シャープが単なる家電メーカーから脱皮したワケ

シャープが単なる家電メーカーから脱皮したワケ

2017.07.08

「モノのインターネット」を指す「IoT」という言葉が叫ばれて久しいが、詰まるところB2Bにおける「M2M」の世界にインターネットやデータ利活用を組み合わせたものに過ぎない。加えて、最終消費者にとってIoTと言われてもまったく響かず、「だから何ができるの?」という言葉が返ってくるオチばかりだろう。

かと言って、モノがインターネットに繋がり、さまざまなデータをクラウドにアップして消費者の生活を豊かにする流れは止められない。人の関心の多くがスマートフォンの中から始まる時代になりつつある今、この小さなディスプレイの中に入ることができない企業は忘れ去られていくだけだからだ。

パナソニックとシャープはIoT化に舵を切る

特にさまざまな試みを見せているのが家電メーカーだろう。例えばパナソニックは4月1日付で技術部門に「ビジネスイノベーション本部」を設置。AIやIoT技術を活かした製品づくりを目指すべく、副本部長にSAPジャパン バイスプレジデントチーフイノベーションオフィサーだった馬場 渉氏を起用した。白物家電が、単なる「モノづくり」では生き残れないがゆえの判断だろう。

樋口 泰行氏(写真は2015年10月のもの)

また、同社のIoTに関連する最大の動きといえば、やはり日本マイクロソフトで会長を務めていた樋口 泰行氏の復帰だろう。もともとパナソニック出身の樋口氏は、その後外資系のITベンダーを渡り歩き、実に25年ぶりのパナソニック出戻りとなった。旧AVCのコネクティッドソリューションズ社長であり、B2B領域の担当ではあるが、パナソニックがB2Bシフトを掲げる以上は無視できない流れといえるだろう。

一方で同じ関西の家電メーカーのシャープも徐々にIoT時代の態勢を構築しつつある。鴻海出身の戴正呉(たい せいご)氏が社長就任後、初の記者会見で「シャープをIoTの会社にする」と宣言したことは記憶に新しいが、スマートフォンやネットワーク製品を手がける「通信システム事業本部」を「IoT通信事業本部」に改称。さらに、IoTは単にデバイスをインターネット経由で繋げるだけでなく、データを吸い上げるクラウドシステムが重要になることから「AIoT(モノの人工知能化)」を提唱している。

AIoTを他社と接続へ

このAIoTは、シャープの各種家電製品を横断的に繋ぐもので、「COCORO+」と呼ばれるAIエンジンをあらゆる製品に搭載。ロボットのスマートフォン「ロボホン」やAQUOSスマートフォン、はてはオーブンのヘルシオにまで対話機能を持たせた。共通ブランド化だけでなく、こうした技術を横串に搭載することで、さまざまなデータを集約・分析できるほか、さらなる機能改善やマーケティングにも利用できるメリットがある。

AIoTプラットフォームのアプリ「ココロボ~ド」は、LINEなどとは異なる専用のアプリにすることで、ユーザーがノイズに左右されずに家の家電情報などを取得できる

さらに7月5日には、アルテリア・ネットワークスとアイホン、アッサアブロイジャパンの4社共同でマンション向けIoTソリューション「つたえるーむ」プロジェクトを発表。シャープはAIoTプラットフォームを提供しており、家電操作が可能となるコミュニケーションアプリ「ココロボ~ド」との連携によって、専有部と共有部双方の鍵管理が可能となる。

同サービスの販売を手がけるのはアルテリア・ネットワークスで、マンション向け光回線サービスでシェア1位の事業者だという。アイホンは、インターホンシステムの提供とサービス連携、アッサアブロイは共用部と専有部のドアロックシステムを担っており、すでに内定しているものを含めて2018年度までに50棟、約4700戸を販売する。また、3カ年では累積175棟、1万6000戸の目標を掲げている。

AIoTで今までなかったシャープとの接点を生む

ただし、4社が掲げた3年間の販売目標は、売上高が14億円と顔揃えの割には少額にとどまる。マンション導入時の各種施工費などは1部屋あたり15万円と「もともと施工にかかる費用とあまり差はない」という。サービスとしての提供になることから、月額利用料が380円、そのため総額でも14億円程度になるわけだ。

もちろん、この4社がまとまって販売することで、それぞれ独自のチャネルで思いもよらぬ商談につながる可能性はあるだろうが、そこまで旨味があるようには見えない。しかし、会見に登壇したシャープのIoT通信事業本部 IoTクラウド事業部長の白石 奈緒樹氏は、昨年のCEATECにおけるCOCORO+のコンセプトが結実した1つの姿だとして手応えを感じているとした。

他社にとって見れば、プレイヤーの一人としてシャープが参画しており、また全社的に展開するAIoTのプラットフォーム基盤を活用できることは、エンドユーザー視点で考えてもメリットは大きい。一方のシャープにとっても、これまでは家電製品を購入してもらえなければアプローチできなかったユーザーに対して接触する機会が得られる。

また白石氏によれば、Googleの「Google Home」やAppleの「Homekit」といったスマートホームプラットフォームとは「競合する関係ではない」という。むしろシャープの理想像は、さまざまなプレイヤーとの話し合いによって自分たちがインタフェースとして仲立ちし、その一部のプラットフォーム連携にこれらのサービス基盤を活用したい考えのようだ。

新築マンションの新規供給戸数は10万戸弱で推移しており、販売目標はそのうちのおよそ5%に過ぎない。ただ、シャープにしてみれば「シャープと接する機会」を増やすモデルケースであり、今後の異業種連携が増えていく可能性を十二分に示唆している。

つたえるーむ発表会に登壇したシャープ IoT通信事業本部 IoTクラウド事業部長 白石 奈緒樹氏(左から2人目)ら
新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。