日本は本当に遅れている? 英仏の「脱石油」で考える電気自動車の今後

日本は本当に遅れている? 英仏の「脱石油」で考える電気自動車の今後

2017.08.01

フランス政府が2040年までにガソリン車・ディーゼル車の販売を国内で止める方針を打ち出したのに次いで、英国政府が同様の方針を発表するなど、欧州発の「脱石油」と電気自動車(EV)シフトの流れが本格的に加速してきた。

もともと環境意識の高い欧州だが、なぜこの時期に仏・英政府が、23年後の2040年までと早い区切りを打ち出して「脱石油」に踏み切ったのか。

この時期に脱石油を打ち出す背景は

両国に先んじて、ドイツでは2016年秋頃、2030年までにガソリン車などの販売を禁止するという決議が国会で採択されている。ドイツの決議は法制化に至っていないが、すでに欧州各国では、こういった機運が高まっていた。

今回の仏・英政府の動きは、2017年7月初旬にドイツのハンブルグで開催されたG20首脳会議に合わせて、「パリ協定」からの離脱を表明した米国のトランプ政権に対抗し、牽制する狙いがあるものと受け止められている。

また欧州では、燃費に優れ、二酸化炭素(CO2)の排出も少ないディーゼル車の利用が多いが、最近ではディーゼル車からの窒素酸化物(NOx)による大気汚染問題と、独フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題に続く独ダイムラーなどの疑惑もあり、こういった情勢もEVシフトを後押しする要因となっているようだ。

一連のディーゼルエンジン不正問題もEVシフトを後押しする要因となった

欧州の主導権争いも絡む環境政策

一方で、英国のEU離脱に見られるように、欧州の中では主導権争いもあり、環境政策が国策としてアピールしやすいということも、昨今の電動化シフトの動きに絡んでいるようだ。

フランス政府は声明を出したものの、規制のスケジュールや内容には踏み込んでいない。一方の英国政府は、地方自治体による排ガス抑制策の支援に2億5500万ポンド(約370億円)の予算を用意し、大気汚染対策に合計で約30億ポンド(約4349億円)を投じる予定とする。

いずれにしても今回、仏・英政府が2040年までにガソリン車・ディーゼル車の販売を禁止する政策を打ち出したことで、この流れは欧州各国にも飛び火し、かつ世界的にも、内燃機関から電動車への転換時期が早まっていくことは間違いないだろう。

インド、中国、米国…主要市場で進む電動化への流れ

すでにアジアでも、2017年4月にインド政府が「2030年までに販売する車を全てEVにする」との目標を表明している。中国も国策としてEV優遇を鮮明にしており、近くニュー・エナジー・ビークル(NEV)規制を導入する。日本では、政府が2030年までに新車販売に占めるEV・プラグインハイブリッド車(PHV)の割合を5~7割にするとの目標を掲げている。

トランプ大統領による「パリ協定離脱」の懸念はあるものの、米国ではカリフォルニア州のゼロ・エミッション・ビークル(ZEV)規制が、ニューヨークなど他の州にも波及している。このZEV規制は段階的に強化されており、2018年からはPHV、EV、燃料電池自動車(FCV)以外は規制され、より厳しいものとなる。米国では、国よりも州ごとの規制で電動車への転換を余儀なくされる流れにあるのだ。

ちなみに、ここでカリフォルニア州のZEV規制について説明しておくと、この規制では自動車メーカーに販売台数の一定比率以上を電動車両にするよう定めている。NEV規制はZEV規制の中国版ともいうべきものだ。

このように、世界の自動車市場はゼロ・エミッション化の方向に進みつつある。ただし、ガソリン・ディーゼルエンジンの内燃機関には100年の歴史があり、その進化も含めたハイブリッド車(HV)の技術革新から、家庭で充電可能なPHVが生まれ、そしてEV、FCVへという風に、実用化のステップを踏んでいくというのが従来の方向性だった。

クルマの電動化は、内燃機関からHV、PHV、EV、FCVへと段階的に実用化のステップを踏むとの見方があったが、ここへきてEVへの集中が目立つようになってきた(画像はトヨタ自動車のFCV「ミライ」)

つまり、ガソリンエンジン車とディーゼルエンジン車の双方で排ガスを減らす技術革新が進む一方で、実用的な電動車を商品化するための技術開発とコスト改善が進行していたのだ。

しかし、同じ電動車ではあるが、航続距離に課題があるEVに対し、FCVは水素充填インフラやコストに課題を抱えており、将来のゼロ・エミッション車の「本命」は、コストダウンや電池技術改革の動向とも相まって、確実な方向は不透明ともされてきた。

今回のように、欧州で明確に期限を切った政府主導の内燃機関転換策が進んでくると、自動車各社も対応を急がざるを得なくなる。特に地元の欧州メーカーは、ディーゼル問題もありEV転換を早めていくであろう。

ドラスティックに電化を進める欧州メーカー

2017年7月5日、スウェーデンのボルボ・カーは、2019年以降に発売する全てのクルマをEVやHVなどの電動車にすると発表した。ボルボのホーカン・サムエルソンCEOは、「内燃機関の時代の終わりを意味する」との声明を発表している。欧州勢としては、VWも2025年までに30車種以上のEVを投入する方針を打ち出しているし、ダイムラーや独BMWもEV、FCVの開発には積極的だ。

BMWは「MINI」ブランドにもPHVを投入し、今後はEVも売り出すとの方向性を明確にしている(画像はMINIのPHV「MINI Cooper S E Crossover ALL4」)

仏ルノーは日産自動車とのアライアンスもあってEV戦略で先行しており、仏プジョー・シトロエン・グループ(グループPSA)も2023年までに8割のモデルを電動車にする目標を掲げている。両社ともフランス政府が大株主だけに、政府が明確に目標を打ち出したことで、電動化の取り組みはさらに加速するだろう。

このように、欧州では政府とメーカーが足並みをそろえてEVシフトを急いでいるが、さて、日本勢の現状・今後はどうだろうか。

トヨタとホンダ、次世代エコカーの「本命」争いに変化?

トヨタが「21世紀に間に合いました」のコピーでHVの「プリウス」を投入したのが1990年代末。まさに同社はクルマの電動化の先駆けであり、エンジンとモーターで駆動するHVの投入は「トヨタHV戦略」を主流にした。これをベースとしてトヨタは、2050年をめどにエンジン車から転換すると宣言した環境戦略を2015年秋に発表している。

トヨタは従来から、HVからPHV、さらにはFCVへとステップアップする電動化を計画していたが、これに加えてEVの開発を加速させ、2019年には中国でEVの量産化に踏み切る方針を打ち出している。

電動化の先駆けとなったトヨタのプリウスには先頃、PHVの車種が追加となった(画像は「プリウスPHV」)

ホンダも八郷体制2年目の今年に入り、2030年にホンダ車の3分の2を電動車に置き換えると発表している。トヨタとホンダは、将来の究極のエコカーをFCVとする方向で一致していたが、ここへきてEVに積極展開してきたのも、世界最大の市場である中国を意識した動きとみられる。

EVのリーダーを狙う日産、カギはアライアンスの有効活用

日産は、傘下に加えた三菱自動車工業のEV・PHVの開発力も活用し、EVリーダー連合軍を形成しようとの狙いを明確にしてきた。連合軍トップのカルロス・ゴーン氏による「EVでトップメーカーに」との宣言も、米テスラ・モーターズにお株を奪われた感がある中で、「欧州発EVシフト加速化の流れで、これからが本当の勝負になる」(日産の田川丈二常務)とする。

折しも米国では、テスラが量販EV「モデル3」の出荷を2017年7月末に開始。2016年3月の予約開始から、1カ月で約40万台を受注した話題のモデルだ。日産としては、2017年9月発売の次期「リーフ」からがEV戦略の本格展開となろう。

日産のEV戦略は次期「リーフ」で本格化する(画像は現行型のリーフ)

マツダは近く技術開発の新たな長期ビジョンを発表するとのこと。この中で、EV戦略が改めて注目されることになるはずだ。日本車各社は欧州の動きなどを睨みつつ、内燃機関と電動車の開発を並行して進めていくことになろう。

ただ、EVシフトが加速しているといっても、新たにクルマの燃料となる“電気”を何で作るのかで、環境保全の実効性は変わってくる。「ウェル・ツー・ホイール(油井から車輪まで)」の観点で考えた場合、クルマが排気ガスを出さなくなったとしても、発電の過程などで発生するCO2をどうするかという問題は残るのだ。原子力発電の是非が問われ、火力発電への依存度が高い日本では、EVだけに頼ることが、本当の意味でのゼロ・エミッションとならないことも考えておかねばならない。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu