単独インタビュー、東芝グループを離れて1年。東芝ライフスタイルの石渡社長が語る(前編)

単独インタビュー、東芝グループを離れて1年。東芝ライフスタイルの石渡社長が語る(前編)

2017.07.24

新生東芝ライフスタイルがスタートして、ちょうど1年経過した。2016年6月30日付けで、東芝の白物家電事業を担当していた東芝ライフスタイルの株式を、中国マイディアグループ(美的集団)が80.1%取得。40年間に渡り、TOSHIBAブランドを継続しながら、日本をはじめ、グローバルで白物家電事業を展開する。

東芝本体が迷走するなか、東芝ライフスタイルは、2016年度下期(2016年7~12月)は黒字化。だが、東芝ライフスタイルの石渡敏郎社長の自己採点は50点と自らに手厳しい。そして、さらなる国内シェアの回復、グローバル展開の加速など、今後の事業成長にも意欲をみせる。また、今年度は、2018年度からスタートする中期経営計画を策定する重要な1年にもなる。東芝ライフスタイルの石渡敏郎社長に話を聞いた。

東芝ライフスタイルの石渡敏郎社長

原発事業発の東芝危機再び…

――東芝が大きく揺れています。東芝の白物家電事業は、2016年6月30日から、中国マイディアグループ傘下となっていますが、TOSHIBAブランドで事業を推進する上で影響は出ていませんか。

石渡: ご指摘のように、東芝という会社そのものが大きく揺れ動いています。

ただ、これは、周知のように、東芝の白物家電の話が問題ではなくて、原子力発電事業などを中心としたものです。東芝ライフスタイルの白物家電事業の方針や姿勢に影響するものではありません。東芝ライフスタイルは、日本のお客様に安心して、TOSHIBAブランドの白物家電を使っていただくことに、これからも力を注いでいきます。日本には、東芝の家電商品を使っていただいている方がたくさんいます。子供の頃に家で使っていた家電が東芝だったという人も多いですし、いま使っている家電が東芝であるという人も多くいます。ただ、そうした方々でさえも、もう一度、東芝の家電に買い換えてもいいのかと悩みはじめていることも確かに感じます。

たとえば、2016年6月30日付けで、白物家電事業を担う東芝ライフスタイルが、マイディアグループ傘下で事業を行うことを発表した際に、東芝の白物家電は、中国企業の傘下に入ってしまうのか、これまで東芝が白物家電事業でやってきた品質や性能、使い勝手が損なわれるのではないか、といった懸念があったと思います。しかし、2016年8月の会見で、東芝の白物家電事業がマイディアグループに入る理由や、それによってもたらされるメリット、今後の事業戦略を説明し、それが各メディアを通じて発信されたことに続き、2016年12月には満島ひかりさんを起用したテレビCMを行ったことで、東芝の白物家電の継続性に対する安心感を持っていただけたと思います。中国企業による買収によって発生するリスクという不安については払拭できたと考えています。

しかし、2016年12月に、東芝がウェスチングハウスを巡って、巨額の赤字が発生することがわかり、さらに、決算が正式に発表できないという事態がいまでも続いています。この動きを捉えて、「東芝の白物家電製品を購入しても大丈夫なのか」という声が出始めているのは確かです。今度は、TOSHIBAブランドの商品に対して、別のところからのリスクが発生しているわけです。

昨年末、東芝の原発事業において巨額赤字が発生するとの発表が…。2016年12月、会見に臨む東芝の綱川社長

東芝の白物家電に買い換えても安心であることを訴えるためには、白物家電事業は、これまでと同じ品質や性能、使い勝手を提供し、それが、ずっと続いていくことを、改めて示す必要があると考えています。

東芝の白物家電事業は、東芝ライフスタイルが引き継いでいます。その点は、量販店や、東芝ストアをはじめとする販売店の間では理解されています。そして、量販店や販売店からは、「大いに期待している」という声をいただいています。とくに、東芝傘下のときには、開発投資に余力がなく、商品開発ができなかったのに対して、マイディアグループに入ったことで投資ができるようになり、商品群が充実する点に期待をいただいています。

東芝ブランドの信頼

石渡: マイディアグループは、白物家電専業の会社ですから、白物家電に対して、成長投資を行うことが当たり前です。新製品を開発したり、新たな技術を開発したり、ブランドに対するマーケティング投資も当然のように行います。

しかし、東芝グループでは、投資のプライオリティは、原子力であり、メモリであり、それに対して、白物家電事業は優先順位の一番後ろに位置づけられていたといえます。つまり、白物家電事業への成長投資ができなかったわけです。そこに大きな違いがあります。

正直なところ、TOSHIBAブランドがどこまで毀損しているのかがわからないという不安があります。

確かに、白物家電のシェアはピーク時に比べて落ちていますが、それでも多くの人がTOSHIBAブランドの商品を購入し、サポートしていただいています。長年にわたって積み重ねてきたTOSHIBAブランドに対する信頼をいまだに持っていただいています。

私は、それを裏切ることはできません。

いま、東芝の商品を購入していただいても安心であり、引き続き、商品を投入していく体制が整っていることをわかっていただき、商品の品質や性能にも満足していただきたいと考えています。

――毀損し始めているTOSHIBAブランドを、いま守っているのは、白物家電事業であるという自負はありますか。

石渡: それはあります。もちろん、BtoB事業は、TOSHIBAブランドを形成する重要な役割を果たしてきました。しかし、TOSHIBAというブランドを形づくってきたのは、BtoCをやってきた白物家電であり、テレビのような映像商品であり、そこを個人ユーザーの方々に評価していただき、ブランドの価値が形成されてきた歴史があります。サザエさんや日曜劇場で、BtoC関連製品の広告が少なくなったことが寂しいという声を聞くように、日本のコンシューママーケットに深く浸透しているブランドであることを改めて感じています。

――サザエさんの提供枠を、東芝ライフスタイルに移行するということはできませんか(笑)

石渡: その契約は、東芝枠として行っているものですから、東芝ライフスタイルが契約するわけにはいきません。それは実現できないでしょうね。

新生東芝ライフスタイル、1年での「変化」

――新生東芝ライフスタイルがスタートして、ちょうど1年を経過しました。なにが変わりましたか。

石渡: マイディアグループから、常に言われていることは、「変化」です。すべてのやり方を変えることを求められています。

マイディアグループの方洪波(Paul Fang)CEOは、常に危機感を持っています。マイディアグループは、2016年度実績で、2兆6000億円規模の売上高を誇り、ROSが10%以上の企業です。それにも関わらず、危機感を持っている。

マイディアグループの方洪波(Paul Fang)CEO

マイディアグループに入って1年

石渡: 彼(方洪波CEO)の持論は、「企業は必ず衰退する。むしろ、いまがピークにいると考えた方がいい。だから、常に手を打たなくてはならない。自分自身を変えられなかった企業は衰退していくことになると考えた方がいい」というものです。そして、その最たる例が東芝だと指摘します。東芝はあれだけすばらしい技術を持ち、ブランドが強いのに衰退した。それはやり方を変えていないからだというわけです。我々もいろいろな面で変えなくてはならない。

たとえば、そのひとつが事業部制を強くするという点です。権限と責任をより明確にするための一手です。東芝時代には、開発本部や品質統括本部、営業本部などの横串の本部制を持ち、ここに縦串として、事業部を置く体制としていたのですが、洗濯機事業部、冷蔵庫事業部、クリーナー事業部といったように事業部ごとに、製造、販売、技術の3つのファンクションを持たせ、製品軸をより強くすることで、責任を明確にすることにしたわけです。当然、販売は事業部ごとに仕組みを持っていると無駄ですから、ここは、プラットフォームという言い方をして、横串を刺します。ただ、工場管理や開発、品質管理は、事業部ごとに責任を持って進める体制へとシフトしました。

――中国企業ならではのスピード感についてはどうですか。

石渡: ディシジョンメイキングのスピードの差は、東芝時代とはまったく異なります。日本の企業は、様々なことを、あらゆる角度から検討し、そして、決めたあとは一丸になってやるという手法です。決めたあとは速いという特徴がありますが、前段階の検討が長いという課題があります。

マイディアの場合は、それとは異なり、まずは方向性を決め、細かい部分は走りながら決めていくというやり方です。もし、そのなかで不具合があれば、修正すればいいというわけです。その考え方を、少しずつ、東芝ライフスタイルの経営やモノづくりのなかに持ち込んでいます。これから登場する商品のなかで、こうしたマイディア流のやり方を採用したものが出てくることになります。

――部品調達におけるスケールメリットは表れていますか。

石渡: これは、今後、部品ベンダーを統一していくことで生まれると期待しています。マイディアの事業規模は、東芝の白物家電事業の10倍の事業ですから、これまで1個しか買えなかったものが、一緒に買うことで、11個買うのと同じ規模で調達できるようになります。ただ、これまでの東芝の商品開発は、マイディアと一緒になることを前提に開発してきたわけではありませんから(笑)、部品がまったく違います。

今後、商品開発の段階で、調達までを含めた開発、設計をしていくことで、調達面でのメリットが生まれることになります。つまり、これからは、11個で買うことを前提として設計するというわけです。たとえば、コンプレッサーを同じものにしていくということがその一例です。

買収されても変わらないこと――「TOSHIBA」品質

石渡: ただし、部品の品質認定においては東芝の基準があって、それは変えるつもりはありません。これは商品開発のスピードにも影響してくる問題であり、部品調達にも影響してくる重要な問題です。たとえば、ある部品の検査においては、東芝では3000時間の検査を行っていました。マイディアグループからすれば、「長すぎる」、「スピード感がない」という意見が出ていますし、「それは1000時間ではいけないのか」という指摘があるのも事実です。

しかし、我々は、長い間の経験と積み重ねで、3000時間の耐久性を検査しないと、この部品は認定できないということがわかっています。安全基準でも、この部分は難燃材を使わなくてはならないというところは、過去において、火が出たりといった経験があり、万が一、火が出ても燃えないように難燃材で囲うことにこだわるわけです。白物家電はなんだかんだといってもアナログ商品ですから、経験値の積み重ねが大きい。譲れるところと、譲れないところがあり、東芝の品質を維持するためには、譲れないところは徹底して、それを維持します。

実は、昨年、マイディアグループの傘下に入って以降、東芝の品質基準は、まったく変わっていません。むしろ、ひとつも変えた部分はないと断言できます。

石渡: 東芝の商品を購入して、3年で壊れたというわけにはいきません。極端な言い方になりますが、東芝の商品であれば、20年間は使えたといわれるような信頼性が必要です。そこは、これからも変えません。マイディアグループも、それを理解しはじめてくれています。

しかし、だからといってスピード感がないままではいけません。商品化するのに、3年かかるなんてことは許されません。では、これを1年でやるにはどうするか。それならば、検査の機械を2台に増やしたらどうか、あるいは、3人しかいなかったら、10人でやればいいという発想ができる。これが、これまでにはできなかったことです。変えてはいけない部分は、安全基準であり、性能、信頼性です。一方で、変えられる部分は、プロセスです。そこに投資をすることで、スピードアップにつながるというわけです。

シナジープロジェクトの効果

――両社の強みを生かすシナジープロジェクトを進めているとのことですが。

石渡: シナジープロジェクトの成果はすでに出始めています。今後、東芝が持っていなかった小型の冷蔵庫や、電子レンジなどを、マイディアの商品をベースにして、TOSHIBAブランドで発売することになります。これは、仕上げの部分はすべて東芝の基準で行います。東芝のエンジニアが、一から商品を作るとそれなりの時間がかかり、数億円もする金型投資などを含めてコストもかかりますが、マイディアの商品をベースにすれば、これまで東芝では出せなかったような商品が、短期間に市場投入できます。同じように、逆もあります。マイディアが持っていなかった東芝の商品を、中国市場で販売するといったことも可能になります。すでに、冷蔵庫やクリーナーでは、東芝の工場で生産したものを、マイディアのブランドで販売しています。海外ではサイド・バイ・サイドの冷蔵庫が売れていますが、東芝はこれを持っていません。これをTOSHIBAブランドで海外展開する上で、活用することができます。シナジープロジェクトの効果として、これから、より幅広い商品をラインアップできるようになります。

海外市場で展開している「Midea」ブランドのサイド・バイ・サイドの冷蔵庫(イメージ)

作っている工場に関係なく「TOSHIBA」品質

石渡: 実は、よく、「これはマイディア製ですか、それとも東芝製ですか」という質問を受けます。それは生産している工場のことを指した質問だと理解しています。私にとっては、そこはあまり関係ありません。

では、TOSHIBAブランドとはなにかというと、TOSHIBAブランドを維持するための品質、品位を持った商品であり、そのための基準をクリアしたものを指します。マイディアの工場で作ったマイディアの商品を東芝が売っているというのとは違うのです。ベースとなる商品もマイディアが設計した縦型全自動洗濯機です。しかし、これをベースに東芝の技術を注入して、東芝の安全規格やスペックなどを用いて、商品を企画し、仕上げたものがTOSHIBAブランドの商品なのです。

マイディアの工場で生産しても、東芝の工場で生産しても、TOSHIBAブランドをつけた商品は、すべて東芝の商品です。その点を理解していただきたいと思います。

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Googleマップが突然の劣化、ゼンリン地図から自社地図に変更か?

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2019.03.22

Googleマップが壊れた? 3月21日以降、表示がおかしい

地図のダウンロード機能でゼンリンと決裂したか?

新しい地図は機械学習で地図データ生成という指摘も

Googleマップの表示がおかしい。3月21日頃から、Googleマップの不具合を訴える声が各所で相次いでいる。道路の表示や建物の位置が正確でなかったり、地形すら間違っている場所もある。Googleマップにいったい何が起こったのか。

地図データの提供元がゼンリンではない?

Googleマップの日本地図データはこれまで、地図データで国内大手のゼンリンから提供を受けていた。両社の契約状況は公開されていないが、少なくとも不具合が発生している現在のGoogleマップ上からは、以前までは記載されていたゼンリン社の権利表記が消え、「地図データ (C)2019 Google」へと変更されている。

Googleマップからゼンリン社の権利表記が消えた

Google社は今月のはじめ、今後「数週間以内」に、日本のGoogleマップをアップデートすると予告していた。このアップデートでは、特にダウンロード可能なオフラインマップを追加することに注目が集まっていた。オフライン環境でもダウンロード済みの地図を利用できる便利な機能だが、地図データの契約上の課題があり、日本のGoogleマップでは制限されていた機能だからだ。結局、両社は契約の課題を解決できず、ゼンリンが地図データ提供から降りてしまったことが、今回の不具合の原因と見られる。

新しい地図は使い物になるのか?

現在のGoogleマップは、Googleが新規開発した自社製の地図データを利用しているようだが、いまだに不具合が報告され続けている状態状態であり、混乱が収束する目途は見えていない。

なお、この新しい地図は、航空写真で山脈の陰部分が湖になっていたり、並木の多い道路が公園になっていたりする間違いや、ほかにも交差点に面したコンビニエンスストアの駐車場が道路と語認識されていたりすることから、航空写真をもとにした機械学習や、スマホ位置情報の移動軌跡から地図データを生成しているのではないかと指摘されている。

航空写真では山の陰になっている部分が、川と湖になってしまっている
地図では鎌倉街道から大栗橋公園を抜ける道があるが、実態はただの公園広場だ。スマホ位置情報の移動実績をもとに道と認識したか?

新しい地図の仕組みや改善の見込みについては、Google側のアナウンスを待つほかないわけだが、GoogleマップはAndroidの標準地図として利用されており、影響を受けるユーザーがあまりにも多い。他の地図サービスを駆逐して大きな影響力を持っているのだから、責任も伴うはずだ。

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ペットボトルコーヒーに対抗? キリンが目指す「午後の紅茶」

ペットボトルコーヒーに対抗? キリンが目指す「午後の紅茶」"仕事のお供"戦略

2019.03.22

「午後の紅茶」に微糖のミルクティーが登場

新CMでは無糖・微糖を中心に新しい飲用シーンを訴求

ペットボトルコーヒーに対抗? 今後の戦略は

昨年まで、ビジネスマンの仕事のお供として「ペットボトルコーヒー」に注目が集まっていたが、今年は「紅茶」が主戦場になるかもしれない。

3月26日より発売されるキリンの「キリン 午後の紅茶 ザ・マイスターズミルクティー」は、これまでの“ペットボトルのミルクティーは甘い”というイメージに反して、缶コーヒーでいちカテゴリを築いている「微糖」が特徴。また、同社が長らくカテゴリ内最大シェアを誇る「午後の紅茶 おいしい無糖」についても、あらたな消費イメージを打ち出す方針だ。

今春から「午後の紅茶」新CMに出演する新木優子さん、深田恭子さん、リリー・フランキーさん

ペットボトル紅茶飲料のトップブランドと言える「午後の紅茶」。この春から公開する新CMには、既存の紅茶飲料のイメージを覆す狙いが透けて見えた。

2つの軸で「紅茶」のイメージを変える

紅茶飲料のイメージと言えば、「午後の紅茶」の名前の由来となっている「アフタヌーンティー」(英国発祥の喫茶習慣)に象徴されるように、「女性の飲み物」であり、「時間的・金銭的余裕がある人の趣味」というところだろうか。それも紅茶という商品のひとつの側面だが、近年の消費者層のメインストリームではなくなっている。

今回、キリンが「午後の紅茶」新CMで打ち出したのは、大きく分けてふたつの飲用イメージだ。深田恭子さんが仕事で車を走らせ、駐車して一服するのに選んだのは微糖のミルクティー。一方、アーティスト然としたリリー・フランキーさんが飲んでいるのは無糖の紅茶。2本ともに「仕事のお供」としての訴求が挙げられる。

車を止め、「キリン 午後の紅茶 ザ・マイスターズミルクティー」をひとくち飲む
絵を描く合間にのどを潤すのは「午後の紅茶 おいしい無糖」

もうひとつは、おなじくリリー・フランキーさんがカレーと紅茶飲料を一緒に味わうというCM。過去には同社の無糖紅茶が「おにぎりに合う」と訴求したこともあるが、あらためて食事中の飲料として「フードペアリング」を提案する。

カレーのような香りの強い食べ物とも合わせられる点を訴求
最年少の新木優子さんは、無糖紅茶を飲むようになった自分を「大人になった」と評するCMに出演。若者への無糖紅茶訴求を担う

紅茶を、コーヒーや緑茶と並ぶカテゴリに

カフェなどでは食後の飲み物をコーヒーか紅茶から選ぶのが定番だが、ペットボトル飲料市場では状況が異なる。コーヒーに次ぐ大規模市場は緑茶飲料で、紅茶はそこから比べるとかなり小規模だ。日本全体の清涼飲料市場で見れば、そのシェアは5%以下。仕事中の飲料としてメジャーなコーヒーが14.5%、緑茶飲料が13.3%という数字を見ると、半分以下という状況となっている。

清涼飲料市場において、紅茶はコーヒー、緑茶と比べて市場が小さい

こうした市場背景を確認した上で、今後「紅茶を、コーヒーや緑茶などの無糖茶と並ぶカテゴリに成長させたい」と意欲を示したのは、午後の紅茶を担当するキリンビバレッジ マーケティング部 商品担当 部長代理の加藤麻里子氏。世界での紅茶飲料と茶葉生産量の伸び、国内紅茶市場の回復傾向を論拠に、RTD紅茶のトップブランドとして、新しい紅茶文化を創っていきたいと語った。

「午後の紅茶」ブランド全体としては、既存の定番3種は甘さを求める若年層に対して継続投資を実施。甘さから離れる20代~30代の働く女性に向け、紅茶飲料としては珍しい「微糖」の新製品「キリン 午後の紅茶 ザ・マイスターズミルクティー」を投入する。

午後の紅茶ブランドにおける年代別の主要商品マッピング

また、30代後半意以降の年代を健康意識や嗜好の変化から「糖離れ・無糖飲用層」と位置づけ、すでに市場で受け入れられている「午後の紅茶 おいしい無糖」の訴求強化を行っていく。

狙うはペットボトルコーヒーへの「対抗」ではなく…?

「2年前までコーヒーのCMをやっていたのにどのツラ下げて…というのはありますが」と茶化しながらも、自分のような「おじさん」にこそ紅茶は飲みやすいとコメントしたリリー・フランキーさん

製品ごとに異なる年齢層を狙って投入される新CM。「キリン 午後の紅茶 おいしい無糖」「キリン 午後の紅茶 ザ・マイスターズミルクティー」のCMでは、商品をことさらには誇張しない画面作りやキャスティング、出演者の自然体な演技とは裏腹に、「コーヒーから寝返っちゃおうかな」(リリー・フランキー出演「寝返り」編)、「ラテよりこっちかな」(深田恭子出演・「裏切られた」編)など、“コーヒー飲料からの転向”を示唆するようなセリフが目立つ。

働く大人がコーヒーから紅茶に「乗り換え」することを示唆するCMは、ここ2年でワーカー向けのペットボトル飲料の拡大を牽引し、ちょうど先日同ブランドから紅茶飲料を発売したサントリーの「クラフトボス」をはじめ、昨今増えているワーカー向けのコーヒーペット飲料に対する宣戦布告にも読める。だが、加藤氏にペットボトルコーヒー飲料のヒットに紅茶で対抗する構えかどうか尋ねると、決してそうではないという。

「今やひとつのカテゴリとなっているペットボトルコーヒー飲料も、複数社から新商品を展開し、協力して棚の広さを獲得した経緯があります。現状、紅茶飲料の棚は一段程度ですが、これを各社協力して2段へと増やしていきたいです」 

オフィス需要に対して、企業とコラボレーションし飲用機会を設ける試みも

また、「仕事のお供」需要を喚起する施策として、三菱地所に対して仕事中の飲料として「キリン 午後の紅茶 おいしい無糖」を提供。働き方改革推進企業とコラボレーションし、オフィスでの休息機会に手に取る飲料として配布する。今後、他の企業からオファーがあればそちらにも対応するとのこと。想定シーンに対して直接サンプリングすることで、需要の広がりを見込んでいる。

「午後の紅茶」は、日本国内の紅茶飲料としてはNo.1ブランドの地位を獲得しているだけに、紅茶飲用の文化を牽引して、先述の通りコーヒー・緑茶に並ぶ市場規模への拡大を狙っている。

昨今はスターバックスの「TEAVANA」、タリーズコーヒーの紅茶業態などが定着しており、タピオカミルクティーブームも依然続くなど、カフェ業界でも紅茶に追い風が吹いている。今後、午後の紅茶が「コーヒー党」や「緑茶党」をどれだけ引き込めるか、注目したい。

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