単独インタビュー、東芝グループを離れて1年。東芝ライフスタイルの石渡社長が語る(前編)

単独インタビュー、東芝グループを離れて1年。東芝ライフスタイルの石渡社長が語る(前編)

2017.07.24

新生東芝ライフスタイルがスタートして、ちょうど1年経過した。2016年6月30日付けで、東芝の白物家電事業を担当していた東芝ライフスタイルの株式を、中国マイディアグループ(美的集団)が80.1%取得。40年間に渡り、TOSHIBAブランドを継続しながら、日本をはじめ、グローバルで白物家電事業を展開する。

東芝本体が迷走するなか、東芝ライフスタイルは、2016年度下期(2016年7~12月)は黒字化。だが、東芝ライフスタイルの石渡敏郎社長の自己採点は50点と自らに手厳しい。そして、さらなる国内シェアの回復、グローバル展開の加速など、今後の事業成長にも意欲をみせる。また、今年度は、2018年度からスタートする中期経営計画を策定する重要な1年にもなる。東芝ライフスタイルの石渡敏郎社長に話を聞いた。

東芝ライフスタイルの石渡敏郎社長

原発事業発の東芝危機再び…

――東芝が大きく揺れています。東芝の白物家電事業は、2016年6月30日から、中国マイディアグループ傘下となっていますが、TOSHIBAブランドで事業を推進する上で影響は出ていませんか。

石渡: ご指摘のように、東芝という会社そのものが大きく揺れ動いています。

ただ、これは、周知のように、東芝の白物家電の話が問題ではなくて、原子力発電事業などを中心としたものです。東芝ライフスタイルの白物家電事業の方針や姿勢に影響するものではありません。東芝ライフスタイルは、日本のお客様に安心して、TOSHIBAブランドの白物家電を使っていただくことに、これからも力を注いでいきます。日本には、東芝の家電商品を使っていただいている方がたくさんいます。子供の頃に家で使っていた家電が東芝だったという人も多いですし、いま使っている家電が東芝であるという人も多くいます。ただ、そうした方々でさえも、もう一度、東芝の家電に買い換えてもいいのかと悩みはじめていることも確かに感じます。

たとえば、2016年6月30日付けで、白物家電事業を担う東芝ライフスタイルが、マイディアグループ傘下で事業を行うことを発表した際に、東芝の白物家電は、中国企業の傘下に入ってしまうのか、これまで東芝が白物家電事業でやってきた品質や性能、使い勝手が損なわれるのではないか、といった懸念があったと思います。しかし、2016年8月の会見で、東芝の白物家電事業がマイディアグループに入る理由や、それによってもたらされるメリット、今後の事業戦略を説明し、それが各メディアを通じて発信されたことに続き、2016年12月には満島ひかりさんを起用したテレビCMを行ったことで、東芝の白物家電の継続性に対する安心感を持っていただけたと思います。中国企業による買収によって発生するリスクという不安については払拭できたと考えています。

しかし、2016年12月に、東芝がウェスチングハウスを巡って、巨額の赤字が発生することがわかり、さらに、決算が正式に発表できないという事態がいまでも続いています。この動きを捉えて、「東芝の白物家電製品を購入しても大丈夫なのか」という声が出始めているのは確かです。今度は、TOSHIBAブランドの商品に対して、別のところからのリスクが発生しているわけです。

昨年末、東芝の原発事業において巨額赤字が発生するとの発表が…。2016年12月、会見に臨む東芝の綱川社長

東芝の白物家電に買い換えても安心であることを訴えるためには、白物家電事業は、これまでと同じ品質や性能、使い勝手を提供し、それが、ずっと続いていくことを、改めて示す必要があると考えています。

東芝の白物家電事業は、東芝ライフスタイルが引き継いでいます。その点は、量販店や、東芝ストアをはじめとする販売店の間では理解されています。そして、量販店や販売店からは、「大いに期待している」という声をいただいています。とくに、東芝傘下のときには、開発投資に余力がなく、商品開発ができなかったのに対して、マイディアグループに入ったことで投資ができるようになり、商品群が充実する点に期待をいただいています。

東芝ブランドの信頼

石渡: マイディアグループは、白物家電専業の会社ですから、白物家電に対して、成長投資を行うことが当たり前です。新製品を開発したり、新たな技術を開発したり、ブランドに対するマーケティング投資も当然のように行います。

しかし、東芝グループでは、投資のプライオリティは、原子力であり、メモリであり、それに対して、白物家電事業は優先順位の一番後ろに位置づけられていたといえます。つまり、白物家電事業への成長投資ができなかったわけです。そこに大きな違いがあります。

正直なところ、TOSHIBAブランドがどこまで毀損しているのかがわからないという不安があります。

確かに、白物家電のシェアはピーク時に比べて落ちていますが、それでも多くの人がTOSHIBAブランドの商品を購入し、サポートしていただいています。長年にわたって積み重ねてきたTOSHIBAブランドに対する信頼をいまだに持っていただいています。

私は、それを裏切ることはできません。

いま、東芝の商品を購入していただいても安心であり、引き続き、商品を投入していく体制が整っていることをわかっていただき、商品の品質や性能にも満足していただきたいと考えています。

――毀損し始めているTOSHIBAブランドを、いま守っているのは、白物家電事業であるという自負はありますか。

石渡: それはあります。もちろん、BtoB事業は、TOSHIBAブランドを形成する重要な役割を果たしてきました。しかし、TOSHIBAというブランドを形づくってきたのは、BtoCをやってきた白物家電であり、テレビのような映像商品であり、そこを個人ユーザーの方々に評価していただき、ブランドの価値が形成されてきた歴史があります。サザエさんや日曜劇場で、BtoC関連製品の広告が少なくなったことが寂しいという声を聞くように、日本のコンシューママーケットに深く浸透しているブランドであることを改めて感じています。

――サザエさんの提供枠を、東芝ライフスタイルに移行するということはできませんか(笑)

石渡: その契約は、東芝枠として行っているものですから、東芝ライフスタイルが契約するわけにはいきません。それは実現できないでしょうね。

新生東芝ライフスタイル、1年での「変化」

――新生東芝ライフスタイルがスタートして、ちょうど1年を経過しました。なにが変わりましたか。

石渡: マイディアグループから、常に言われていることは、「変化」です。すべてのやり方を変えることを求められています。

マイディアグループの方洪波(Paul Fang)CEOは、常に危機感を持っています。マイディアグループは、2016年度実績で、2兆6000億円規模の売上高を誇り、ROSが10%以上の企業です。それにも関わらず、危機感を持っている。

マイディアグループの方洪波(Paul Fang)CEO

マイディアグループに入って1年

石渡: 彼(方洪波CEO)の持論は、「企業は必ず衰退する。むしろ、いまがピークにいると考えた方がいい。だから、常に手を打たなくてはならない。自分自身を変えられなかった企業は衰退していくことになると考えた方がいい」というものです。そして、その最たる例が東芝だと指摘します。東芝はあれだけすばらしい技術を持ち、ブランドが強いのに衰退した。それはやり方を変えていないからだというわけです。我々もいろいろな面で変えなくてはならない。

たとえば、そのひとつが事業部制を強くするという点です。権限と責任をより明確にするための一手です。東芝時代には、開発本部や品質統括本部、営業本部などの横串の本部制を持ち、ここに縦串として、事業部を置く体制としていたのですが、洗濯機事業部、冷蔵庫事業部、クリーナー事業部といったように事業部ごとに、製造、販売、技術の3つのファンクションを持たせ、製品軸をより強くすることで、責任を明確にすることにしたわけです。当然、販売は事業部ごとに仕組みを持っていると無駄ですから、ここは、プラットフォームという言い方をして、横串を刺します。ただ、工場管理や開発、品質管理は、事業部ごとに責任を持って進める体制へとシフトしました。

――中国企業ならではのスピード感についてはどうですか。

石渡: ディシジョンメイキングのスピードの差は、東芝時代とはまったく異なります。日本の企業は、様々なことを、あらゆる角度から検討し、そして、決めたあとは一丸になってやるという手法です。決めたあとは速いという特徴がありますが、前段階の検討が長いという課題があります。

マイディアの場合は、それとは異なり、まずは方向性を決め、細かい部分は走りながら決めていくというやり方です。もし、そのなかで不具合があれば、修正すればいいというわけです。その考え方を、少しずつ、東芝ライフスタイルの経営やモノづくりのなかに持ち込んでいます。これから登場する商品のなかで、こうしたマイディア流のやり方を採用したものが出てくることになります。

――部品調達におけるスケールメリットは表れていますか。

石渡: これは、今後、部品ベンダーを統一していくことで生まれると期待しています。マイディアの事業規模は、東芝の白物家電事業の10倍の事業ですから、これまで1個しか買えなかったものが、一緒に買うことで、11個買うのと同じ規模で調達できるようになります。ただ、これまでの東芝の商品開発は、マイディアと一緒になることを前提に開発してきたわけではありませんから(笑)、部品がまったく違います。

今後、商品開発の段階で、調達までを含めた開発、設計をしていくことで、調達面でのメリットが生まれることになります。つまり、これからは、11個で買うことを前提として設計するというわけです。たとえば、コンプレッサーを同じものにしていくということがその一例です。

買収されても変わらないこと――「TOSHIBA」品質

石渡: ただし、部品の品質認定においては東芝の基準があって、それは変えるつもりはありません。これは商品開発のスピードにも影響してくる問題であり、部品調達にも影響してくる重要な問題です。たとえば、ある部品の検査においては、東芝では3000時間の検査を行っていました。マイディアグループからすれば、「長すぎる」、「スピード感がない」という意見が出ていますし、「それは1000時間ではいけないのか」という指摘があるのも事実です。

しかし、我々は、長い間の経験と積み重ねで、3000時間の耐久性を検査しないと、この部品は認定できないということがわかっています。安全基準でも、この部分は難燃材を使わなくてはならないというところは、過去において、火が出たりといった経験があり、万が一、火が出ても燃えないように難燃材で囲うことにこだわるわけです。白物家電はなんだかんだといってもアナログ商品ですから、経験値の積み重ねが大きい。譲れるところと、譲れないところがあり、東芝の品質を維持するためには、譲れないところは徹底して、それを維持します。

実は、昨年、マイディアグループの傘下に入って以降、東芝の品質基準は、まったく変わっていません。むしろ、ひとつも変えた部分はないと断言できます。

石渡: 東芝の商品を購入して、3年で壊れたというわけにはいきません。極端な言い方になりますが、東芝の商品であれば、20年間は使えたといわれるような信頼性が必要です。そこは、これからも変えません。マイディアグループも、それを理解しはじめてくれています。

しかし、だからといってスピード感がないままではいけません。商品化するのに、3年かかるなんてことは許されません。では、これを1年でやるにはどうするか。それならば、検査の機械を2台に増やしたらどうか、あるいは、3人しかいなかったら、10人でやればいいという発想ができる。これが、これまでにはできなかったことです。変えてはいけない部分は、安全基準であり、性能、信頼性です。一方で、変えられる部分は、プロセスです。そこに投資をすることで、スピードアップにつながるというわけです。

シナジープロジェクトの効果

――両社の強みを生かすシナジープロジェクトを進めているとのことですが。

石渡: シナジープロジェクトの成果はすでに出始めています。今後、東芝が持っていなかった小型の冷蔵庫や、電子レンジなどを、マイディアの商品をベースにして、TOSHIBAブランドで発売することになります。これは、仕上げの部分はすべて東芝の基準で行います。東芝のエンジニアが、一から商品を作るとそれなりの時間がかかり、数億円もする金型投資などを含めてコストもかかりますが、マイディアの商品をベースにすれば、これまで東芝では出せなかったような商品が、短期間に市場投入できます。同じように、逆もあります。マイディアが持っていなかった東芝の商品を、中国市場で販売するといったことも可能になります。すでに、冷蔵庫やクリーナーでは、東芝の工場で生産したものを、マイディアのブランドで販売しています。海外ではサイド・バイ・サイドの冷蔵庫が売れていますが、東芝はこれを持っていません。これをTOSHIBAブランドで海外展開する上で、活用することができます。シナジープロジェクトの効果として、これから、より幅広い商品をラインアップできるようになります。

海外市場で展開している「Midea」ブランドのサイド・バイ・サイドの冷蔵庫(イメージ)

作っている工場に関係なく「TOSHIBA」品質

石渡: 実は、よく、「これはマイディア製ですか、それとも東芝製ですか」という質問を受けます。それは生産している工場のことを指した質問だと理解しています。私にとっては、そこはあまり関係ありません。

では、TOSHIBAブランドとはなにかというと、TOSHIBAブランドを維持するための品質、品位を持った商品であり、そのための基準をクリアしたものを指します。マイディアの工場で作ったマイディアの商品を東芝が売っているというのとは違うのです。ベースとなる商品もマイディアが設計した縦型全自動洗濯機です。しかし、これをベースに東芝の技術を注入して、東芝の安全規格やスペックなどを用いて、商品を企画し、仕上げたものがTOSHIBAブランドの商品なのです。

マイディアの工場で生産しても、東芝の工場で生産しても、TOSHIBAブランドをつけた商品は、すべて東芝の商品です。その点を理解していただきたいと思います。

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2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

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訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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