ソニーが変則スマートウォッチで踏み出した、「大企業病克服」への道のり

ソニーが変則スマートウォッチで踏み出した、「大企業病克服」への道のり

2017.07.06

ソニーは2017年度の経営数値目標として、グループ連結でROE(自己資本利益率)を10%以上、連結営業利益で5000億円以上を掲げている。この数字は「達成を狙える基盤が築けた」(プレスリリースより)という自信とともに、投資家からも評価を受け、5月の経営方針説明会から8%弱、株価も上昇している。

一方で、いわゆる「強いソニー」が戻ってきたという評価は得られていないとの指摘もある。業績見通しでは金融部門が1700億円の営業利益と3割強を占め、ソニーの祖業である"エレキ"に該当するAV機器のホームエンタテインメント&サウンドが580億円、スマートフォン「Xperia」のモバイル・コミュニケーションはわずか50億円という見通しで、合わせても1割強の数字にしかならない。

2017年度経営方針説明会の資料より、ソニーグループの業績見通し

利益率だけではない。代表執行役 社長 兼 CEOの平井 一夫氏が「ユーザーの皆様に感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する会社であり続ける」をミッションに掲げるように、ソニーとして新たな価値をもたらすデジタル製品を久しく世に出せていない現実がある。

ゲーム機「PlayStation 4」が投資回収期間に入り、2017年度にゲーム部門は1700億円の営業利益を稼ぐが、礎となった初代PlayStationがリリースされたのは1994年と23年も昔になる。その間、薄型ノートPCなどで支持された「VAIO」や前述のXperiaなど、ソニーファンにこそ響く製品は登場しているものの、いわゆる「AppleのiPhone」のような製品は出ていないと言える。

2年目に突入した新ジャンル製品「wena wrist」

イノベーションが起きなかった理由が、縦割り組織や事なかれ主義などに代表される大企業病そのものかどうかには議論の余地があるだろう。ただ、平井氏らが2014年4月にスタートしたSeed Acceleration Program(SAP)は、現状のソニーが満足のいく組織ではないと感じたからこそ、始めたものであることは確かだろう。

SAPは既存事業領域、いわゆるモバイル部門やAV部門、金融部門以外の「種(Seed)」となる新規事業を創出するためにスタートした。

これまでに全9回の募集、およそ600チームの応募があり、12件が事業化にこぎつけた。そのうちの1つが「wena project」だ。「長年培ってきた文化や伝統を大切にしながら、最新のテクノロジーを駆使して、デバイスを違和感のなく身に着ける世界を作る」をコンセプトに、第一弾としてスマートウォッチを生み出した。

Seed Acceleration Programの概略図
wena wristは、バンド部分にさまざまなモジュールを凝縮させた

Apple Watchに代表されるスマートウォッチはディスプレイを搭載し、ゴツい盤面の中にBluetoothや各種センサーを組み込む。一方の「wena wrist」は逆転の発想でバンド部分にすべてのデジタル部品を集約した。「アナログを大切にしつつ、スマートウォッチの利便性を兼ね備えたもの」という、発案者の同社 新規事業創出部 wena事業室 統括課長 對馬 哲平氏のこだわりだ。

バンド部分のみでおサイフケータイ機能とスマートフォンの通知機能、活動量計機能を実現しており、当初は時計部分を含めて「時計」として2016年4月に出荷を開始した。1年強が経ったこの7月には、製品ジャンルが認知され始めたとしてバンド部分単品の販売をスタートする。

同時に、これまでステンレスバンドのみのラインナップだったが、新たに革製品の「wena wrist leather」を12月下旬より発売する。wena wrist leatherでは新開発のFeliCaモジュールを組み込み、電子マネー「楽天 Edy」のチャージと支払いが可能になる。

wena wrist leather
楽天Edyに限定されるが、電子マネーを利用できる

電磁誘導によって電子マネーを利用できることから充電の必要はなく、生活防水の加工によって水濡れの心配もない。活動量計や通知機能こそないものの、スマホ要らずでプラスチックカードを出す必要もない電子マネーを利用できるファッショナブルな革バンドは一定の需要があるだろう。

ソニー 新規事業創出部 wena事業室 統括課長 對馬 哲平氏

對馬氏は学生時代からwena wristのアイデアを温めており、「ソニーだから」「ソニーらしさ」を考えた結果の製品ではないと語る。こう話すと怒られると苦笑いしつつも「それが逆に、ソニーらしさだという声をいただいたこともある」(對馬氏)と言うように、創業者の一人、井深 大氏が起草した設立趣意書に書かれている「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」に沿った製品とも言える。

発売から1年強がたち、「事業化初年度は、それなりにいい数字を残せたと思う」と對馬氏は語り、それ故に第2弾となるレザーバンドの発売にこぎつけた。對馬氏がこうした製品を開発する理由は、これまでのデジタル製品とは異なる、ウェアラブルデバイスがゆえの課題を解決したい思いだ。

「(本社最寄り駅の)品川で歩く人が全員Apple Watchを身に着ける世界は考えられない。Appleやサムスンに負けたくないという気持ちは持ちつつ、まだまだ同じ土俵には立てないと認識している。ただ、自分が抱いている想いは、『腕時計らしいスマートウォッチ』には限界があるということ。

自分が好きだった腕時計を身に着けつつ、スマートウォッチにできる。消費者が求めるものは『一様』ではなく『選択肢』。欲しいと思うものはみんな違うと思うので、今はまだ理想の10~20%しか実現できていないが、少しずつ『好きでいてくれるファン』を増やしていきたい」(對馬氏)

身に着けるものはスマホなどと異なり、ファッション性など人それぞれの価値観に左右されやすいとして、「時計部分の選択肢があるスマートウォッチ」という受け皿を目指す

對馬氏の体験から見えたSAPのメリット

記者説明会後に對馬氏は、SAPのメリットとしてベンチャーと大企業の「いいとこ取り」を挙げた。1兆円規模を超える企業は、一つの事業部単体で最低でも100億円規模の売上が求められ、事業立ち上げ時から多大なコストを投下して「人」と「モノ」の固定費が結果としてかさみ、赤字になるか売上高が目標に達しなければすぐに事業をたたんでしまう。

一方でベンチャー企業は垂直立ち上げにこそ向かないものの、ビジョナリーのもとにVCなどが多額の資金を投下し、数千万、数億円規模からでも市場を開拓していく。SAPはこうしたビジョンを大切にしてスモールスタートできるだけでなく、「First Flight」というテストマーケティング 兼 クラウドファンディングサイトによって実験的に事業を立ち上げられる。まさに現代版「自由闊達な理想工場」の実現を目指していることだ。

對馬氏は、これに加えて「大企業には『専門家』が多く在籍している。例えばwena wristに組み込むFeliCaチップのアンテナを生産できる技術者は数十人しかいないが、彼らの多くは大企業にいる。また、パートナーシップを組むにしても、wena wristはシチズンの協力を得ているが、ベンチャー企業であれば与信などの問題もあってそうたやすく一緒に事業化できるものでもなかっただろう」と自身の体験を交えて語る。

wena wrist leatherにあわせて新規のFeliCaモジュールを開発。大企業ならではのメリットだろう

First Flightには、wena wristのほかに、電子ペーパーを時計化した「FES Watch U」やスマートロック「Qrio Smart Lock」など、一部で話題となった製品がすでに販売されている。ただ、いずれも自由闊達なアイデアにせよ、すぐに「100億円規模の事業」にスケールするとは言いがたい。

また、そもそも日本企業における課題でもあるが、對馬氏の話す「大企業におけるスペシャリスト」は、米シリコンバレーであればシリアルアントレプレナーとなって自身で新たな企業を立ち上げ、次々と新しい価値を提供しようと模索している。より有機的に企業が絡み合い、「シリコンバレー株式会社」のような形で世界を席巻している現実もある。

もちろん、米シリコンバレーのやり方がすべてではなく、1980年代に「日本株式会社」が世界をリードしたように、企業内でこうしたマイクロ事業を生み出す土壌があるのであれば、近年盛り上がりを見せつつあるオープン・イノベーションの流れも合わせて結果に結びつく可能性はある。

皆が求める「ソニー像」にたどり着けるかは未知数だが、少なくともwena wristがその第一歩と言える製品であることは確かだ。

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

2019.01.22

低温加熱式のJTがライバルと直接競合する高温加熱式に参入

専用リフィルも異なる3種類の製品で広範に網を張るプルーム・テック

海外市場でも兆し見えた加熱式たばこ、日本での成功がより重要に

日本たばこ産業(JT)が加熱式たばこの新製品、「プルーム・テック・プラス (Ploom TECH+)」「プルーム・エス (Ploom S)」の2製品を発表した。シェアトップのiQOSを追撃したいJTだが、ライバルに先行を許している今、どのような戦略を描いているのか。

JTが発表した加熱式たばこの新製品、プルーム・テック・プラス(左)とプルーム・エス

新たに高温加熱式に参入、ライバルと直接競合へ

新製品は、従来のプルーム・テックを改良したプルーム・テック・プラスと、シェアを争う「iQOS」(フィリップ・モリス)や「glo」(BAT)と同様の加熱方式を採用したプルーム・エスの2つ。iQOSとgloが高温加熱式であるのに対し、もともとプルーム・テックは低温加熱式と呼ばれる方式をとっていた。30度という低温で発生させた蒸気をたばこカプセルを通して吸うため、においが少ない一方、吸いごたえに乏しいともいわれていた。

低温加熱式で吸いごたえを追加したプルーム・テック・プラスと、高温加熱式のシェア奪取を狙ったプルーム・エスを投入

そこで、たばこ葉を増やすなどして吸いごたえを高めたのがプルーム・テック・プラスだ。その結果、本体が太く大きくなり、加熱温度も40度と少しだけ高くなったが、においの少なさはそのままに、吸いごたえをアップさせたことをアピールする。

プルーム・エスは高温加熱式を採用し、iQOSやgloと同様の吸いごたえを目指した。こうした高温加熱式は、たばこ葉を高温で蒸すことで蒸気を発生させるため、従来のたばことも異なる独特のにおいを発生させる。

JT副社長・たばこ事業本部長の岩井睦雄氏は、この独特の「におい」のせいでたばこの味わいに違和感を覚える喫煙者が多かったと話す。そのため、「満足度を高めるのは味わい」として、このにおいの低減に取り組んだという。

プルーム・エスでは、たばこ葉を熱する温度を200度に抑えた。これはiQOSの300度、gloの240度に比べて低く、これによって特有のにおいを抑えたという。

吸いごたえや加熱方式が異なる3製品をそろえる意味

JTは新製品投入後も既存製品の取り扱いを継続する。つまり、プルーム・テックのラインアップは3種類となる。iQOSも複数の製品があるが、こちらは機能の違いによって3種類に分けられており、プルーム・テックはそれに対して、吸いごたえや加熱方式によって異なる製品を用意したかっこうだ。

3つの製品を投入することで、選択肢を提供する

岩井副社長は「温度で選ぶ時代」と表現し、低温のプルーム・テック/プルーム・テック・プラスと、高温のプルーム・エスという選択肢によって「好みや生活環境、ライフステージの変化に合わせて、いつでも最適な選択ができる」ことを狙ったとしている。

たばこ事業本部長の岩井睦雄副社長

たばこ部分に互換性がないという問題はありそうだが、現在でも、においの少なさを重視して自宅ではプルーム・テックを吸いつつ、味わいを求めて喫煙所では高温加熱式の加熱式たばこ、と双方を使い分けている人が少なくない。そうしたユーザーに対して、「それぞれで求められるニーズを高いレベルで満たし、両方を提供するのが顧客満足度の最大化に繋がる」(岩井副社長)と判断し、製品開発に取り組んだ。

加熱式たばこ最大市場の日本から、海外市場を見据える

岩井副社長は新製品でiQOSからシェアを奪取し、「中長期的にはRRPカテゴリでもシェアナンバーワンを目指す」と意気込みを語る。

「RRP」とは「リスク低減製品」のこと。「喫煙にともなう健康へのリスクを低減させる可能性がある」と位置づけられる製品だ。

日本では法律上、液体にニコチンを含ませて販売することはできない。電子たばこは、このニコチンを含む液体を蒸気化させるため日本で販売できず、結果、加熱式たばこが普及したという背景もある。加熱式たばこの市場規模では日本が世界最大だが、iQOSが韓国や欧州の一部で販売を強化しており、グローバルでの市場拡大を狙っている。

JTは海外ではlogicブランドで電子たばこを販売している。海外での電子たばこ事業はありつつも、まずは製品の国内ラインナップを拡大して加熱式たばこのシェア拡大を図るとともに、紙巻きたばこを含むすべての製品の価値を向上させることで、市場の拡大に繋げたい考えだ。「日本での成功がグローバルでの成功につながる」と岩井副社長は強調する。

紙巻きたばことRRP製品の双方を拡充する
日本では加熱式、海外では電子たばこを提供中

紙巻きからの移行、数年以内に大きな山場

2018年は加熱式たばこが踊り場を迎えたと言われた。日本ではここ数年で急激に加熱式たばこの普及が進んだが、市場シェアが20%を越えたところでユーザー需要は一巡したとみられる。

ただ、プルーム・テックの全国販売の開始や、他社では直近のiQOSの新モデル投入などを経て、その動向から、需要の伸びは「足踏みしていたが、止まったわけではない」(岩井副社長)との認識にあるという。加えて、紙巻きたばこによる健康懸念の高まりや、オリンピックによる喫煙場所の規制といった外的要因もあり、「必ずシガレット(紙巻きたばこ)からRRPに移ってくる」(同)という見通しだ。

課題は、紙巻きたばことは異なり、デバイスを購入しなければならないというハードルの高さだ。一度購入した後、他社のデバイスへ移行しづらいという難題につながる。

他社の後追いとなった高温加熱式では、「差別化のポイントをしっかりと伝えていく」ことで買い替えを促進する。JTが主導する低温加熱式では、「若干下方修正したが、手応えも感じている」と岩井副社長は説明する。今後は製品の良さをアピールするために、喫煙者に直接説明をする営業スタイルを重視していく方針をとるそうだ。

JTは日本市場で紙巻き、加熱式のいずれでもシェアトップを目指す

JTは1社で複数の選択肢の製品を用意することで、消費者のニーズの受け皿を最大化しようと目論んでいる。この先にグローバルで展開する上で、ユーザーからどのような示唆が得られるのかを検証していき、海外での加熱式たばこの市場拡大にも乗り出していきたいと考えているようだ。

加熱式たばこは間もなく、国内市場シェアだけでなく、海外市場の争奪戦の行方も左右する正念場を迎える。

大手コンビニ3社、成人誌の販売中止を相次ぎ決定

大手コンビニ3社、成人誌の販売中止を相次ぎ決定

2019.01.22

セブン、ローソンに続きファミマも成人誌を販売中止

インバウンドの増加、オリンピックの開催も影響か

コンビニ最大手のセブン-イレブンと業界3位のローソンが成人向け雑誌の販売中止を発表したのに続き、業界2位のファミリーマートも同様の方針を打ち出した。大手3社の足並みがそろい、日本国内のほとんどのコンビニ店頭から成人誌が消える。

国内のセブン-イレブン店舗数は2万店を超え、ローソンとファミマが1万5,000店前後でこれに続く。それぞれ今年の8月末までに取り扱いを原則中止するという。これまで一部店舗で成人誌の販売を中止していた例はあったが、今回は各社全店舗で取り扱いを中止する。業界では昨年1月から、ミニストップが他社に先駆けて全店で取り扱いを中止していた。

もともと諸外国にくらべ、女性や子どもの目につきやすいコンビニ店頭などに成人誌が置かれている日本のゾーニングの現状は特殊であるとの批判があった。また、インバウンドで訪日外国人が増え、この論調に拍車がかかっていたほか、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、イメージ低下を防ぐ要請が強まっていたという背景がある。

コンビニでの成人誌の購買層は近年、高齢男性に偏るとともに売り上げの減少も顕著であったといい、ゾーニングの問題が取り扱い中止の大義名分になったという見方もある。ある出版関係者は、「一部では電子版などネット展開を強化している流れはあるが、今でもコンビニは重要な販路なので、相当な混乱があるだろう」と話す。どちらにせよ、日本の成人誌は岐路に立たされることになる。