激動の商用車業界、日野自動車の新社長が語る「仲間づくり」の行方

激動の商用車業界、日野自動車の新社長が語る「仲間づくり」の行方

2017.07.06

日野自動車の社長に就任した下義生(しも・よしお)氏が会見を開き、同社の今後や業界の見方について質疑に応じた。電動化や自動運転など、とにかく動きの多い昨今の自動車業界だが、乗用車に比べ、トラックやバスといった商用車の世界の方が、より激しく変化しそうというのが下氏の見立て。激動の時代を乗り切るためには、独自のアライアンス構築にも積極的に取り組むという。

会見に臨む下社長。1981年に日野自動車に入社し、2017年6月27日に代表取締役社長に就任した

幅広い経験、トヨタにも在籍

下氏はバスの設計から日野でのキャリアをスタートさせ、その後は商品の企画、開発、営業、販売といった幅広い経験を積んだ。同社が社運をかけて投入した北米専用のボンネットトラック「NAPS」ではプロジェクトリーダーを務めるなど、海外事業にも深く携わった経歴を持つ。日野の社長に就任する前は、トヨタ自動車に常務執行役員として在籍していた。

日野の社長として重視したいのは、車両の販売だけで終わらない「トータルサポート」体制の充実だという下氏。商用車は購入から買い替えまでの期間が長いので、その間も顧客のビジネスパートナーとして、しっかりと関係性を構築したいと豊富を語った。

トヨタで感じた危機感、ビジネスモデルの転換が参考に

トヨタ時代の下氏は、コーポレート担当として、グループとしての戦略やアライアンス構築などを見ていた。そのときに感じたのは、時代の変化に対してトヨタが抱く強烈な危機感だったという。

トヨタは2016年度こそ減益決算となったものの、収益レベルは依然として高い。そんな状況でも、従来のビジネスモデルから脱却し、自前主義から仲間づくりへと舵を切ったり、クルマの電動化に力を入れ始めたりするトヨタを、下社長は「危機感の塊」と評した。その姿勢からは刺激を受けたという。

トヨタがメインとして扱っている乗用車よりも、トラックやバスといった商用車のビジネスの方が「変化が激しくなりそう」というのが下社長の見立てだ。激動の業界にあって、トヨタのように危機意識を持ち、新しいことに取り組む姿勢は日野にとっても大切になるだろう。下社長はどのような「変化」を想定し、その変化をいかに乗り切っていく考えなのだろうか。

物流業界の課題と直結する商用車の変化

商用車に訪れる変化は、物流業界の課題と密接に関連している。「モノを運んで欲しい」という需要はなくならないどころか増えていく見通しである一方、モノを運ぶ側では人材不足が進行していく。このズレが大きくなっていくことこそ、商用車業界に訪れる変化だと下社長は定義した。

このズレを埋めるための1つの方策として、下社長はアライアンスの構築に意欲を示す。日野はトヨタから50.1%の出資を受けているので、現在もトヨタのアライアンスの一員ではあるのだが、時代の変化に対応するため、独自のアライアンス構築を進める可能性も示唆した。仲間づくりの軸になるのは「先進技術」。新しい技術に単独で対応するのは難しいし、トヨタに学んでいるだけでもダメというのが下社長の考えだ。

物流業界の課題解決に役立ちそうな先進技術が自動運転だ。ドライバー不足の影響もあり、商用車の世界では自動運転の活用が進みそうな情勢。日野は2016年5月、「自動走行・高度運転支援に向けたITS技術」の共同開発でいすゞ自動車と合意済みだ。高速道路におけるトラックの隊列走行については、実証試験に向けて計画通りに進めているとのことだった。

日野の大型トラック「プロフィア」

もう1つ、物流業界で解決が待たれるのは、いわゆる「ラストワンマイル」の問題だ。幹線道路の物流を効率化する一方で、玄関まで荷物を届ける最後の1マイルに対し、メーカーとしてはどのような解決策を提示できるのか。下社長は、この課題に現行の商品群で貢献するのは難しいとの見方を示しつつ、今はトヨタの商用車部門であるCVカンパニーと連携し、物流を俯瞰して見るスタディーを始めたところであり、この課題については、グループ全体として解決策を探っていきたいとした。

電動化に対する考え方は

先進技術といえば、商用車の電動化に関する取り組みも見逃せない。下社長は「商用車は顧客にとって道具」であるため、電動化を進めるにしても「いかにコストを抑えるかが重要」との認識を示した。小型バスを電気自動車(EV)化したり、大型バスを燃料電池車(FCV)にしたりする方向性も検討しているそうだが、安く作れなければ商用車メーカーとしてはビジネスにならない。このコスト負担を減らす意味でも、仲間づくりが重要になると下社長は指摘した。

時代の変化に対するトヨタの危機感を目の当たりにし、さらに変化の激しくなりそうな商用車業界に戻った下社長。トヨタに比べ、日野はアライアンス構築に関する経験が不足していると認める同氏だが、先進技術について思いを同じくするメーカーとは、積極的に手を組む姿勢を示していた。日野が今後、どのような企業と提携を結ぶのかに注目したい。

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

2018.11.19

座席指定の通勤電車から”通勤の高級化”の流れ?

ハイエンド通勤バスの実証実験を東急電鉄が実施

たまプラーザを舞台にした、日本初の郊外型MaaS

全席指定の通勤電車が首都圏の私鉄で運行され始めている。西武鉄道を主体に東急電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)、横浜高速鉄道の各路線を乗り入れる「S-TRAIN」や、京王電鉄の「京王ライナー」などだ。座席指定ではなく、着席整理券による着席定員制の東武東上線の「TJライナー」もある。

帰宅時間に運行される京王ライナー

なぜ、私鉄各社がこうした通勤電車を運行し始めたのか。ラッシュを避けゆったり座ってオフィス街に移動できる利便性を提供するためだ。京王ライナーの場合、帰宅時間に下り方面に運行されるだけだが、これも「仕事で疲れているのに立って帰りたくない」という通勤需要に応えている。

S-TRAINやTJライナーの場合、休日には観光列車としての役割も果たす。S-TRAINはデートスポットとして注目される豊洲や、“食の街”として名をはせる横浜中華街を結んでいる。TJライナーは“小江戸”と呼ばれる川越や森林の多い憩いの場「森林公園」にアクセスできる。森林公園は今の時期、紅葉をライトアップするイベントが行われており、相当の集客がある。

ただ、どちらも平日はビジネスパーソンの脚となるという特徴を考えると、観光色の強い西武鉄道の「レッドアロー」や東武鉄道の「スペーシア」とは性格を異にする。

ハイグレード通勤バスでゆったりと

こうした“通勤の高級化”が、バスにも波及しそうだ。

東急電鉄は「ハイグレード通勤バス」の実証実験を2019年1~2月に行うと発表した。

ハイグレード通勤バスの外観(写真提供:東急電鉄)

ハイグレード通勤バスは客席が24席と広々としており、しかもかなり深めにリクライニング可能。Wi-Fi対応、USB、ACアダプタも装備し、パソコンなどが置けるテーブルも用意されている。そして、長距離バスのようにトイレまで備えているのだ。

座席は3列で、シート数は24席とゆったりしている(写真提供:東急電鉄)
かなり倒れるリクライニングシート(写真提供:東急電鉄)
テーブルにPCを置いて作業可能。写真左隅にACコンセントも確認できる(写真:東急電鉄)
通勤用バスながら、トイレ洗面台を完備(写真提供:東急電鉄)

 以前、両備グループの中国バスが運用する「ドリームスリーパー」という、超高級バスを拝見したことがある。しかもこちらは、さらに座席数が少ない14席で、個室タイプだ。とはいえ、ドリームスリーパーは東京~大阪や東京~広島を結ぶ長距離高速路線バス。睡眠を取ることが必須になると思うので、個室という選択肢になったのだろう。

一方、ハイグレード通勤バスは、読んで字のごとく“通勤”という言葉が入っている。つまり、長距離高速路線バスであるドリームスリーパーとは、まったく性格が異なる。

さて、今回の実証実験では、実験区間にたまプラーザから渋谷が選択された。このたまプラーザ駅がある東急田園都市線は、首都圏屈指の混雑路線だ。二子玉川や三軒茶屋からも乗客があり、朝の通勤ラッシュはすさまじいと聞く。国土交通省によると、ラッシュ時は185%の乗車率であるらしい。この田園都市線の混雑を少しでも緩和しようと、ハイグレード通勤バスの実証実験を開始する意図がみえる。

ただ、田園都市線の混雑は、東急電鉄そのものにも原因がある。というのも、東急の本拠である渋谷の再開発を急激に推し進めたからだ。セルリアンタワーや渋谷ヒカリエ、そして渋谷ストリームも開業した。どれもオフィス、商業施設、ホテルといった施設からなる複合ビル。オフィスが増えれば通勤客が増えるし、商業施設も朝の仕込みなどでラッシュ時に通う場合も十分に考えられる。そうした混雑を緩和するために、今回ハイグレード通勤バスを実験し、本サービスにつなげたいのだろう。

一方、東急電鉄はハイグレード通勤バスだけでなく、あわせてたまプラーザでオンデマンドバスやパーソナルモビリティ、マンション内カーシェアリングの実証実験も行う。オンデマンドバスはスマートフォンで乗車予約を行い、病院や公共施設への移動手段になる。パーソナルモビリティは、坂道や細い道路を移動しやすく買い物などに向く。マンション内カーシェアリングは、余っているクルマのリソースを同じマンション内で共有しようというものだ。

東急電鉄これらを日本初の「郊外型 MaaS」(Mobility as a Service:利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提供すること)の実験だとしている。

このMaaSという考え方には、あのトヨタ自動車も積極的だ。トヨタは東京2020オリンピック・パラリンピックを舞台に「Mobility for All」を実現したい考え。パーソナルモビリティもこの施策に組み込まれる。

トヨタが実用化を進める「i-ROAD」(写真提供:トヨタ自動車)

 東急電鉄は実証実験でどのような結果を得るのか。“地獄”とも表現される通勤ラッシュの課題や少子高齢化への対応、高齢者の移動手段確保など、MaaSが貢献できる問題解決はさまざまだ。たまプラーザ~渋谷という、屈指の住宅街と屈指のオフィス街を結ぶこの取り組みが、“住みよい街づくり”にどのように関わっていくのか、楽しみだ。

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

カレー沢薫の時流漂流 第16回

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

2018.11.19

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第16回は、Apple製品ユーザーを襲う「AirDrop痴漢」について

我々の生活はありとあらゆるものが電子化し、飛躍的に便利になった。

しかし、あらゆるものの中には当然「犯罪」も含まれ、さらに「痴漢」まで含まれるようになってしまったのだ。

皆さんはiPhone、iPad、Macなどを使っているだろうか。そして満員電車など人が密集する場所へ行く機会が多かったりするだろうか?

上記に当てはまる人、特に女性は注意が必要である。私はと言えば、スマホはアソドロイド、パソコンはウィソドウズ、人ゴミどころか人がいるところにさえ滅多にいかないので鉄壁と言える。

「IT露出狂」の出現

最近、Apple製品を使用した「AirDrop痴漢」なるものが現れているらしい。「痴漢も電子化の時代、わざわざ相手の前に立って局部を見せるような奴は時代遅れですよ」と「AirDrop痴漢」がろくろを回すポーズで語っているかは知らないが、当然褒められたことではない。

「AirDrop」とは、Apple製品間でデータをワイヤレスで送り合うことができる機能である。自分のMacからiPhoneにデータを送ったり、iPhone同士で友人と写真を共有したりできて便利なものだ。しかし、「AirDrop」は登録いらずで簡単な一方、半径9メートル以内にいる「AirDrop」をonにしている相手になら、誰にでもデータを送れてしまうのである。

これを使って画像を共有しようとすると、「Petagine's_iPhone」など、近くにあるApple製品の端末名が表示される。ペタジーニのiPhoneなら止めておこうと思うかもしれないが、ここで「Danmitsu's_iPhone」とか、明らかに女性と思われ、しかも何かエロスを感じる(※個人の感想です)名前を見つけた場合、その端末にわいせつ画像などを送り付ける、というのが「AirDrop痴漢」の概要である。

相手に直接手を触れるわけではないので、人が多い場所だと送ってきた相手の特定はかなり難しい。被害者はわいせつ画像を見せられた不快感と、周りにそういう人間がいるという恐怖感を味わうことになり、加害者はそれを見て楽しむという、いわば「IT露出狂」だ。

便利な機能が出来るたびに、それを使った犯罪が現れるのが世の中というものだが、これも「AirDrop」の機能を悪い意味で上手く使った犯罪である。その知恵を他の事に生かせなかった上に、そういった行為を「楽しい」と思うセンスに生まれて来てしまったことは二重に不幸なことだ。

被害者は女性が多いが、男性でも被害を受けることがあり、グロ画像を送られてきたという被害もある。

また、俳優の加藤諒さんは新幹線に乗っていたところ、車内で携帯をいじっている自分の後ろ姿の写真が「AirDrop」に送られてきたと言う。わいせつ画像でなくても、「お前のことを見ているぞ」というストーカー的恐怖感を相手に与えることも可能なのだ。

被害と「誤爆」を防ぐシンプルな解決法

「AirDrop痴漢」を防ぐ手立てはないのか、というと意外と簡単で、平素は「AirDrop」の設定を「受信しない」にしておき、使う時だけonにすれば良い。

そのほか、名前や性別を特定されないように、「Gorira's_iPhone」など、ユーザーネームを変更しておくのも効果的だ。

画像を共有する相手などいないという人間は、Apple製品を買ったらまず「AirDrop」機能を切るぐらいでもいいかもしれない。何故なら、この「AirDrop痴漢」は知らず知らずのうちに加害者になる可能性もあるからだ。

恋人に送るはずだった語尾が「ぞえ♪」のLINEを上司に送ってしまったり、ツイッターのアカウント切り替えを忘れて美容垢に推しカプがどれだけ尊いか語ってしまったりするような「誤爆」が「AirDrop」でも起こるのである。

しかも、LINEなら登録してある相手にしか送らないだろうし、SNSならある程度他人が読むことを想定して投稿するだろうが、「AirDrop」の場合、半径9メートル以内にいる赤の他人に、1人で楽しむためだけのお宝画像を送ってしまうという事態になりかねないのだ。受信してしまった方も不幸だが、送った方もある意味それ以上不幸である。

このように、「AirDrop」は便利だが、意図せず自分の性癖を含む個人情報を流出させてしまう恐れもあるため、使う時だけonにするのが今のところ一番良いかと思われる。

ちなみに、この「AirDrop痴漢」は犯罪にならないかというと、もちろんそんなことはない。わいせつ画像を送るのは「猥褻物頒布罪」になり得るし、わいせつでなくても相手が不快に思う画像を送り付けるのは「迷惑行為防止条例」違反になる場合がある。

実際、電車内で「AirDrop痴漢」を80件以上繰り返したという男が書類送検されたという。送信者が特定しづらいと言っても「本気を出せば特定できるしバッチリ逮捕もされる」ということはすでに実証されているので、もしイタズラ感覚でやっている人間がいるなら、逮捕されない内に今すぐやめた方がいい。

このような使い方は、Appleが想定していなかったことだろう。つまり、最初に考え着いた人間は、アイディア力にすぐれている。

その力を犯罪以外に使えなかったのは、重ね重ね残念である。