが崩れた時期もあった。昨年12月にマイクロソフトを退社、独立して立ち上げた会社「クロスリバー」では、社員の意識改革や業務プロセスの改善をサポートするが、「自身の体験から、ダメだった部分、反省をもとに多くの人に伝えたかった」と話す。

多くの人がイメージする働き方改革は、大手広告代理店の過労死問題に起因する長時間労働の是正といった量的改善だろう。しかし越川氏は「"残業減らし"だけでは企業の儲けは減る。意識改革と業務効率化なくして生産性向上には繋がらない」と指摘する。

「働き方改革は、天から降ってくるものではない。自分たちでどう変えていくのかを主体的に考えなければならない。成功させるポイントは『腹落ち感』。経営者、そして社員も本当に(改革を)やるべきなのかを十分納得しないと主体的に動き出さないし、制度やITツールを導入しても利用率は低い。企業としては利益を出し、社員一人ひとりが幸せになるという目標を全社員に理解させることが第一歩だ」(越川氏)

ただ、正しい働き方改革という答えが一つに集約されるわけではない。しかし、成功率を上げる方法はある。

「弊社が持つ486社分のデータでは、人事部のみの主導ではおよそ60%が失敗している。それは人事制度改革に終止してしまうため。経営企画室のような"経営改革"として捉え全部門が主体的に取り組むことで、成功率は上がる」(越川氏)

KPIの設定も一定ではなく、企業によって異なる。ROEの向上であったり、働きがいを感じる社員の増加、社員定着率の改善、あるいは復職率の向上といったものもあるという。

「ROEの向上はわかりやすいが、人材面の問題はこれまで定量化が難しかった。でも、AIを活用することで『社員の働きがいの指標化』が現実のものとなりつつある。働きがいを可視化すれば社員の幸せを実現しやすくなる。もちろん、少し前から福利厚生を充実させようという日本企業は多かった。でもそれは『働きやすさ』を向上させるだけで"社員さまさま"の施策。社員が自身の成長を楽しみ、成果を残すことに充実感を得るような『働きがい』を持たせることが、企業と社員にとって大切だ」(越川氏)

越川氏はクロスリバーで、機械学習を用いたデータ処理、アンケートの自然言語処理、ヒアリングに基づく感情分析などから社員の働きがいを可視化および指標化している。「コンサルティングという言葉が好きじゃない(笑)。私は"アグリゲーター"として、企業の成長や社員の働きがいの向上など、指標を向上させることを約束して、最後まで責任を持ってやっています」(越川氏)

働きがいの指標化は、隠れた感情も浮き彫りにする。

「欧米人は感情をストレートに表現しますが、日本人は空気を読みながら多層的なコミュニケーションをとることが多く、真意が読みにくい。そこにAIが突き刺さる。Microsoft、Google、AWS各社が提供する"AIの良いところ取り"をして、アンケート調査からインサイトを得ることができる。また対面ヒアリングでは録音・録画データをテキスト化し、また顔の表情や声色をAIで分析して、感情の指標化が可能になる。」(越川氏)

越川氏は感情分析で面白いポイントとして「"働き方"や改革"といった言葉を出すと、眉間にしわを寄せる社員が多い会社、いい顔をする社員が多い会社がわかれる」と話す。もちろん、良い成果につながりやすいのは後者だ。前者は意識改革を入念に行う必要があり、特に経営者の意識改革に力を入れなければならないケースもあるという。「事業生産性の向上を半年で達成することは難しい。だが、意識改革は徹底的にやるし、最後の方には目の色が変わり、"生き生き"してくる」(越川氏)

働く時間をダイエット

社員の意識が変わることには理由がある。一般的な社員であれば日々の業務に追われ、「個人が自ら改革するきっかけがあまり作れない」(越川氏)。しかし、会社として働き方改革を意識する環境ができつつある今、「このチャンスをうまく活かして自分がさらに成長できるようにチャレンジできる土壌が整ってきた」(越川氏)。

そこで越川氏が進めるのが基礎中の基礎、無駄をなくして、必要なところに再投資することだ。業務改善によって労働効率を高め、労働時間を削減していく。"働き方改革を目的にしてしまう企業では、目先の施策に注力して根本的な業務改善が行われず、むしろサービス残業が増えるケースが出ている。

「現行業務にかける労働時間をまずは10%、そして20%と、徐々に減少させる。進む、振り返る、進む、を繰り返すことで、無駄をなくし着実に効率を高める。かつては労働時間の把握は漠然としていて"棚卸し"が難しかった。しかし今は、ITツールを使って仕事している時間とプライベートの時間、あるいはもっと細かく"コントロールできる時間"と"コントロールできない時間"といった切り分けが容易にできる」(越川氏)

コントロールできない時間はどうにもならないが、コントロールできる時間、例えば「その場にいるだけの会議」といったものを潰していくことで、自身の仕事に余裕が生まれる。資料作成でも、提出先に事前の詳しいヒアリングを行って期待値を確認できれば、不要なことをしないで済み、作業時間を削減できる。もちろん、ITツールやAIを活用して気付きを得ることができる。

「一つの会社で見た時、例えば数千人在籍している会社がこのセルフコントロールを行えば、労働時間を大幅に削減できる。実際に、1カ月あたりの労働時間を2割削減できた企業が、私のクライアントで6割以上いる。"気付く"ということだけで6割がそれだけの改善に繋がる」(越川氏)

「Why」と「How」の関係性

また、働く時間を減らすという目標は2つの副次効果を生む。「時間を減らす」というわかりやすい目標立ては「ダイエットのように"減らす"という目的があるから、改善したことに喜びを感じる」(越川氏)。さらに、そこで生まれた余剰時間によって、社員が「自由」と「選択肢」を得ることができる。副業して収入を増やすこともできる。

「アンケートのAI分析では、全員が『自由』という言葉をポジティブに捉える。働く時間が2割縮小すれば、その時間を新規ビジネスに再投資したり、家族と過ごす時間、スキルアップの自由時間に割り当てられる。自分でその改善効果を作り出せば、そのスキルは一生役立つものだし、将来の働き方の"選択肢"に繋げられる」(越川氏)

企業は社員を縛ろうとするが、自由を社員が自ら作り出せる環境であれば、その自由を求めて人材が潰えることはない。満足度ありきの施策ではないから、会社の業績向上にも繋がるというのが越川メソッドとも言えるだろう。越川氏は最後に、経営層が働き方改革への認識を改めて考え直す必要性があると説いた。

「働き方改革を検討することは大切。だが、『なぜ働き方を改革するのか』は一度見直してみた方が良い。もちろん、個人単位でも『なぜ働くのか』といったことを考えるべき。『Why』がわかった人は、『どうやって改革するのか』という『How』が出てくる。Whyが理解できていれば、最初に話した"腹落ち"の手前まで来ているから具体的な行動に落とし込めるはずだ」(越川氏)

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

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ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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