気象データで

気象データで"食品ロス"を減らす - 日本気象協会の挑戦

2016.05.27

天気予報専門サイト「tenki.jp」を運営する日本気象協会。実は効率的な食品の製造・流通・販売に、気象データを生かすプロジェクトに乗り出している。気象情報やPOSデータなどのビッグデータを解析し、食品ロスや不要に発生する二酸化炭素(以下、CO2)の削減を目指すというものだ。

このプロジェクトは経済産業省の「次世代物流システム構築事業費補助金」採択事業。正式な名称は「需要予測の精度向上による食品ロス削減および省エネ物流プロジェクト」(以下、同プロジェクト)という。初年度の2014年度には「データの見える化」、2年目の2015年度には「個々の会社での実証実験」、3年目の2016年度には「業種を超えた連携利用」と段階を踏んで進めている。並行して事業化も進め、2017年度には実用化する予定だ。

一般財団法人 日本気象協会の中野俊夫氏(写真右)と吉開朋弘氏(写真左)

今回話を伺ったのは、一般財団法人 日本気象協会で同プロジェクトを担当している中野俊夫氏と吉開朋弘氏。天気予報が食の流通にどんな影響を与えるのだろうか、そのインパクトについて聞いてきた。

幅広い産業に影響する気象

中野氏はメーカーを統括。初年度には協力してくれるメーカーがなかなかおらず、「大変でした」と振り返る

食品業界では、メーカー(製)と卸売業者(配)、小売店(販)がそれぞれ独自に需要量を予測。その結果、生産量や注文量が食い違い、廃棄や返品といった"ムダ"が生じてしまう。それを減らすためには高精度な需要予測が必要となるが、製・配・販の1業態だけでは解決できない問題。そこで役立つのが気象情報だ。

中野氏は「将来を物理的に予測する有効な手段が気象なんです。なおかつ、幅広い産業に関わってくる。食品業界においては、気象情報を用いて製・配・販で連携すれば、最適な物流を実現できるかもしれない、と着手しました」と説明してくれた。

つまり、より正確な気象情報や需要予測を製・配・販で共有できれば、3者それぞれにメリットがある。メーカーではロスを削減でき、配送では天候に左右されやすいフェリーなどでも荷物を運べるようになり、小売店では発注数量に生かして売上アップを狙えるというわけだ。

ツイートを需要予測に生かす

吉開氏は小売店を統括

日本気象協会は、需要予測の精度を上げるために「体感気温」を利用。この体感気温こそが購買に直結するが、主観的なものであり客観的には観測しにくい。そこで、用いたのがSNSのつぶやきだ。位置情報付きのツイートから、どのような気象のときに「暑い」「寒い」と感じるのかを分析し、体感気温を客観的に導き出せるようにした。

さらに気象データや小売店のPOSデータも用いて、需要予測をより高度化。膨大なデータ量なので、解析には人工知能を用いている。「気象が売上に関係するかどうか」も商品によって大きく異なるが、吉開氏によれば、そのふるいわけにも人工知能が活躍した。その結果、気象が売上に関係してくる商品が「だいたいみえてきた」(吉開氏)とのことで、今後はそういったカテゴリの商品(飲料や鍋物など)で優先的に需要予測を進めていく。

2015年度の実証実験でどんな結果を残したのか、次ページで豆腐とペットボトルコーヒーの実績を紹介しよう。

食品ロスが大きな問題の豆腐

同プロジェクトに1年目から参加している相模屋食料は、日本気象協会と協同で豆腐の需要量を予測。日配品の代表ともいえる豆腐だが、「15時に受注が来て、18時には配送のトラックが出発するんです。受注が来てから作るというのはありえない。ロス問題は常に抱えていました」と相模屋食料 代表取締役社長 鳥越淳司氏は語る。日本気象協会から同プロジェクトの話があったときは「ぜひ取り組みたい!」と前のめりで参加を決めたそうだ。

夏は冷奴、冬は湯豆腐といったように季節を問わず活躍する豆腐。年中安定した需要があるのは間違いないが、夏は冬の6倍多く売れるとか。特によく売れるのが7月第3週、関東が梅雨明けを迎えるタイミングだという。

左から、相模屋食料の「よせ豆腐」と「枝豆風味 よせ豆腐」
夏の定番、冷奴。豆腐が1年で最も売れる時期はビールと同じだそう

生産計画は「結局は人のカン」で決めていたが、日本気象協会の気象データを用いて相模屋食料側はフレキシブルに対応。メーカーとしても生産計画を変更するのはそう簡単ではないはずだが、鳥越氏はアッサリと「まずはやってみよう、というスタンスなので」と述べてみせた。

はじめは結果が出なかったというが、当日と4日後までの天気・気温から需要量を予測する「よせ豆腐指数」などによって、2015年度の実証実験では約30%の食品ロス削減を実現した。鳥越氏によれば、受注ロスに絞った場合はこの数字が約40%になり、量にして年間約32万丁の"ムダ"が省けたそうだ。従来も全てのロスを廃棄していたわけではないのだが、この量には相当なインパクトがある。

鳥越氏は、「日本気象協会の方は、うちの工場まで足を運んでくれたり、需要予測を担当している社員の要望を聞いてくれたり、現場の声を拾おうとしてくれます。はじめはおかたいイメージでしたが、独創的だし、かなり柔軟に対応してくれるなぁという感じで。成果もついて来たことだし、うちとしても、できることは全部やっていきたいですね」と今後の期待を語ってくれた。

船でペットボトルコーヒーを運ぶ

やっぱり暑い日に売れるペットボトルコーヒー。写真は「ネスカフェ ゴールドブレンド コク深め ボトルコーヒー 甘さひかえめ 900ml」

2週間先までの天気が分かるようになったことで、モーダルシフト(貨物輸送をトラック輸送から鉄道や船舶での輸送へ切り替えること。一般に、CO2の排出量削減や交通渋滞の緩和などの効果が見込める)をさらに加速させたのがネスレ日本だ。同社はもともと、モーダルシフトに力を入れていた企業。ネスレ日本 サプライ・チェーン・マネジメント本部 CFSCマネジャー 尾川太志氏によれば、すでに長距離輸送の8~9割は鉄道・フェリー輸送に頼り、残り2割程度をトラック輸送している。

ネスレ日本は、ペットボトルコーヒーの海上輸送で川崎近海汽船とともに同プロジェクトに協力。長距離を、一度にたくさんの荷物を載せて安価に運べるフェリーだが、天候によっては欠航になることもある。1週間先しか天気が分からないときにはフェリーでの輸送が難しかったが、2週間先まで分かるようになったことで、台風やいわゆる爆弾低気圧などの予測が立てられるようになった。台風が近づいているときには事前に多めに配送するといった工夫をすることによって、フェリーでもペットボトルコーヒーを配送できる。この結果として、2015年度の実証実験では貨物1tあたりCO2を約48%削減。半年で98tものCO2を削減できるという。

モーダルシフトに加えて、気象情報は豆腐同様、ペットボトルコーヒーの需要予測にも役立つ。ペットボトルコーヒーも気温に左右されやすい商品だが、「暑くなりそうなエリア」には多めに配送しておく、といった取り組みを行っているそうだ。そのほか、ペットボトルコーヒー以外の商品への活用にも尾川氏は期待している。たとえば、お菓子の「キットカット」。チョコレートが溶けないよう夏場は低温流通に切り替えているが、そのタイミングにも日本気象協会のデータを生かせるのではないか、とのことだ。

データを蓄積している会社は強い

中野氏は「気象情報は防災への活用がメインと考えられているが、そのほかにも生かせる価値のある情報なんです」という。実は日本気象協会は、「tenki.jp」のように気象情報を提供するだけでなく、多様な企業へのコンサルティングも行っている。

プロジェクト2年目の成果。主に3つの成果をあげた

今回紹介したプロジェクトにしてもそうだが、中野氏は「気象データを核にして、業界どうしをつなげる役割を日本気象協会ができれば。そういったビジネスを今後作っていきたい」と意気込む。気象情報による需要予測の手法を確立すれば、食品以外でも引く手あまたになることは容易に想像できる。発想次第で幅広い業界に生かせる気象情報。あまり表には出ないが、"コンサル会社"としての日本気象協会の動向に注目したい。

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

2019.03.22

ネットの学校「N高」の卒業式に潜入

開校時に入学したN高1期生が卒業した

世間の注目を浴び続けた生徒は、何を想う?

3月、角川ドワンゴ学園「N高等学校」の卒業式が東京・お台場にて開催された。

「ネットの高校」として、3年前に設立したN高。この日、2016年の開校時に入学した第1期生と、途中転入・編入した生徒をあわせ、計1593名が卒業した。3年前、『VR入学式』で世間を賑わせたこの学校を巣立つ卒業生たちは、N高での日々をどう捉え、今後はどのようなキャリアを描いていくのだろうか。

卒業式は2019年3月20日、お台場にて行われた

卒業式を彩る最新テクノロジー

N高は、ドワンゴとKADOKAWAの経営統合で誕生したカドカワが設立母体となり、2016年4月に開校された通信制高校だ。同校は開校後、2年次編入なども受け入れてきたため、これまでも卒業生を排出してきてはいたが、「1年生~3年生をN高で過ごした生徒」が卒業するのは、初めてのことだ。

卒業式には多くの報道陣も参加した。生徒にとって、「卒業式に記者がいる」「自分たちが卒業する様子がテレビやWebで取り上げられる」というのは不思議な感覚だろう。とはいえ、もう「VR入学式」に「ニコニコ超会議」へのブース出展(N高ではそれを「文化祭」と表現)などの経験を経て、メディアへの露出には慣れてしまっているのかもしれない。

そして、今回の卒業式も例によって独特だった。

卒業式は任意参加で、会場には袴や制服に身を包んだ生徒が集まる一方、その様子をライブ配信することで、会場に来られない生徒生徒も参加できる仕組みになっていた。会場のスクリーン上にはニコニコ生放送さながら、リアルタイムでコメントが表示されており、こうした演出は「N高らしい」といった印象を受けた。

卒業式の様子。オンライン参加者のコメントがスクリーンを流れる

中でも印象深かったのは、当日来られなかった生徒を代表して、米シリコンバレーに留学中の佐々木雅斗さんが「ロボット」に自分の顔を映して卒業証書を受け取ったシーンだ。

使用したのは、ANAが“未来の移動手段”として開発する、視覚・聴覚・触覚などを備えた、ユーザーの分身となるロボット「ANA AVATAR」。同校ではこのロボットを試験的に授業にも導入しているそうで、こういった最新のテクノロジーを使うあたりもN高らしい。

遠隔操作ロボット「ANA AVATAR(Beam Pro)」を用いて卒業証書を受け取った佐々木さん

と、テクノロジーにばかり目が行きがちではあるが、そもそも「高校生がシリコンバレーに留学している」という事実も驚くべき点だ。高校に通いながらも、シリコンバレーでビジネスを学ぶ――、というキャリアを選べるのは、学校という場所の制約を受けない、ネットの高校のメリットと言えるだろう。

卒業式にはほかにも「異色のキャリア」を持つ生徒たちが集まり、特に活躍した卒業生に対する特別表彰も行われた。

表彰を受けたのは、東京から鹿児島県に移住し、農業や水産業を手伝い地域活性化に貢献する白鳥優季さん、第18回アジア競技大会ジャカルタ・パレンバン「ウイニングイレブン 2018」eスポーツ 金メダリストの相原翼さん、N高のプログラムを最大限に活用し、スタンフォード大学やオックスフォード大学のサマープログラムに参加した冨樫真凜さんなど。その活躍の幅は広い。

さまざまな分野で活躍したN高生に対しては、特別表彰が行われ、記念品としてクリスタルトロフィーが贈呈された

メディア露出が多いがゆえに高まる期待値

N高を卒業した個性豊かな面々は、今後は大学進学、就職とさまざまなキャリアを歩む。

日本初で唯一N高にのみ実在するという「起業部」に所属し、かつ起業第一号として「Easy Go」という会社を創業している、鈴木颯人さんと山田陽大さんから「N高で過ごした時間」についてコメントをもらった。

「元々は地元の進学校に通っていたのですが、『自分が好きなことをしたい』『起業したい』という想いがあり、N高に入学しました。年齢や場所に縛られず、多くの人とコミュニケーションを取れ、充実した3年を過ごせました」(鈴木さん)

「以前通っていた学校が自分と合わず、ネットで見つけたN高で『ここだったら新しいことができるかも』と入学を決意しました。今振り返ってみて、やはり『この学校に来てよかった』と思います」(山田さん)

Easy Go代表取締役の鈴木颯人さん(左)と取締役の山田陽大さん(右)

2人に限らず、卒業生のコメントを聞いていくと「この場所で挑戦してみたい」という想いの元、N高を選んでいる生徒が多い印象だ。

普通の高校とは違い、メディアに露出する機会の多いN高での生活は、良くも悪くも、世間からの注目を浴びる。まだ高校生の彼らにとっては、その視線が時に辛く感じることもあっただろう。ただ、その一方で鈴木さんは「初めて会う方とお話しする際、『N高出身です』と言うだけで、会話が広がることがよくあります」とその知名度を好意的に捉えている。

若くして、覚悟を持ってN高という環境に飛び込んだ生徒たちは、周囲の視線を浴びつつ、たくましく成長してきたことだろう。「N高出身」というキャリアは、彼らにとって1つの大きな武器になりそうだ。

カドカワは新たに2019年4月から、「N中等部」も開校する予定だ。「ネットの学校」という、世間の注目が集まる新しいコンセプトの学校だからこそ、在校生・卒業生の動向は、今後もしばらくは注目され続けそうだ。

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2019.03.22

中国スマホメーカーのOPPOが独自のカメラ技術を説明

開発競争が続くスマホカメラ、トレンドは「望遠」へ

高倍率ズームスマホの登場で、デジカメの優位性に危機?

中国のスマホメーカーとしてシェアを急拡大するOPPOが独自に新開発したカメラ技術、「10倍ハイブリッドズーム」が面白い。実際に2019年の新機種からスマホへの搭載を進め、日本市場へも製品を投入するという。

OPPOが「10倍ハイブリッドズーム」技術を紹介

メーカー間の開発競争が続くスマホカメラだが、「望遠」が次のトレンドになりつつある。デジタルカメラに匹敵する10倍もの高倍率ズームを、OPPOはどのように実現したのだろうか。

1年で7機種を投入、気付いた「日本市場の難しさ」

OPPOは世界のスマホ市場で熾烈な4位争いを繰り広げている。サムスン、アップル、ファーウェイのトップ3社に続く集団の中で、2018年は中国Xiaomiに僅差で迫る5位になった(IDC調べ)。

OPPOは2018年、日本市場で7機種のスマホを発売した。OPPO日本法人の鄧宇辰社長は、これまでに国内販売チャネルを12に拡大し、あわせて認定修理店を全国に展開したことを挙げ、「日本のSIMフリー市場でいち早く成長するブランドになった」と振り返る。

オッポジャパン 代表取締役社長の鄧宇辰氏
2018年の1年間にスマホを7機種投入

2019年は国内展開をさらに加速する。日本の消費者に向けたコミットメントとして、件の「10倍ハイブリッドズーム」機能を備えたスマホや、FeliCa・防水対応のスマホ、新たに立ち上げたブランド「Reno」シリーズの市場投入を約束する。

また、話題の「5Gスマホ」の市場投入も急ぐ。日本では5Gの周波数がまだキャリアに割り当てられていないものの、ドコモ、KDDI、ソフトバンクを含む世界の事業者と標準化に向けて連携しており、準備を整えていることを強調する。

MWC19のQualcommブースではOPPOが5Gスマホを実演

一方で鄧社長は、日本市場の難しさについて、「1年の経験を通して、日本市場は他の国と違うことに気付いた。消費の習慣や求めるレベルも高い。グローバルのやり方を日本に持ってきても通用しない」とも述べている。日本市場における品質やサービスの要求水準の高さは、多くのメーカーが直面してきた課題だが、OPPOも同じ壁にぶつかったといえそうだ。

スマホカメラ、次のトレンドは「望遠」に

そのOPPOが市場攻略にあたり、特に注力をしはじめたのが「カメラ」だ。その中でも、業界では次の進化ポイントとして「望遠」技術に注目が集まっている。

そもそもスマホはデジカメと違い本体が薄いため、搭載できるレンズに物理的な制約がある。このレンズの制約から、スマホのカメラはどうしても焦点距離の狭さが弱点になってしまっていた。そこで最近はスマホに複数のカメラを内蔵し、それぞれで広角や望遠を使い分けることで、この弱点を克服しようと進化している。

OPPOの「10倍ハイブリッドズーム」技術は、この弱点に対し異なるアプローチで挑む。プリズムを使って光を屈曲させるペリスコープ(屈曲光学)構造をカメラモジュールに採用することで、レンズを従来の垂直方向ではなく水平に配置できるようにした。これにより、薄型のスマホであっても、光学レンズでは従来不可能だった高倍率ズームが搭載できる。

光を曲げるペリスコープ構造を採用

ただ、35mm換算での焦点距離は16~160mmの10倍となっており、一般的なコンデジの感覚では5倍ズーム程度の性能だ。8.1倍以上はデジタル処理を組み合わせた「ハイブリッドズーム」としているなど、いくつか注意点はある。とは言え、これまでにない望遠レンズをスマホで扱えるのは面白い。

10倍ハイブリッドズームによる画角の違い

OPPOは既に報道陣に向けて、この10倍ハイブリッドズーム技術を搭載するスマホの開発デモ機を公開している。2019年の第2四半期には製品化する計画で、日本市場へも2019年中に投入する見込みだ。

10倍ハイブリッドズームのデモ機。5Gにも対応できるという

特にカジュアルなカメラ需要の受け皿としてスマホに押されがちなデジタルカメラだが、高倍率ズームはスマホには無い、デジカメに残された得意分野のひとつだった。だが望遠もスマホで十分撮れるとなれば、いよいよその優位性も危うくなる。今回のズーム技術は、デジカメ市場をもう一段縮小させてしまう可能性を秘めているのだ。

最大のライバルであるファーウェイも「HUAWEI P30」シリーズで望遠カメラを搭載するとみられており、今後は各メーカーが高倍率ズームで競い合うことは間違いなさそうだ。

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