次世代のITビジネスを握るSTEM教育に積極的な海外、日本での対応はいかに?

次世代のITビジネスを握るSTEM教育に積極的な海外、日本での対応はいかに?

2016.01.28

クラウドで生まれてくる600万を超える仕事とSTEM教育の重要さ

今から6年後にあたる2022年、世界は大きく変化する。BLS(米国労働省労働統計局)が2013年12月に発表した資料によれば、「クラウド技術によって、600万を超える新しい仕事が生み出される」という。米国内向け統計情報のため、日本では話題にならなかったが、Microsoft Education担当VPのAnthony Salcito氏は、BLSの情報をもとに「仕事に求められるスキルは時代に応じて変化し、今後はSTEM教育が重要になる」と語っている。

STEMは「Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)」の頭文字から命名された概念で、NSF(米国立科学財団)のRita Colwell氏が最初に用いたといわれるキーワードだ。米国ではこの分野に精通している人材を維持するため、移住者に対する政策にも大きく影響をおよぼしている。また、インドもSTEM教育に熱心で、同国MHRD(人材育成省)は優秀な子どもたちを育成するためのプロジェクト「RAA(Rashtriya Avishkar Abhiyan)」を2015年から開始した。

日本マイクロソフトが2015年12月に開催した「Education Day」で提示したSalcito氏のスライド

その米国をお膝元とするMicrosoftは、Teacher Gaming LLCが開発した「MinecraftEdu」の買収を2016年1月に発表したのは記憶に新しい。ベースとなる「Minecraft」はブロックを空間に配置してサンドボックス内の世界を楽しむゲームとして世界中を席巻した。Microsoftは開発元であるMojangを2014年9月に買収し、自社の多角的戦略に役立てようとしている。

「MineCraft」を教育教材化した「MinecraftEdu」。Microsoftはこれらの技術を用いて「Minecraft: Education Edition」のリリースを2016年夏に行う

日本でも小学生の間でブームになったMinecraftだが、MicrosoftはMinecraftの教育分野へ活用するため2016年夏に「Minecraft: Education Edition」のリリースを予定している。ゲームを通じて歴史や言語、STEM教育などを行うことを目的とし、MicrosoftいわくMinecraftによる授業は世界40カ国7,000以上の教室で行われているという。

かくいう日本のいくつかの小学校でも同様の取り組みを行っているが、担当の教師は「子どもたちの食いつきが圧倒的に高い」と説明していた。Minecraft: Education Editionによる教育の効果は未知数のため、ここでは割愛するが、Microsoftはサーバー運用やソフトウェアライセンスによる収益化を目指すようだ。

非営利団体Code.orgにより運営されるているHour of Code。Microsoft、Apple、Amazonや大学の理事会など数多くのパートナー達が運営している。
ゲーム感覚でコードを書くMicrosoftの「Hour of Code」。条件文などの制御構造にも対応し、プログラミングの基礎を学べる。残念ながら、このようなアプローチは国内からはなかなか生まれてこないのが現状だ

日本での対応はいかに?

海外ではこのような動きが顕著で、自社コンテンツを教育分野に提供して社会的責任を担うと同時に、次世代の若者に対する投資を行っている。もちろんIT業界全体の人材不足問題と絡み合うが、残念ながら日本はSTEM教育分野では遅れていると言わざるを得ない。実は内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(2001年1月開始の「総合科学技術会議」がベース。2014年5月に改称)ではSTEM教育を取り上げ、「大学や企業と連携し、STEM教育に特化したクラスを創設する高校を支援」すると提言している。さらに2014年6月に閣議決定した「世界最先端IT国家創造宣言」でも、小中学校の段階でプログラム教育や情報セキュリティといったIT教育を充実させる方向性を打ち出した。

内閣府Webサイトにある「総合科学技術・イノベーション会議」のWebページ

だが、実践する文部科学省はアクティブラーニングや、学校へデジタルツールを導入する実証実験を各企業と協力して実行しているものの、まだ目に見える成果には至っていない。小学校や中学校で行われるICT教育の実証実験を取材すると、確かに教室には大型ディスプレイやネットワークでつながったタブレットを用意し、鉛筆やノートに変わるツールとしては役立っている。

そこで行われているのは、通常の授業であってIT教育ではない。同省が実施している「ICTを活用した教育の推進に資する実証事業」をみても、「ICTを活用した授業における教育効果の明確化」「ICTを活用した授業における教育効果を検証する方法の確立」といった環境整備の段階であることがわかる。残念ながら日本は、STEM教育どころかICT教育を始めたばかりなのである。なお、前述した国内でMinecraftを授業に取り込んだ学校は数校に留まる状況だ。

今後は既存のサービスがコモディティ化し、新たなコンテンツを生み出す人材がIT立国として重要になるのは改めて述べるまでもない。Salcito氏も「情報やアイデアを共有することで、新しいものを生み出す学習機会を世界に広げなければならない」とSTEM教育の重要性を強調している。IT後進国となりかねない日本を取り巻く状況を踏まえると、STEM教育を始めとする思い切った教育変革が早急な課題といえるだろう。

阿久津良和(Cactus)

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

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○森口将之のカーデザイン解体新書
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○清水和夫の自動運転ソシオロジー
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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○岡安学の「eスポーツ観戦記」
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○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
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○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
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○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
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○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
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○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu