孫正義氏が語る情報革命の未来

孫正義氏が語る情報革命の未来

2017.07.21

ソフトバンクグループは7月20日、都内で「ソフトバンクワールド 2017」を開催した。基調講演に立った孫正義社長はこれまでに買収・投資した有望な企業を紹介しつつ、自身が考える情報革命の未来について語った。それはどのようなものだろうか。

情報革命時代の「ジェントリー」を目指すソフトバンク

孫社長は登壇後、18世紀~19世紀にかけて起こった産業革命、特にイギリスにおける産業革命について触れた。この時代、フランスとの覇権争いに勝利したイギリスは事実上の覇権国家として安定した社会基盤を入手する。このとき、産業や社会の振興に大きく貢献したのが「ジェントリ」(Gentry)と呼ばれる人たちであったと孫社長は指摘する。

いわゆる「ジェントルマン」(Gentleman:紳士)の語源になった彼らだが、彼らは広大な土地を運用して得た資産を所有していた(孫社長はジェントリについて、騎士階級から貴族になったと説明したが、厳密には地方の大地主であり、上流階級ではあるものの貴族には数えられない)。

そして彼らジェントリが毛織物工業などを経て蓄財した資産が、産業革命において紡績機や蒸気機関といった新技術の発明に投資され、高度な技術が発達。やがて資本主義への移行を迎えた、というわけだ。

このように新しいテクノロジーの発明は世界そのものを変革させる力があるとした上で、孫社長は、約200年前に起きた産業革命が主に「身体能力の拡張」であったのに対し、20世紀末にスタートし、今まさに進行中である情報革命は「知能の拡張」だと指摘する。そして産業革命で発明され発展した発動機や発電機が近代産業の中心にあったように、情報革命で発明された人工知能があらゆる産業の中心に位置付けられるとした。

産業革命では自動車や鉄道、飛行機といった、人間の身体的な限界を超える発明が多くなされていることを指摘。人工知能の世界では人間の知性の限界が問われることになる

そしてIoTとネットワークによってもたらされるビッグデータが人工知能のさらなる進化をもたらすことを指摘し、PCを除く情報機器の90%以上のシェアを持つARMプロセッサーがIoT時代には1兆個にも達すること、そして全世界にLTE並みの速度と遅延の低軌道通信衛星網を構築しようとする「OneWeb」により、全世界のあらゆるものが繋がる世界が訪れ、やがて人工知能が人間の知性を超える「シンギュラリティ」(技術的特異点)が訪れ「超知性」が誕生すると予言した。

人工知能の性能は、特にディープラーニングにおいて顕著に向上しており、すでに一部の分野では人間の能力をはるかに超えた部分もある。そしてあらゆる分野でそうした事態が起きた時が「超知性」の誕生となる

そしてこの「超知性」を搭載したロボットが誕生することにより、あらゆる産業が再定義される新たな世界が誕生すると指摘する。それは自動運転により実現する無事故の世界であったり、医療技術の発達により平均寿命が100歳、200歳を超える世界、そして単なる操り人形ではなく、自分で考え、判断するロボットと共生する世界だとした。

続いて孫社長は、ソフトバンクグループによる過去18年のインターネット起業に対する投資により、類型のリターン額は投資額の15倍、内部収益率(IRR)は44%に達したことを紹介。この中には20億円の投資が5兆円以上にもなったというアリババも含むが、ここで孫社長は全投資銘柄からトップ1~5位までをそれぞれ抜いてもトータルのIRRはほとんど変わらないことを示し、要するに金額の多寡はあれど、投資は全体的に成功していることをアピール。「もしかして投資の天才かもしれない」と会場を笑わせた。

非常に多数の投資を行っているソフトバンクだけに当たり外れはあるようだが、全体としてはかなり成功していると見ていいだろう

そして近年のソフトバンクグループの標語としてよく登場する「情報革命を牽引し人類に最も貢献する企業へ」というフレーズが登場した後、情報化社会におけるジェントリとして先端技術の発展に貢献するべく、Softbank Vision Fundにおいて10兆円(930億ドル、1ドル=110円換算)を調達。これは2016年に世界中のグローバルベンチャーキャピタルで調達された7兆円という金額を、単独で1.6倍上回る規模だという。このファンドはサウジアラビアやアラブ首長国連邦アブダビ政府、アップル、クアルコムなど錚々たるグローバル投資家が参加しており、同じ情報革命のビジョンを抱く同志的結合のグループであると説明した。

最近の孫社長のプレゼンテーションでは必ずといっていいほど登場する標語。人工知能の開発に不安を表明するイーロン・マスクらからするとどのように映るのだろうか

この後、同ファンドによる投資を受けた企業の代表が次々と登壇し、各社の事業を紹介していく。

ボストン・ダイナミクスのマーク・ライバートCEO(右)。同社の四脚歩行ロボ「スポットミニ」(左)と登壇し、性能の高さをアピール
OneWebのグレッグ・ワイラー会長。世界中の人々にインターネットアクセスを提供することを使命に900基もの低軌道衛星を使った3.55GHz帯の高速ネットワークを構築中
人工知能を使った血液検査によるガンなどの病気診断サービスを提供するガーダントヘルスのヘルミー・エルトーキーCEO。世界の死亡原因2位というガンも、手軽な診断法が普及すれば、早期発見により「治る病気」となるはずだ
産業用IoTにおいて圧倒的シェアを誇るOSIソフトのマーチン・オッターソン上級副社長。IoT全盛期におけるデータの収集や分析などで大きな影響力を持つことになるだろう
人工知能による運転支援デバイスを開発するNauto社のステファン・ヘックCEO。同社への投資はソフトバンクワールド開催直前の7月19日に明らかになったばかりだった
植物工場を建設・運営するプレンティ社のマット・バーナードCEO。ショッピングセンター程度の敷地の建物があれば、都市に供給する量の野菜などを生産できるという
産業用機器を自動化する機器を開発・販売するブレインコーポレーションのユージン・イジケビッチ会長兼CEO。自動運転を制御するAIをサービスとして顧客に提供するというビジネスモデルを取っている
ロボットを制御するAIをクラウドに置き、すべてのロボットをクラウド制御することを目指すクラウドマインズのビル・ファンCEO。すでに障害者のガイドロボットなどを発表している
仮想世界の構築用プラットフォーム「SpatialOS」を開発・提供しているインプロバブルのハーマン・ナルーラCEO。Googleとの戦略的パートナーシップが発表されたのは昨年12月だが、資金はソフトバンク系列から調達したようだ
ARMのサイモン・セガーズCEO。あらゆるものにARMプロセッサが搭載され、安全を高めるとともに、人間の持つ可能性や知性を拡張する未来の到来を予言した

再び登壇した孫社長は最後に、ジェントリの図を再掲し、テクノロジーの進化を加速させ、パートナーたちとあらゆる産業の再定義を加速させていくと宣言した。

「300年継続する企業」は生まれるのか

孫社長は近年、ソフトバンクを「300年成長を継続する企業」にしたい、と発言している。ただでさえ浮き沈みの激しいIT業界において、具体的に300年の継続が可能かどうかはさておき、単に利潤や成長を求めるのではなく、人類・社会への貢献という高い目標を立て続けることができるのであれば、そして投資家たちもその理念を支持し続けることができるのであれば、ロックフェラーやロスチャイルドといった世界的財閥に匹敵するような規模への成長も、あながち不可能というわけでもないだろう。

個人的には、孫社長という強烈なカリスマ経営者の存在がソフトバンクの強みであり、よほど優れた後継者が現れないことには…と思うのだが、日本に限らず中東やインド、中国といった歴史ある地域をも巻き込んだグローバルな企業に成長したソフトバンクであれば、こうした懸念は不要なのかもしれない。投資先を見ても、個々の成功はもちろんだが、それぞれがシナジー効果を表した時の影響力が非常に楽しみな企業ばかりだ。いかに医療技術が高まっても、300年先まで見届けることは無理そうではあるが、孫社長の目指す高邁な理想がどこまで実現されるのか、大変興味深い。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu