トヨタが新型「カムリ」発売で連呼した“セダン復権”の真意

トヨタが新型「カムリ」発売で連呼した“セダン復権”の真意

2017.07.16

トヨタ自動車の新型「カムリ」発表会では、「セダン復権」という言葉が掲げられ、メディアでも広く紹介された。しかし世界的に見れば、セダン人気はまだまだ根強い。そんな中、なぜトヨタはこのメッセージを打ち出したのか。主要国の自動車シーンを思い出しながら考えた。

トヨタの新型「カムリ」

セダン全盛期は過ぎた? 日本の現状

7月10日の新型カムリ発表会では、昨年発足したトヨタ・ミッドサイズビークルカンパニーのプレジデントである吉田守孝氏が、SUV人気が高まる中でセダンを復権させたいとアピールした。

そのためにトヨタは、プリウスで初採用した「TNGA」コンセプトをプラットフォームのみならずパワートレインにも投入し、オールニューTNGAの第1号車としてカムリを開発。ミッドサイズビークルカンパニーが手掛けた初の新型車でもあり、「前例のない変革」であることを強調していた。

ミッドサイズビークルカンパニー・プレジデントの吉田専務

確かに今の日本でセダンは売れていない。2016年の新車乗用車販売台数ベスト10は、軽自動車5台、登録車5台という内訳で、前者はハイトワゴン・スーパーハイトワゴンとハッチバック、後者はハッチバックとミニバンのみであり、セダンは入っていない。

トヨタで言えば、「カローラ」や「マークⅡ」などが上位に入っていた1980年代とはかなり様相が異なる。もっとも、ここにはSUVもランクインしていない。

日欧は例外的な市場とも言える

では欧州はどうか。同じ2016年のデータで見ると、SUVは8位に日産自動車「キャシュカイ」(日本では旧型をデュアリスとして販売)、10位にルノー「キャプチャー」が入っており、残りはすべてハッチバックである。こちらにもセダンの姿は見当たらない。

日産「キャシュカイ」

ここだけ見ると、確かにセダン凋落というイメージが思い浮かぶ。しかし、昨年日本で売れた新車乗用車は約497万台であり、8424万台と言われる世界販売台数の6%にも満たない。欧州全体では1708万台となるものの、こちらは29カ国の合算である。

日本の自動車業界は、とかく欧州の動向を気にする。たしかに欧州は自動車発祥の地であり、プレミアムブランドをはじめ名門が数多く存在する。しかし世界的に見れば、欧州はやや特異なマーケットということもできる。

売れ筋は前述のとおりハッチバックであり、この傾向は1970年代から変わらない。ワゴンも根強い人気がある。しかしそれ以外の国や地域で、この2つのボディタイプが支持されている場所は少ない。日本が数少ない例外と言ってもいいぐらいだ。

カムリのメインマーケットはどんな状況か

ご存知の方もいるだろうが、カムリのメインマーケットは日本ではなく北米だ。現地では15年連続で乗用車ベストセラーの座を維持するという、とてつもない記録を打ち立てている。

カムリは米国で15年連続の乗用車ベストセラーとなった(画像は新型カムリ)

ただ注意してほしいのは、米国ではSUVは乗用車ではなく小型トラックのカテゴリーに含まれることだ。そこで、両者の昨年の販売台数をチェックすると、乗用車は約711万台で前年比8.1%のマイナス、小型トラックは1045万台と逆に7.2%のプラスになっている。

たった1つの国で欧州並みの数字を弾き出していることに驚くと同時に、SUVが大幅に伸びていそうな予感を受ける。ところが総合ランキングを見ると、1位はフォード「Fシリーズ」、2位がシボレー「シルバラード」、3位がフィアット・クライスラー(FCA)の「ラム・ピックアップ」と、旧ビッグ3の小型トラックがトップ3を占めている。

4位が乗用車最上位のカムリで、ベスト10内に入っているSUVは7位のホンダ「CR-V」、8位のトヨタ「RAV4」、10位の日産「ローグ」(エクストレイルの兄弟車)だ。CR-VとRAV4は我が国では販売終了となってしまったが、北米では依然として根強い人気を保っている。

ホンダ「CR-V」

モデル末期でも売れていたカムリ

一方、昨年のトヨタ・グループの米国での販売台数は245万台で、「レクサス」などを除いたトヨタ・ブランドで見ると、乗用車が101万台で昨年より9%減少しているのに対し、SUV(ピックアップは含まない)は67万台で同10.6%増になる。

乗用車のベストセラーはもちろんカムリで、モデルチェンジ直前にもかかわらず39万台も売れた。カローラも38万台で肉薄している。SUVトップはRAV4の35万台、次は大型の「ハイランダー」で19万台だ。

米国全体で見ても、トヨタだけで見ても、セダンに代表される乗用車のシェアは落ちており、逆にSUVは伸びている。しかしカムリは、モデル末期の昨年でさえSUVより売れていたわけで、壊滅的な打撃を受けているわけではない。

国によって違うセダンの立ち位置

筆者は今年、米国、中国、タイ、シンガポール、フランスと海外5カ国を訪問した。その経験から言えるのは、フランスを除けば依然としてセダン人気が根強かったことだ。

アジアを走る車両は米国より小柄だけれど、居住スペースと荷室が完全に分かれ、SUVやミニバンのように背が高くない分、乗り心地やハンドリングでも有利なセダンが一定の評価を受けていることは理解できた。

一方の北米では、SUVやミニバンがファミリーカーとしての役目を担ってくれるおかげで、セダンはかつてのクーペのようにパーソナルカー的な位置付けにシフトしつつある。こうした状況にいち早く反応したのが欧州プレミアムブランドで、1980年代の日本で流行ったクーペのように、低く流麗なスタイリングの4ドアを相次いで送り出した。

セダンの魅力を再定義した新型カムリ

対するカムリは、これまでは「大きな実用車」であり続けてきたと筆者は感じている。15年連続ベストセラーという快挙は、それが支持されてきた証拠だろう。SUV人気は盛り上がりつつあるが、キープコンセプトでも相応の数字は出せたのではないかと考えている。

キープコンセプトでも相応に売れたかもしれないが、トヨタはカムリに大幅な変更を施した

しかし前述したように、SUVはファミリーカーとしても選ばれており、従来その任務を担ってきたセダンはパーソナル性を高める方向にシフトしつつある。しかもトヨタでは、新型カムリの開発と並行して、クルマづくりの構造改革であるTNGAも進行しつつあった。そこでトヨタは、TNGAをすべて注ぎ込み、ゼロからカムリを一新した。

世界的に見ればセダンはさほど凋落してはいない。だからガチンコ勝負するのではなく、SUVでは表現できないデザインや走りをアピールしようとトヨタは考えた。つまり、セダンの魅力を再定義することで復権を目指したのが新型カムリではないかと思っている。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu