ゴルフ、英会話、料理? 社長に聞くライザップ多角化の真意

ゴルフ、英会話、料理? 社長に聞くライザップ多角化の真意

2017.07.26

完全個室のプライベートジムで急拡大し、最近では意外な買収案件や事業の多角化などの動きも目立つRIZAPグループ(以下、ライザップ)。この会社は何を目指し、どこへ向かっているのか。グループを率いる瀬戸健社長に詳しく聞いてきた。

プライベートジムで急拡大したライザップ(画像提供:RIZAPグループ)

ライザップ誕生の発端は2つの体験

「理念は、“人は変われる”を証明することです」(以下、発言は瀬戸社長)。瀬戸社長が事業を興したのも、ライザップが様々な業種に多角化していくのも、全てがこの理念に基づく動きだ。拡大していくライザップを見るときに、横串として意識すべき言葉だと言える。

そもそも瀬戸社長がビジネスの世界に飛び込んだのは、2つの体験が発端となっている。高校時代、付き合っていた彼女のダイエットに寄り添い、後にプライベートジムの代名詞となるトレーナーも真っ青な励ましと指導を行ったことで、彼女が痩せて、自信を持つようになったことが1つ。そして、自信を深めた彼女が瀬戸社長のもとから去っていった時、一念発起して勉強を始め、高校卒業後は定職についていなかった瀬戸社長自身が大学入学を果たしたことが2つ目だ。これらの体験により、瀬戸社長は“人は変われる”ということに対して確信を深めた。

高校時代の成績表を手にするRIZAPグループの瀬戸社長。彼女と別れた後に大学入学を目指した瀬戸社長だが、高校時代は本人いわく“落ちこぼれ”で、3年生の時には同学年391人のうち388番という成績を収めたこともあるという

ジムの会員は累計8万人に

その後、瀬戸社長は豆乳クッキーダイエットの会社でビジネスをスタートさせ、トレーニングジムでは急激な事業拡大に成功する。2012年度に10カ所だったジムは2016年度終了時点で120カ所に到達し、ジム単体の売上高は2014年度の108億円が2016年度には232億円と2倍以上に増えた。会員数は累計8万人を突破。今も1万数千人のアクティブ会員を抱える。

ジムは2017年度中に60店舗の拡大を計画しており、1店舗あたり売上高は1.2倍以上を目指す。このように順調なジムを運営する傍ら、ライザップは新規事業の育成を急ぐ。ジムの次は、「RIZAP GOLF(ゴルフ)」「RIZAP ENGLISH(英会話)」「RIZAP COOK(料理教室)」「RIZAP KIDS(子供向けに展開する運動教室のようなもの)」で仕掛ける。

強みをいかし、巨大市場を開拓

一見、まとまりのない感じのする多角化の動きだが、瀬戸社長の事業拡大に関する考え方は明快だ。まず、ライザップでは生活必需品のビジネスに手を出さず、事業領域を「自己投資産業」に絞る。そして、強みである「やりきらせる力」をいかし、巨大な「三日坊主市場」を開拓する。大事なのは、結果には必ず「コミット」することだ。

「戦後の日本では、人は『今日を生きられるだけで幸せ』で、自分が他人からどう見られているかを気にする余裕もありませんでした。しかし、食べられるようになる(ある程度の生活必需品がそろう)と、1年後の自分を考えるようになり、人目を気にする余裕も生まれます。時代が変わるとモノの目的も変わり、例えば服なら、昔は長持ちすることが大事だったかもしれませんが、今は、それを着て人からどう見られるか、自分の価値が高まるかどうか、ということが重要になっています」

これが、自己投資産業にフォーカスする瀬戸社長の考え方だ。ダイエット、ゴルフ、英会話など、ライザップが展開する事業は全て、生きるために必須なモノ・サービスではなく、自己投資産業に分類されるべきものだ。そして、全てが三日坊主で終わる可能性がある、というよりも、その可能性が高いものと言って差し支えないだろう。

ゴルフ、英会話、料理などの新規事業も、三日坊主市場と考えればライザップとの関連性が浮かび上がる(画像はRIZAP GOLF池袋店にて撮影)

「ダイエットが失敗する原因は、やり方ではなく三日坊主です。痩せる方法について情報は溢れていますが、痩せたいと望む全ての人がダイエットに成功していないところを見ると、コモディティ化した情報がソリューションにならないのは証明済みです」。瀬戸社長の考えでは、「世の中は努力と比例することだらけなのに、努力をサポートするサービスはほとんどない」というのが現状。1人ではなかなか続けられない自己投資を、寄り添って「やりきらせる力」がライザップの強みだ。

これはジムで蓄積したノウハウであり、当然ながらゴルフや英会話などにも活用している。ジムを例に取れば、痩せるための特別なトレーニング法がライザップの売りなのではなく、顧客に“やりきらせる”ことで、手段ではなく結果にコミットするのが同社のビジネスだと言える。

手段ではなく結果にコミット

結果を重視するライザップだけに、ある目的を達するため、より効果的な手段が見つかれば、既存の手段に固執することはないという。例えばライザップは、ファミリーマートと組んで「低糖質商品」を展開しているが、健康という目的を達する低糖質という手段については、その効果を東京大学と協力して研究を進めている。手段が誤っていたり、効果的でないと判明したりすれば、ライザップは手段を改めることを躊躇しないと瀬戸社長は断言していた。

ファミマとライザップのコラボでは商品が着実に増えている。ライザップは商品開発に参加し、ロイヤルティ収入を手にする

時代と共に変化する消費の質に対応し、自己投資産業に商機を見出したのがライザップだと言える。ジムは1番人気の2カ月コースで入会金5万円+料金29万8000円、ゴルフは2カ月のトライアルプランで29万8000円(全て税抜き)と価格設定は強気だが、時計、バッグ、クルマなど、他の自己投資の手段(自分の価値を高めるための支出)がライバルと語る瀬戸社長の言葉を聞いて、ある程度は納得できる部分があった。

自己投資産業にフォーカスしてドメインを拡大

何が自己投資産業に入るかを見極めれば、今後、ライザップが事業を拡大していく方向性も想像できるようになる。例えば資格取得はライザップの新たなドメインになり得るか聞いてみると、瀬戸社長からは「あり得る」との回答を得た。しかし、ライザップとしては、自身の強みが発揮できない分野に入り込むつもりはないという。

新規事業については、ゴルフは会員数が大幅に増加しており、出店ペースも上がっている。2016年度の決算説明会で瀬戸社長は、「ゴルフは売上で10倍以上をたたき出したい。損益も黒字転換を目指す」と語っていたが、この目標を達成すべく、現在は積極的な事業展開を進めているようだ。英会話は現状2店舗だが、2017年度は本格展開を図る方針。料理教室についてはテストマーケティングが「大好評」(決算説明資料より)だったとのことで、すでに本格展開が決定済みだという。

英会話は三日坊主の代表格と言えるだろう(画像提供:RIZAPグループ)

ビッグデータで顧客に合った提案を

事業拡大に向け、買収という手法を効果的に使っているのもライザップの特徴。最近では、「ジーンズメイト」に代表されるようにアパレル企業を傘下に置く例が多い印象だが、当然ながら、衣服も自己投資産業の範疇に入る品物だ。ライザップは「ビッグデータ」を活用したアパレル事業の構想も温めているという。

「ライザップで痩せた人は過去の服が着られなくなりますし、以前とは違う、シャープな服を着たくなるかもしれません。そんな時に、例えばかっこいいオーダースーツがあってもいいかもしれません」。ビッグデータを活用したアパレル事業の話として、瀬戸社長が語った言葉だ。累計8万人に及ぶジム会員のデータを用いて、どんな人が、どのような体型を獲得するのかを分析していけば、各会員に適した衣服を提案することも可能になる。そういう意味では、ライザップとアパレルの相性は良さそうだ。

すでにスポーツアパレル事業を展開しているライザップ。今年の3月から4月にかけて、大阪の阪急うめだ本店に出店した期間限定のショップでは、そのフロアで創業以来1位の売上を叩き出す日もあるなど、反応は上々だったという(阪急うめだ本店に展開したアパレルショップの画像、提供:RIZAPグループ)

会員がどのような商品を求めているかを分析することは、ライザップが事業拡大を進める上での指針にもなる。痩せた人が欲しがるものが服だけとは限らない。顧客に提案すべきものが何かが分かれば、グループに足りない要素を割り出すことができる。そうすれば、次に買収すべき業種の選定も容易になるという寸法だ。

ジムには拡大の余地があり、新規事業の育成は加速中。そして、買収を通じた業容の拡大にも余念がないライザップだが、結局のところ、目指す姿は何なのか。それを一言で表しているのが、「ライザップ経済圏」という言葉だ。

事業規模3倍を早期に達成する方針

自己投資を軸に、提携先を含めてグループの規模を拡大していくことにより、経済圏として進化していくことがライザップの目標だ。さまざまな商品・サービスを提供することで、顧客とは長い付き合いの構築を目指す。顧客層の拡大に向けてはシニア層の取り込みに力を入れている様子。その方針もあってか、トレーニングジムのコマーシャルでは最近、年齢層が高めの人選が目立つようになっている。

ライザップのコマーシャルに出演している女優の石田えりさん。「シニア層の取り込み」について述べた段落の後に画像を掲出するのは申し訳ないほどの仕上がりだ(画像提供:RIZAPグループ)

経済圏というからには規模も重要になりそうだが、ライザップは2020年度に達成すべき目標として、グループの連結売上高で3000億円、連結営業利益で350億円を掲げる。ちなみに、2016年度の連結売上高は952億円、連結営業利益は102億円なので、つまりは規模を3倍以上に引き上げるということだ。

経済圏の拡大には投資も不可欠となるだろうが、ライザップは東証一部上場も視野に入れる。その時期は「そう遠くない」とのことだった。上場で獲得する資金の使い道については「やりたいことは沢山ある」とはぐらかされたが、面白いデータも聞けた。

瀬戸社長によると、一般的に、企業の自己資本利益率(ROE)は8%以上が理想的との研究がある。ライザップのROEは「40%~50%」で、これは日本でも有数の数値なのだという。上場で資本金が増えた場合、ライザップは高いROEを維持するためにも、成長を続け、利益を増大させていく必要があるわけだ。

海外にも拡大の余地

ライザップ経済圏の拡大を続けるため、ライザップは海外にも目を向けている。「三日坊主で悩んでいないところはない」というのが瀬戸社長の見立て。ジムではシンガポール、台湾、香港、上海に上陸済みだが、シンガポールと台湾では黒字化が見えてきたとのことだった。2017年度はローカルのトレーナーへの権限委譲も進めたいと瀬戸社長は語る。

インタビューでは、1つ聞けば5つ返ってくるといった感じの受け答えが印象的だった瀬戸社長。まだまだ手掛けたいことは山ほどあるという雰囲気だ

瀬戸社長の学生時代の体験をルーツとするライザップだが、顧客の自己実現を支援するビジネスモデルは順調に拡大している様子。自己投資という切り口の設定は絶妙で、これであれば幅広い分野に事業を拡大していっても不思議ではない。日本で成功したビジネスモデルは、これから成熟していくであろう多くの国でも通用するかもしれない。

“人は変われる”という理念の共感者をどれだけ増やせるかが今後の焦点となりそうだが、世の中にはおそらく、“自己投資”という言葉に何となく気恥ずかしさを感じたり、ライザップと自分とは関係ないと思い込んでいたりする人が少なからず存在するはずだ。個人的には、そういう人達にライザップがどのようにコミットしていくのかも今後の見所だと感じた。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。