あのミートソースも躊躇なく刷新! モスバーガーの自信を支えるもの

あのミートソースも躊躇なく刷新! モスバーガーの自信を支えるもの

2017.07.19

モスバーガーを運営するモスフードサービスは先頃、定番商品のリニューアルと夏の新作バーガーを発表する記者会見を行った。あのミートソースにも改良を加えたというが、そんな決断ができるのも、コアなファンとの関係性を重視するモスならではなのかもしれない。

定番商品のリニューアルと夏限定商品を発表したモスバーガー

バンズには全粒粉12%を配合

発表会の中身は、定番商品である「モスバーガー」および「テリヤキバーガー」に変更を加えることと、夏限定の新商品「アジアンカレーモスバーガー」を発売することだった。

定番商品刷新の中身として、バンズは10年ぶりのリニューアルで、香ばしさと食べごたえがアップ。ミートソースは4年ぶりのリニューアルで、コクと甘さが向上している。

定番のモスバーガーを改良

新しいバンズは全粒粉を約12%配合し、かつ国産小麦を約3%配合している。これにより、食べごたえだけではなく、ミネラルや食物繊維を多く含む全粒粉の使用により、健康志向の顧客にも訴求できるという。実際の変化は微小で、バンズをかみ切るときの歯触りが少しプチッと感じた程度。提供する直前に焼き上げられるバンズの香ばしさは健在だ。

夏の新商品はスパイスの効いた本格的なカレー味

次に夏の新商品だが、アジアンカレーモスバーガーはアジア圏において、祝い事などでよく食される「ルンダンカレー」をモス流にアレンジした逸品。インドネシアなどで使われる「サンバル」をはじめ、シナモンやクローブなど、11種類のスパイスとココナッツの香りが食欲をそそる。

アジアンカレーモスバーガー

カレーソースは日本の食卓に並ぶ一般的なカレーとは一線を画す味わいで、スパイスの味わいをうまくいかした本格的な仕上がりとなっている。隠し味のみそも味わいをまとめる効果を発揮しているが、やはりモスらしく、モスファーム製トマトの甘さが相まって、辛いだけのカレーで終わっていないのも嬉しい。

この発表会にはモスバーガーを運営するモスフードサービスの中村栄輔社長が登壇し、商品の概要などと合わせて同社の戦略について語った。

定番商品あってこそのビジネスモデル

発表会の冒頭で中村社長は、モスバーガー事業の原点は「おいしさ」であると明言。「定番商品をもっとおいしく」し、「抜群なおいしさを追求」していくと言葉を続けた。

モスフードサービスの中村社長

キャンペーンに関する考え方としては、これまでは期間限定商品で来店の動機付けを狙っていたが、これからは定番商品を土台とした来店のきっかけを豊富に用意し、顧客の認知や理解促進につなげていく。これはつまり、「季節限定の商品があるから来店する」という観点からの顧客訴求ではなく、定番商品を含むあらゆるきっかけを顧客に提供し、「面」としての訴求を図るということだ。

一般的に、季節限定商品には「点」として販売額を上昇させる効果があると考えられている。「点」というのは、売上の上昇効果が限定的だからだ。販売額を維持しようと季節限定商品を出し続ければ、見た目の販売額を前年比で上昇させることは可能だ。しかし、定番商品の販売額が低減しているのであれば、全体として見た場合の商品力は低下していると判断できる。

季節商品に特化しては「点」の顧客訴求になってしまう

モスの戦略にブレは感じなかった

モスバーガーの戦略は揺るがない、という決意を感じたのもこの会見であった。同業他社が単価アップや集客増を目指した期間限定商品の乱発に奔走する中で、モスバーガーの戦略はブレないことを中村社長は明言した。「定番商品の質を上げること、そして価格は変えない」。つまり、相対的に商品の価値は上がっているという説明だった。

原材料や人件費などのコストは上昇傾向にある。また、今回の発表にもあったが、国産小麦粉の使用はコスト増の要因となる。そのコストは誰が負担するのだろうか。質疑応答の中で中村社長は、「コストはサプライヤー側で負担する。店舗やFC(フランチャイズ)オーナーには転嫁しない」と語った。つまり、全社数値としてのコスト増ではあるが、店舗には負担させない、ということである。FCオーナーにとっては朗報に違いない。

コアなファンの声を重視

ファストフード店が採用しがちな売上向上策はクーポンやアプリによる値引きだが、この施策は来店客数を増加させても、客単価を押し下げる負の効果がある。逆に客単価の向上につながる値上げは、顧客離れを引き起こす要因になりかねない。このジレンマを抱えるファストフード業界にあって、モスはコアファンの存在とコミュニケーション戦略を強みとする。

モスは新商品の企画段階で消費者の意見を取り入れる。顧客の声には同業他社も耳を傾けているが、ここからがモスのすごいところ。実際に顧客の声から商品を開発したり、ビジネスとして立ち上げたりする仕組みを構築しているのだ。

例えばモスファームの野菜を店舗で販売するなど、顧客の声をヒントに始めたビジネスは多い。顧客の立場に立ってみても、声を聞いてくれる店であることが来店動機の1つになっていることは想像に難くない。

FCオーナーと共有する成長目標は“101%”

ファストフード業界にあって独特の存在感を放つモスバーガーは、いかにして誕生したのか。ここで振り返ってみたい。

2016年度の業績では、チェーン全店売上高約1052億円、売上高約709億円、店舗数1392店(FC含む)という規模のモスバーガーチェーン。大阪万国博覧会を契機に多くのファストフードが日本に上陸するなか、日本で生まれ、日本の味を大切にするハンバーガー専門店として1972年にオープンした。注文を受けてから作るスタイルを大切にし、ファストフード業態の中でも、早くから「安全・安心・健康」という考え方を導入し、今では「モスの生野菜」として野菜単品の販売もしている。

新鮮な野菜はモスの名物になっている

消費者の節約志向が続くなかで、「顧客に選ばれるために、何が必要か」を常に考え、実践しているのがモスバーガーだ。同業他社がクーポンの乱発や価格競争に走っても、モスはその渦中に飛び込もうとはしなかった。なぜなら、それはコアなファンが望んでいなかったからだろう。モスは独自の立ち位置を維持しながら、今年で45周年を迎える。

モスが株主やFCオーナー宛に発行する「モスのコミュニケーションレポート」には、中期経営計画で既存店売上101%を達成し続けるとの目標が掲げられている。FC店舗が多い中で、共通した理念を共有することは重要だ。100%ではなく105%でもない、101%という数字が共通理解になっていることは、FCオーナーとの関係を重要視しているからであろう。

モスバーガーが日本人のソウルフードに?

黒船として日本進出を果たし、存在感を濃くしつつあるシェイクシャックやカールスジュニアといったバーガーチェーン。そして、勢いを取り戻しつつある日本マクドナルド。ハンバーガー業界では、生き残りをかけた戦いが日々、繰り広げられている。

1970年代に産声をあげたモスは、今や世代を超えるファンを獲得するまで日本に浸透している。いわば、新たなソウルフードに最も近い距離にいるハンバーガーショップなのではないだろうか。

モスバーガーは日本の新たなソウルフードに最も近い存在かもしれない

ハンバーガーショップだけが相手ではない

消費者はハンバーガー業態の中だけで消費先を選択しているのではない。今日は500円、明日はちょっとぜいたくに1000円という風に、食事の場所については常に模索している。コンビニをはじめ選択肢が山ほどあるなかで、消費者は何を基準に訪れる店を選択しているのだろうか。行き先が未定であればスマホでクーポンがゲットできる店舗に足を運ぶケースもあるだろうし、コンビニの“中食”あるいは丼物の業態に足が向くかもしれない。

店舗が提供する価格帯と価値が明確であること。おそらく、これが消費者から選ばれる秘訣だ。クーポンがあるから行くのではなく、食べたいものがそこにあるから行くというのが、消費者の本音だろう。安くてもおいしくなければ、足を運ぶことはなくなる。安いから売れるという時代が過ぎ去った今、消費者の求める価値を備えていることこそが、消費者の選択肢に残る資格となる。

モスバーガーは、どんな時代においても自身の価値を磨き続け、顧客だけではなく生産者や関係者といったパートナーに正面から向き合っている。商いの基本を常に忘れない企業の1つという印象を受けた。ブレない姿勢だけでなく、期待を裏切らない商品を提供し続けていることが、消費者の支持を得ている原因といえよう。

全方位の顧客に支持されることは、ビジネスとしては重要な要素であるが、逆に訴求する対象を狭めることにより、自身の強みを維持・発揮できることも、ビジネスを進める上での戦略の1つだ。モスフードサービスは、自らの強みと弱みを理解しているから、競合ひしめく業界で独特な立ち位置を維持できているのだと感じた。

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。