ソフトバンクが進める情報革命時代のサービス

ソフトバンクが進める情報革命時代のサービス

2017.07.24

ソフトバンクグループは7月21日、前日に引き続いて「ソフトバンクワールド 2017」を開催。2日目となる21日はソフトバンクの宮内謙社長兼CEOらが登壇し、ソフトバンクグループが持つテクノロジーや情報革命におけるなどについて語った。

新技術が時代の変革をリードする

ソフトバンクの代表取締役社長兼CEO、およびソフトバンク コマース&サービスの代表取締役会長である宮内謙氏

基調講演の前半は、「ビジネスの勝敗を分けるテクノロジー戦略」と題してソフトバンクの宮内謙氏が登壇。宮内氏はまず、2007年にiPhoneが登場して現代的なスマートフォンが誕生し、10年の間にあらゆるサービスや社会インフラがスマートフォンを中心に動くようになったことを指摘。iPhone発表の際にスティーブ・ジョブズ氏が「時として革命的な商品が誕生し、あらゆるものを変える」と発言したことを紹介しつつ、実際にスマートフォンが十分に世界的に普及しだした2012~2013年ごろを境目に、あらゆるジャンルで大きな変革があったことをグラフで示していく。

たとえば、小売業ではAmazonが急激に発展を遂げてそれまでのトップだった米ウォルマートを、あるいは自動車業界においても、生産台数でははるかに少ないTeslaがGMやフォードといったビッグネームを、それぞれ時価総額で追い抜いたことを紹介。そのほかにもNetflixや、ディープラーニングが話題になり出してからのNVIDIA、Airbnb、Uberといったスマートフォンやネット、AIといった最新テクノロジーに根ざした企業が、軒並みそれまでの業界の順列を塗り替えている。

あらゆる業種において時価総額や売り上げのトップ企業が入れ替わる状況が発生している

こうした現象を宮内氏は以前「Disruption」(破壊)という言葉で紹介しているが、実際に各業界では破壊的な変革が起きている。そして現在はテクノロジーが勝敗を左右する時代であり、構造改革のキーになるのが新技術(New Technology)であると指摘した。

ソフトバンクでもこうした時代に対応するべく、社内では40のAI関連のプロジェクトが、そして300のRPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務自動化)プロジェクトが動いているとする。にも関わらず、国内ではAI導入率がわずか1.8%、RPAの導入率も4.9%どまりであることを示し、AIやRPAはこれからが有望な市場であることを示唆した。

続いてソフトバンク内でのAI/RPAプロジェクトとして、3つのプロジェクトを紹介。1つ目のネットワーク保守関連ではWatsonの自然言語分類(NLC)を使って、システム異常の警告が表示されてから対応までの時間を23分から2.5分へと、約10分の1に短縮。AIを採用するメリットとして、人間とは違って常に冷静な判断が下せることや柔軟性の高さを挙げ、今後は対応手順の提示までを実現したいとした。

以前Watson関連のイベントでも紹介されていた事例。24時間365日対応できるのもAIやロボットの強みだ

2つ目の人事関連プロジェクトでは、大量に送られる新卒学生からのエントリーシート(ES)の評価判定をWatsonのNLCを使って行い、これまですべて人が判定して680時間かかっていたものが、AIの活用で170時間へと、75%もの削減に成功した事例を紹介。このプロジェクトでは、学習時に一度にすべてのデータを入力しても思い通りの結果が得られず、読み込ませるデータを分解したり結合するなどしてトライ&エラーを繰り返し、ようやく希望の結果が得られたことを紹介。まずは使ってみて課題を発見し、トライ&エラーを繰り返して検証することの重要性と、AIといえど完全ではないため、人間が運用面でカバーすることの重要性を指摘していた。

人工知能が学習するための過去のESデータについては、単純に読ませるだけではなく分割したり合成するといった試行錯誤が必要なようだ

3つ目はソフトバンク コマース&サービスでの事例で、見積り依頼メールへの返事を作成する際にAIがメールを読み取って見積書を自動作成するシステムを作成した事例を紹介。このプロジェクトではAIの開発経験がない3人が開発に携わり、平均して15分程度かかっていた見積り書の送信が、わずか3秒程度へと短縮。会社全体では46200時間が150時間へと、実に99%もの時間を削減できたとした。

RPAを活用することで営業が使う時間を格段に短縮できる

このようにAIやRPA活用のポイントとしては、現場での試行錯誤が成功を生み出すとし、その業務に精通しており、ロジカルな思考ができる人材がいれば、現場でのコラボレーションでアイデアを形にできることをアピールしていた。

そしてAI/RPA導入の初期コストを下げるため、8月1日からWatson on IBM Cloudの販売をスタートすることを紹介。すでに利用できる6APIが150へと大幅に拡張され、導入コストも初期費用と開発費用で数十万円ずつと、低コストに抑えられるとした。

また、ソフトバンクの成長戦略のキーも新技術であると紹介。ソフトバンク自体のコア事業はモバイル通信であるが、それだけに頼るわけではなく、AI、IoT、ロボットなどさまざまなジャンルに投資していることをアピール。そしてIoTとRPA、AIの組み合わせでデータを活用するべく、ソフトバンクでも各分野に対応したIoTプラットフォームを提供することを発表した。

WeWorkなどとの提携で働き方改革を推進

続いて働き方改革のため、コワーキングスペースを提供するWeWorkと提携したことを紹介。WeWorkはシェアオフィスで急速に成長中の企業であり、世界15カ国・49都市に156の拠点を持っている。そして13万人の利用者すべてがスマートフォンひとつで、世界中のどの拠点でも利用の手続きを済ませることができる。言ってみればただの賃貸オフィス企業であるにもかかわらず、マイクロソフトなどの大企業がパートナーシップを組み、今やその企業価値は2兆円とも言われるほどだ。

WeWorkを設立したミゲル・マケルヴィCCO。フリーランスなどを相手に超おしゃれな空間とコミュニティを提供するという新しい賃貸オフィスのスタイルを提案している

WeWorkの共同設立者でありCCOでもあるミゲル・マケルヴィ氏が登壇し、WeWorkでは各人がやりたいことに集中できる、創造性を高める新しい形のオフィススペースを提供するとし、2018年初頭にも、ソフトバンクと共同で東京に新しいオフィススペースをオープンすることを宣言した。

続いて宮内氏は、テクノロジーを活用する時代には、同様にテクノロジーを悪用する輩も存在することを指摘。そうした忍び寄る脅威に備えるため、ソフトバンクはセキュリティにも力を入れているとし、特に今年5月に世界中で流行した「WannaCry」のようなランサムウェアを例に挙げ、AIを活用したサイバー攻撃対策プラットフォーム「Cybereason」と開発元であるCybereasonのリオ・ディヴCEOを紹介。ディヴCEOは同社のランサムウェア対策アプリ「RansomFree日本語版」の無償配布を発表した。

RansomFreeは7月18日より配布が開始されている。Windows版のみ

また、今後はスマートデバイスやIoTを相手にした攻撃が今後増えることを予測し、スマートデバイス向けのセキュリティアプリを開発するZimperium社のズック・アブラハム氏を紹介。同社の個人向けアプリがすでに提供されているが、企業向けに最新の「Z9」攻撃検出エンジンを搭載し、機械学習で未知の脅威からもリアルタイムに端末を防御するソリューションを提供するとした。

個人用セキュリティアプリ「セキュリティチェッカー」はすでにソフトバンクのiPhone基本パックに含まれる形で提供済みだ

ソフトバンクではこのほかにもクラウド向けセキュリティの「Dome9」やネットワークセキュリティの「SmartVPN」などを提供しており、セキュリティオペレーションセンター(SOC)を設立して、最新技術でセキュリティを守っていることをアピールした。

ここで宮内氏はふたたび「テクノロジーが事業を再定義」するという情報革命の状況を提示し、テクノロジーでビジネスの勝者になろう、という言葉で前半を締めくくった。

AI、IoT、そしてネットワーク

続いて壇上には米マイクロソフト社のビジネスAI担当企業副社長であるガーディープ・シン・ポール氏が姿を現し、「ディープラーニングの時代」と題して講演。ディープラーニングによりAIの性能は大幅に向上しており、画像認識や音声認識、ゲーム「パックマン」などで人間を上回る性能を発揮していることを紹介。産業革命から直線的に進歩してきた科学技術は、AIの登場とビッグデータなどの要素により、今後指数関数的に進歩の速度を上げていくと予測した。

マイクロソフトでAIを担当するガーディープ・ポール副社長

そしてマイクロソフトが提供するAIサービスを紹介し、その実例としてPowerPointとスマホ用のMicrosoft Translatorアプリを組み合わせてスライドや説明の同時翻訳&字幕化機能、ビデオの会話をテキスト化し、自動でインデックス化するサービス「Video Indexer」、女子高生AI Bot「りんな」などを披露して講演をまとめた。

続いてソフトバンクの宮川潤一専務取締役兼CTOが登壇し、「新たな価値を共創するビジネス基盤 ソフトバンクIoTプラットフォーム」と題した講演を行った。ここではIoTにより様々なデータを取得して活用するためにはIoTプラットフォームの存在が不可欠であるとし、ソフトバンクがこれを提供することを明らかにした。

ソフトバンクが用意するIoTプラットフォーム。昨日登壇したOSIソフトなどの技術もこうしたプラットフォームの強化に貢献するはずだ

ソフトバンクのIoTプラットフォームでは、各産業用に特化したAPIはもちろん、用途に合わせた機能セットや、ネットワーク機能も提供できる点が強みであることをアピール。顧客が取得するデータと、これまでにソフトバンクが蓄積してきた多彩なデータを合わせることで新たな価値を共創することがIoTの本質であると指摘した。

特にネットワーク機能では広域・低消費電力通信であるLTE Cat.NB1こと「NB-IoT」(Narrow Band IoT)について触れ、下り28kbps、上り63kbpsと超低速ながら、全国をエリアとして一斉にスタートできるため、スマートメーターなどのIoT用回線として本命であること、また5Gでは最初から人だけでなくモノの通信が考慮されており、自動車など高速通信を必要とするIoT向けに最適であると指摘。さらには2020年に開始されるOneWebなどを経て、機器間の低速通信から5G、世界規模での衛星通信網までさまざまなスケールでのネットワーク機能を提供できることをアピールした。

ソフトバンクのNB-IoTは最初から日本全域をエリアとしてカバーしている

そしてIoTによる新しい価値の創造にいて、ソフトバンクIoTプラットフォームはAPIやプラットフォームによりデータやサービスの質的最大化を、そしてネットワークインフラの高度化により、モノやデータの量的最大化が図れるとし、これを一元的に提供できるのはソフトバンクだけであるとした。

最後にはソフトバンクの代表取締役副社長である今井康之氏が登壇。進化論を興したダーウィンの「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が残るのでもない。唯一生き残るのは変化できる者である」という言葉を紹介。現代のビジネスにおいてもテクノロジーの進化は止まらず、重要なのは変化への適応であると指摘した。

マーケティング部門での経験を糧にテクノロジー戦略を語る今井副社長

そして現在取るべきテクノロジー戦略として「DARWIN」を提示。これは「Digitalization」「AI」「Robot/RPA」「Wireless」「IoT」」「Next Innovation」の頭文字をとったもので、講演ではこの中から「Digitalization」と「Robot/RPA」にフォーカスを当てた。

「Digitalization」ではデジタルマーケティング、特にウェブ広告の効果分析において同社の顧客行動可視化ツール「Cinarra」が効果的であること、Robot/RPAについてはソフトバンクショップにおいて、PepperとRPAの組み合わせで店頭の在庫確認とウェブショップへの誘導が可能になり、販売機会のロスを回避できるようになった事例を紹介。企業向けRPAとして、RPAホールディングズと業務提携し、国内導入実績No.1のRPAツール「BizRobo」を提供することを発表した。このほかにも企業の課題解決に向けた「DARWIN Workshop」を開催するなどして、変化に適応できるICT環境の普及に努めるとまとめた。

地に足のついた発表は自信の表れか

前日に開催された孫社長による基調講演は、ソフトバンクグループが進む方向性が中心に示され、また壇上に登場した企業も5年後、10年後に成果を期待するような、いわば将来の夢、ビジョンに的を絞ったものだった。二日目の基調講演は、それと比べるとずっと地に足が着いた、現在のビジネスに焦点を当てたものとなっていた。もちろんそのうちのいくつかは近い将来の内容も含んではいるが、基本的には技術的にもめどの立ったものばかりだ。

そして何より、ソフトバンクが今、力を入れているものがはっきりとわかるものだった。それは公演中にも何度も繰り返されていたとおり、IoT、AI、そしてロボット/RPAだ。ソフトバンクのコア事業はモバイル通信だが、モバイル通信網を所有しているという強みを生かし、IoTからのデータ収集から分析、利用までをワンセットで提供できる点は大きい。これから2020年にかけてIoTの本格的な普及が始まるが、ソフトバンクとしても十分に準備ができているという自信があるのだろう、そのトレンドに関わる部分をしっかりアピールしていた。

もうひとつ興味深かったのは、ソフトバンクワールド開催の直前に締結され、基調講演にも登壇した、WeWorkとの提携だ。WeWorkは海外で非常に高い評価を得ているレンタルオフィス企業だが、その他壇上に上がったセキュリティ関係の2社と異なり、不動産事業は、これまでソフトバンクが手がけてきた事業とは大きく離れた分野だ。普通に考えれば、いかに勢いのあるスタートアップといえど、提携するメリットは少ないように思える。これだけが異質だったのだ。

しかしWeWorkが評価される本質は不動産そのものではなく、これまでの枠にとらわれない新しい働き方の提案と、そこに集まる人々のコミュニティーであったり、それがもたらすクリエイティブへのきっかけ・出会いなどだ。ソフトバンクとしてはWeWorkと共同でスタートアップ企業やフリーランスに対し、こうしたコミュニティーに加わる場所を提供することで、新時代にふさわしい新しい才能の誕生に寄与しようとしているのではないだろうか。それはソフトバンク自身にとっても新たな投資先・提携先となるかもしれないし、大きな目で見れば孫社長が掲げる「人類に最も貢献する企業」を生み出すことに繋がるかもしれない。来年オープンするという東京のオフィスがどのようなものになるのか、非常に楽しみだ。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。