“セダン復権”の使命は果たせるか、大変革のトヨタ「カムリ」が登場

“セダン復権”の使命は果たせるか、大変革のトヨタ「カムリ」が登場

2017.07.11

トヨタ自動車が“セダン復権”の期待をかける新型「カムリ」を発売した。デザインから走りまで、全てを一新して世に問うトヨタ・ミッドサイズビークルカンパニー(Mid-size Vehicle Company)の主力車種だが、日米でセダンからSUVに需要がシフトするなか、カムリはトヨタが課した重い使命を果たすことができるのだろうか。

トヨタの新型「カムリ」。キャッチコピーは“ビューティフルモンスター”だ

繰り返された「セダン復権」という言葉

カムリの前身である「セリカ カムリ」の誕生は1980年のこと。ミッドサイズビークルカンパニー・プレジデントの吉田守孝専務は新型カムリの発表会に登壇し、「ソアラ」「チェイサー」「セリカ」などの車種が生まれた1980年代を「クルマが注目された時代」と振り返った上で、新型カムリには「もう一度、ハンドルを握る歓びを」という思いを込めたと語った。

吉田専務は発表会で「セダン復権」という言葉を繰り返した。これは、日本や米国などで、クルマの需要がセダン系からSUVなどのライトトラック系にシフトしていることを意識した発言だ。セダン復権の使命を課す新型カムリには、デザインと走りの両面で全面的な刷新を施したという。カムリの開発責任者を務めたミッドサイズビークルカンパニー・チーフエンジニアの勝又正人氏は、今回のフルモデルチェンジを「前例のない変革」と表現した。

発表会に登壇した勝又氏(左)と吉田専務

大変革を可能にしたのは、新型カムリが採り入れたトヨタの新しいプラットフォーム「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」の存在だ。トヨタはTNGAを2015年12月発売の「プリウス」から導入しているが、TNGAにもとづき、パワートレーンを含む全ての要素をゼロから作り上げたクルマはカムリが初めてだ。

デザインも走りも違う新しいカムリ

TNGAの導入により、大幅な刷新を遂げた新型カムリ。プラットフォームのみならず、全ての部品をゼロから開発できたのは、「千載一遇」のチャンスだったと勝又氏は振り返る。

新型カムリはデザインを見ても、2011年に登場した先代カムリからは大きく変化している。トヨタが新型でこだわったのは「理屈抜きのかっこよさ」。クルマをかっこよくするには「車高も(エンジン)フードも低い方がいいし、タイヤは四隅に配置した方がいい」(勝又氏)という基本的な考えのもと、エンジンルーム内に収まる部品のサイズまで考慮した上で、今回のスタイリングを実現した。

フロントマスクが目を引く独特なデザインの新型カムリ(左側)。右が先代カムリだ

走りの部分でも、ゼロから作り直した新型カムリは大幅な進化を遂げている。勝又氏によると、TNGAで実現した低重心のパッケージは、走りのよさを生み出す基本的なファクターであるとのこと。重いものを少しでも低く、少しでも中央よりに配置することで、基本的な性能を飛躍的に向上させたそうだ。そのうえで、リヤサスペンションにダブルウィッシュボーン式を採用したり、ボディーおよびステアリング系の剛性を高めたりすることで、運動性能を大幅に引き上げたという。

車高は低く抑えた

パワートレーンには新開発の「ダイナミックフォースエンジン」を採用し、新世代のハイブリッドシステム「THSⅡ」を組み合わせた。排気量は2487ccで、モーターとエンジンを合わせたシステム全体の出力は211PSとなる。この組み合わせにより、同排気量ではトップクラスとなるリッターあたり33.4キロの低燃費を実現した。

新開発のエンジンを搭載

米国ではガソリンエンジンの設定もあるそうだが、日本ではハイブリッドのみの販売となる新型カムリ。3つのグレードがあり、税込み価格は329万4000円から419万5800円となる。セダン復権を果たすためにも、まずは台数を伸ばしたいところだろうが、トヨタはどのような販売戦略をとるのだろうか。

トヨタのセダンユーザーに乗り換え需要?

日本における新型カムリの月販目標台数は2400台。年間に直せば3万台弱という数字だ。ちなみに、日本自動車販売協会連合会によると、2016年4月から2017年3月までの乗用車販売台数ランキングはトップがプリウスの約22万5000台。カムリと同じく、トヨタが「グローバル量販車」に設定する「カローラ」は8万台強という結果だった。もちろんカローラやプリウスとは価格も立ち位置も異なる新型カムリだが、セダン市場に逆風が吹いていると言われる中で、月間2400台の目標は達成できるのだろうか。

トヨタで国内販売を担当する村上秀一常務によると、日本には現在、新車で購入されたカムリが約7万台存在する。一方、トヨタのミディアムクラス以上のセダンに乗っている人は250万人に及ぶそうだ。この差に潜在的な需要があるというのがトヨタの見立てのようで、村上常務は、セダンユーザーの100人に1人でもカムリを購入してくれれば、販売目標達成は難しくないとの考え方を示していた。

トヨタのセダンユーザーによる乗り換えは進むか

全国4000店の販売網

カムリの販売戦略として、トヨタは取り扱い店舗を増やす計画だ。従来は「カローラ店」のみの販売だったが、新型カムリでは「ネッツ店」および「トヨペット店」でも販売する3チャネル体制を敷く。これにより、カムリは日本各地に広がる約4000店の販売ネットワークに乗ることになる。

カムリはグローバル量販車なので、トヨタとしては当然ながら、世界での販売台数も伸ばしていきたいところ。米国では15年連続で乗用車販売台数ナンバーワンを獲得し、世界では100カ国以上の国・地域で累計1800万台超を売ったという実績を持つカムリだが、米国では「ホワイトブレッド(食パン)」というニックネームで呼ばれることもあり、堅実ながら特色に乏しいといったような評価もあったそうだ。そういう意味で、今回の「前例のない変革」が、米国市場に響くかどうかにも注目したい。ちなみに、米国でカムリは月間3万台超の売れ行きであり、新型でも同じ水準を維持していきたいというのがトヨタの考えだ。

吉田専務が1980年代に言及したことからも分かるように、トヨタが新型カムリの主な購買層と考えているのは当時のクルマ好き、もっと言えば50代以上の顧客だろう。しかし、今回の新型カムリはTNGA導入もあって大幅な変化を遂げているので、トヨタとしては往時のカムリを知らない若い客層の獲得にも挑戦するつもりのようだ。SUV流行りの市場に乗り出す新型カムリの売れ行きと評判は、セダンというクルマの現在地と可能性を探る上でも重要な指標となりそうだ。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。