海外市場やIoT家電に再チャレンジ! 東芝ライフスタイル石渡社長 単独インタビュー(後編)

海外市場やIoT家電に再チャレンジ! 東芝ライフスタイル石渡社長 単独インタビュー(後編)

2017.07.25

新生東芝ライフスタイルがスタートして、ちょうど1年経過した。東芝本体が迷走するなか、東芝ライフスタイルは、2016年度下期は黒字化。だが、東芝ライフスタイルの石渡敏郎社長の自己採点は50点と自らに手厳しい。そして、さらなる国内シェアの回復、グローバル展開の加速など、今後の事業成長にも意欲をみせる。前編に引き続き、東芝ライフスタイルの石渡敏郎社長に話を聞いた。(前編はこちら)

東芝ライフスタイルの石渡敏郎社長

黒字転換…自己採点は50点

--東芝ライフスタイルは、2016年度下期(2016年7~12月)で、早くも黒字に転換しました。この理由はなんですか。

石渡: ひとつは、東芝グループ時代の構造改革により、固定費削減などの効果を刈り取れたという点です。これは苦しい思いをしましたが、いまにつながっている大きな要素のひとつです。2つめには、新製品をきちんと投入できたという点です。冷蔵庫、洗濯機、クリーナーも、投入すべきタイミングで、投入することがでました。そして、3つめが、広告投資ができるようになったという点です。思い切ったテレビCM投資を行いましたし、多くの人に、満島ひかりさんのCMを見たといっていただきました。マーケティング投資がしっかりできたことも、販売増につながっています。そして、トランプ米大統領就任前の円高傾向もプラスに働きました。

--2016年度下期の黒字化は想定内だったのですか。

石渡: 最初の想定では黒字化は難しいと思っていました。思ったよりもうまく行ったなというのが正直なところです。そして、今年度が真価を問われるのは間違いありません。

--この1年間を自己採点するとどうなりますか。

石渡: 1年間でいろいろチャレンジをして、社内を変えてきましたが、マイディアグループの方洪波(Paul Fang)CEOからは、「私だったら3カ月でできた」と言われましたよ(笑)。そうした観点からみると、50点ぐらいでしょうか(笑)。

国内シェアを回復させる

--2017年度(2017年1~12月)も黒字化が前提ですか。

石渡: 2017年度の黒字化は、マイディアからの至上命令です。そして、権限の委譲と責任の追及が強い会社なので、成長投資をしたのならば、着実に利益を出さなくてはなりません。これは、経営に対する責任だと考えています。

--2017年度の黒字化に向けて、どんなことに取り組みますか。

石渡: ひとつは、魅力的な製品を開発し、それを市場に届けるということです。我々はメーカーですから、これは基本中の基本として大切なことです。5月30日に、ウルトラファインバブル技術を搭載した洗濯機を発売しました。ここでは、家でワイシャツを洗っても、ちゃんと皮脂汚れが落ちるという特徴を訴求しています。この商品を見てもわかるように、きちんと技術開発をし、商品を出すということは、日本のマーケットに対するコミットメントであり、日本のユーザーがどんな商品が欲しいのかということを知り、それを提供していく姿勢はこれまでとは変わりません。

2017年5月30日、ウルトラファインバブル技術を搭載した洗濯機の発表会

それと2つめは継続的なマーケティング投資です。テレビCMも継続的に行い、訴求を続けていきます。今年の夏商戦においても、6月22日からテレビCMを大量に打ちました。前年同期には、広告投資はほとんどなかったわけですから、その点も大きな違いがあります。振り返れば、2015年の夏商戦も、東芝の不正会計問題があり、自粛した経緯がありますから、実に3年ぶりに、夏商戦向けの広告投資を行ったということになります。もちろん、年末商戦に向けても、積極的な広告投資を行いたいと考えています。こうした取り組みを通じて、売上高を高め、日本におけるシェアを戻すことに取り組みます。

--現在、東芝の白物家電のシェアはどうなっていますか。

石渡: 東芝の白物家電のシェアは、ピーク時には15%程度ありましたが、いまは、10%程度へと、約5%下がっています。2018年度には、ピーク時の水準にまで戻したいと考えています。電子レンジなどでは30%近いシェアを持っていますが、エアコンのシェアは、10%から5%程度へと半減しましたから、ここを優先的に回復させなくてはいけないですね。とくに、マイディアはエアコンの製造、販売では世界一の会社ですから、日本だけシェアが低いというわけにはいきません(笑)。商品力に加えて、これまで絞り込んでいたマーケティング投資、販売店支援などを強化することで、エアコンのシェア拡大に取り組みます。構造改革によって、かなり絞った筋肉質な体質になっていると思いますので、売上げが拡大すれば、自ずと利益がついてくるという構造になっています。

その先の戦略…インド、中国再参入

--東芝ライフスタイルの2017年の黒字化を前提に、次の成長ステップはどう描きますか?

石渡: 2018年度を初年度とする3カ年の中期経営計画を現在策定しているところです。成長戦略とともに、積極的な投資も進める考えであり、これをマイディアグループのなかで承認してもらい、実行に移したいと考えています。今年は、この中期経営計画の立案が重要な取り組みのひとつになります。具体的な数値はいえませんが、描いている姿のひとつが、3カ年計画が終わった時に、これまで以上に、グローバルで展開する企業を目指すという点です。米国や欧州という東芝の白物家電事業にとっては未開拓の市場に入っていくこと、インド、中国という一度撤退した市場にも再参入したいですね。2020年度には、東芝の白物家電がグローバルブランドとして、世界中で事業を展開する企業になりたい。そうした企業に変身したいと考えています。

私は、東芝で、最初の20年間はテレビやビデオなどの映像事業を担当し、次の10年間はPC事業をやり、直近の10年間で家電事業を担当してきました。東芝は、かつて映像事業やPC事業で、世界ナンバーワンを取った経験があります。TOSHIBAブランドの白物家電でも、グローバルでビジネスをやり遂げたい。それをやるために、東芝グループでやるよりは、マイディアグループでやる方が、将来が開けると考えています。

マイディアグループにとっても、グローバル化は大きな方向性のひとつであり、優れた商品を開発し、効率的な経営を行い、それによって、グローバルで戦う姿勢を持っています。マイディアグループが、世界展開を強化する上では、世界に通用するTOSHIBAブランドが必要だといえます。東芝ライフスタイルにおける現在の海外売上比率は約3割ですが、2020年には、50%を超えることになるでしょう。

ただ、日本でも、アジアでも、もっとシェアを伸ばしたいと考えています。日本では、シェアを回復して、トップ3の一角を入りたいと思っています。そのためには、現在、10%のシェアを20%近くまで高める必要があります。

「PINT」に込められた約100年続く東芝白物家電のDNA

--ところで、東芝ライフスタイルでは、コミュニケーションスローガンとして「PINT!(ピント)」を掲げていますね。ここに込めた意味はなんでしょうか。

石渡: 実は、先日のマイナビニュースの記事で、日本で最初に発売した東芝の洗濯機を取り上げていました。その際に、当時の新聞広告も掲載していたのですが、そこに、書かれていた内容は、洗濯機を使うことで、主婦が自分の時間を作ることができ、読書の時間に当てることができるという提案でした。

日本で最初に発売した東芝の洗濯機と当時の新聞広告。約100年前から、モノを通じて、日本人の生活を豊かにしてきたんですね

これは、東芝の白物家電事業が、いま、まさにやらなくてはならないことだと思っています。つまり、「モノ+コト」が大切なのです。洗濯機はなにができるか。当然、洗濯ができます。だが、それをモノとして売っているのではなく、モノを通じて、ライフスタイルを変えることを、97年前の東芝の先輩たちは提案してきたのです。これは、消費者目線で役に立つものを作り、消費者のライフスタイルを安全で、快適なものにしたいという姿勢の表れであり、ここに東芝の白物家電のDNAがあります。それを支えるTOSHIBAブランドとしての品質や使い勝手の追求は脈々と続いています。

石渡: これを、いま風に言い替えたのが、PINT!です。PINT!は、「Plus Idea Next Technology」の頭文字で、新たなアイデアという「コト」を、次世代の技術という「モノ」で起こす、あるいは、「モノ」を通じて、「コト」を生み出すという意味を込めています。モノからコトは、東芝時代に使っていた言葉でしたし、新たなイメージを出すためには、言い替えたらどんな言葉がいいだろうかと考え、行き着いたのがこの言葉でした。ピンと来るという言葉とも連動させています。

--いまの東芝ライフスタイルの商品を見て、PINT!の達成率はどの程度ですか(笑)

石渡: これは永遠の課題だといえます。ただ、お客様に使っていただくなかで、ピンと思ってもらえるシーンが増えればいいと思っています。この夏に放映したテレビCMのなかで、「今日一日、あなたを、何回、ピンとさせることができただろうか」というメッセージが入っているのです。たとえば、電子レンジでピザを焼くということで、友達を招待してみたいと、ピンと思ってしまうというような、実生活のなかで、コトが起きることを支援するモノでありたいと考えています。PINT!は、東芝の白物家電事業の姿勢を示したものであり、少なくとも、2020年まではこの言葉は使い続けたいと思っています。

IoT家電に再びアプローチ

--PINT!を達成する上で重要な要素はなんですか。

石渡: これからはスマート家電の世界が本格的に訪れます。つまり、IoTが重要になり、これがコトづくりに直結することになります。マイディアでは、中国で、スマート冷蔵庫をすでに発売しており、100万台の出荷を目標にしています。それだけの冷蔵庫がコネクテッドすることになり、そこから出てきたデータを活用した新たなビジネスやサービスを提供できるようになります。すでに、冷蔵庫の稼働状況をもとにした故障予知のサービスを開始しており、壊れる前に修理するといったことを可能にしています。

実は、東芝時代には、スマート冷蔵庫を発売した経緯があり、ネットにつなげた利用ができます。しかし、ネットにつなげるときの手続きが複雑でした。これは、東芝グループという観点から、HEMSにつなげるという発想で商品を開発していますから、お客様自身もホームゲートウェイへの投資が必要になり、家のなかを工事しなくてはなりませんし、そこで数万円の費用が発生し、さらに月500円程度の使用料負担が必要になります。これではスマート家電を使ってみようと気にはなりません。

しかし、マイディアグループは、家電メーカーとしての発想でモノづくりをしますから、まずは、家のなかにあるWi-Fiにつなげばサービスが利用でき、スマホからも簡単に操作できるようにします。さらに、お客様には費用負担なしでサービスを利用してもらう環境も作ります。つまり、これまでのように、スマート冷蔵庫なので、余計にお金をくださいという発想はありません。収益は別のところから得るという仕組みになります。言い替えれば、東芝のスマート家電のビジネスは、新たな東芝ライフスタイルのなかで、一度リセットすることになります。第1世代のスマート家電が普及しなかったのは大いに反省すべきことではありますが、IoTがこれまで以上の速度で広がるなかで、スピード感をもって、走りながら考え、アプローチしていくつもりです。マイディアグループは、まずは、100万台の冷蔵庫がつながるという世界を作り上げ、そこから新たなビジネスを生んでいくという発想で取り組んでいます。日本においても、同じような発想で進めたいと考えています。

TOSHIBAブランドの新たなスマート家電は、2018年度には、日本市場に投入したいと考えています。これをTOSHIBAブランドのスマート家電の第2世代と位置づけて取り組んでいくことになります。ぜひ楽しみにしていてください。

見積もりが楽天的? 出揃ったキャリア決算、新規参入「楽天」の厳しい船出

見積もりが楽天的? 出揃ったキャリア決算、新規参入「楽天」の厳しい船出

2018.11.13

大手キャリアの「値下げ論争」への回答が出揃った

ドコモの値下げに、KDDIは様子見、ソフバンは人員削減で対策

楽天は、自前でのネットワーク敷設を想定通りに行えるのか?

10月末から11月初旬にかけて、大手キャリアが相次いで決算会見を実施。菅官房長官の「携帯電話料金は4割値下げできる余地がある。2019年10月に第4のキャリアとして楽天が参入するまでに実現できるだろう」という発言に対して、各キャリアの姿勢が改めて見えてきた。

値下げ発表受け、様子見のKDDI、人員削減のソフトバンク

菅官房長官の発言で携帯3社の値下げ議論は岐路に立たされた

値下げに積極的な姿勢を見せたのはNTTドコモだ。同社の吉澤和弘社長は「2019年第1四半期に2〜4割の値下げを実施する。4000億円程度のお客様還元を考えている」と発表した。具体的な値下げ方法までは明かさなかったが、端末代金に対する割引をやめ、通信料金と分離する「分離プラン」の導入が有力視されている。

ただ、これまで吉澤社長は値下げに消極的な姿勢を示していたはずだが、突然、導入に踏み切った背景にあるのは「官邸からNTTの持ち株に圧力があったのではないか」(複数の業界関係者)と見られている。

NTTドコモの「値下げ発言」に対して「正直、驚いている」と語ったのは、KDDIの高橋誠社長だ。高橋社長は「我々は昨年、すでに分離プランを導入している。まさに分離プランのトップランナーであり、政府からの宿題もすでに済ませている」と説明した。実際のところ、「NTTドコモの値下げは、具体的な内容がわからない」(高橋社長)ようで、NTTドコモに先んじて、値下げで仕掛けるということはせず、まずは様子見の姿勢を取るようだ。

ただし、NTTドコモの値下げのインパクトによっては「対抗値下げも検討する」(高橋社長)とのこと。ソフトバンクも基本的には「すでに今年9月に分離プランを導入している」(孫正義会長)というスタンスだ。

孫正義会長は「9月に導入したウルトラギガモンスター+は、ギガ単価で見れば、世界でもっとも安いのではないか」と主張。いたずらに値下げ競争には応じない姿勢を見せた。ただし、格安ブランドのワイモバイルにおいては、来春に分離プランを導入する予定で、「1〜2割程度、安くなるのではないか」(宮内謙社長)と見積もった。

NTTドコモがどれだけ値下げしてくるか、どのくらいの影響力があるか見えないだけに、ソフトバンクでは、国内通信事業に携わる社員の約4割を今後、成長ができる分野に配置転換し、通信収入が下がっても、増益を達成できる組織体制にしていく予定だ。

第4のキャリア「楽天」の厳しい船出

菅官房長官や各キャリアの社長の話をまとめると、2019年には2回、通信料金値下げが起きる可能性が出てきた。

まず最初はNTTドコモの値下げだ。吉澤和弘社長は「2019年第1四半期」という言い方をしているが、通常、NTTドコモが料金プランなどの発表を行う場合、決算会見で明らかにすることがほとんどだ。例年、NTTドコモでは、ゴールデンウィークに突入する直前の4月末に決算会見を実施する。来年も4月末に発表し、6月あたりに値下げを実施するという流れになる可能性が高そうだ。

ここで、他社を驚かせるような料金プランが投入されれば、KDDIやソフトバンクも対抗値下げを迫られることになるだろう。

もうひとつは楽天の携帯電話事業参入のタイミング。こちらは2019年10月の予定だ。

11月8日に行われた楽天の決算会見で、料金施策について質問を受けた楽天モバイルネットワークの山田善久社長は「1年先なので、他社がどうこうよりも、ユーザー視点で魅力的な料金を提供していきたい。短期的に他社がどうだからといって決めるものでもない。最終的な料金戦略は決まっていないが、期待されているので、それに応えられる料金にできればと思う」と語った。

総務省に提出された計画書では、MVNOで提供している楽天モバイルの通信料金と同等にするつもりと言われている。しかし、第4のキャリアとして参入した場合、楽天モバイルと同じ料金設定では、ユーザーにとって魅力的には見えないだろう。当然のことながら、楽天モバイルよりも安価な料金設定でなければ、誰も振り向いてくれない。

楽天はKDDIとローミング契約し、サービス開始当初は東京23区、名古屋市、大阪市以外のネットワークをKDDIから借りることができる。

しかし、2026年までには全国に自前でネットワークを敷設しなくてはならない。それには相当なコストが掛かるはずだ。楽天では6000億円未満で実現できると強調するが、その発言を本気で信じる業界関係者はほとんどいない。

ベンダー体制図と設備投資額。「少数の実績のある企業と連携を取りながら進めている。投資額は、当初発表していた600億を下回ると考えている」との説明がなされた

MVNOよりも安い料金をユーザーに提供しつつ、しかも、全国にネットワーク構築できるだけの設備投資額を確保できるだけのソロバン勘定が楽天には求められるのだ。

2019年10月に参入する楽天に対して心配しているのが提携したばかりのKDDIだ。高橋誠社長は「NTTドコモが分離プランを入れると、大手3社がすべて分離プランになる。(キャリアの通信料金が安く見えるので)楽天は、いまのMVNOと同じ料金プランでも、通用しなくなるのではないか。そこで料金をさらに下げると体力的に持たなくなる。(低料金を期待されている)楽天のハードルが上がっているような気がする」と語った。

本来であれば、高い料金プランを続ける大手3社に対して、楽天が低料金プランで果敢に攻めていくという構図が理想だったはずだ。しかし、NTTドコモが、重い腰を上げてしまったことで、楽天にとっても、厳しい船出になってしまうのではないだろうか。

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

モノのデザイン 第46回

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

2018.11.13

バルミューダ初の照明機器「BALMUDA The Light」

子供にターゲットを絞り、目の健康を追い求めた

デザイン家電ブームの火付け役が挑んだ新領域での苦労とは

バルミューダから10月26日に発売された「BALMUDA The Light」。これまで扇風機、スチームトースター、オーブンレンジなど、デザイン性と革新性を両立させた独自の製品を世に送り出してきた同社だが、照明器具の発売はこれが初めて。空調家電、調理家電に次ぐ“第三のカテゴリー”への市場参入を目論む第一弾のプロダクトだ。

“子どものため”と明確に謳ったこのLEDデスクライトは、これまでにはない思想で開発された。業界で異彩を放つ新製品の設計・機構から外観に至るまで、広義での"デザイン"について、開発チームのメンバーである同社マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏に聞いた。

バルミューダが新たに挑む製品カテゴリーである"照明"の第1弾として発売された「BALMUDA The Light」。"子どものため"のデスクライトとして、最新のテクノロジーのみならず、開発陣の思想や想いが想像以上に込められた商品だ

子どもウケデザインではない、子どものためのライト

冒頭で述べたとおり、本製品はデスクライトとして"子ども向け"を謳った商品。だが、その方向性は、見た目だけを子どもウケするようなデザインにしたものとは本質的に大きく異なる。

子ども向け="子どもの姿勢や視力への影響を配慮したもの"であり、製品の発表会では、「大人に比べて視界が狭い子どもは、机に向かっているうちにいつの間にか前のめりになってしまい、うつぶせのような姿勢になってしまう」と、寺尾玄社長自らがご子息と対峙して気づいたことが、開発の経緯になったことを明かしていた。

一般的なデスクライトの難点は、このように真上からの照明で、手元に影ができやすいことだ
光源が目に直接入ることも従来のデスクライトの問題点

高荷氏によると、初期の段階ではまったく異なるコンセプトで研究開発していたそうだ。しかし、「そのコンセプトでは商品化のめどが立たず、"集中"とか"目"が開発の方向性のキーワードになっていきました」と話す。

お話を伺った、バルミューダ マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏

BALMUDA The Lightは、同社が"フォワードビームテクノロジー"と呼ぶ、光をミラーで一度反射させてから手元に当てることで、光が瞳に直接入らない点が特長の1つである。反射板を使うことで机全体を照らすことができるという仕組みは、開発の初期段階から検討されており、デスクライトに応用することも考えていたそうだ。

バルミューダが考えた、デスクライトとしての理想的な光のイメージ。手元に影を作らず、光が直接目に入らない解決方法が検討された
BALMUDA The Lightの光源部分。ミラーによって光を反射させてから手元に当てることで、光が直接目に入らず、影もできない。光源には3灯の太陽光LEDが使われている

手術灯メーカーとの出会いで開発が加速

バルミューダがデスクライトの開発に着手したのは2014年ごろ。実は2015年に発売され大ヒットした「BALMUDA The Toaster」の発売前から構想自体はスタートしていたというが、商品化に向けて大きく動き出したのは2年ほど前とのこと。高荷氏は「でも、拍車がかかったのは、去年(2017年)の頭ぐらい。社長自らが山田医療照明の増田社長と出会ったところからなんです」と振り返る。

山田医療照明は、手術灯など医療用照明を手掛ける、業界では国内トップのメーカーだ。バルミューダが開発途中で考えていた照明の仕組みが手術灯に似ていることに気付いた寺尾社長が自らネットで検索し、探り当てたのが山田医療照明だった。これが、後の"フォワードビームテクノロジー"につながっていくことになる。

すぐさま寺尾社長はショールームへ乗り込んで行った。山田医療照明は手術灯でグッドデザイン賞を受賞するなど、デザインに対する意識も高く、製品開発の考え方にも近いものがあると感じたという。直接会いに行った同社の社長ともすぐさま意気投合したそうだ。

高荷氏は「実は山田医療照明の増田社長がバルミューダのファンで、弊社のほぼ全商品を持っていらっしゃったんです」と、共同開発にたどり着いたエピソードを笑いながら語った。

フォワードビームテクノロジーのヒントになった、山田医療照明の手術灯

2017年春からは、2社共同のプロジェクトとして再始動した、BALMUDA The Light。もう1つの技術的な特長として、光源に"太陽光LED"を採用していることも挙げられる。

太陽光LEDとは、太陽による自然光に近い波長(スペクトル)を持ったLED。一般的なLEDに比べてブルーの波長が低く、目にストレスを与えにくいといい、山田医療照明が手掛ける手術灯にも数年前から採用されている。

だが、目に優しい反面、太陽光LEDは価格が高いのが難点。一般的なLEDの10倍ほど高価なために、民生用の機器で採用されている例はほとんどないという。それをBALMUDA The Lightではなんと3個も搭載しているのだ。

BALMUDA The Light、一般的な白色LEDライト、太陽光の光の波長の違い。BALMUDA The Lightのブルーライトは、一般的な白色LEDライトに比べると太陽光に近い波長で、目が疲れにくい特性を持つ

太陽光LEDが民生用機器に採用されない理由は他にもある。「太陽光LEDは、光の質がよい代わりに発熱しやすく、放熱をいかに行うかがかなり大変なんです。放熱対策をせずに電流を流すと100℃を超えることもあり、そのままだとすぐに壊れてしまいます」と高荷氏。

そこで、BALMUDA The Lightではさまざまな放熱技術を検討していった。「フォワードビームの反射構造と放熱を両立させる設計を行い、1日中ライトをつけっぱなしにしていても、ほのかに温かいと感じる程度にまで抑え込みました。しかし、放熱のための解決策をやればやるほど本体が重くなっていき、倒れやすくなってしまったんです」と話す。

カサの部分に複数設けられた穴の部分は、放熱の機能も兼ねている

「形に合わせた開発」の苦労

以前、「BALMUDA The Range」の取材の際に、「バルミューダのデザインの神髄は、形はベーシックでありながら、オリジナリティーを追求することにある」と語られていたように、開発チームには、形を変えないままで中身を改良していくことが要求された。

「開発部門としては、あと5ミリ厚くできれば放熱と倒れにくさを両立できるのに……というせめぎ合いが何度かあったのですが、弊社の商品はデザイン性もブランドアイデンティティーの1つ。デザイン性は優先課題とされるため、"形ありきで、そこに技術をどうやってはめていくか?"という考え方で、光源部分の試作を毎週繰り返して、最終的にはコンマミリサイズで調整を続けました」と苦悩を明かす。

そのほかにも、暗くする際にチラつきが出やすく、それが目にストレスを与えてしまうという問題を電流の量で微調整する制御を行い、最小限に抑えたという。

一方、外観上のデザインに関しては、"パッと見はシンプル"というバルミューダ共通のデザイン意匠を踏襲しつつも、意識されたのは"テック感"だ。

「光源が見えない時、表側はシンプルでやさしい印象ですが、カサの内側の光源がある部分は複雑な造形にし、一部をクローム調にすることでシャープな印象に仕上げました。ポリゴン状の反射板も、光学的に有利かつテクノロジーを感じるデザインを意識したものです」と高荷氏。

それ以外にも、"子ども用"を謳う商品として、耐久性はもちろん、転倒しないように重さを調整した。"長くずっと机にいる相棒"として長年愛用できるように、デコレーション用に付属するシールが貼りやすい一方で傷や指紋が付きにくく、手入れをしやすいマット塗装やコーティングが施されている。

本製品のもう1つユニークな点は、"音"の仕掛けだ。BALMUDA The Rangeと同様に、デスクライトにもスイッチのダイヤルを回すと音を奏でるギミックが採用されている。前回のレンジはギターやドラムだったが、今回はアナログピアノの音が選ばれている。しかも、スタインウェイのグランドピアノを使って、スタジオでプロのミュージシャンが演奏した生音を音源にするというこだわりだ。

「いろいろ試した中で、光の明るさと諧調に親和性があったのがピアノの音でした。クラシカルなピアノの旋律はノスタルジックで、子どものイメージに合致しながらも、子どもっぽすぎるということもなく、長く愛用するのにふさわしい。ピッタリとハマりましたね。鍵盤の押し方とか、音の余韻までちゃんと表現されているんですよ」

製品に同梱されている取説。「子どものクリエイティビティや好奇心が掻き立てられるように」と、あえて設計図のようなデザインに仕立てたとのこと

コーポレイトアイデンティティーの1つとして"クリエイティビティ"を掲げるバルミューダ。今回の製品にも「クリエイティブであれ!」という子どもたちへのメッセージが込められている。そのために、デザインはあえて90%の完成度にし、残りの10%は使用する子ども自身の手で作り上げて欲しいという思いから、自由に組み合わせて貼れるステッカーが4シートも付属しており、本体の根本部分はペンスタンドにもなっている。

ダイヤル部分を回すと、ピアノの音階を奏でる。バルミューダらしい"遊び心"ある仕掛けに、子どもも大人も心が躍る

単に子どもたちの"目を守る"という使命だけでなく、自らの手で自分のものにした喜びや体験がモノへの愛着を生み、新たなクリエイティビティにつながっていく。いや、つなげてほしいという、同社の"意志"が大いに込められた商品だ。「デスクライトでどうやって体験を伝えるかはチャレンジングでした」と最後に語った高荷氏の言葉からも、その思いが伝わってきた。