「エクストレイル」に乗って考えた日産“らしさ”の行方

「エクストレイル」に乗って考えた日産“らしさ”の行方

2017.07.14

日産自動車が主力SUV「エクストレイル」をマイナーチェンジして発売した。変更点はいくつかあるが、最も目を引いたのは運転支援システム「プロパイロット」の搭載だ。今回はエクストレイルに乗って新機能を試しつつ、日産が「自動化」と「電動化」を2本柱に進める技術開発の方向性について考えてみた。

試乗した「エクストレイル」はハイブリッドタイプだった

SUVに運転支援機能を展開

日産のSUV「エクストレイル」に、メーカーオプションとして運転支援機能「プロパイロット」が設定された。これは、先にミニバンの「セレナ」に設定された機能で、スイッチを入れると、同一車線内で加減速と操舵を自動的に支援し、より快適な運転ができるようにする。現段階では自動運転と言えず、運転者が操作の責任を負う運転支援だが、適切な条件下であれば、あたかも自動運転のような走りを体験することができる。

ハンドルの右側スポークにあるプロパイロットスイッチを入れ、次に、追従型クルーズコントロールのスイッチを入れると、前を走るクルマとの車間距離を保ちながら、設定速度内で現在走行中の車線内を維持するように、クルマが自ら制御する。前走車がいなければ、設定速度を維持して走行を続ける。

青いマークが見えているのがプロパイロットのスイッチだ

国産車では、スバル「アイサイト」に追加されたツーリングアシストが登場するまで、ハンドル操作をクルマが主導し、車線内を維持する機能は日産セレナのみであった。エクストレイルがマイナーチェンジを受ける時期を捉え、プロパイロットを設定したのである。セレナ発売から約10カ月を経て、今回試乗したエクストレイルのプロパイロットは、着実な進化を体感させた。

進化とは何かといえば、より自然な操作になり、あたかも自分で運転しているかのような、違和感のない作動となったのである。

実は、昨年セレナに搭載されたプロパイロットも、一部の自動車ジャーナリストが評論したほど不出来ではなかった。技術面では改善すべき点があったかもしれないが、機能としては利点を実感できるものであった。

ハンドル操作の過剰は車酔いにつながる

自動車ジャーナリストは全般に一般の消費者に比べ運転に長け、また様々なクルマに乗る機会が多いので、試乗の評価は辛口になりがちだ。それは、技術評論として間違いではない。だが、消費者にとっての利点はどうかという視点では、セレナのプロパイロットも大いに評価されるべき性能であったのだ。

ミニバンの「セレナ」(画像)で「プロパイロット」を始めて導入し、SUVへと同技術を展開した日産

私の見るところ、一般的に多くの運転者は、運転中の視線が近く、たいてい目の前を走るクルマの様子を見ている。だが、本来は目の前のクルマを視界に入れながらも、2~3台前のクルマの様子や、その先の道の行方を見ているべきである。

それができず、目の前のクルマに注目しすぎるあまり、カーブではハンドルの切り遅れが生じ、切り遅れるので急ハンドルになり、急ハンドルになるので切り込みすぎてしまうことが多く、それを修正するためハンドルを切り戻す操作が入る。クルマが惰行すると言うほど大げさではないが、小さく惰行した状態が続くので、運転者はともかくも、同乗者は車酔いを起こしやすくなる。

プロパイロットのハンドル操作で同乗者も安心?

プロパイロットを利用すると、フロントウィンドウの上端に設定されたカメラで前方を見ながら、車線の真ん中を維持するようハンドルが自動調整されるので、曲がっていく車線の通りにハンドルが切り込まれる。つまり、ハンドルの切り遅れも、切り込みすぎも、切り戻しもない。小刻みな惰行をしなくなるので、同乗者は快適かつ安心して座席に身を任せることができ、車酔いもしにくくなる。

エクストレイルとプロパイロットの相性は

とくに、3列シートのミニバンでは、3列目の座席が後輪の後ろ側に位置するため、例えばバスの一番後ろの席に座ったように、体が余計に揺すられて車酔いしやすくなる。そのうえ、運転する人のハンドル操作の、切り遅れ、切り込みすぎ、切り戻しによる小刻みな惰行が加われば、車酔いするのは当たり前だ。プロパイロットなら、それがなくなるというわけだ。

日産が、車酔いしやすい座席のあるミニバンで最初にプロパイロットを設定したことの見識の深さに感銘したものである。結果、セレナ販売台数の7割近くの顧客がプロパイロットを注文しているという。消費者も、よくわかっている。

エクストレイルでは、それでもセレナで気になった点が改善されていると感じた。たとえば、車線の真ん中を維持しながら走行を続けるためハンドルを自動操作する際、ハンドルを小刻みに左右へ修正する様がセレナでは違和感を覚えさせた。その小刻みな動きがエクストレイルではなくなっている。

また、車線の真ん中を維持するとはいえ、セレナの場合はやや左に寄っているように運転席からは見え、路肩に寄りすぎてしまわないか気掛かりであった。これも、エクストレイルでは、運転席から見てまさに車線の真ん中を走り続けるような認識ができるようになった。

進化の理由は車種の違いだけ?

そのほか、速度を設定し、一定の速度で走行中、高速道路入口の合流や、追い越し車線からクルマが前に入ってきたとき、車間距離を保つため速度調節をすることになるが、その際の減速の仕方、あるいは前が開きすぎた際に速度を上げるときの加速の仕方が、唐突ではなく、それでいて遅れることもなく、的確に加減速するようになった。クルマがカメラで前の様子を見て、状況を確認し、判断し、そして操作につなげる様子が、人の運転に近くなったのである。

この改善点について、日産の関係者は一様に、車種の違いによるところが大きいと話す。たしかにセレナはミニバンであるため、車高が高く、走行中にふらつきやすい車種である。それを真っ直ぐ走らせたり、カーブを滑らかに走らせたりするためには、ハンドルの修正をこまめに行う必要があるかもしれない。

プロパイロットが進化したと感じるのは、車種の違いによるところが大きいと日産は説明する

また、今回はエクストレイルのハイブリッド車(HV)で試乗したのだが、セレナのマイルドハイブリッドに比べ、モーターをより積極的に使えるので、回生(モーターを発電機として使いながら、その抵抗で減速させる)による減速や、モーターによる加速により、加減速はより滑らかに、かつ力強く進化していた。その差は、ハイブリッドシステムの違いによる。

とはいえ、セレナ発売から約10カ月の間に開発者たちが尽力した成果が、車種の違いと合わせて、プロパイロットをより使いたくなる性能にしたのは間違いないだろう。

自動制御に適するモーター駆動

今回の試乗では、はからずもモーターの効用が明らかになった。実は、日産のプロパイロットや自動運転技術は、電気自動車(EV)で進められている。そして間もなく、新型「リーフ」にプロパイロットが搭載されることになる。

日産が技術開発の2本柱に据えるクルマの「自動化」と「電動化」の道が、次期「リーフ」でついに交わる(画像は現行リーフ)

プロパイロットや将来の自動運転に、なぜモーター駆動が効果的であるのか。理由は、エンジンとモーターの出力特性の違いによる。

エンジンは、回転数が高まるに従って力を次第に大きくしていく特性がある。それに対しモーターは、回転しはじめるときから最大の力を発揮することができる特徴を持つ。したがって、交通の流れの中で、頻繁に加減速が必要な状況では、起きた事態に対し素早く応答できるのがモーターなのである。

エンジンは、コンピューターが加減速を指示しても、それを実現するため、燃料噴射量を変更し、その燃料を使って燃焼が起こり、そこではじめて力を出す。力を出すまでのステップが多いのがエンジンである。対するモーターは、電流を調節すれば即座に出力を変えられる。この応答の良さが、滑らかな加減速につながる。

エクストレイルのプロパイロットでの加減速がより的確だと感じた理由は、ハイブリッドシステムの違いにあり、エクストレイルの方がセレナよりモーター依存度が高いため、加減速の制御をより緻密に行うことができたのだと想像できる。

間もなく、新型リーフにプロパイロットが搭載される予定だ。EVで、どんな作動感覚を味わわせるのか楽しみである。

音づくりから感じた日産の配慮

もう1つ、エクストレイルで気づかされたのは、運転者のハンドル操作がおろそかになったとクルマが判断した際の警告の出し方である。

まず、メーター内のインジケータに警告が示される。それに気づかないでいると警告音が鳴る。これが電話の呼び出し音のような音色で、しかも音量はそれほど大きくはない。音量が小さいと聞き逃す恐れがあるが、その音を、電話の呼び出し音のようにすることで、人はその音に気付きやすくなるのではないか。

現代人は、日常生活の中で電話への応答には敏感になっている。「ピピピッ」とか「ビー」というような別の警告音であれば、鬱陶しく思ったり、同乗者も不安になったり、音量が大きくないと聞き逃したりしそうだ。しかし、電話の呼び出し音に似た音色であれば、誰もが気付きやすく、なおかつ強い警告音より嫌悪感は少ないのではないだろうか。

今後、自動運転へ向かって開発が進むにつれて、万が一の状況に対し、クルマが運転者や同乗者へ警告を発する場面が増えてくるかもしれない。その際に、確実に認識され、なおかつ鬱陶しく感じたり強く不安を与えすぎたりしない表現方法が必要になってくるだろう。一般的に、ヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)といわれる分野だ。

HMIにメーカーごとの個性が出るとすれば、それは将来のクルマ選びに影響を及ぼす要素になる

自動化・電動化の時代に重要となる差別化ポイントとは

EVやHVが低速走行する際、エンジン音がしないので危険だとの指摘を受け、国土交通省は低速走行中の音出しを指導した。それに対し日産は、様々な音を研究し、人工的に音を合成し、耳に心地よく、かつEVらしく、それでいて確実にクルマが走っていることを知らせる音作りをしてきた。それを搭載したリーフの擬音は、他社に比べいい音色だと思う。

次世代のクルマには、そうした人とクルマとの関係を取り持つ新たな表現方法がますます必要になってくると思われる。

EVや自動運転はクルマをコモディティ化するので、メーカー側は商品性を示せなくなったり、クルマがつまらなくなったりするのではないかと懸念する声を耳にする。だが、プロパイロットの仕上がり具合や、リーフの疑似走行音など、メーカーごとの違いを明らかにする手法は、その企業の商品性の与え方や、目指すべき商品の姿が明確であるかに関わってくる。

コモディティ化どころか、差別化がますます不可欠であり、そこが存亡を分けることになるのではないだろうか。

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LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

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2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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