ゴルフ、英会話、料理? 社長に聞くライザップ多角化の真意

ゴルフ、英会話、料理? 社長に聞くライザップ多角化の真意

2017.07.26

完全個室のプライベートジムで急拡大し、最近では意外な買収案件や事業の多角化などの動きも目立つRIZAPグループ(以下、ライザップ)。この会社は何を目指し、どこへ向かっているのか。グループを率いる瀬戸健社長に詳しく聞いてきた。

プライベートジムで急拡大したライザップ(画像提供:RIZAPグループ)

ライザップ誕生の発端は2つの体験

「理念は、“人は変われる”を証明することです」(以下、発言は瀬戸社長)。瀬戸社長が事業を興したのも、ライザップが様々な業種に多角化していくのも、全てがこの理念に基づく動きだ。拡大していくライザップを見るときに、横串として意識すべき言葉だと言える。

そもそも瀬戸社長がビジネスの世界に飛び込んだのは、2つの体験が発端となっている。高校時代、付き合っていた彼女のダイエットに寄り添い、後にプライベートジムの代名詞となるトレーナーも真っ青な励ましと指導を行ったことで、彼女が痩せて、自信を持つようになったことが1つ。そして、自信を深めた彼女が瀬戸社長のもとから去っていった時、一念発起して勉強を始め、高校卒業後は定職についていなかった瀬戸社長自身が大学入学を果たしたことが2つ目だ。これらの体験により、瀬戸社長は“人は変われる”ということに対して確信を深めた。

高校時代の成績表を手にするRIZAPグループの瀬戸社長。彼女と別れた後に大学入学を目指した瀬戸社長だが、高校時代は本人いわく“落ちこぼれ”で、3年生の時には同学年391人のうち388番という成績を収めたこともあるという

ジムの会員は累計8万人に

その後、瀬戸社長は豆乳クッキーダイエットの会社でビジネスをスタートさせ、トレーニングジムでは急激な事業拡大に成功する。2012年度に10カ所だったジムは2016年度終了時点で120カ所に到達し、ジム単体の売上高は2014年度の108億円が2016年度には232億円と2倍以上に増えた。会員数は累計8万人を突破。今も1万数千人のアクティブ会員を抱える。

ジムは2017年度中に60店舗の拡大を計画しており、1店舗あたり売上高は1.2倍以上を目指す。このように順調なジムを運営する傍ら、ライザップは新規事業の育成を急ぐ。ジムの次は、「RIZAP GOLF(ゴルフ)」「RIZAP ENGLISH(英会話)」「RIZAP COOK(料理教室)」「RIZAP KIDS(子供向けに展開する運動教室のようなもの)」で仕掛ける。

強みをいかし、巨大市場を開拓

一見、まとまりのない感じのする多角化の動きだが、瀬戸社長の事業拡大に関する考え方は明快だ。まず、ライザップでは生活必需品のビジネスに手を出さず、事業領域を「自己投資産業」に絞る。そして、強みである「やりきらせる力」をいかし、巨大な「三日坊主市場」を開拓する。大事なのは、結果には必ず「コミット」することだ。

「戦後の日本では、人は『今日を生きられるだけで幸せ』で、自分が他人からどう見られているかを気にする余裕もありませんでした。しかし、食べられるようになる(ある程度の生活必需品がそろう)と、1年後の自分を考えるようになり、人目を気にする余裕も生まれます。時代が変わるとモノの目的も変わり、例えば服なら、昔は長持ちすることが大事だったかもしれませんが、今は、それを着て人からどう見られるか、自分の価値が高まるかどうか、ということが重要になっています」

これが、自己投資産業にフォーカスする瀬戸社長の考え方だ。ダイエット、ゴルフ、英会話など、ライザップが展開する事業は全て、生きるために必須なモノ・サービスではなく、自己投資産業に分類されるべきものだ。そして、全てが三日坊主で終わる可能性がある、というよりも、その可能性が高いものと言って差し支えないだろう。

ゴルフ、英会話、料理などの新規事業も、三日坊主市場と考えればライザップとの関連性が浮かび上がる(画像はRIZAP GOLF池袋店にて撮影)

「ダイエットが失敗する原因は、やり方ではなく三日坊主です。痩せる方法について情報は溢れていますが、痩せたいと望む全ての人がダイエットに成功していないところを見ると、コモディティ化した情報がソリューションにならないのは証明済みです」。瀬戸社長の考えでは、「世の中は努力と比例することだらけなのに、努力をサポートするサービスはほとんどない」というのが現状。1人ではなかなか続けられない自己投資を、寄り添って「やりきらせる力」がライザップの強みだ。

これはジムで蓄積したノウハウであり、当然ながらゴルフや英会話などにも活用している。ジムを例に取れば、痩せるための特別なトレーニング法がライザップの売りなのではなく、顧客に“やりきらせる”ことで、手段ではなく結果にコミットするのが同社のビジネスだと言える。

手段ではなく結果にコミット

結果を重視するライザップだけに、ある目的を達するため、より効果的な手段が見つかれば、既存の手段に固執することはないという。例えばライザップは、ファミリーマートと組んで「低糖質商品」を展開しているが、健康という目的を達する低糖質という手段については、その効果を東京大学と協力して研究を進めている。手段が誤っていたり、効果的でないと判明したりすれば、ライザップは手段を改めることを躊躇しないと瀬戸社長は断言していた。

ファミマとライザップのコラボでは商品が着実に増えている。ライザップは商品開発に参加し、ロイヤルティ収入を手にする

時代と共に変化する消費の質に対応し、自己投資産業に商機を見出したのがライザップだと言える。ジムは1番人気の2カ月コースで入会金5万円+料金29万8000円、ゴルフは2カ月のトライアルプランで29万8000円(全て税抜き)と価格設定は強気だが、時計、バッグ、クルマなど、他の自己投資の手段(自分の価値を高めるための支出)がライバルと語る瀬戸社長の言葉を聞いて、ある程度は納得できる部分があった。

自己投資産業にフォーカスしてドメインを拡大

何が自己投資産業に入るかを見極めれば、今後、ライザップが事業を拡大していく方向性も想像できるようになる。例えば資格取得はライザップの新たなドメインになり得るか聞いてみると、瀬戸社長からは「あり得る」との回答を得た。しかし、ライザップとしては、自身の強みが発揮できない分野に入り込むつもりはないという。

新規事業については、ゴルフは会員数が大幅に増加しており、出店ペースも上がっている。2016年度の決算説明会で瀬戸社長は、「ゴルフは売上で10倍以上をたたき出したい。損益も黒字転換を目指す」と語っていたが、この目標を達成すべく、現在は積極的な事業展開を進めているようだ。英会話は現状2店舗だが、2017年度は本格展開を図る方針。料理教室についてはテストマーケティングが「大好評」(決算説明資料より)だったとのことで、すでに本格展開が決定済みだという。

英会話は三日坊主の代表格と言えるだろう(画像提供:RIZAPグループ)

ビッグデータで顧客に合った提案を

事業拡大に向け、買収という手法を効果的に使っているのもライザップの特徴。最近では、「ジーンズメイト」に代表されるようにアパレル企業を傘下に置く例が多い印象だが、当然ながら、衣服も自己投資産業の範疇に入る品物だ。ライザップは「ビッグデータ」を活用したアパレル事業の構想も温めているという。

「ライザップで痩せた人は過去の服が着られなくなりますし、以前とは違う、シャープな服を着たくなるかもしれません。そんな時に、例えばかっこいいオーダースーツがあってもいいかもしれません」。ビッグデータを活用したアパレル事業の話として、瀬戸社長が語った言葉だ。累計8万人に及ぶジム会員のデータを用いて、どんな人が、どのような体型を獲得するのかを分析していけば、各会員に適した衣服を提案することも可能になる。そういう意味では、ライザップとアパレルの相性は良さそうだ。

すでにスポーツアパレル事業を展開しているライザップ。今年の3月から4月にかけて、大阪の阪急うめだ本店に出店した期間限定のショップでは、そのフロアで創業以来1位の売上を叩き出す日もあるなど、反応は上々だったという(阪急うめだ本店に展開したアパレルショップの画像、提供:RIZAPグループ)

会員がどのような商品を求めているかを分析することは、ライザップが事業拡大を進める上での指針にもなる。痩せた人が欲しがるものが服だけとは限らない。顧客に提案すべきものが何かが分かれば、グループに足りない要素を割り出すことができる。そうすれば、次に買収すべき業種の選定も容易になるという寸法だ。

ジムには拡大の余地があり、新規事業の育成は加速中。そして、買収を通じた業容の拡大にも余念がないライザップだが、結局のところ、目指す姿は何なのか。それを一言で表しているのが、「ライザップ経済圏」という言葉だ。

事業規模3倍を早期に達成する方針

自己投資を軸に、提携先を含めてグループの規模を拡大していくことにより、経済圏として進化していくことがライザップの目標だ。さまざまな商品・サービスを提供することで、顧客とは長い付き合いの構築を目指す。顧客層の拡大に向けてはシニア層の取り込みに力を入れている様子。その方針もあってか、トレーニングジムのコマーシャルでは最近、年齢層が高めの人選が目立つようになっている。

ライザップのコマーシャルに出演している女優の石田えりさん。「シニア層の取り込み」について述べた段落の後に画像を掲出するのは申し訳ないほどの仕上がりだ(画像提供:RIZAPグループ)

経済圏というからには規模も重要になりそうだが、ライザップは2020年度に達成すべき目標として、グループの連結売上高で3000億円、連結営業利益で350億円を掲げる。ちなみに、2016年度の連結売上高は952億円、連結営業利益は102億円なので、つまりは規模を3倍以上に引き上げるということだ。

経済圏の拡大には投資も不可欠となるだろうが、ライザップは東証一部上場も視野に入れる。その時期は「そう遠くない」とのことだった。上場で獲得する資金の使い道については「やりたいことは沢山ある」とはぐらかされたが、面白いデータも聞けた。

瀬戸社長によると、一般的に、企業の自己資本利益率(ROE)は8%以上が理想的との研究がある。ライザップのROEは「40%~50%」で、これは日本でも有数の数値なのだという。上場で資本金が増えた場合、ライザップは高いROEを維持するためにも、成長を続け、利益を増大させていく必要があるわけだ。

海外にも拡大の余地

ライザップ経済圏の拡大を続けるため、ライザップは海外にも目を向けている。「三日坊主で悩んでいないところはない」というのが瀬戸社長の見立て。ジムではシンガポール、台湾、香港、上海に上陸済みだが、シンガポールと台湾では黒字化が見えてきたとのことだった。2017年度はローカルのトレーナーへの権限委譲も進めたいと瀬戸社長は語る。

インタビューでは、1つ聞けば5つ返ってくるといった感じの受け答えが印象的だった瀬戸社長。まだまだ手掛けたいことは山ほどあるという雰囲気だ

瀬戸社長の学生時代の体験をルーツとするライザップだが、顧客の自己実現を支援するビジネスモデルは順調に拡大している様子。自己投資という切り口の設定は絶妙で、これであれば幅広い分野に事業を拡大していっても不思議ではない。日本で成功したビジネスモデルは、これから成熟していくであろう多くの国でも通用するかもしれない。

“人は変われる”という理念の共感者をどれだけ増やせるかが今後の焦点となりそうだが、世の中にはおそらく、“自己投資”という言葉に何となく気恥ずかしさを感じたり、ライザップと自分とは関係ないと思い込んでいたりする人が少なからず存在するはずだ。個人的には、そういう人達にライザップがどのようにコミットしていくのかも今後の見所だと感じた。

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

モノのデザイン 第46回

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

2018.11.13

バルミューダ初の照明機器「BALMUDA The Light」

子供にターゲットを絞り、目の健康を追い求めた

デザイン家電ブームの火付け役が挑んだ新領域での苦労とは

バルミューダから10月26日に発売された「BALMUDA The Light」。これまで扇風機、スチームトースター、オーブンレンジなど、デザイン性と革新性を両立させた独自の製品を世に送り出してきた同社だが、照明器具の発売はこれが初めて。空調家電、調理家電に次ぐ“第三のカテゴリー”への市場参入を目論む第一弾のプロダクトだ。

“子どものため”と明確に謳ったこのLEDデスクライトは、これまでにはない思想で開発された。業界で異彩を放つ新製品の設計・機構から外観に至るまで、広義での"デザイン"について、開発チームのメンバーである同社マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏に聞いた。

バルミューダが新たに挑む製品カテゴリーである"照明"の第1弾として発売された「BALMUDA The Light」。"子どものため"のデスクライトとして、最新のテクノロジーのみならず、開発陣の思想や想いが想像以上に込められた商品だ

子どもウケデザインではない、子どものためのライト

冒頭で述べたとおり、本製品はデスクライトとして"子ども向け"を謳った商品。だが、その方向性は、見た目だけを子どもウケするようなデザインにしたものとは本質的に大きく異なる。

子ども向け="子どもの姿勢や視力への影響を配慮したもの"であり、製品の発表会では、「大人に比べて視界が狭い子どもは、机に向かっているうちにいつの間にか前のめりになってしまい、うつぶせのような姿勢になってしまう」と、寺尾玄社長自らがご子息と対峙して気づいたことが、開発の経緯になったことを明かしていた。

一般的なデスクライトの難点は、このように真上からの照明で、手元に影ができやすいことだ
光源が目に直接入ることも従来のデスクライトの問題点

高荷氏によると、初期の段階ではまったく異なるコンセプトで研究開発していたそうだ。しかし、「そのコンセプトでは商品化のめどが立たず、"集中"とか"目"が開発の方向性のキーワードになっていきました」と話す。

お話を伺った、バルミューダ マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏

BALMUDA The Lightは、同社が"フォワードビームテクノロジー"と呼ぶ、光をミラーで一度反射させてから手元に当てることで、光が瞳に直接入らない点が特長の1つである。反射板を使うことで机全体を照らすことができるという仕組みは、開発の初期段階から検討されており、デスクライトに応用することも考えていたそうだ。

バルミューダが考えた、デスクライトとしての理想的な光のイメージ。手元に影を作らず、光が直接目に入らない解決方法が検討された
BALMUDA The Lightの光源部分。ミラーによって光を反射させてから手元に当てることで、光が直接目に入らず、影もできない。光源には3灯の太陽光LEDが使われている

手術灯メーカーとの出会いで開発が加速

バルミューダがデスクライトの開発に着手したのは2014年ごろ。実は2015年に発売され大ヒットした「BALMUDA The Toaster」の発売前から構想自体はスタートしていたというが、商品化に向けて大きく動き出したのは2年ほど前とのこと。高荷氏は「でも、拍車がかかったのは、去年(2017年)の頭ぐらい。社長自らが山田医療照明の増田社長と出会ったところからなんです」と振り返る。

山田医療照明は、手術灯など医療用照明を手掛ける、業界では国内トップのメーカーだ。バルミューダが開発途中で考えていた照明の仕組みが手術灯に似ていることに気付いた寺尾社長が自らネットで検索し、探り当てたのが山田医療照明だった。これが、後の"フォワードビームテクノロジー"につながっていくことになる。

すぐさま寺尾社長はショールームへ乗り込んで行った。山田医療照明は手術灯でグッドデザイン賞を受賞するなど、デザインに対する意識も高く、製品開発の考え方にも近いものがあると感じたという。直接会いに行った同社の社長ともすぐさま意気投合したそうだ。

高荷氏は「実は山田医療照明の増田社長がバルミューダのファンで、弊社のほぼ全商品を持っていらっしゃったんです」と、共同開発にたどり着いたエピソードを笑いながら語った。

フォワードビームテクノロジーのヒントになった、山田医療照明の手術灯

2017年春からは、2社共同のプロジェクトとして再始動した、BALMUDA The Light。もう1つの技術的な特長として、光源に"太陽光LED"を採用していることも挙げられる。

太陽光LEDとは、太陽による自然光に近い波長(スペクトル)を持ったLED。一般的なLEDに比べてブルーの波長が低く、目にストレスを与えにくいといい、山田医療照明が手掛ける手術灯にも数年前から採用されている。

だが、目に優しい反面、太陽光LEDは価格が高いのが難点。一般的なLEDの10倍ほど高価なために、民生用の機器で採用されている例はほとんどないという。それをBALMUDA The Lightではなんと3個も搭載しているのだ。

BALMUDA The Light、一般的な白色LEDライト、太陽光の光の波長の違い。BALMUDA The Lightのブルーライトは、一般的な白色LEDライトに比べると太陽光に近い波長で、目が疲れにくい特性を持つ

太陽光LEDが民生用機器に採用されない理由は他にもある。「太陽光LEDは、光の質がよい代わりに発熱しやすく、放熱をいかに行うかがかなり大変なんです。放熱対策をせずに電流を流すと100℃を超えることもあり、そのままだとすぐに壊れてしまいます」と高荷氏。

そこで、BALMUDA The Lightではさまざまな放熱技術を検討していった。「フォワードビームの反射構造と放熱を両立させる設計を行い、1日中ライトをつけっぱなしにしていても、ほのかに温かいと感じる程度にまで抑え込みました。しかし、放熱のための解決策をやればやるほど本体が重くなっていき、倒れやすくなってしまったんです」と話す。

カサの部分に複数設けられた穴の部分は、放熱の機能も兼ねている

「形に合わせた開発」の苦労

以前、「BALMUDA The Range」の取材の際に、「バルミューダのデザインの神髄は、形はベーシックでありながら、オリジナリティーを追求することにある」と語られていたように、開発チームには、形を変えないままで中身を改良していくことが要求された。

「開発部門としては、あと5ミリ厚くできれば放熱と倒れにくさを両立できるのに……というせめぎ合いが何度かあったのですが、弊社の商品はデザイン性もブランドアイデンティティーの1つ。デザイン性は優先課題とされるため、"形ありきで、そこに技術をどうやってはめていくか?"という考え方で、光源部分の試作を毎週繰り返して、最終的にはコンマミリサイズで調整を続けました」と苦悩を明かす。

そのほかにも、暗くする際にチラつきが出やすく、それが目にストレスを与えてしまうという問題を電流の量で微調整する制御を行い、最小限に抑えたという。

一方、外観上のデザインに関しては、"パッと見はシンプル"というバルミューダ共通のデザイン意匠を踏襲しつつも、意識されたのは"テック感"だ。

「光源が見えない時、表側はシンプルでやさしい印象ですが、カサの内側の光源がある部分は複雑な造形にし、一部をクローム調にすることでシャープな印象に仕上げました。ポリゴン状の反射板も、光学的に有利かつテクノロジーを感じるデザインを意識したものです」と高荷氏。

それ以外にも、"子ども用"を謳う商品として、耐久性はもちろん、転倒しないように重さを調整した。"長くずっと机にいる相棒"として長年愛用できるように、デコレーション用に付属するシールが貼りやすい一方で傷や指紋が付きにくく、手入れをしやすいマット塗装やコーティングが施されている。

本製品のもう1つユニークな点は、"音"の仕掛けだ。BALMUDA The Rangeと同様に、デスクライトにもスイッチのダイヤルを回すと音を奏でるギミックが採用されている。前回のレンジはギターやドラムだったが、今回はアナログピアノの音が選ばれている。しかも、スタインウェイのグランドピアノを使って、スタジオでプロのミュージシャンが演奏した生音を音源にするというこだわりだ。

「いろいろ試した中で、光の明るさと諧調に親和性があったのがピアノの音でした。クラシカルなピアノの旋律はノスタルジックで、子どものイメージに合致しながらも、子どもっぽすぎるということもなく、長く愛用するのにふさわしい。ピッタリとハマりましたね。鍵盤の押し方とか、音の余韻までちゃんと表現されているんですよ」

製品に同梱されている取説。「子どものクリエイティビティや好奇心が掻き立てられるように」と、あえて設計図のようなデザインに仕立てたとのこと

コーポレイトアイデンティティーの1つとして"クリエイティビティ"を掲げるバルミューダ。今回の製品にも「クリエイティブであれ!」という子どもたちへのメッセージが込められている。そのために、デザインはあえて90%の完成度にし、残りの10%は使用する子ども自身の手で作り上げて欲しいという思いから、自由に組み合わせて貼れるステッカーが4シートも付属しており、本体の根本部分はペンスタンドにもなっている。

ダイヤル部分を回すと、ピアノの音階を奏でる。バルミューダらしい"遊び心"ある仕掛けに、子どもも大人も心が躍る

単に子どもたちの"目を守る"という使命だけでなく、自らの手で自分のものにした喜びや体験がモノへの愛着を生み、新たなクリエイティビティにつながっていく。いや、つなげてほしいという、同社の"意志"が大いに込められた商品だ。「デスクライトでどうやって体験を伝えるかはチャレンジングでした」と最後に語った高荷氏の言葉からも、その思いが伝わってきた。

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

カレー沢薫の時流漂流 第15回

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

2018.11.12

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第15回は、「プリンセス駅伝の四つん這い走行」問題について

今年は「パワハラ」「黒い交際」「殺人タックル」など、スポーツ界が荒れに荒れた。

スポーツにつきまとう「感動」という尺度

というよりは、今までずっと「わかり哲也」の背景ぐらい荒れ続けていたが、関係者専用のプライベートビーチだったため、一般人の目につかなかっただけのような気もする。

その一方、ワールドカップでは予選を批判した奴は全員死んだのかというぐらい本戦の健闘が称えられたり、夏の甲子園では金足農が秋田県勢として103年ぶりに決勝に進出し大きな注目を集めたりと、感動的なこともあった。

しかし、結果だけを言えば、ワールドカップは1回戦敗退だ。金足農も決勝で敗れ準優勝。逆に優勝したのに金足農の陰に隠れた大阪桐蔭が可哀想なぐらいだ。

つまり、見る側はスポーツに対し、時に結果よりも「感動」を求めがちということだ。金足農が仮に優勝していたとしても、その勝利が「地獄甲子園」式で得た物なら讃えられなかっただろう。

スポーツに感動を求めるのは悪いことではない。私のような、床を這っているコードでこけるような先のない中年は、もはや他人の活躍に乗っかって泣いたり笑ったりするしかないのだ。

だが、「感動した! 痛みに耐えてよく頑張った! 」という言葉があるように、スポーツの感動には「選手が無理をする姿」も含まれていることは否定できない。その無理が「43度の風呂」レベルならまだ良いが、選手生命、さらには最悪命を脅かしかねない時もある。

インターネット大相撲では済まない「プリンセス駅伝」問題

そんな、文字通り「選手が痛みに耐えて頑張った」事件が、先日行われた「プリンセス駅伝」で起こった。女子駅伝だからプリンセス駅伝なのだろうが、私が走者だったら相当居心地の悪いネーミングだ。

その駅伝の中で、10代の走者が中継所の直前で走行不能となったが、何と四つん這いの状態で流血しながらタスキをつないだという。四つん這いで移動した距離は約200メートル。私だったら小一時間かかる、結構な距離だ。その選手がリードの外れた柴犬ぐらいのスピードで四つん這い走行した、というなら制止する間もなくタスキは渡されていたかもしれないが、満身創痍の状態なら相当時間がかかっただろう。

当然、その姿には「誰か止めろよ」と批判が噴出した。しかし、批判がある一方で「感動した!」と、流血四つん這いで走る女子の姿にバッチリ感動した勢がいるのも事実だ。それに対し「怪我しながら走る選手を美談にする勢を許さない勢」が現れ、いつものインターネット大相撲に発展しているのはよくあることなのだが、これはかなり複雑な問題なのである。

監督が倒れた選手に「お前棄権したらわかっとるやろな? 」とアイコンタクトをしたり、観客が「俺たちを感動させるために走れや」と選手を後ろからジープで追い立てたりしたと言うなら論外だが、監督はテレビモニターで「二足歩行が厳しい」という致命的な状態の選手を見て、ちゃんと棄権を申し入れている。

だが、その棄権が現場の審判に伝わった時には、すでにタスキ受け渡し地点の20メートル手前に来ていたそうだ。つまり、満身創痍の選手が四つん這いで180メートル移動してしまうまで棄権の申し入れが審判に伝わらなかった、ということだ。ここでまず連絡体制の不備が指摘されている。

そして、審判は棄権の申し入れを知った後も、「あとちょっとだし」と最後まで走らせてしまったと言う。痛みに耐えて頑張る選手、という「感動」に流され、無理をさせてしまった感は否めない。

そもそも棄権の申し入れがあるなしに拘わらず、現場判断で中止させるべきはなかったのか、という声もある。今、試しに家の中を四つん這いで走ってみたが、これで200メートルはなかなかキツイ。何より見た目が痛々しい。

私の場合、無職の中年が昼間に家の中を四つん這いで走っているというただの「イタい」状態だが、走れなくなった若い選手が流血しながら四つん這いで走る姿は、十分制止すべき痛々しさだろう。実際、棄権申し入れがなくても、現場判断で走れなくなった選手を止める権限が審判にはある。

それでも懸命に走る意志を見せる選手に心打たれて止められなかったのかというと、必ずしも感動だけが理由ではないようだ。企業にとって駅伝というのは非常に重要なものであり、それをチームではなく審判の判断で止めるというのは、審判員側と企業側に大きな禍根を残すことになりかねないのだという。よって審判側は「よほど勇気がないと止められない」そうだ。

また、選手にとっても企業の名前を背負っている上、「自分がコケたら皆コケる」という駅伝のルール上、選手には大きなプレッシャーがかかっている。つまり選手も現場も「止まるに止まれないし、止めるに止められない」状況になっていたのかもしれない。

そして結果から言うと、この選手は「全治3~4か月の骨折」となった。あの四つん這いでの200メートルがなかったら、もう少し怪我が軽くなった可能性は大いにある。

このように、無理は早めに止めないと、逆に有望な選手を潰すことになりかねない。

「無茶しやがって…」という展開は漫画などに任せ、ダメな時は「俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ」と早々に打ち切り、次のチャンスに賭けるべきだろう。