エプソン、1Qは増収増益 - プリンタ市場縮小でも販売増の理由は「大容量」

エプソン、1Qは増収増益 - プリンタ市場縮小でも販売増の理由は「大容量」

2017.07.28

通期予想を引き上げたプリンティングソリューションズ事業

セイコーエプソンは、2017年度第1四半期(2017年4月~6月)連結業績を発表し、増収増益の好調な滑り出しをみせた。売上収益は前年同期比6.6%増の2548億円、営業利益は110.5%増の146億円、税引前利益は126.9%増の144億円、当期利益は147.7%増の102億円だ。

その中でも特に好調なのが、同社の基幹事業であるプリンティングソリューションズ事業。といっても、日本における個人向けインクジェットプリンタや、事業基盤を持つ西欧でも市場は縮小している。それにも関わらず、第1四半期が終了した時点で、4月28日に発表した年度初めの計画を上方修正してみせたのだ。

同社によると、インクジェットプリンタの販売台数は当初は前年比8%増。しかし、今回の上方修正では9%増へと1ポイント拡大した。2016年度実績が5%増、2017年度第1四半期の実績が7%増であることと比較しても、高い成長を見込んでいることがわかる。

エプソンでは、インクジェットプリンタの具体的な出荷台数は明確にはしていない。だが逆算すると、2017年度の年間目標は全世界でおよそ1640万台。その上方修正の原動力になっているのが、大容量インクタンクモデルである。

2018年度には大容量モデルが過半に?

大容量インクタンクモデル「EW-M770T」

日本でも今年に入ってから、大容量インクタンクモデルとして「EW-M770T」を発売し、本格的な展開を開始した。しかし海外では、2010年にインドネシアで市場投入したのを皮切りに、新興国市場を中心に展開しており、全世界150カ国以上で販売されている。

本体価格を安くして、インクカートリッジで収益を得るビジネスモデルを日本では展開しているが、新興国では本体価格を高く設定し、インクカートリッジの交換を不要とするビシネスモデルが広がっているのだ。大容量インクタンクモデルの人気の要因は、プリントコストの低減と連続大量印刷の実現。そして、インク交換回数が少なく、インクカートリッジの管理コストが不要になるといったメリットがある点だ。

2016年度実績では、全世界で610万台の大容量インクタンクモデルを販売したが、2017年度の当初計画では730万台の出荷計画を打ち出していた。これが今回の上方修正によって、740万台にまで引き上げられた。前年比21%増という成長率だ。これによって、エプソンのプリンタ出荷量の約45%が、大容量インクタンクモデルが占めることになる。この勢いを持続すれば2018年度には、インクカートリッジモデルと大容量インクタンクモデルの構成比が逆転する可能性もありそうだ。

セイコーエプソン 取締役執行役員経営管理本部長 瀬木 達朗氏

先進国ではビジネスが緒に就いたばかりで、日本でも大容量インクタンクモデルの構成比は数%程度に留まる。一方で北米は5%をすでに超えており、「新興国市場だけでなく、先進国市場においても大容量インクタンクモデルの販売が伸びている」(セイコーエプソン 取締役執行役員経営管理本部長の瀬木 達朗氏)という。

2017年度第1四半期決算においても、プリンティングソリューションズ事業の売上高は前年同期比5.5%増の1659億円と成長を遂げており、営業利益は前年同期比72.7%増の221億円と大幅な伸びを見せている。「大容量インクタンクモデルの販売数量増加による増収効果と、インクカートリッジモデルの販売台数減少に伴う費用減が、プリンティングソリューション事業の利益拡大に貢献している」(瀬木氏)という。

日本のプリンタ市場の低迷ぶりとは裏腹に、海外では、大容量インクタンクモデルによる成長戦略が推進されているわけだ。

オフィス向け高速ラインインクジェット複合機「WorkForce Enterprise LX-10000F」

もうひとつエプソンのプリンティングソリューションズ事業において、見逃せない動きがある。それがオフィス向け高速ラインインクジェット複合機「WorkForce Enterprise LX-10000F」である。

同製品は、新開発の「Precision Coreラインヘッド」を採用しており、100ppm(1分間に100枚)の高速な印刷を実現することができるのが特徴。従来のレーザー方式の複写機に比べても圧倒的な速度を実現しており、同社の複写機市場参入のエポックメイキング的な製品として注目を集めている。

日本と欧州では2017年6月中旬からの製品投入で、今回発表した2017年度第1四半期への貢献はほとんどない。ただ、この第1四半期における営業活動で、大きな手応えを感じているようだ。

「1分間に100枚という印刷速度と、複写機ならではの使い勝手を実現している点への評価が高い。とくに、感じているのは体感してもらうことが、有効な製品であるという点。1分間に100枚という印刷速度を見て、販売パートナーやユーザー企業が驚き、そこに評価が集まっている」(瀬木氏)

また、「チラシを大量に印刷したい」といった具体的なニーズを持つユーザー層の取り込みや、従来インクジェットの印刷品質に懸念を抱いていたユーザーからの評価も高いと瀬木氏。今後、8月から米国で、12月には中国でも販売を開始する予定で、第2四半期以降は業績にも貢献することになる。

Q1ながら、通期予想を早くも引き上げたエプソン

これらの好調な事業を背景に、通期業績見通しは、営業収益が4月28日公表値に比べて400億円増の1兆700億円、事業利益は120億円増の790億円、当期利益は90億円増の580億円とした。なかでもプリンティングソリューションズ部門は、6890億円の売上収益を、7190億円へと上方修正。とくに、プリンタは、280億円も上方修正して、5140億円の売上収益を目指す。

同社は上方修正の要因を「為替の影響が大きい」とする一方で、「大容量インクタンクモデルは、期初予想を上回っており、さらに上積みが見込まれる」と語る。さらに高速ラインインクジェット複合機についても「いかに多くの人に見てもらえるかどうかが、販売増を左右する。見せる場を多く作ることで、販売に弾みをつけたい」とする。

国内の個人向けインクジェットプリンタ市場こそ停滞しているが、それを尻目にエプソンはプリンタ事業で成長戦略を描いている。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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