子供とシニアを重視、独自路線を進むトーンモバイルの戦略

子供とシニアを重視、独自路線を進むトーンモバイルの戦略

2017.07.27

"格安"な料金で人気を博し、大手キャリアからユーザーを奪って急成長しているMVNO。そうした中にあって、ハードからソフトまでを自社で手掛け、子供やシニアをターゲットにするなど、独自色を打ち出して販売拡大を進めているのが、カルチュア・コンビニエンス・クラブ傘下のトーンモバイルだ。同社があえて他社とは一線を画す戦略を取る理由はどこにあるのか。

CCC傘下ながら独自性の強いサービスで注目

ここ数年来、大手キャリアからネットワークを借りて、“格安”な月額料金でモバイル通信サービスを提供するMVNOが人気を獲得するようになった。最近では大手キャリアが、MVNOなど格安なサービスに対抗するため安価な料金プランを提供するようになったことからも、その影響の大きさを見て取ることができるだろう。

だがそうしたMVNOの中にあって、「スマートフォンが安く使える」というMVNOの王道の施策に力を入れるのではなく、独自の方針をもってサービス展開している企業もいくつか見られる。そのうちの1つとして挙げられるのが、レンタルビデオショップの「TSUTAYA」などで知られるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の傘下企業であるトーンモバイルだ。

CCC傘下のトーンモバイルが、MVNOとして展開する「TONE」は、他のMVNOとは大きく異なる戦略を取っている

実際、トーンモバイルがMVNOとして展開する「TONE」のサービス内容を見ると、他のMVNOと比べ大きく異なる戦略を取っていることが分かる。多くのMVNOはSIM、つまりネットワークのみを提供し、端末は別に購入してもらう、水平分離型の販売方法が主流だ。だがTONEはスマートフォンとネットワーク、サービスを一体で提供し、全てのサポートをトーンモバイルが請け負うなど、キャリアと同じ垂直統合型の販売手法をとっている。

通信料は月額1,000円と安いが、通信速度は500~600kbpsと低速で、動画の視聴やアプリのダウンロードをする時は別途高速通信ができるチケットを購入する必要があるという点も、独自性の強さを感じさせる。音声通話に関しても、通常の音声通話を利用するには別途料金を支払う必要があり、標準で用意されているIP電話の利用を推奨。IP電話では利用できない緊急通報に関しても、ソフトウェアで対応できる別の手段を用意している。

ハードウェアに関しても、トーンモバイルが提供するスマートフォンは基本的に1機種のみで、カラーもホワイトの1種類のみと選択の余地がない。しかも販売されるスマートフォンはトーンモバイルが独自に開発・調達したオリジナルモデルであり、採用するOSは標準的なAndroidながら、通常のAndroidでは実現できないさまざまな制御ができるよう、独自のミドルウェアを搭載するなど大幅なカスタマイズが施されたものとなっている。

TONEの新機種「m17」。富士通コネクテッドテクノロジーズが製造しているが、トーンモバイル独自のカスタマイズが施されているのが特徴となる

ターゲットはスマホの中心ではない子供とシニア

ターゲットとするユーザー層にも特徴がある。多くのMVNOは、大手キャリアから既存のスマートフォンユーザーを奪う戦略を取っていることから、ターゲットは20~40代くらいの、スマートフォンを積極的に利用する人達が中心となる。だがトーンモバイルは、あえてその中心となる層は狙わず、スマートフォンの利用が少ないとされる子供、そしてシニアをターゲットとしているのだ。

実際、トーンモバイルが力を入れているサービスを見ると、その狙いがよく理解できる。7月25日に同社が実施した発表会では、子育て世代向け女性誌「VERY」とコラボレーションし、親からの要望に応えるべく、中学生までは夜10時から翌日の朝6時まで、スマートフォンを利用できないようロックをかけられる機能を提供することを発表している。子供向けの対応とはいえ、通信事業者が自ら積極的に“通信させない”取り組みをするのは異例中の異例だ。

VERY読者の子育て世代の意見を取り入れ、中学生までは夜10時から翌6時まで、緊急時の通話など一部機能を除き、スマートフォンを利用できない仕組みを設けた

さらに同日には、指定の場所に訪れると、自動的にロックがかかる「ジオロック」機能や、親子で紙に約束事を書き、それを撮影することで、利用時間や使えるアプリを決められる「親子の約束」などの機能を追加したことが発表されている。しかもこれらの機能は独自のハードウェアと連動させていることから、親世代よりもスマートフォンに関する知識を豊富に持つ子供であっても、容易に制限を解除できない仕組みになっているという。

一方シニア向けとしては、やはりスマートフォンに馴染みがなく不安や抵抗感を抱く人が多いことから、安心して利用できる仕組みに力を入れている。フィーチャーフォンからのアドレス帳移行や、リモートなどによるサポート機能を標準で提供するのに加え、最近ではあまり力を入れなくなった紙の説明書に、あえて力を入れて取り組むなど、不安を取り除くための施策に注力している。

TONEではスマートフォン初心者が多いシニアに安心感を与えるべく、あえて紙のマニュアルに力を入れているという

さらにスマートフォンに馴染んでいない人に向け、テキストの入力を音声でしやすくする仕組みを提供するほか、スマートフォンを持って歩くとTポイントが貯まる仕組みなども用意。また離れた場所に暮らす家族に安心感を与えるべく、歩数が一定に達していない場合は家族に通知が届くなど、シニアの見守りに関する機能も充実させている。

MVNOのレッドオーシャン化を見越した戦略

トーンモバイルでは、子供、そしてシニア世代を獲得した後に、スマートフォンのメインユーザーを獲得する考えを持っているとのこと。なぜメインとなるユーザー層ではなく、そうではないユーザー層の獲得を優先しているのだろうか。

そこにはMVNO市場の動向が大きく影響しているようだ。急速に人気を高めているMVNOだが、参入障壁も低いことから、既に600社を超える企業がMVNOに参入しているとされている。それだけ多くのMVNOが参入していることからMVNO同士の競争も激しくなっており、日本通信やNTTぷららなど、コンシューマー向けサービスから撤退するMVNOも徐々に出てきている。

実はトーンモバイルの前身は、インターネットサービスプロバイダー(ISP)大手のフリービットが、独自にMVNOとして展開していた「フリービットモバイル」であり、トーンモバイルの代表取締役社長を務める石田宏樹氏も、元々はフリービットモバイルの社長であった(現在は会長)。現在のMVNO同様、参入障壁が低く多くの事業者が参入したISP事業で勝ち抜いてきた石田氏は、フリービットモバイル時代からMVNOが将来的に価格競争に陥る可能性を予測。当初より端末と通信、サービスを提供する垂直統合型のビジネスモデルを提供するなど、独自色の強いサービスを展開していたのだ。

トーンモバイルの前身は「フリービットモバイル」であり、当時から現在同様、垂直統合型のサービスを展開するなど独自色の強いMVNOとして知られていた

そうした独自色の強いフリービットモバイルが、CCCとの提携、そしてCCC主導のビジネスへと移行したのに伴い、子供やシニアなど従来よりターゲット層を絞り込みつつも、CCCの持つ販売網を生かして拡大する戦略をとるようになった。この独自戦略が功を奏し、例えば子供向けの取り組みに関しては、公益社団法人全国子ども会連合会や東京都などからの推奨を獲得するなど、差異化を図ることには成功しているようだ。

だがいずれはトーンモバイルも、子供やシニアだけでなく、スマートフォンのメインとなるユーザー層を狙いに行くべき時が来る。独自の工夫により、あえてレッドオーシャンを避ける戦略を取り続ける同社だが、今後はより先の市場拡大に向けた展望を明らかにする必要もあるといえそうだ。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

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○森口将之のカーデザイン解体新書
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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
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○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
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○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
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○カレー沢薫の時流漂流
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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu