DMMがクラブ馬主事業を始めた理由は「DMM.com証券」にあった

DMMがクラブ馬主事業を始めた理由は「DMM.com証券」にあった

2017.07.25

7月10日、11日の2日間に行われた国内最大の競走馬のセリ市「セレクトセール2017」。古くは7冠馬のディープインパクト、近年はサトノダイヤモンドなどを輩出したことで有名なセリ市だが、今年の主役は馬そのものではなく「DMM.com」だった。

競馬メディアではないため細かな血統背景の説明は省くが、GIを7勝した「ジェンティルドンナ」の妹や、現役最強馬とも言われる北島三郎さん所有馬「キタサンブラック」の弟を、それぞれ3億7000万円、1億4500万円で落札。目玉とされていた計3頭の幼駒を立て続けに手中に収めたことで、競馬メディア以外にも大きく取り上げられた。

同社が馬を購入した理由は、クラブ馬主として事業をスタートするため。なぜDMMが「DMMバヌーシー」としてクラブ馬主をやるのか、競走馬ファンドビジネスに対する考え方について、DMM.com 取締役でチーフクリエイティブオフィサーの野本 巧氏に話を聞いた。

DMM.com 取締役でチーフクリエイティブオフィサーの野本 巧氏

鍵は「証券口座」

タイトルで種明かししている通り、クラブ馬主事業を検討した理由の一つは「DMM.com証券」にある。クラブ馬主は金融商品取引法における第二種ライセンスの競走馬ファンドに該当しており、証券業の第一種ライセンスを保有しているDMM.com証券の法人格と組み合わせることで「少額決済が可能になる」(野本氏)。

元をたどること約4年前、社内のプレゼンテーション大会で、ある社員が「馬主クラブを運用してはどうか」という提案をしたそうだ。

「ただ、その提案は『DMM.comには男性客が多いから』というシナジーのみの提案でした。それに対して私は『入会金、月額費用要らずで、賞金受け取るだけなら面白いよね』と講評したんです。でもその直後に『それなら出来るかも』と自分で考え、自分で思ってしまった(笑)」(野本氏)

入会金や月額費用要らずという仕組みは既存クラブでは難しい。それは、前述の競走馬ファンドでは出走手当などが発生するたびに法律上、出資者に対して振り込まなければならないためだ。

Webサービス企業が手がけることで、クラブ馬主をアプリ・サービスのレイヤーに引き下げる

「想定している1万口などで募集する場合、出走手当が数十円程度にとどまる可能性がある。それを振り込む時に都度手数料が数百円必要となると、誰が負担するのでしょうか。出走手当だけでなく、競走馬ファンドでは競走馬の育成費用といった変動コストが多分にかかる。振込の不便さが既存クラブの課題であり、これをクリアできる仕組みがDMM.com証券にはあったんです」(野本氏)

第一種の証券口座があれば該当口座への入金で済み、自社内であるため手数料はかからない。飼葉代などの諸経費については出資時に概算前払いとすることで、出走手当や配当金などを受け取るだけの"明朗会計"になる。これが、野本氏の考えた"面白いクラブ馬主"のスキームだ。

野本氏はDMM.com証券立ち上げ時の担当者であり、金融商品に対する知見を持っていた。「DMMだから節操なく、また新しいビジネスを始めたのか、と思われるかもしれませんが、今回の実態は『DMM.com証券』の新規事業なんです」(野本氏)。

なお、リリース日は8月5日を予定しており「その日はかなり新規登録が増えるはずですし、証券口座の開設には審査が必要になる。今のうちに口座開設することをおすすめします(笑)」(野本氏)。

野本氏がDMM.com証券の事業として2年半前から徐々に外堀を埋めていったため、DMM.com創業者でDMMホールディングス 会長の亀山 敬司氏にも「セレクトセールの予算などは許可を取っていなかった」(野本氏)。「最近どんなことをやっているのか」と亀山氏に尋ねられたら答えてこそいたが、「ほかの社員からも話を聞いて、ようやく全容を知ったと思う」(野本氏)。その後、「面白そうだから社内秘にしようか」と亀山氏が決めたことで、先日のセレクトセール関連の報道後に「初めてサービスがリリースされることを知った役員もいた」(野本氏)そうだ。

バヌーシーの出資者は儲からない?

さまざまな媒体で報道されている通り、野本氏がDMMバヌーシーで目指すのは感動体験の共有。実は取材終盤、野本氏は「DMMバヌーシーの出資者は儲かる確率が低い」と言い切った。もちろん、元本保証の金融商品ではない以上、誰もが認識している事実とも言えるが、代表者が明言するのは珍しい。

しかしそれを語ってもなお、クラブ馬主として出資者を集められる理由に、冒頭で触れた「良血馬の落札」を挙げる。

「クラブとしての目標は、もちろんGI勝利であり、本当に勝てたら良いと思うのはダービーです。例えば競走馬は、セリで100万円しか値がつかなかった馬でも年間で約1000万円のランニングコストがかかります。数年間走ると3000万円~4000万円というお金がかかるわけです。

100万円の馬がマイナスになる可能性と、6000万円稼いでプラスになる可能性、ドナブリーニの仔(ジェンティルドンナの全妹)が4億円弱の投資で5億円稼げる可能性、どちらが高いのか。どちらも高くないということを考えると、『(出資者が)どこに夢を託すのか』ということが重要になります。(クラブ法人名である)DMMドリームクラブのドリームはダービー馬のオーナーに、(1万口という)大勢のチームとして夢を叶える意味を込めています」(野本氏)

既存クラブの多くは400~500口が上限であり、DMMが購入したような良血馬の多くは1口あたり数十万円からの募集となる。DMMは1万口の募集によって1口あたりの出資額を1万円から高くても数万円程度に抑え、リスクを分散しつつ「好きだったあの馬の仔のオーナーになれる」という可能性を幅広く提供する。

「目指しているユーザー層は、"競馬偏差値"が50~55くらいの人。自分は53くらいだし、(同席した)広報は42とか43くらい(笑)。みんな競馬ってほとんど知らないし、でも強い馬、有名な馬ならなんとなく何頭か知ってる。良血馬を落札したことが『センスない』と思われる方はいらっしゃると思いますけど、そういう方は既存クラブに行かれると思います。活躍馬が出ていない血統に挑戦するような方々も、ある意味で結果論としての成功に期待されているので私たちのクラブではないと考えています。

玄人の方々が言いたいことは分かるんですが、その枠の外に競馬ファンを拡大すると考えた時に『ベタな感じ』って大切だと思うんです。偏差値53の僕でも理解しているジェンティルドンナの全妹なら、偏差値47の人でも名前は知ってる。『年に1、2回馬券を買ったり、1回くらい競馬場に行く』『ディープインパクトは知ってる』『キタサンブラックは知ってる』。そういう環境の人であれば、競馬の体験価値を理解できるし、面白そうと思ってもらえる。そう考えています」(野本氏)

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

2018.11.19

座席指定の通勤電車から”通勤の高級化”の流れ?

ハイエンド通勤バスの実証実験を東急電鉄が実施

たまプラーザを舞台にした、日本初の郊外型MaaS

全席指定の通勤電車が首都圏の私鉄で運行され始めている。西武鉄道を主体に東急電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)、横浜高速鉄道の各路線を乗り入れる「S-TRAIN」や、京王電鉄の「京王ライナー」などだ。座席指定ではなく、着席整理券による着席定員制の東武東上線の「TJライナー」もある。

帰宅時間に運行される京王ライナー

なぜ、私鉄各社がこうした通勤電車を運行し始めたのか。ラッシュを避けゆったり座ってオフィス街に移動できる利便性を提供するためだ。京王ライナーの場合、帰宅時間に下り方面に運行されるだけだが、これも「仕事で疲れているのに立って帰りたくない」という通勤需要に応えている。

S-TRAINやTJライナーの場合、休日には観光列車としての役割も果たす。S-TRAINはデートスポットとして注目される豊洲や、“食の街”として名をはせる横浜中華街を結んでいる。TJライナーは“小江戸”と呼ばれる川越や森林の多い憩いの場「森林公園」にアクセスできる。森林公園は今の時期、紅葉をライトアップするイベントが行われており、相当の集客がある。

ただ、どちらも平日はビジネスパーソンの脚となるという特徴を考えると、観光色の強い西武鉄道の「レッドアロー」や東武鉄道の「スペーシア」とは性格を異にする。

ハイグレード通勤バスでゆったりと

こうした“通勤の高級化”が、バスにも波及しそうだ。

東急電鉄は「ハイグレード通勤バス」の実証実験を2019年1~2月に行うと発表した。

ハイグレード通勤バスの外観(写真提供:東急電鉄)

ハイグレード通勤バスは客席が24席と広々としており、しかもかなり深めにリクライニング可能。Wi-Fi対応、USB、ACアダプタも装備し、パソコンなどが置けるテーブルも用意されている。そして、長距離バスのようにトイレまで備えているのだ。

座席は3列で、シート数は24席とゆったりしている(写真提供:東急電鉄)
かなり倒れるリクライニングシート(写真提供:東急電鉄)
テーブルにPCを置いて作業可能。写真左隅にACコンセントも確認できる(写真:東急電鉄)
通勤用バスながら、トイレ洗面台を完備(写真提供:東急電鉄)

 以前、両備グループの中国バスが運用する「ドリームスリーパー」という、超高級バスを拝見したことがある。しかもこちらは、さらに座席数が少ない14席で、個室タイプだ。とはいえ、ドリームスリーパーは東京~大阪や東京~広島を結ぶ長距離高速路線バス。睡眠を取ることが必須になると思うので、個室という選択肢になったのだろう。

一方、ハイグレード通勤バスは、読んで字のごとく“通勤”という言葉が入っている。つまり、長距離高速路線バスであるドリームスリーパーとは、まったく性格が異なる。

さて、今回の実証実験では、実験区間にたまプラーザから渋谷が選択された。このたまプラーザ駅がある東急田園都市線は、首都圏屈指の混雑路線だ。二子玉川や三軒茶屋からも乗客があり、朝の通勤ラッシュはすさまじいと聞く。国土交通省によると、ラッシュ時は185%の乗車率であるらしい。この田園都市線の混雑を少しでも緩和しようと、ハイグレード通勤バスの実証実験を開始する意図がみえる。

ただ、田園都市線の混雑は、東急電鉄そのものにも原因がある。というのも、東急の本拠である渋谷の再開発を急激に推し進めたからだ。セルリアンタワーや渋谷ヒカリエ、そして渋谷ストリームも開業した。どれもオフィス、商業施設、ホテルといった施設からなる複合ビル。オフィスが増えれば通勤客が増えるし、商業施設も朝の仕込みなどでラッシュ時に通う場合も十分に考えられる。そうした混雑を緩和するために、今回ハイグレード通勤バスを実験し、本サービスにつなげたいのだろう。

一方、東急電鉄はハイグレード通勤バスだけでなく、あわせてたまプラーザでオンデマンドバスやパーソナルモビリティ、マンション内カーシェアリングの実証実験も行う。オンデマンドバスはスマートフォンで乗車予約を行い、病院や公共施設への移動手段になる。パーソナルモビリティは、坂道や細い道路を移動しやすく買い物などに向く。マンション内カーシェアリングは、余っているクルマのリソースを同じマンション内で共有しようというものだ。

東急電鉄これらを日本初の「郊外型 MaaS」(Mobility as a Service:利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提供すること)の実験だとしている。

このMaaSという考え方には、あのトヨタ自動車も積極的だ。トヨタは東京2020オリンピック・パラリンピックを舞台に「Mobility for All」を実現したい考え。パーソナルモビリティもこの施策に組み込まれる。

トヨタが実用化を進める「i-ROAD」(写真提供:トヨタ自動車)

 東急電鉄は実証実験でどのような結果を得るのか。“地獄”とも表現される通勤ラッシュの課題や少子高齢化への対応、高齢者の移動手段確保など、MaaSが貢献できる問題解決はさまざまだ。たまプラーザ~渋谷という、屈指の住宅街と屈指のオフィス街を結ぶこの取り組みが、“住みよい街づくり”にどのように関わっていくのか、楽しみだ。

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

カレー沢薫の時流漂流 第16回

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

2018.11.19

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第16回は、Apple製品ユーザーを襲う「AirDrop痴漢」について

我々の生活はありとあらゆるものが電子化し、飛躍的に便利になった。

しかし、あらゆるものの中には当然「犯罪」も含まれ、さらに「痴漢」まで含まれるようになってしまったのだ。

皆さんはiPhone、iPad、Macなどを使っているだろうか。そして満員電車など人が密集する場所へ行く機会が多かったりするだろうか?

上記に当てはまる人、特に女性は注意が必要である。私はと言えば、スマホはアソドロイド、パソコンはウィソドウズ、人ゴミどころか人がいるところにさえ滅多にいかないので鉄壁と言える。

「IT露出狂」の出現

最近、Apple製品を使用した「AirDrop痴漢」なるものが現れているらしい。「痴漢も電子化の時代、わざわざ相手の前に立って局部を見せるような奴は時代遅れですよ」と「AirDrop痴漢」がろくろを回すポーズで語っているかは知らないが、当然褒められたことではない。

「AirDrop」とは、Apple製品間でデータをワイヤレスで送り合うことができる機能である。自分のMacからiPhoneにデータを送ったり、iPhone同士で友人と写真を共有したりできて便利なものだ。しかし、「AirDrop」は登録いらずで簡単な一方、半径9メートル以内にいる「AirDrop」をonにしている相手になら、誰にでもデータを送れてしまうのである。

これを使って画像を共有しようとすると、「Petagine's_iPhone」など、近くにあるApple製品の端末名が表示される。ペタジーニのiPhoneなら止めておこうと思うかもしれないが、ここで「Danmitsu's_iPhone」とか、明らかに女性と思われ、しかも何かエロスを感じる(※個人の感想です)名前を見つけた場合、その端末にわいせつ画像などを送り付ける、というのが「AirDrop痴漢」の概要である。

相手に直接手を触れるわけではないので、人が多い場所だと送ってきた相手の特定はかなり難しい。被害者はわいせつ画像を見せられた不快感と、周りにそういう人間がいるという恐怖感を味わうことになり、加害者はそれを見て楽しむという、いわば「IT露出狂」だ。

便利な機能が出来るたびに、それを使った犯罪が現れるのが世の中というものだが、これも「AirDrop」の機能を悪い意味で上手く使った犯罪である。その知恵を他の事に生かせなかった上に、そういった行為を「楽しい」と思うセンスに生まれて来てしまったことは二重に不幸なことだ。

被害者は女性が多いが、男性でも被害を受けることがあり、グロ画像を送られてきたという被害もある。

また、俳優の加藤諒さんは新幹線に乗っていたところ、車内で携帯をいじっている自分の後ろ姿の写真が「AirDrop」に送られてきたと言う。わいせつ画像でなくても、「お前のことを見ているぞ」というストーカー的恐怖感を相手に与えることも可能なのだ。

被害と「誤爆」を防ぐシンプルな解決法

「AirDrop痴漢」を防ぐ手立てはないのか、というと意外と簡単で、平素は「AirDrop」の設定を「受信しない」にしておき、使う時だけonにすれば良い。

そのほか、名前や性別を特定されないように、「Gorira's_iPhone」など、ユーザーネームを変更しておくのも効果的だ。

画像を共有する相手などいないという人間は、Apple製品を買ったらまず「AirDrop」機能を切るぐらいでもいいかもしれない。何故なら、この「AirDrop痴漢」は知らず知らずのうちに加害者になる可能性もあるからだ。

恋人に送るはずだった語尾が「ぞえ♪」のLINEを上司に送ってしまったり、ツイッターのアカウント切り替えを忘れて美容垢に推しカプがどれだけ尊いか語ってしまったりするような「誤爆」が「AirDrop」でも起こるのである。

しかも、LINEなら登録してある相手にしか送らないだろうし、SNSならある程度他人が読むことを想定して投稿するだろうが、「AirDrop」の場合、半径9メートル以内にいる赤の他人に、1人で楽しむためだけのお宝画像を送ってしまうという事態になりかねないのだ。受信してしまった方も不幸だが、送った方もある意味それ以上不幸である。

このように、「AirDrop」は便利だが、意図せず自分の性癖を含む個人情報を流出させてしまう恐れもあるため、使う時だけonにするのが今のところ一番良いかと思われる。

ちなみに、この「AirDrop痴漢」は犯罪にならないかというと、もちろんそんなことはない。わいせつ画像を送るのは「猥褻物頒布罪」になり得るし、わいせつでなくても相手が不快に思う画像を送り付けるのは「迷惑行為防止条例」違反になる場合がある。

実際、電車内で「AirDrop痴漢」を80件以上繰り返したという男が書類送検されたという。送信者が特定しづらいと言っても「本気を出せば特定できるしバッチリ逮捕もされる」ということはすでに実証されているので、もしイタズラ感覚でやっている人間がいるなら、逮捕されない内に今すぐやめた方がいい。

このような使い方は、Appleが想定していなかったことだろう。つまり、最初に考え着いた人間は、アイディア力にすぐれている。

その力を犯罪以外に使えなかったのは、重ね重ね残念である。