世界遺産登録でさらに注目を集めたい「観光立国1丁目1番地“上野”」の戦略

世界遺産登録でさらに注目を集めたい「観光立国1丁目1番地“上野”」の戦略

2016.05.26

あまり知られていない都内の世界遺産候補「国立西洋美術館」。フランスの推薦枠で今年世界遺産に登録されようとしている。今までに世界遺産に登録された場所は、その後瞬く間に観光名所になっているが、果たして国立西洋美術館はどうなるか。台東区、そして文化庁の腹案は。

ル・コルビュジエの建築作品についてイコモスが「記載」勧告

ユネスコの諮問機関イコモスは、日本を含む7カ国で世界文化遺産に共同推薦(フランス枠で推薦)している「ル・コルビュジエの建築作品ー近代建築運動への顕著な貢献」について、「記載」が適当との勧告を出した。ル・コルビュジエとは20世紀の世界中の建築物や都市計画に大きな影響を与えた建築家で、「近代建築の巨匠」といわれている。

「サヴォア邸」(提供:文化庁)

1階部分を柱のみ残す形式の「ピロティ」、ガラスの面積を大きくとることができるようにした「横長の窓」、などと現在目にする多くの建築物の「当たり前となっている様式」を創った功績がある。「当たり前すぎて、すごさが分かりにくいですよね。当たり前を作ったのが、ル・コルビュジエのすごいところなのだと思って見てほしい」と台東区の担当者。遺産はフランス、日本、ドイツ、アルゼンチン、ベルギー、インド、スイス、の7カ国にまたがっていて、登録が実現すれば、大陸を横断した初めての世界遺産になる。推薦は7カ国を代表して、最も多い10資産を持つフランスから出されている。日本からは、ル・コルビュジエが国内で唯一設計した国立西洋美術館が資産として入っている。

「国立西洋美術館本館」(提供:国立西洋美術館)

この建物には、「無限成長美術館」の構想が採り入れられている。「無限成長美術館」とは、ピロティから建物の中心に入り、外側に向かって螺旋状に順路をとる。そのため、作品の増加にあわせて展示スペースを延長できるという構想だという。

7月にトルコ・イスタンブールで開催される世界遺産委員会で登録の可否が決まるが、イコモスから「記載」勧告を受けた案件で、登録されなかった例は基本的にはない。登録されれば、日本国内では16件目の世界文化遺産の誕生となる。

「記載」勧告後の国立西洋美術館は

5月21日、東京上野。上野駅公園口付近には、観光バスが何台も連なり、地方からの団体客が続々とバスから降りてくる。駅の改札に目を向けてみると休日とあって家族連れや、ここのところ増加している外国人観光客の姿が見られた。休日の上野は人が多い。それは毎度のことだが、この休日は特に人が多いように思えた。あまり目立たないが、園内には以前から「国立西洋美術館を世界遺産に」というのぼりが置かれている。この日行ってみると、のぼりは「国立西洋美術館 世界遺産『登録』勧告」に変わっていた。

5月21日東京・上野公園

国立西洋美術館は、公園口から入ってすぐのところにある。勧告翌日にも訪れたが、入り口前に来ると、門の外から建物の写真を撮っている人が何人もいて、中に入る人の列もできていた。

5月18日国立西洋美術館を写真に撮る人の姿が。

「ハコモノ」をどうみせるかという課題。その答えは

世界遺産の効果はあるか。美術館の担当者に話を聞くと「カラバッジョ展が好評なのです。勧告前から来場者の数が増えていっています。列ができているのは、チケット売り場が3列しかないからですね。それと、都立美術館で開催されている若冲展が何時間待ちという状態なので、代わりにカラバッジョ展に行こうかと来られる方もいるみたいです」とのことだった。現在のところ、館内の常設展入り口前に「建築探検マップ」と書かれた国立西洋美術館のパンフレットが置かれているほか、常設展の一部でパネル展示をしているのみだという。「ここは博物館なので、展示物がメインですから」と担当者。「上野に来る目的が1つ増えれば」と周りの施設との連携を考えているという。「ハコモノをどう見せるかが課題」(美術館担当者)。元々観光地であること、“展示物が主役”の美術館ならではといえる。ある意味、静かな世界遺産になりそうだ。だか、それだけでは終わらないのが上野だ。

ちなみに、登録の可否が決まる前の7月9日から(9月19日まで)「ル・コルビュジエと無限成長美術館―その理念を知ろう」と題した展示が行われる。「無限成長美術館」といわれても、正直よくわからないだろう。その理念や、国立西洋美術館でどのように表現されているかといったことを、CGや写真などを使って説明するという。

上野公園には「西郷さん」だけでなく、「ミニ清水寺」「大仏」もある

上野公園の歴史は意外と知られていない。江戸時代にはこの地は徳川家の菩提寺の1つである寛永寺だった。現在の寛永寺は東京藝術大学の北にあるが、最盛期には上野公園を中心におよそ30万5000坪に及ぶ広さがあったのだ。大仏あり、京都の清水寺を模した清水観音堂あり、五重塔あり、東照宮ありとそんな場所だった。

(左)「西郷さん」で親しまれる上野公園の西郷隆盛像。(右)京都・清水寺を模した「清水観音堂」

幕末には新政府軍と幕府側との戦争によって焼け野原になったが、明治になると近代化による産業革命の波が一気に押し寄せ、上野公園では産業育成のために1877年「第1回内国勧業博覧会」が開催された。

その後東京国立博物館の前身となる「博物館」が内幸町から移転、岡倉天心によって東京藝術大学の前身となる「東京美術学校」が設置されるなど、上野公園には近代国家を支える文化施設が集約された。この頃に「上野動物園」や「西郷隆盛像」といった上野公園のシンボルができる。

関東大震災時には、仮設住宅1万棟が建設され、配給所や託児所、病院なども設置された上野公園だが、その後 「東京府美術館(現・東京都美術館)」、「東京科学博物館(現・国立科学博物館)」が開館。

第二次世界大戦では、動物園の動物が処分されたり、不忍池が水田として利用されたが、終戦後には上野観光協会の前身組織である上野鐘声会が、荒れ果てた上野の山を回復させるため、1250本の桜の木を植林して景観を蘇らせ、水田として利用されていた不忍池を、元通りの姿へと戻した。さらに、国立西洋美術館や東京文化会館などができ、上野は現在、文化の集積地として日本で一番の場所になっている。

「日本の文化の中心」から「世界の文化の中心」を目指す

政府は、東京五輪が行われる2020年に向けて、様々な文化プログラムの展開を図ることで、日本を世界の文化交流の拠点として躍進させたいとしている。それにふさわしい場所として、白羽の矢が立ったのが上野公園。成田空港からのアクセスもよく、外国人観光客にとっても足の運びやすいといった潜在能力の高い立地に、先に述べたとおり、江戸時代からの歴史的資源や、自然環境、そしてなにより東京藝術大学、博物館美術館、音楽ホールなど文化的な機関が集結している場所だからということはいうまでもない。ロンドン、パリ、ワシントンD.C.と比較しても遜色がなく、世界文化遺産に登録されているベルリンの博物館島に匹敵するポテンシャルを持っていると政府は期待を寄せている。

「点」から「面」へは実現できるか

「上野公園周辺の各機関・団体が相互に連携・協力することによって、それぞれが保有する文化芸術資源の潜在価値をより顕在化させ、その資源を有効活用するとともに相乗効果を増大させるべく、上野公園を中心とした区域を国際的な文化の中心・シンボルとしていく」といった内容が「上野『文化の杜』新構想」の最終版には書かれている。要するに「点」から「面」へ。それまで個々で取り組んできたイベントやサービスを連携して行い、相乗効果を高め、国際的な文化の中心にしましょう、ということだ。具体的な構想については、上野公園周辺の文化機関や、行政、JRなどが名を連ねる民間団体「上野『文化の杜』新構想実行委員会」が実現に向けて動き始めている。

バスにも世界遺産登録の文字が。

実行委員会は昨年9月に立ち上がった。構想実現に向けた取り組みは始まったばかりだが、「手がつけられそうなところから始めています」と関係者は口をそろえる。そして実行委員会立ち上げからおよそ半年後、今年3月には、各施設が連携して「上野『文化の杜』アーツフェスタ・2016春」を初めて開催。フタを開けてみると各文化施設、地域の学校などとの連携については「横断の企画などはまだまだ時間がなかった」(実行委員会関係者)と課題が見えたそうだが、解決策も見えてきたという。秋に第二弾を行うが、連携強化に向けて改善を図るという。

そのほかには2000円の「共通入場券」を発行。これまでに5000人が購入しているが、国立西洋美術館が世界遺産に登録されたあかつきには、この券の表紙やスタンプラリーのグッズを国立西洋美術館仕様にして、盛り上げていきたいという。また、5月18日には「東京国立博物館」「国立科学博物館」「国立西洋美術館」「東京都美術館」「台東区立下町風俗資料館」の各施設で、常設展などを無料開放した。夏に向けては、今まで金曜日のみ午後8時くらいまで延長して展示を開催していたのを、曜日をさらに増やすことを検討しているという。

将来的に実現できたら利便性が高まる検討課題

博物館・美術館については、休館日を原則月曜日としているが、休館日をローテーションにすることや、展覧会の開催時間の夜間延長のさらなる拡充を検討している。さらに、広い園内の移動については、無料貸出自転車、カート、人力車サービスの利用といったことが検討課題として挙げられている。これらはまだまだ先の話になりそうだが、ますます利用しやすく魅力的な公園になりそうだ。

国際的な認知度アップへの寄与が期待される世界遺産登録

こういった様々な課題の中で国立西洋美術館の世界遺産登録については、登録によって上野の国際的認知度が高まり、さらなる集客効果が期待されている。そのために地元の協議会ともども登録に向けて協力体制ができており、イコモスの勧告においてもその点は高評価されている。

目標は2020年末に来訪者数3000万人

2014年度台東区観光統計・マーケティング調査によると、2014年の上野公園の平常時の観光客数は1253万人であり、イベントでの来訪者数を足すと1503万人になる。さらに、アメ横、谷中地区の観光客を含めれば2000万人を超えることが推測されている。その上で、周辺との連携や外国人観光客によって年間来訪者数3000万人という数字は実現できると政府はみている。走り始めたばかりのこの構想だが、マネジメント体制の構築などが急がれる。

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世界で500億台ものIoT機器が普及することが見込まれている2020年台がいよいよ目前に迫っている。

少し古い調査結果だが、2016年6月の経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、IT人材は2019年をピークに減少傾向へ転じ、2030年には(高位想定で)約78万人不足すると予測する。IT人材に限らず、日本では少子高齢化が進み、多くの業種で人手不足が発生するといわれている。

その対策の柱となるのが、人材育成だ。これまでの20世紀型のビジネスでの価値創造の要素が「ヒト・モノ・カネ」だったのに対し、今後は「データ・ソフト・サービス」に要素が大きくシフトするといわれている。すなわち、必要となる人材も大きく変わっていくことになる。それは、従来のICT企業に限ったことではなく、ユーザ企業においても然りだ。

そこで今回紹介したいのは、総務省が学生や若手エンジニアを対象にIoT人材育成を目的として実施している「Web×IoT メイカーズチャレンジ」である。2018年度は国内9か所でイベントが開催され、2019年2月から3月にかけては、東京でも開催された。この取り組みが何を変えようとして、どのような一石を投じているのか、イベントで実際に実施された内容を下敷きに紐解いてみたい。

Web×IoT メイカーズチャレンジ 2018-19

Web×IoT メイカーズチャレンジ開催の経緯

総務省の情報通信審議会の技術戦略委員会では、かねてよりIoT・ビッグデータ・AI時代の人材育成方策についての議論が続けられており、去る2016年には、中間答申というかたちで以下のような旨の提言も出されている。

「IoTを総合的に理解し、使いこなせる人材・アイデアを発想できる人材が求められており、若者やスタートアップを対象とした開発キットやオープンソースなどを使ったモノづくりを通じた体験型教育やアイデア・ソリューションを競うハッカソンの取り組みを推進することが重要である」

こうしたことを受け、日本最大規模の産官学のIoT推進組織「IoT推進コンソーシアム」の技術開発ワーキンググループ「スマートIoT推進フォーラム」に、「IoT人材育成分科会」が設置されることとなり、そこでの議論を踏まえてこの人材育成事業、Web×IoT メイカーズチャレンジがスタートすることになった。

IoT推進コンソーシアムとスマートIoT推進フォーラムの体制

では、具体的にはどのような人材が今後必要とされるのか? また、未来に向けて、どういった手法でそのような人材を育成していくのだろうか?

Web×IoT メイカーズチャレンジの基本方針などを策定する実行委員会の主査で、上述のIoT人材育成分科会の構成員でもある株式会社KDDIの高木悟氏と、同実行委員会で副査を務める一般社団法人WebDINO Japanの瀧田佐登子氏の両氏に、その点についての話を伺った。

高木氏は、IoTを活用し社会を変革する創造性豊かなエンジニアリング・イノベータ力を備えた若手人材の育成には、

(1)無線装置やセンサ・アクチュエータなどのハードウェアとコンピューティングロジックを中心としたソフトウェア双方を扱えるスキル
(2)情報システムの共通基盤技術となっているWeb技術に基づくIoTシステム構築スキル
(3)企業の製品開発やサービス企画の現場でも、新技術の迅速な導入にもスピード感を持って対応できるアジャイル開発に対応できるエンジニア力
(4)実際にアイデアを試作し、改良を繰り返して実現するプロトタイプ創出力といったスキル

が求められており、Web×IoT メイカーズチャレンジでは、特にそのあたりを意識したイベント設計を行っていると話す。

KDDI株式会社技術開発戦略部マネージャー:高木悟氏

ポイントになるのは、このイベントに参加する学生や若手エンジニアが、座学の講習だけでなく、ハンズオン形式の講習会で実際にボードコンピュータやセンサーやアクチュエータの扱いを体験し、一定の準備期間を設けたうえで、ハッカソンで実際にプロトタイピングを行うという一連のものづくりプロセスを実体験することにある。

Web×IoT メイカーズチャレンジでは、UIやクラウドを含む情報システム全体をひとつの標準化された中立的な技術体系のもとで「ハードウェアを制御できるスキル」を獲得する機会を提供しているが、Webを介することによって、OS、デバイスといったレイヤーごとの違いを吸収し、普遍性の高い共通な技術を学ぶことができる。さまざまなデータをやりとりするには、「Webがもっともやりやすい」と副査の瀧田氏も指摘する。そういった観点からイベント名にもWeb×IoTの文字が冠された。

WebDINO Japan代表理事:瀧田佐登子氏

東京大会の概要をレポート

では、東京大会の様子を交えつつ、本取り組みの具体的な流れを少しレポートしたい。2月9、10日の2日間にわたりハンズオンを含む講習会が開催された。IoTの基礎知識やWiFiやLTEなど、IoT開発には欠かせない通信技術やその根源となる電波の特性について講義を受けたうえで、実際に「Raspberry Pi 3」と各種センサーやデバイスなどの接続・動作を行うハンズオンを約1日半じっくりと行う。受講者は個人単位で参加申し込みを行うが、講習会の2日目にはチーム単位に分けられ、準備期間を置いた後日に開催するハッカソンに向けた準備をスタートする。

東京会場にて。チームでのアイデアソンの風景

チーム分け後は、まずはアイデアソンを実施し、「身近な人をハッピーにするIoTデバイスを作ろう」などといったテーマをもとに議論を進める。初めて会ったメンバー同士で、いかに議論を深めていくか、これが最初の試練といえるだろう。また、各チームには上限額25,000円の予算が与えられ、その中でハッカソンに提出する作品で使うセンサーなどの部品を用意する。ここでは準備期間中の材料調達を含むマネージメント力が求められる。

そして、ハッカソンに向けて作成する作品では、以下の要件が求められる。

・ネットワークサービスの連携、もしくはネットワークからのコントロールが可能なこと
・Raspberry Pi 3を使って、Web GPIO APIあるいはWebI2C APIのいずれかを利用すること

ちなみにハッカソンの審査基準は、以下の通り。

・ソフトウェア・ハードウェアの実装力
・アイデアの独創性・ユースケースの有用性
・無線の活用度

そして、今回の東京大会のハッカソンには、計35名8チームが参加した。

ハッカソンの各チームの様子。今回は計35名8チームが参加した

ハッカソンというと、賞金目当てのツワモノが集まるというイメージがある。しかし、メイカーズチャレンジは、そもそもが「学びの場」として開催しているため、ハッカソン初心者やスキルレベルが不安な学生であっても参加しやすい枠組みを用意している。とにかく、わからないことがあれば積極的にチューターやメンターに聞き、解決していく。終始なごやかな雰囲気で進んでいくことも印象的だ。

こちらはハッカソン2日目の様子。初日のなごやかさからは打って変わり、開発完了に向け緊張感も漂う

それでもハッカソンが2日目にもなると緊張感が漂う。決められた開発締め切りに向かって、時間との戦いである。その日のうちに審査が始まり、今回は、最優秀賞が1チーム、優秀賞が3チーム選出された。

最優秀賞受賞チームの皆さん。後ろに立つ3人は審査員

順序が逆になってしまったが、審査員は以下の通りである。

・村井純氏(慶應義塾大学 環境情報学部教授 大学院政策・メディア研究科委員長)
・小林茂氏(情報科学芸術大院(IAMAS) 産業文化研究センター教授)
・瀧田佐登子氏(一般社団法人WebDINO Japan代表理事、実行委員会副査)

各チームの作品やその他の情報については、Web×IoT メイカーズチャレンジの公式サイトで情報が提供されるので、参照してほしい。

Web×IoT メイカーズチャレンジの成果と今後

今回、2年目を迎えたメイカーズチャレンジの取り組みであるが、その成果はどうだろうか。高木氏は、ほぼ目的は達成されていると判断しているという。実践的な講習会とハッカソンの組み合わせに参加者の多くが満足しており、チューターのサポートやチームでの開発体験を貴重な機会だと感じてもらえたと、手ごたえを語る。

人材育成というと、とかく受講者が受け身の講習が行われがちだが、この施策は講習会からハッカソンまで、参加者が自ら試行錯誤しながら様々なスキルを身につけるアクティブ・ラーニングの機会となっている。瀧田氏は、プログラミングやハードウェアのスキルに限らず、少ないとはいえ制作予算の配分管理や、材料の調達、さらに時間配分やチーム内のコミュニケーションなど、プロジェクトのマネジメントを体験する貴重な機会にもなっていると説明する。

学生から社会人まで、参加者は様々

企業が社員に向けて行う人材育成は、成果の前に、そのコスト・手間暇が大きなハードルとなる。Web×IoT メイカーズチャレンジは、その課題を補完する答えの1つともいえるだろう。今回の東京開催の会場を見ると、30才未満の若手社会人も多く参加しており、大学生や高専生、高校生と混じってチームを組み、真剣にものづくりに向き合う姿が見られた。

Web×IoT メイカーズチャレンジは2019年度も各地で開催される予定だ。立場を問わず関心を持った読者の方がおられれば、将来に立ち向かう可能性のひとつとして、参加や見学を検討してみていただきたい。

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印鑑業界による印鑑文化の優位性アピールが話題

会社経営者として感じる、捺印作業の面倒さ

「サイン文化」と「印鑑文化」で変わる組織カルチャー

行政手続きのオンライン化を目指す「デジタル手続き法案」をめぐり、全日本印章業協会がアピールした「印鑑のメリット」が話題になっている

「代理決済できるという印章の特長が、迅速な意思決定や決済に繋がり、戦後の日本経済の急速な発展にも寄与してきた」(原文ママ)というものだ。

「ハンコならこっそり代理決済ができる」などと、身も蓋もなく自ら印鑑廃止を後押ししてしまいかねない意見が出てしまったことは興味深い。
でも僕は、ただのバイオテクノロジー屋なので、ITを活用した効率化しますよ業界の回し者でもなければ、印鑑業界の人を敵に回すメリットだってないので、特にこの点について深く言及しないし、「日本における今後のハンコをどうするべきか」なんてことを掘り下げて云々するつもりもない。

ただ、日本を含む4カ国でスタートアップを立ち上げた経験から、企業の組織カルチャー形成に、承認方法としての「印鑑」と「サイン」の違いが、とても大きな影響を与えているのではと実感した話を書いておきたい。

日々、何かと多すぎるハンコ作業

まず共有しておきたい事実は、日本で会社を経営すると、毎日ものすごい数の代表印や銀行印や社印を押さなければいけないということだ。(会社の印鑑って3種類あるの知ってました?)

お客さんと契約してお金をいただくときに契約書に捺印するのはイメージできると思うが、その後もお金が銀行口座に無事入るまで、受領やらなにやら契約書だけでなく、さまざまな書類にとにかく捺印をしまくる必要がある。

また、家賃を払う、プリンターのトナーが切れる、実験試薬を買うなどなど、とにかく会社を運営する活動の一つ一つに対して、それぞれ細かくおびただしい数の印鑑を押す。法人が国や地方自治体に税金を払う時はもちろん、社員のあれこれも、例えば社員の誰かが結婚したり引っ越したりするだけでも印鑑を押しまくる。自分で会社をやってみてつくづくわかったが、とにかく捺印の数が膨大だ。

しかも、びっくりすることに、民間企業も市町村も、同じことをするために、それぞれがまったく違うフォーマットの書類に捺印を求めてくる。

こうして、大量な上にフォーマットがまったく違う書類を毎日渡されて、決められた位置に決められた種類の捺印をすることは、仮に契約書や書類の中身をまったくチェックしないで無責任に捺印したとしても、結構な時間を必要とする作業だ。

捺印にかける時間が惜しい

しかもうわの空で押していると、銀行印を押すべきところに代表印を押し間違えてしまったり、インクが簡単にかすれてしまったりするのが印鑑だ。人生において、こんな捺印ミスなどという程度のことで書類を作り直してもらう羽目になった回数を考えただけで、こんな単純な作業に失敗する情けなさとと、書類を作ってくれる従業員への申し訳なさで、どこかに隠れてしまいたい気持ちになる。

そう、僕は毎日、隠れてしまいたい気持ちになっているのだ。

なぜ、日本から印鑑はなくならないのか

我々の会社のように、たとえ社長だろうがあっちこっちに、営業に謝罪にと、せわしなく飛び回わることで、なんとか会社の体を保っているような規模の企業の方が世の中には多いと思う。そんな"貧乏暇なし社長”がこの捺印という物理的作業に忙殺される時間というのは、正直いって無駄以外の何物でもない。

にもかかわらず印鑑を押すという文化が日本に残っているのは「捺印するという作業」は、誰かに頼めてしまうからなのだと思う。多くの会社において「捺印をし続けるという作業」を自分でやっている社長はあまり居ないのかもしれず、ここが、すべて自ら書かなければいけないサインとの最大の違いなのだろう。

ちなみに、僕の場合は「捺印をし続けるという作業」だけを人に頼むような仕事の依頼の仕方は好みではないので、あちこちに会社を立ち上げては、担当者に「代表取締役」の役職ごと譲るようにしている。

海外の「サイン文化」は印鑑以上に面倒?

冒頭にも書いたが、僕は日本以外の3カ国でも会社を経営している。言うまでもなく日本以外の国は、承認の証としては「サイン」が一般的だ。

日本の会社同士の契約書の場合は、代表者の名前の脇に代表印と社印を、契約書を閉じた裏面に割印を一カ所押す形式であることが多い。つまり、二者間の契約であれば、先方用の契約書と当方用の契約書をあわせて、計4カ所の代表印と計2カ所の社印を押せばよい。

ところが、海外の契約書は、すべてのページにサインをしなければならない。海外の契約書は「実際にそんなことは起きないって」ってくらい、ありとあらゆる場面を想定した契約書になっていることが多く、とにかく契約書が長い。

感覚として、同じような内容の契約をするのに、日本の会社同士の契約の5倍~10倍のページ数になっても驚かない。

つまり、ちょっとした契約書でも軽く100ページを超えてくるわけだが、このすべてのページに手書きでサインをすることを想像して欲しい。契約書の中身を読んでただただサインを書き続けていると、「こんな作業に時間を使い続けてていいのだろうか」という自問の気持ちが芽生えてくる。

その組織カルチャーの差、ハンコとサインの差が原因ですよ

言うまでもなく、サインは誰かに代わりに書いてもらうことはできない。では、サインを書く物理的な時間を減らすために、何が起こるのかというと、「権限委譲」が進むのである。

日本の会社だと当たり前のように社長の名前で締結する規模の契約でも、海外の会社だと担当部長あたりの名前で契約を締結してくる。

もしかしたら、日本の会社のカルチャーだとそれは失礼なことに当たるのかもしれないが、サインを前提とした会社において、会社のすべての契約を社長名義で契約していたら、社長の一日は「サインを書く」という作業だけで終わってしまう。だから、どんどん権限委譲をしていくしかない。

日本の大企業の合意形成や意思決定のあり方を分析する文脈において、「日本の会社は権限委譲が進んでいない」とか、「プロジェクトごとの意思決定者の所在がよくわからないから、スピード感が遅くなってグローバル競争に負けてしまう」などという指摘を頻繁に見る。

特に近年流行りの「日本企業のホワイトカラーの生産性を高めましょう」という議論の多くでは、日本企業のこういった特殊性の原因を、日本人の歴史的・文化的背景や、国民性が理由であると結論づけている。

だからもっぱら、風通しがよく責任範囲が明確で、意思決定の早い会社にするために、せっせと組織構造をいじったり、管理職に研修をしたりと、コンサル屋さんが儲かるだけの努力に大きなお金を払うことになっているのだが、大きな効果が得られているようにみえない。

僕の考えは、特殊性の理由がちょっと違っていて、「その組織カルチャーの差って、捺印とサインの差が本質的な原因ですよ」と、わりと確信に近い自信を持っている。

捺印の作業だけを誰かに頼むのではなく、捺印をする権限ごとどんどん頼んでしまえばいい。ハンコにウンザリしている世の中の社長さん、そう思いません?

(藤田朋宏:ちとせグループ 創業者 兼 最高経営責任者)

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