体裁にとらわれず次々と新事業に挑む“エネルギーのガリバー”東電

体裁にとらわれず次々と新事業に挑む“エネルギーのガリバー”東電

2017.06.01

2017年4月、ガス自由化が実施された。ご存じのとおり昨年4月には電力完全自由化が始まっており、電力販売だけみても、現在およそ400社のいわゆる“新電力”と呼ばれる企業が参入してきた。そしてガス自由化にともない電力の“ガリバー”が動く。

電力のガリバーといえば、もちろん東京電力のことだ。2017年2月時点で21,853,643千kWhを誇る電力販売量は、2位の中部電力の電力販売量10,890,518千kWhを大きく引き離し、圧倒的な1位(数値:一般社団法人エネルギー情報センターより)。ただ、もっとも人口を抱える首都圏に電力を供給しているのだから、当然といえば当然といえる。

しかし、着目したいのは、電力だけではなく天然ガス(LNG)の分野においても日本トップクラス、いや世界でも屈指の事業者になりうるポテンシャルを秘めていることだ。

その最大の原動力がJERAという企業だ。この企業は東京電力と中部電力の発電部門が50%ずつ出資して設立された合弁企業。燃料上流・調達を主事業とし、年間約4,000万トンものLNGを調達し、東京電力や中部電力などに供給している。ちなみに東京ガスは、この4月に九州電力と提携し、両社のLNG調達量は約1,800万トンとなる。ガス販売が本業の東京ガスと比べても、JERAのLNG調達量が抜きんでているのがわかる。

世界中からLNGを調達するJERA。写真はアメリカからのLNG調達で同国からは日本初(写真:JERA)。右はLNG貯蔵基地機能を有した東扇島火力発電所(写真:東京電力HD)

LNG調達量が増えた理由

ただ、東京電力がこれほどLNGを調達しなくてはならないのには、大きな理由がある。福島原子力発電所の事故により、原発での発電がままならないからだ。化石燃料による発電は石炭・石油といった選択肢もあるが、CO2の排出量に難がある。水力や太陽光、風力といった再生可能エネルギーによる発電は、電力量が少ないうえ、天候に左右されるという難がある。原子力が使えないという現状を考えると、LNGによる発電に頼らざるをえないということだ。

とはいえ、電力供給量、LNG調達量から考えると、“電力のガリバー”ではなく“エネルギーのガリバー”といってもまったく過言ではなく、国の根幹をなす企業であることは確かだ。

と、ここまで書くと、東京電力は日本を支える巨大エネルギー企業のため、ともすれば“威圧的”“傲慢”というイメージに結びつくかもしれない。だが、独占的事業に“あぐら”をかいているような企業ではないことを、ここ最近、強く感じている。

では、なぜ、そのように感じるようになったのか。それは、目立たないが電力供給以外のサービスに積極的に乗り出しているからだ。

たとえば、2017年初頭から提供し始めたスマートフォンアプリ「TEPCO速報」。これは、停電情報や地震情報、雨雲情報をプッシュ通知でユーザーに知らせてくれるアプリだ。停電情報の提供は、電力事業者であることを考えれば当然ともいえる。それに加え、地震情報、雨雲情報を入手できるのがうれしい。特に後者は、近年、猛威をみせているゲリラ豪雨に、「最寄りのコンビニで傘を買う」「喫茶店に逃げ込んでおく」といった、なんらかの対策を打つための材料として活用できそうだ。

工業地帯ブームにマッチしたインスタグラム

TEPCO公式インスタグラム

「ん!?」と思ったのが、東京電力ホールディングスが公式インスタグラムを開設したこと。これは、発電プラントや鉄塔、本社ビルといった東京電力が管理する設備をプロカメラマンが撮影し、インスタグラムで公開するという試み。東京電力から「インスタグラムを始めます」と事前にアナウンスを受けたが、「そんな場合かなぁ」と、そのときは正直思った。だが、公開された写真はどれもクオリティが高く、盛り上がりをみせる“工業地帯ブーム”にもマッチしているため、根強いファンが増えそうだ。そして何より、東京電力がどのような設備を保有しているのか、多くの方々に知ってもらえる効果がある。

スマホアプリにしてもインスタグラムにしても、東京電力が一般消費者向けにサービス強化を進めている表れともいえるのではないか。

そのほかにも、今年に入り続々と新事業を打ち出している。

まずこの春に、「ドローンハイウェイ」をゼンリンと共同で開発すると発表した。すでに既報したので詳細には触れないが、これはドローンが飛行する際、送電線を“道しるべ”にするという構想だ。法整備や安全性の確保といった課題は多く残るが、物流や農薬散布、災害時の被害確認といった領域でドローンは大きく期待されている。その市場にいち早くくい込みたいという、東京電力の意欲が伝わってくる。

地域に根ざした活動も目立ってきた。

5月には渋谷区と見守りサービスを展開するotta、そして東京電力HDによる共同記者会見が開かれ、防犯に対する取り組みが発表された。

これは、IoTを活用した見守りサービスで、ビーコンを内蔵したキーホルダーなどを子どもや高齢者に所持してもらい、発信電波を基地局で受信。現在、どこにいるのかをスマホやパソコンで把握できるという仕組みだ。東京電力はこの取り組みの中で、基地局の整備を担当する。公共施設や民間施設のほか、キリンビバレッジバリューベンダーと協力し、飲料自動販売機を基地局にするという。6月から渋谷区全域で実証試験がはじまり、いずれは有償サービスとして提供していきたい考えだ。

基地局に設置されるレシーバー(左)。右はビーコンで、スマホに現在地が表示されている

さらに大日本印刷と朝日新聞、東京電力パワーグリッドによる「うえのビジョン」という実証試験も開始される。これは東京電力PGが保有する約50,000基の配電地上機器を活用し、デジタルサイネージを展開するというもの。広告だけではなく、災害時には避難情報の表示などにも活用されるという。まずは上野恩賜公園で試験を行い、安全・安心な街づくりにつなげたい考えだ。

調印書を手にする長谷部健渋谷区長(左)と東京電力HDの見學信一郎氏

福島復興のための収益増をにらむ

このように次々と新規事業を打ち出す背景には、福島復興の責任を果たさなければならないということがある。事実、渋谷区の見守りを担当する東京電力HD 常務執行役 見學信一郎氏は、「福島復興のため、収益の可能性がある事業に積極的に取り組みたい」と話す。

また、東京電力のこうした一連の動きをみると、あることに気づく。それは、新規事業への取り組みにスピード感をみてとれること。2016年4月に、東京電力はホールディングス制に移行した。東京電力HDのもと、発電部門の東京電力フュエル&パワー、送電部門の東京電力パワーグリッド、販売部門の東京電力エナジーパートナーの3社に分割された。それにより、小回りが利くようになったと考えられる。

さらに、これまで電力供給のみに使われてきたインフラを他事業で生かそうとする姿勢が伝わってくる。大型投資ではなく、すでにある設備をうまく活用し、収益向上につなげたいというワケだ。

電力自由化・ガス自由化にハナシを戻そう。昨年の電力自由化により、数多くの企業が電力市場に参入したが、躍進したといわれるのが東京ガスだ。今年3月末の時点で約72万8,000件の契約を獲得した。東京電力の契約者数は2,900万件以上だが、同社としては見過ごせないだろう。

居住者との接点を増やす施策

この東京ガス躍進の立役者が、東京ガスライフバルだ。この企業は、ガス機器のメンテナンス・修理をおもな事業としている。ガス機器のメンテナンスなどは、基本的に居住者立ち会いのもと行われるが、その際にガス+電力のセットプランを“フェイスtoフェイス”で営業できるのが功を奏した。一方、電力は屋外にある電気メーターをチェックするので、居住者との接点は少ない。

生活かけつけサービスのホームページ

東京電力は、そんな状況を忸怩たる想いでみてきたのだろう。このガス自由化に合わせ“秘策”を投入してきた。それが「住宅設備・家電修理サービス」と「生活かけつけサービス」だ。前者は月額250円で、購入・設置から10年以内のエアコン、冷蔵庫、洗濯機といった家電製品の故障を修理するというもの。後者は月額300円で水まわりのトラブル、カギ紛失時の解錠、割れた窓ガラスの撤去といった対処を行う。つまり、居住者との接点を増やす施策を開始したのだ。

さて、東京電力は7月1日からガス市場に本格参入する。このガス事業で反転攻勢となるか……勃発した「エネルギー平成の陣」の行方から目が離せない。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu